第22節 師範と兄貴と団長と王子
焔とクーの稽古が終わり、烏姿になっていたモリガンから籠を貰い受けた後、訓練所に誰かが来ていた。
モリガンから加護を受けもらった直後、訓練所のドアが開く音がした。彼女は直ぐに烏へと戻り、二人に新しい情報があればすぐに伝えると言って飛び立った。
二人は立ち上がって乱れた服装を整えると、扉からやって来たのは、アッシュとルノーの二人だった。
「焔、クー王子。ここにいましたか。」
「ルノー!ど、どうして?」
焔は理由を問うと、訓練所から激しい物音が響いたのでアッシュと一緒にやって来たとの事らしい。彼女だけでなく、クーも心当たりがある。地面がへこんだ衝撃音だ、と焔は教えた。
「凄いな、クー王子。ここまでとは……。」
「よくやるんだ。地面をへこませたりするのは、だいだいは俺が原因だって思ってくれ。」
「いや、俺でも出来ない技だ。魔術を使うと、地面がへこむ事はあるが……。俺は、カッコイイと思う。」
“カッコイイのは分かるけど、物理的には破壊なんだけどな。アッシュ”
“アッシュさん、趣旨がズレてねぇか?”
“先輩。意味が違います…”
焔、クー、ルノーは、アッシュの言葉に何を言えばいいのか分からなくなってしまった。アッシュは、何故彼らが黙っているのかも知らない。
沈黙はさて置き、ルノーは焔が影の国という場所でどれほど強くなったかを、抜き打ちテストをする事になった。
「まずは、この丸太を斬れ。」
「え?学んだ技でもいいの?」
「当り前だ。それを見るのも、師範の役目だ…。」
ルノーは、そう言って木製の剣を手にした。焔は、彼が言うのならそうするしかない、と判断すると―
「まずは、あの丸太をお前の技で斬れ。」
とルノーは言って、魔術で丸太を召喚させ、焔の正面に立たせた。彼女は打刀を持つが、余りの唐突さに、どの技を行使すれば良いか戸惑う。
“この距離は、この技だよね”と焔、
“自信を持ってください、焔”とレイ、
“うん。やってみる”と焔は思う。
焔は身に付けた脚力で上に飛んで、丸太に向かって斜めに降下する。刀を水平斬りの構えを取って、姿勢を整える。技の名は、夢の中に現れた剣士に付けてもらった。
“水の型 水精の技 洪一文字‼”
「はぁっ‼」
刀を振るい、見事に水平斬りで丸太を綺麗に斬って華麗に着地した。刃に水の魔術が纏い、水の流れの様な切れ味であった。
「おぉ‼凄い‼やるじゃないか、焔‼」
「うん。なかなかだ。」
「やるじゃねぇか、焔。」
アッシュとルノー、クーは、彼女の技を褒めた。焔は、彼らに礼を言って、実際に丸太を斬り落とした感覚が手から全身に伝わったのを強く覚える。
“練習した甲斐が、あった”と焔、
“その調子だな”とエフ、
“ま、努力次第だな”とホムラ、
“そーだけど、君もだからね”とユウ、
“でも、成果が出て良かったです”とレイは思う。
「師匠が認めた力、大切にしろよ?」
クーはそう言って、焔の頭をわしゃわしゃと撫でた。彼女は、髪型が崩れると慌てていた時、ふとクーの腰にあるベルトを見てふと疑問を感じた。
“あれ、クルード・カサドヒャンは?”
「クー。クルード・カサドヒャンは、どうしたの?」
焔はそう尋ねると、クーはそう言えばと思い出したのか、彼女とアッシュとルノーに話した。
「それが、焔が帰って来る前日だ。クルード・カサドヒャンが行方を暗ましたんだ。あの鋭い刃に耐えれる鞘も持ってかれてる。」
「実は、クー王子に言われて探し回ったが、どこにもなかった。」
ルノーはそう言う。アッシュは何も知らされていなかったので、城の外に持ち込まれた可能性もあると考えたが―
「ルノー。いくらなんでも、俺に言ってくれよぉ。」
と拗ねて、焔に寄り掛かって抱きしめる。彼女は、彼の突如な行動に赤面してしまい―
“なんで、こっちなの?!恥ずかしいから‼ブスな私の事は良いから!他の女子にして!”
