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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第19節 炎の戦士 ―願いよ、届け―

 影の国を後にした彼らは、ルーとタサドルと合流した。しかし、ジュヌヴィエはある神託を受けて焦り始める。

 霧が晴れて来ると、出発した時の空模様が現れる。正面の海岸にはルーとタサドルがいた。手綱を任された焔は戦車を海岸で止める。


「ルー様!ありがとうございます。」


「どういたしまして。一瞬で帰って来たと言って良いけど…。うん。修行を積んで、以前よりも自信に満ちている顔立ちだ。」


 焔の礼を受け取り、ルーは彼らの表情を見て言う。ジュヌヴィエは、何かを感じたのか―


「焔。急がないと!」


 と急ぐように言う。


「どうしたの、ジュヌヴィエ。」


「キュウ?」


「どうやら、私の息子に危機が迫っている様だね。私の体質を完全に受け継いでいるからね。」


 焔はルーの言葉に、不味い事を考えてしまう。ルーもそれを察して―


「私も駆けつけよう。姿は見せる事はできないが、力は貸してあげる。」


 と言う。焔はアーサーを肩に乗せて、直ぐにタサドルに跨り、後ろにジュヌヴィエを乗せて走るように指示をする。

 タサドルは、全速力で赤枝王(エヴァン・マハ)城へと向かう。ルーは、姿を消して彼女たちの傍で城へと宙を走る。

 無事に門を通り抜け、町の人々が道の両脇へと避難する中、王城から爆発音が聞こえた。上空には、空から警備を続けるアストルとグリンがいる。


「焔。私の予言では、クー王子が!」


「やっぱり、そんな予感をしてた。伝説では、ルー様と同じ、戦闘になれば、炎の戦士に変貌して暴走する。」


 焔はそう言って、城門の手前でタサドルを止めて降りる。ジュヌヴィエとアーサーに、タサドルから離れない様に言って彼女は城の中へと入る。そこで起こっていたのは、城の上の部屋に一つの大穴があり、城門前の大広場で砂埃が立ってと爆発音が響き渡る。


「焔‼」


「フロリマール‼何がどうなって…。」


「分からないんだ。突然、クー王子が暴れ出して…。」


 フロリマールはそう言った。彼は、クーを落ち着かせようと戦っていたのか、所々怪我をしており、土汚れがあった。焔は、彼に動けるのならジュヌヴィエとアーサーが城門前にいて迎えに言って欲しいと頼んだ。彼は、快く受け取って城門へと向かう。

 焔は、現場の方へ駆けつける。専心・常を得た彼女は、一定のリズムで走っており息切れしない。現場では、アッシュ、ロラン、オリヴィエ、ルノーが戦っている。


「…っ‼」


 気付いた時、轟音と共に瓦礫がこちらへ飛んで来た。焔は、打刀を構えて深呼吸をする。


 “専心……水の型 波ノ綾(なみのあや)の技 潮流(しおながれ)‼”


 彼女は前進して、刀に水を纏って、波のようにうねらせて飛んで来た瓦礫をスパンと斬った。彼女は上手く着地して現場へと向かうと、次の轟音と共に戦っていた四人が飛んでくる。

 焔は彼らを救出する為、新たに入手した魔術を行使する。


(シェーヌ)‼」


 複数の鎖が網の様な役割を果たし、四人が地面に叩き伏せられるのを防いだ。四人は、何が起きたのか分からず、周囲を見渡すと彼女の姿を映す。焔は、脇差に変えて構えを取る。レーシーの里の神殿で貰い受けた、緑炎は刀身で静かに揺らめく。

 すると、瓦礫の中から姿を現したのは―


 “クー?!”


 人の形が無い、と言って良いほどのクー・フーリンその人だった。

 これぞ、炎の戦士の狂気の姿。この地の太陽神であるルーは、クーの本当に父であり、コノールは義理の父。母は、この国の王妃であるデヒテラ。高い神性を持った人間である。

 まだ、彼は知らないだろう。本当の父親を、何故その体質なのかを。実は、シャーウッドへ赴く前、焔は王妃デヒテラに呼ばれて、二人きりの会話をしていた。


 ♢


 二人きりとなった中庭。噴水近くのベンチに座ってデヒテラは焔に話を始めた。


「貴女は、アルスターの伝説…炎の戦士を知っておりますか?」


「は、はい。この国の第三王子であるクー・フーリンと同じ名前の英雄ですよね?」


 焔はそう答えると、デヒテラは頷く。

 彼女によると、その伝説と同じく。話が続いているとのことだ。デヒテラという名も、偶然なことに炎の戦士の母と同じ名前だ。

 クー・フーリン…セタンタが生まれる以前、五十人の侍女たちと共に散策していたが、夜になり辺りは暗かった。そんな時に、人間に姿を変えたルーが現れて宿を取らせてもらった。

