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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第20節 宣戦布告

事件から四日後、アルスターは束の間の休みを得ていた。

 小鳥の囀りが聞こえ、朝日が差し込んで焔は目を覚ます。


「ん…。ふわぁ~。」


「キュ!」


「おはようさん。」


 アーサーと聞き覚えのある声がして、彼女はその方を見るとベッドで寝ていたクーが目を覚ましていた。あれから三日も眠り続けていた為、彼女は心配でならなかった。


「兄貴‼……もう、心配させないでくさだい‼」


「キュ、キュ!」


 (ほのか)(レイ)の感情が混ざった彼女は、彼にそう言って涙が溢れてしまう。彼女にとって、久しぶりに人の為に涙を()()()。経験のない危機感もあったが、彼女は感情が表れはじめていた。


「わりィ、わりィ。……俺、正直、どうなっているか分からなかった。バケモンになってから、記憶が曖昧でよ。けど―」


 クーは彼女の頭を優しく撫でて、お前の願いが届いて心を取り戻せたこと、本当に助けてもらったことへ感謝を述べた。

 彼の話を聞いた焔は、あの瞬間の事を思い出す。心臓を貫かれた後、あの鞘の力が無ければとっくに死んだ。その事を彼に話して、かなり偶然だと思うと言った。


「わりィな。まぁ、でも、過去を振り返ってばかりは良くねぇからな。お前さんも、俺も、前向きに行こうぜ。」


「うん‼そうだね、兄貴!」


 (ユウ)はそう言って、クーをグータッチをした。アーサーは、彼女の肩に乗って頑張って行こうという様に鳴いた。クーは、笑顔で礼を言ってアーサーの頭を優しく撫でた。

 その時、ドンドンドンと扉をノックする音が響いて、焔は開けるとアストルがいた。


「大変だよ‼大変だ!」


「ど、どうしたの?アストル。」


 アストルは扉の前でくるくると走り回っていたので、焔は慌ただしい様子の訳を尋ねる。彼によると、コノールの元へコノートの使いがやってきて、宣戦布告の手紙を届けさせたとの事。

 最終決戦を行うべく、手紙が届いた二週間後に戦を始めるという。今のアルスターは、城壁の修理で忙しい身だ。


「それで、お昼頃には作戦会議をするから、焔ちゃんとクー王子も来て欲しいって!」


「分かった。ありがとう。」


「いいえ!今日は、ゆっくり休んで。あ、まだ、朝ご飯、食べてないでしょ?」


 《グゥ~》


 アストルの言葉と共に、焔の腹の虫が鳴る。彼女は、恥ずかしくなって頬を赤くして腹を抑える。アストルは、恥ずかしそうな彼女を見てクスクスと微笑んで、部屋にいるクーとアーサーに一緒に食事に行かないかと誘う。


「そうだな。ずっと寝てばっかりじゃ、俺としては嫌だしな。歩く程度なら、良いだろ?」


 焔はクーの尋ねに頷く。彼女は、オリヴィエの診断で訓練しても良いというまでは散歩程度しかできないとクーに忠告する。


「よぉし、行くか!」


「キュウ!」


「ご飯だ!ご飯だ!」


 こうして、焔、アーサー、アストル、クーは城内の食堂へと向かった。しかし、クーが目覚めた事で食堂に来ると、戦士たちが一斉に押しかけて来た。焔とアストルは、押しかけて来る戦士たちからクーを守るが、勢いが止まらない。


