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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第24節 宥和

 訓練を続ける焔たち。そんな中で、フェルグスとの約束の日は近づく。

 焔は、ロランとオリヴィエの話を聞いて感動していると―


「キュウ!」


 と鳴き声が聞こえた。彼女の相棒である赤き竜の子供、アーサーだ。アーサーは彼女の肩に止まって、頬ずりをする。


「どうやら、アーサー殿は寂しかった様子ですね。」


 ロランは、アーサーの表情から見てそう言う。焔はアーサーの表情を見ると、少し寂しかったとでも言う様な表情だった。彼女は、アーサーに寂しい思いをさせた事に謝罪をして―


「さて、訓練、頑張ろうっか!」


 と言った。アーサーは、それに答える様に返事をした。ロランとオリヴィエは、彼らの様子を見て安心して、訓練を始めた。


 “アーサーって、本当に何者なんでしょうね?”とレイ、

 “自分もそう思うかな…。ま、これから、知って行く事もあるよ”とユウは思う。


 焔は、鎖魔術で移動を訓練する。壁に打ち付けて固定させたり、壁の無い状態でも発動できるようになっていた。これも、スカアハの課題でクリアしており、その成果が出ている。空中回転をしてからの着地も、風魔術の補正もあるが、上手くできた。


 “ふぅ…なんとか着地は成功!”と焔、

 “ったく、風魔術で何とかなったけど、死んでも知らねぇぞ!”とホムラ、

 “コラ!そんな言い方はいけません。身を守る為なのですから…”とレイは思う。


「キュ!」


「ん?あ、ありがとう。」


 アーサーは、汗だくになっている焔にタオルを渡した。彼女は感謝して受け取り、水分を取るべく水道場へと向かった。顔を洗ってから水を飲むが、寒さもあって手がかじかんでしまう。

 彼女は、魔術で手を温めると―


「稽古に励んでいるようだな。」


 と聞こえた。彼女とアーサが振り返ると、コンホヴァルの姿があった。焔は、王の前での緊張があり、ピシッと姿勢を正す。アーサーは、彼女の肩に止まって同じ姿勢になる。


「はははっ、そう畏まらずとも。無理をせず、自分の強さを求めると良い。」


「はい。コンホヴァル王…。」


「さて、そろそろ。私も、戦の備えをしなくては。では、これで。」


「はい。王も、ご武運を祈ります。」


 焔はそう言って一礼すると、王は手を振って行ったが、彼女の耳にはコンホヴァルの小さな呟きが聞こえた。そして、冷や汗を掻いてしまう。


 “見ていない事になっていますかね…”とレイ、

 “たぶん。そうだと思う”とユウ、

 “今言えば、警戒態勢を敷く代償でかえって怪しまれる可能性がある。手がかりをつかみたいが…どう思う、焔”とエフ、

 “あ~、俺考えるのパスな”とホムラ、

 “苦渋の決断だけど、戦いになって全員が合流したら話す”と焔は思う。


「キュウ?」


「ううん。さて、戻ろっか。」


 焔は先程の事を頭の隅に残して、訓練所へと向かった。その道中、彼女は独り言をブツブツと呟く。


「…それに、私が持っている聖槍…槍術を何とかしたいなぁ。兄貴に聞こうかな…。」


「なんだ?俺に何か用か?」


 と今、頼りになる人物の声がした。


「兄貴!丁度良かった!」


 焔はクーの元へ行き、彼に頼みたい事を言った。クーは、彼女の頼みに答える事にしたが、疑問を尋ねる。何故、師匠の槍術を教えてもらっていないのだろうか、と。


「う~ん。よく分からないんだよね。よく考えた時に思った。でも、師匠はあえて教えなかったとしたら、兄貴に教われって事かもしれないよね。」


 (ユウ)は、クーに推測を含めての回答をした。彼は仕方が無いと思い、槍術を教える事にした。歩兵時、乗馬時、投擲(とうてき)、それぞれの構えと攻撃方法と注意を教えた。