 それから、フェルグスが迎えに来て、王城へと戻った。その時には、セタンタを生んでいた。彼は、ルーとよく似ているという。


「容姿だけが似ているだけではないのです。ルー様から言われたのは、私の体質と同じ、戦闘への高揚感や怒りを持てば狂気に満ちた戦士になってしまうと…。」


「で、ですが、伝説では樽三杯分の水が必要なんですよね?」


「そうなのだけれど、ルー様はもう一つ言っていたの。シャーウッドの向こう、レーシーの里の奥にある神殿で緑宝の耳飾りと、緑に輝く、勇猛な炎を受け取る必要があると。しかし、選ばれた者しか入る事は許されません。」


 デヒテラはそう言う。焔は、彼女に何故ここへ来たばかりで部外者でもある自分にその事を話すのだろうかと尋ねると、彼女は言う。


「ドルイドの予言もありますが、貴女がクーと仲良くしているのを見た時に確信に至ったのです。貴女は、クーの悩みを解決できるかもしれないと。」


 デヒテラは、以前、クーにその体質を打ち明けた事を話した。しかし、クーはそんな事は無いと反論したが、実際に経験した事で反抗的になった。それ以来、話す事も無かったという。

 また、焔は、クーが戦車で森へ送る時にふと呟いていたのを思い出す。


 『俺、本当に、化け物なのかな?人間で、いたいな…。』


 ♢


 “絶対に、助けなくちゃ。デヒテラさんの願いとクーの思いを‼”


 焔は脇差を握り、無駄な力を抜いて命を覚悟して叫んだ。


「兄貴‼これ以上、暴れさせない‼これ以上、みんなを怪我させるなら、私を殺せ‼」


 焔の言葉に、皆は驚いてしまう。無駄時にするつもりかと。彼女は、クーの持つ槍がとても危険だと承知している。スカアハが以前言っていた。


 『あの槍の最大攻撃は、赤黒い炎が纏った時には覚悟すると良い』


 焔の声を聴いたクーは暴走状態のまま、彼女へ接近する。焔は、身体強化をかけてクーと鍔競り合いをする。しかし、彼女は体感温度と力の差に驚く。


 “あ、暑い‼”と焔、

 “このままじゃ、溶ける‼”とユウ、

 “緑炎を浴びせたい所だが、水が必要だ”とエフ、

 “あの四人に託して見るか”とジュテ、

 “それで、やるしかありませんね”とレイは思う。


 焔は鍔競り合いを止めて、距離を取って構えを取ってアッシュ、ロラン、オリヴィエ、ルノーに依頼を話そうとすると、クーは容赦なく彼女へ襲い掛かる。焔は、回避しながら話をする。


「アッシュ!ロラン、オリヴィエ!ルノー!お願い‼魔術で、水を、水を大量に、三回、クーに浴びせて欲しいの‼」


「ど、どう言う事だ‼」


 アッシュは理由を問おうとしたが、ロランは話している余裕はないと彼に話す。


「彼女には、考えがあると思う。」


「時間、ありませんよ。」


 ロランに続いて、オリヴィエとルノーは言う。アッシュは、彼女を信じてクーに水を浴びせる作戦実行の指示を出した。焔は、クーの槍捌きに脇差で受け流したり回避したりと忙しく、顔を顰める。


 “兄貴の槍捌き、早いっ!受け流しと回避で、隙が無い…”


 彼女は苦しい状況でも脇差で槍を受け止めて、再び鍔競り合いをしながら鎖で拘束する。それを見たロランとオリヴィエは最初に大量の水の魔術を行使して、クーに目掛けて振りかけた。しかし、水は完全に蒸発してジュウゥと音を立てた。

 次にアッシュとルノーで、同時に上から滝のように水を降り注ぐ。今度は、水は蒸発しなかったが―


「あっちぃ‼あつつつっ‼」


 と熱湯になって、それを浴びた焔は叫んで距離を取ると鎖が解けてしまう。三回目を行うべく、四人はクーに接近する。しかし、クーは、それと同時に槍に赤黒い炎を纏って低く構えを取った。


 “あの炎は‼”


「皆、来ないで‼」


 焔はあの炎を見て、これ以上接近しないように忠告する。そして、槍は炎で輝きを纏い―


「ガアァァァァァァッ‼」


 と、クーは叫びながら槍を突き出し、赤黒い炎を棘に変異させて焔に向けて放った。彼女は、脇差で何とか跳ね返そうとしたが―


「がァッ‼」


 と背中から貫かれて激痛が走る。赤黒い炎は、脇差の跳ね返りから後ろへ回って、彼女の心臓に目掛けて突き刺したのだ。


『焔‼』


 吐血する彼女を見て四人は叫んだ。赤黒い棘は今も彼女の心臓を貫いたままだった。彼女は、最後の力を振り絞って、脇差に宿る緑炎を刀身に纏わせて棘を斬って焼き払う。


 “どうか、人に、戻って。助けたい…のに…”