「ちょ、ちょっと、落ち着けぇって‼」


 アストルは声を掛けるも、群衆でかき消されてしまう。焔とアーサーは、どうすることもできず、彼と同じ状況になっていた。その時―


「静まれっ‼一体、何事だ?」


 と声がかかり、戦士たちは静かになって道の端に避けた。焔たちの反対側にいたのは、クースクリドとフロリマールだった。


「あぁ、わりィな。クースクリド。俺が目を覚ましたもんだからな……。」


「兄上‼ご無事だったのですか?事情があったとはいえ、私は王城にいなかったので……。」


 クースクリドは、クーの姿を見て彼の元へと駆けつける。クーは、彼に事情を話した。クースクリドは、話を聞いて焔の元へ歩み寄って、彼女の手を取って跪く。


「ク、クースクリド王子?!」


 彼女は驚いてしまい、オロオロとしてしまう。クースクリドは、堂々たる姿勢で彼女に―


「兄上を救ってくださり、この上ない感謝です。このクースクリド。貴女の行いに応えるべく、己柄のできる事を捧げます。」


 と礼を言って、握っている彼女の手の甲にキスを落とした。見ていたアーサーとクーは驚き、その場にいたフロリマールや戦士たちは彼らの様子を見て察した。


 “ワッツ?!”と焔、

 “な、なにしてるんスか?!ク、クースクリドよ”とユウ、

 “け、敬愛の証というべきでしょうか?で、でも、こんな人数の前では恥ずかしいです”とレイ、

 “や、やめてくれ…何も言うな…”とホムラ、

 “まさか……”とエルは思う。


 クースクリドは立ち上がって、戦士たちに言う。


「皆。二週間後後に戦いがある事は知っていよう。その間に、鍛錬は必要だが、最終決戦とあちら側は言っていた。せめて、お前たちは、家族の元へと顔を出す事も許す。

 二週間以内に、なるべく伝えて欲しい。手紙でも、直接でも構わない。覚悟を持って、この国を守るぞ!」


『おぉ‼』


 その場にいた戦士たちは、彼の言葉に声を上げた。彼のカリスマ性は、国全土に響き渡っている証拠だろう。

 何とか朝食を取る事ができ、焔はベッドに横たわっているクーを看病をしていた。


「そう言えば、焔。影の国に、行ったんだってな。」


「うん。師匠は、ちゃんと教えてくれたよ。殺されるかと思ったけど、戦いはその様な事、それ以上あるかもしれないって知った。

 ……覚悟は、決めているよ。皆が戦いに出ているというのに、自分一人だけ見る事しかできないのは嫌だ。戦いは、皆で、一緒に。」


 そう言い、クーの傷に薬を塗り込んで新しい包帯を巻き終えた焔。彼は、彼女の頭を優しく撫でて―


「そうか。色々、学んだんだな。懐かしい。師匠から、魔槍ゲイボルグを貰った以上、諦める訳にはいかんさ。何か遭った時は、お互い助けようじゃないか、妹さん。」


 と言って、彼女の額に唇を落として、二っと笑った。


「……っ!あ、兄貴、そう言う所だよ‼ズルい!そゆーのは、恋人にするものだよ!」


 (ユウ)は、顔を真っ赤にしてクーに優しく拳でポカポカと叩いた。

 本当に、ズルい。運の良さは別として、容姿も良く、声も響く方である彼は、周囲の女性から近寄って来るのも無理はない。

 しばらくして、作戦会議が始まり、焔はアーサーとクーを連れて部屋へと集まった。


「集まったか。二週間後にある戦は、厳しいものと予想される。よって、作戦を早めに打ち立てるとする。」


 そう言って、コンホヴァルが打ち立てた作戦は、いつもと変わらずに軍同士での戦だが、最終決戦ではコノートは何を仕掛けて来るか分からない為、一刻も決着を必要とする。


「本部隊を指揮するのは、クースクリド、お前だ。お前は、私の代わりに指揮を頼む。」


「え?い、良いのですか、父上。」


「遠慮はいらん。私は、そろそろお前に王としての役目を教えてやりたいからな。」


 クースクリドは、コンホヴァルの話に従って、この戦で指揮官を任される事になった。そして、部隊は二つに分かれる。一つは、本部隊で戦場で戦者たち。もう一つは、コノートへ侵入する別動隊である。