と心で焦って解こうとするも敵わず、そのままになる。
「内緒だったんです。」
「すまない。大事な物だったから、周囲に言わない様にって言っちまったんだ。」
クーはそう言う。アッシュは、そっちにはそれなりの事情もあるだろうと言ったが、拗ねている様子は変わっていない様に見えた。というよりも、焔にしがみついたままで、ルノーは―
“先輩。いい加減に離してやらないと、焔が困る”
と思って、行動に出て、いい加減にしてくださいと言いながら、二人を引き離した。焔は、赤くなった頬を冷やす様に両手で頬を押さえていた。アッシュは、ルノーの鋭い視線に今度から気をつけるとでも言うかのように背筋を伸ばした。
“流石、氷の騎士だな。こっちまで、震えたぜ。それにしても、顔が真っ赤だな、焔”
クーは、ルノーと彼の視線に背筋を伸ばしたアッシュ、頬を手で急いで冷やそうとする焔を見て思った。
その日の晩。夕食で、食堂は大盛り上がりだった。焔は、端っこでアーサーと一緒に食事をしていた。
「はい、アーサー。熱いから気をつけてね。」
シチューを小さい器に分けて焔は、アーサーに差し出した。彼女から貰ったアーサーは、少しずつ舌で汁を舐めて、具をふぅ~と冷ましてから口にして、美味しいと反応する。すると―
「隣、良いですか?」
と言って、来たのはクースクリドだった。
「クースクリド王子?!ど、どうして、こ、ここに?」
「私は、ただ、貴女と話したいと思っていたんです。まだ、話す事がなかったものですから。」
クースクリドは、微笑みながらそう言う。焔は、彼の笑顔に推し負けて、隣に座る事を許した。彼は、座って一息ついた所で話を始めた。
「君は、ここまでよく頑張ったと思うよ。不覚な事に、ロビンを追い詰めていたノーディンとの戦いに巻き込んでしまった。……厳しかっだろう。君は戦いに慣れていない、とアッシュから聞いたんだ。」
「……そうですね。私は、戦いそのものを経験していませんし、物語で描かれるもの以外は嫌いです。物語は話が決まっているので、戦わなくてはいけない事は分かっています。
でも、実際に、目の前で起こったりすると、怖いです。シャーウッドでは、震える手を抑えるのにも時間が必要でした。守る者の為に、敵であっても命を奪っていた。
けど、敵方の中にも、命の大切さを知っている人はいるとシャーウッドで感じたんです。まだ、未熟ですが、戦で自分に出来る事はやり遂げたいです。後悔しない様に。すみません。長く話してしまって。」
「いいんだ。私も、そうだったさ。初めての戦で、仲間が死んでしまう事に腰を抜かしてしまった程です。……君は、それでも、立ち向かう心を持っている。騎士団の皆さんが言っていた通りです。貴女は、とても優しい方だ。」
クースクリドは、焔の話を聞いてそう言った。彼は、それから彼女に友達として接して欲しいと話した。焔は、どうしようかと迷っていたが、彼の笑顔に再び押し負けた。
「わ、分かった。クースクリド。」
「ありがとう。君とフロリマール。騎士団の皆さんを友達に迎え入れられて、嬉しい。」
クースクリドは、そう言って焔の両手を優しく握った。焔は、彼が純粋のまま接していていることに動揺してしまう。
“ち、近い‼パーソナルスペース‼無自覚純粋の王子なのか?”