 影の国の鍛錬の過程が身に沁みついているせいか、焔は覚えるのが以前よりも少しだけ早くなっていた。


「良い出来じゃねぇか。っても、焔の持っている槍はどんなの何だ?」


「えっと、こ、これだよ。」


 焔は、クーに聖槍・ロンギヌスを見せる。錆び一つ付けない白く輝く銀の槍。彼は、その槍を見て興味を示す。


「見た事ねぇ槍だな。見ているだけでも、神々しく放っているな。」


「うん。ジュヌヴィエが言うには、とんでもない威力だって言っていたから。あんまり使う事はないかもね。宝の持ち腐れかもしれないけどさ。」


 焔は、聖槍を亜空間にしまい込んでそう言った。


「まぁ、いざという時の武器にもなるから、教わって損はないぜ。…それに、明後日はフェルグス小父と会う。何があるか、分からないが…。小父さんは、そんな事しねぇからな。」


「そうね。フェルグスは、クーの事を子供のように可愛がっている方ですね。」


 嬉しさと不安を抱えたクーに、(レイ)はそう言って微笑んだ。

 そして、フェルグスと約束した当日になった。

 別動隊の焔、アーサー、クー、アッシュ、ルノー、新たに加わったクースクリド、本部隊の総大将となったフロリは、町へ出かけて来ると言ってキャロウモア湖へと到着した。

 到着すると、フェルグスの姿があった。


「ん?人数が、多いな…。」


「…元アルスター王・フェルグス。私たちは、貴方と戦う事を望んではいません。どうか、手紙をよこした理由を!」


 (レイ)は、勇気を振り絞ってフェルグスに言う。フェルグスは、焔が女だと見抜いた。しかし、それを察したルノーが彼女の前に立って冷たい視線を投げた。フェルグスは、気を取り直して話を始めた。


「まぁ、話を簡単に言うと、アルスターどころの危機じゃねぇんだ。コノートの危機でもある。」


「どういう事だ、フェルグス。」


 クーは首を傾げると、フェルグスは彼らの元へ行って話を始めた。


「良いか、この事はお前たちで留めておけ。実は、謎の魔術師からメイヴは聖杯と言うべき黄金の盃を手にして、アルスターの戦士を圧倒する人間を超える軍団を生み出している。第一陣でアルスターを追い詰める程のな。」


「な、なんだと?!」


 メイヴがとんでもない軍団を作り出している事にクーは驚く。フェルグスは、話を続ける。


「それと、メイヴとアリルでこの戦いが開幕したが、アリルはメイヴに従う、いや、何らかの関係を持つ俺たちを敵視している。」


「コノート王・アリルが?何故?」


 フロルは、アリルが何か知っていると考える。フェルグスは続ける。


「クー。クースクリド。ルミソワの騎士たち…。お前たちは、背水の陣となる。敵として甘くは見ないが、此度の戦はアルスターだけでなく、お前たちルミソワにも影響する。だが、アリルは、それ以外の事に夢中の様子だった。」


「フェルグス。元アルスターであるお前を許していない相手と言う事か?だが、お前は、何故、アルスターでなくコノートに?」


 ルノーは、フェルグスに問う。フェルグスは、ルノーが無事である事を喜んだ次いでに、彼らから数歩離れた所で話を始めた。


「俺は、コンホヴァルのやり方が許せねぇだけだ。アイツは、俺の若い女を欲しいがために、息子らを殺めた。それに、禁忌(ゲッシュ)を、()()でかけやがって、分断され皆……謀殺された。

 それに、アリルとコンホヴァルは裏で取引している。」


「ど、どういう事だ?説明してくれ!」


 アッシュがそう言い終えた直後だった。


「がァッ‼」


 後ろからフェルグスの心臓のすぐ横へ槍が突き刺さったのだ。


「フェルグス小父様‼」


 クースクリドは、フェルグスの名を叫ぶ。


「いやぁぁぁぁぁっ‼」


 焔は、衝撃的な光景に叫び声を上げる。ルノーは、これ以上見ない様にと焔を抱きしめた。フロリとクースクリドは槍の飛んで来た方向へ、アッシュは反対方面へ走り出して犯人捜索に向かった。クーは倒れるフェルグスを受け止めるが、膝に力が入らず地面に崩れる。