 コンホヴァルは、そう説明してクースクリドに本部隊メンバーと別動隊のメンバーを指定するように言う。

 クースクリドは、父親に言われてよく考えて指名する。


「クースクリド及び、フロリマール、ロラン、オリヴィエ、アストルが本部隊メンバー。

 焔とアーサー、クー、アッシュ、ルノーが別動隊。ジュヌヴィエ殿には、救護班の援護をお願いします。良いですか?」


『了解‼』


 騎士団とその場にいたメンバーは、クースクリドの軍配に異論は無いので了承する。アルスター軍の各隊長にも伝える為、いったん解散となった。彼は、自分の部屋にて別動隊のメンバーを召集した。


「別動隊を用意した理由は、決着を突き止める他にも目的があるんだ。」


「目的?」


 フロリマールは、どういう事なのかを尋ねると、彼は話を始める。

 クースクリドによると、焔とクー宛の手紙があり、一週間後にキャロウモア湖にて話したい事があるとフェルグスからだった。

 クーは手紙をよく見て、字がフェルグス本人である事を確認し、最後のサインも本人のものである事から確かめる必要があると意見した。


「頼む。一度、会わねぇといけねぇんだ。理由が聞きてぇんだ。」


「理由?」


 フロルマールの問いに、クーは詳細を答える。


「どうして、アルスターじゃなくて、コノートに付いたか…。」


「兄さん。俺も、それが気になっていたんです。どうして、フェルグス前王は、兄さんを気に掛けていたか。俺は、何も知らないんです。」


 クースクリドは、真剣だった。焔は、彼が兄であるクーの事をよく知らない事に思い悩んでいる様子に見えた。


「クースクリド王子。俺たちは、まず、一週間後にフェルグスってやつに会えばいいんですね。」


 ルノーは、彼に確認をする。クースクリドは頷いて、フェルグスがこちらに攻撃をしないと手紙で書いてある以上、自分たちも相手の要求に答える。つまり、宥和をすると言う事だ。

 話を終えて、焔は廊下を歩いている最中―


「なぁ、焔。クー王子は、どうしてフェルグスの事を?」


 とルノー、


「俺も気になってたんだ。クースクリドも、心配してたんだ。」


 とフロリマールに尋ねられた。


「ん~。推測なんだけど、もしかしたら、クーは幼い頃にフェルグスに育てられた時期があるかもね。

 だから、フェルグスはクーにとって小父さん。敵になっても、フェルグスはクーを心配しているんだと思う。」


 焔の説明に、ルノーは敵側にしてアルスターにとって重要人物かと呟いた。


「そう言えば、ルノーはフェルグスと戦ったんだろ?どんな奴だったんだ。」


 フロリはフェルグスについてルノーから詳しく聞く。焔も、彼の話を聞いてどのような相手だったのかを知る。


 “やっぱり、炎か”と焔、

 “カラドボルグの可能性が大きいな”とエルは思う。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 ルノー:フェルグス。何故、手紙をアルスターに…。


 フロル:クー王子によれば、敵であってもアルスターの事を気に掛けているって言うけれど…。ん?


 ルノー:どうした?


 フロル:いや、この組み合わせ、珍しいなって思っただけだ。


 ルノー:そうだな。焔は、クー王子の治療に専念していたから、休ませてやった。


 フロル:流石だ、ルノー‼

     と、ここで『イリュド豆知識!』。ルノーは、氷の騎士とも言われていて、噂では笑った顔を見た事が無いとか…。

     なぁ、ルノー。ちょっと、笑ってみてくれよ。


 ルノー:え?いきなりどうした?次回、『第21節 戦への備え』だ。


 フロル:えっと、その。笑って欲しんだが、どうしよう、布団が吹っ飛んだじゃ通じないし…どうすれば…。


 ルノー:ムフフ…(俺を笑わせようとしてくるとは、面白い(悪意無い))


 フロル:え?……えぇ?!

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