 その直後、四人は水を降り注がせた。また、水が完全にクーを冷やしきった後、棘に燃え移った緑炎が彼の元へと届いて怪物から人の形へと戻した。彼は、そのまま倒れて気を失った。

 四人は、彼女の元へと急ぐ。心臓へ見事に命中しており、絶望的だった。その時、彼女の体に光の風が纏う。


 “其は、恵みと幸福…治癒と不老不死をもたらす聖なる鞘。目覚めよ、我に力を。解き放て、王の聖なる鞘(イモールタリティ・シーフ・アヴァロン)…”


 焔の頭に呪文が浮かぶ。光は、彼女の全ての傷を癒し、その神秘を見ていた四人は声も出ない。そして、焔はゆっくりと目を開ける。


「み、皆?無事?」


(ロード)‼」


 アッシュは、涙を流して彼女を抱きしめた。ロランとオリヴィエは嬉し泣きをしていて、ルノーは静かに微笑んでいた。

 その後、クーは彼の部屋にて治療する事になった。焔の復活は、騎士団に希望をもたらした。彼女は、クーが目覚めるまで看病する事を決意して、懸命に取り組んでいた。


 ♢


 ―ん?どこだ、ここ。


 目が覚めると、そこは砕かれた石柱と血に汚れた丘だ。目の前には、自分と似ている男がいた。


「目が覚めたか、我が息子…光の御子よ。」


 ―誰だ?アンタ?


「私は、お前の、本当の父親。太陽を任されたルーだ。」


 ―嘘だろ?母さんが言っていたのは、本当だって言いたいのか?


「受け入れがたいのも分かるが、事実だ。お前には、すまない事をした。」


 ―今更かよ…。で、ここはどこだ?


「ここは、伝説で語られるクー・フーリンの最期の地だ。」


 ―あぁ、そうゆーことかよ。なんで、こんな景色を見せるんだ。ってか、石柱がこわれているじゃねぇか。


「そうだ。あの娘が、お前を()()から解き放ったのだ。石柱は、スカアハによって影の国へ安置されていた。」


 ―師匠の所に?何故…。あの娘って、もしや、焔なのか?


「左様。あの娘は、自身を強くするために影の国に赴いたが、伝説と同じ名で同じ力を持つお前の事を気に掛けていた。

 …デヒテラが、事実を話して後悔していると彼女に話したのだ。あの娘には、感謝すると良い。お前は、自由の身だ。お前が、これから何をすればよいか考えると良い」


 ―お、おい!待てよ‼ルー!…待ってくれよ、父さん‼


 ♢


 クーはハッと目を覚ました。気付けば、夜だった。どれくらい眠っていたか覚えていない。

 怪我をしてベッドに横たわっている事に何が起きたのかを、周囲で見渡すとベッドの傍にある椅子に腰かけてベッドに伏せて眠る焔の姿があった。


 “焔。…すまない。そして、ありがとな。兄貴って言われた時は驚いたが、お前は優しい妹のようなものだ”


 クーはそう思って焔の手を優しく握る。すると、彼女も手をそっと握り―


「絶対に、助ける、から…。」


 と呟いていた。クーは微笑んで、思う。


 “助けられたさ。暴走してた時…お前の心臓を貫いちまった後だ。母さんの分を託したお前の願いが聞こえたような気がしたんだ。おかげで、心も化けモンにならずに済んださ”

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 クー:世話をかけちまったな…焔。


 アーサー:キュ‼キュ、キュ、キュウ。


 クー:分かってるって、反省してるっつうの。怒るな‼

    じゃあ、俺に付いて豆知識を教えるよ。どうやら、俺は、親父…太陽神ルーと同じ体質で、戦になれば炎の化け物になって暴走しかねないって言われて、大樽三杯の水を吹っかけた所で収まったらしい…。あとは、酷い時は何もない所でスッ転ぶ事もある。


 アーサー:キュウ?!


 クー:あ?どんな姿だって?この髪の毛のように、炎がぶわっと全身を包むんだけどよ。それだけじゃねぇんだ。皮膚の下では、筋肉が捻じれる発作が起きるんだ。発作が起きたら、ベッドで休養を取らなくちゃいけねぇ…。


 アーサー:キュウ?


 クー:他?あるけど…。あぁ~、言いたくねぇ、これ以上は皆をビビらせる。次回、『第20節 宣戦布告』。楽し—ゴハっ‼


 アーサー:キュウ‼キュ、キュウ!(特別意訳:楽しみにしててね!)


 クー:い、いきなり、尻尾で蹴るな‼

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