「フェルグス!」


「クー…。この、ままでは、メイヴは…。」


 フェルグスはそう言い残して、瞼が閉じ、呼吸は止まった。クーは心臓の鼓動を確かめるも、それを感じる事ができず、泣き叫んだ。

 (エフ)は、(ほのか)の代わりに表へ出てルノーの腕の中で呼吸を整える。


「大丈夫か?」


 ルノーはそっと解放して尋ねる。呼吸を整えた(エフ)は―


「あ、あぁ。すまない。取り乱した。」


 と、謝罪してクーの元へと向かう。(エフ)は、フェルグスの容態を見て既に息を引き取っていた事を悟る。彼女は、脳内で推測をしたい所だが、状況がそうしてはくれない。


「クー。フェルグスを弔おう…。」


「ここに放って行くってか?」


「フェルグスを弔うために、本当は連れて帰りたい。…だが、裏切者に情けをかけるのかと言われるのがオチだろう。それに、コンホヴァルに知られれば、只ではすまなだろう。悪いが、ここに弔うしかない。」


 焔は、クーにそう言った。しかし、クーはフェルグスをそっと寝かせると、緑炎を全身に纏って焔の胸ぐらを掴んだ。ルノーは彼女を話す様に言うが、クーは怒りに任せて言う。


「どうして、そこまで言えるんだ?置いて行けって言うのか?!情けをかけるなんて、どうだっていいだろう?」


 (ホムラ)は、クーに反論する。


「分かってんだろ‼これは、お前を罠に嵌める為の策なんだよ‼知ってるだろ?アルスターの伝説……あの通りに導くつもりだ。メイヴは、お前の命も狙ってんだ。」


「キュウゥ…!」


「おい!喧嘩は止せ!」


 アーサーとルノーは辞める様に言うも、焔は黙る様に言い放って反論を続けた。


「アリルは、もし、裏で手を引いている者がいるとすれば、フェルグスの証言も何か手掛かりがある。ここで、怒っている場合かよ‼」


 焔は、勢いのまま平手でクーの頬を殴ってしまった。平手打ちを食らった彼は、衝撃で焔から手を離した。いち早く戻って来たアッシュは、彼の元へ駆けつけたアーサーの話を聞いて焦り始める。


(ロード)‼お、落ち着いて‼」


「キュウ…。」


「悪いが、ここで喧嘩しても、埒が明かない。」


 ルノーの言葉に(ホムラ)は仕方が無いと舌打ちをすると、(ほのか)に戻る。


「……ここで喧嘩している場合ではない‼…ごめん、兄貴…頬をぶって。はぁ、取り乱してばかり…。」


 (ほのか)は落ち着いて呼吸を始めるが、まだ衝撃が収まっていない。クーは、彼女の様子に違和感を感じた。そこへ、フロリとクースクリドが戻って来た。彼らの元には、一人の戦士がいた。


「フェルグスを殺めた奴を見つけた。だが、取り逃がしてしまった。すまない。」


「小父様を殺める輩は、不届き者のクソ野郎だ‼いつか、ソイツを、ぶち◯す‼」


 クースクリドの言葉遣いの変化に、皆は驚いてしまう。しかし、フェルグスを弔う事が優先だ。彼らはフェルグスを弔う為に槍をそっと抜いて、穴を掘ったり、武器を外したりする。焔は、カラドボルグを外して抱える。

 そして、弔いを終えたクーたちは引き返しを始めた。焔はフェルグスの墓標前で手を合わせ―


「貴方はアルスターを裏切った者…。でも、貴方の言葉が、この戦いの真相に辿り着けるのなら…。貴方は、勇気のある人です。フェルグス・マック・ロイ。必ず、その無念を果たします。」


 と呟き、カラドボルグを持って、クーたちと共に城へ帰還した。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 焔:こんな事になるなんて…。


 フロル:あと一歩って言う所で…。フェルグスは、敵であっても、故郷であるアルスターを守ろうとしたんだもんな。


 焔:フェルグスは裏切った元アルスター王だけど、事情が事情だ。私たちが理解しようとしても、限界はある。


 フロル:そうだな。俺たちは、俺たちで戦うしかないな。次回、『第25節 決戦へ』。


 焔:えぇ。手がかりは、決戦間近までに調べ上げる!

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