彼女がそう思っていると、クースクリドは彼女の両手を解放してある事を尋ねた。
「君に聞きたいんだ。アルスターとコノートの戦について、率直で良いよ。」
「ん~。アルスターとコノートって、同じ民族なんだよね。ケルトで。」
焔の質問に、クースクリドはそうだと答える。彼女は、勇気を振り絞って素直に答えた。
「どうして、同じ民族同士で戦う必要があるんだ?話によると、コノートから宣戦して来たと言っているし……宣戦布告の動機が分かっていない。
それに、シャーウッドで、私の事を知っている魔術師がいたし。そもそも、戦力に慣れるとしても、戦いに慣れていない人間を、結局は巻き込んでいる。おかしいと思う。なんだか、嫌な予感がする。」
「焔も、そう思っていたんだね。実は、私もそうだ。兄上の、伝説のクルード・カサドヒャンは行方知らず。ノーディンとメイヴは、裏で繋がっていて。戦も、本当の目的なのかを知らされていない。
それに、君を巻き込むような感じ……。道徳的ではないが、私は裏切者がいるとしか思えないんだ。だから、今作戦の変更をしたい。ただし、別動隊と主力の隊長のみだ。
私の代わりに、フロリマールを本軍の指揮官に任命する。私は、別動隊に入る。誰にも、絶対に漏らさないで欲しい。」
「分かった。……フロリマールが指揮官になっても、皆は大丈夫だと思う。皆は、私よりも、急な変更に動揺しないよ。」
焔は小声で、クースクリドに言った。一方、フロリマールは、食堂のバルコニーでジュヌヴィエと話をしていた。
「なぁ、ジュヌヴィエは、どうして影の国なんかに行ったりしたんだ?」
「少しでも、皆の役に立ちたいと思ったの。それに、足手纏いにはなりたくなかった。」
「何を言っているんだ‼ジュヌヴィエは、足手纏いなんかじゃない‼……あ、ご、ごめん。」
フロリマールは、突如大声を上げてしまった事にしまったと感じた。ジュヌヴィエは、正直驚いてしまった。彼は、深呼吸をしてから話をする。
「で、でも、お前はそれでも行って、帰って来たんだもんな。でも、俺は、ジュヌヴィエを大事な仲間だと思っている。皆も、勿論思っている。」
そう言うと、ジュヌヴィエは微笑んだ。フロリマールは、何かおかしかったのかと尋ねると、彼女は首を振って答えた。
「いいえ。仲間と言ってくれるのが嬉しかった。戦まで、まだまだですが、皆と乗り切りましょう。」
「あぁ。そうだな。」
“俺も、守る為に戦わないとな。それには、鍛錬あるのみ!”
フロリマールはそう思い、ジュヌヴィエと共に夜空を見上げた。こうして、戦前の大盛り上がりな食事は終わった。
一方、コノート城、アリルの王室。
[アリル王。準備は整った]
何者かが、水晶玉を通じて連絡を寄越した。アリルは、満足そうに頷いた。
「ご苦労。随分、相手はぬかるんでいる様だね。」
[ま、この通り伝説の剣は頂いたからな。それと、アルスターは呑気に準備を整えている]
「ならば、よい。あとは、フェルグスの行動を見るのと、時期が来るのを待つのみ、だな。」
アリルはそう言って、連絡を切った。何が起こるのか、アルスターは未知のまま。彼は、それを思うと笑っていられず、高笑いをした。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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フロリマール:決戦は、緊張するなぁ…。
クースクリド:同じ気持ちだ。でも、アルスターがここまま圧される訳には行かない。
フロリマール:そうだな。負けていられる場合じゃない。
と、ここで『イリュド豆知識!』。クースクリドは、王子としての振る舞いは見事で、ちょっとパーソナルスペースに入り勝ちな無自覚純粋なのですが、無慈悲な人を見てしまうと別人になると噂されています。
クースクリド:メイヴとアリルは、一体何を考えているんだ。……人を物扱いしやがったら、ぶち◯す‼なめんじゃねぇぞぉぉぁぁ‼
フロリマール:あぁ~‼クースクリド、お、落ち着け‼じ、次回『第23節 戦の備えⅡ ―聖騎士と智将―』‼




