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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第18節 影の国Ⅲ ―修行・離―

 突如現れた謎の青年は、焔に「自分から一本取れるまで、稽古だ」と言ってきた。

 焔は、手から武器を手放させられ、しまったと危機感を募らせる。青年は、木製の槍の矛先を彼女に向けたが―


「今日は、大目に見てやる。明日から、お前が俺から一本取るまで容赦はしないぞ。」


 と言って姿を消した。すると、そこへ一人の女性がやって来た。


「見ない顔だね。ケルト人ではない様だけど、あの女の修行をよく乗り越えたね。其方、名は?」


「式守、焔と言います。」


「焔。ウアタハの言う噂の娘の一人か…。私は、オイフェと言う。」


「オ、オイフェさん!スカアハ師匠の姉妹と言われている…。互角で、最強の魔法戦士…。」


 焔の言葉に、オイフェは自分に詳しいなと誉めた。彼女は、焔に先程の青年は焔が石柱を見事に斬れた暁に教えてくれるだろうと話した。

 オイフェは、自分も教えてやりたい立場だが、教える技術は惜しくもスカアハが上だと言う事を自覚しているらしく、少しばかり焼きもちを焼いている様だ。

 それでも、ここでは見守り役として焔と青年の模擬試合稽古を見てくれるとの事だった。


 ―オイフェさんは、私の剣術の筋は悪くないと言っていた。やはり、あの夢の影響があるのか?

 それはさて置いて、それから毎日、男子と試合する日々が始まった。でも、一度も勝てなかった。腕が捥げそうだった。疲れが溜まっていく。諦めそうだったけど


 『生きる事も闘いだ』


 その言葉を思い出して、稽古を続けた。そして、稽古を続けて二、三年の時が経った感覚だった。時間が流れていないのだが、長い時が流れたような感覚だった。

 その日、影の国では雪が降っていた。石柱を前にすると、そこには本物の槍を手にしたあの男子がいた―


「よくぞ、乗り越えた。以前よりも、逞しくなったな。」


 青年はそう言う。彼の正面には、土汚れだらけでも真剣に構えを取っている焔の姿だった。この世界に来た時よりも、顔つきが変わっていた。臆病さを出さぬ様になっていた。


「今日こそは!」


 焔は、ハキハキとそう言った。二人は、それぞれ構えを取る。それを静かに見守るオイフェ。

 そして、武器を持って対峙する二人は同時に、一瞬で間合いを詰めて武器を衝突させる。焔は、以前はよろけてしまったが、今はしっかりと重心を安定させていた。

 焔は、青年の持つ槍が横へ振ると同時に上へ飛びあがって、青年の仮面をスパッと真っ二つに斬った。青年は、彼女の思わぬ行動に槍を握る手を動かせなかった。

 しかし、成長した事を感じたのか微笑んだ。


「……っ!」


 “顔立ちが、クーと同じ?髪と瞳の色は、オイフェさんに似ている?”


「貴方はっ!」


 焔は、青年の顔を見て心当たりのある人物を思い出した時、既に青年は霧の中へと消えてた。オイフェは、彼女の名を呼んで―


「よくやった。其方は、アイツの呪いを断ち切った。恐れてもなお、前に進め。それと、息子の願いを叶えてくれて感謝する。」


 と、言って霧の中へと消えた。そして、濃霧が腫れたと同時に彼女の目に映ったのは、粉々に砕かれた石柱だった。そこへ、スカアハが静かに歩み寄って焔に話をする。


「お前に、この課題をこなせるとは思ってもいなかった。何人もの弟子を育て上げたが、あのような悲劇を起こしたくは無かったのだ…。焔。私は、お前を甘く見ていたようだ。……お前を、立派な勇者と認める。」


 スカアハはそう言って、焔を優しく抱きしめて頭を優しく撫でて、よく頑張ったと褒めた。彼女は、師匠に褒められた事があまりにも嬉しくなって涙を流した。


 ―それから、私は正式にスカアハ師匠に勇者と認められた。ジュヌヴィエも、的の中心に何本もの矢を当てる事ができ、さらに魔術で治癒を最大限に行う事ができる様になった。彼女も、戦巫女と師匠に認められた。

 でも、時間の感覚は三、四年は掛かっていると思っているが、影の国は時間に囚われていない為、戻ったとしても出発してさほどの時間は経っていないと思う。そう思うと、時差ボケしそうだ―



 その日の夜。食堂では、修行を終えたとの事で同じ訓練に通う戦士たちが歓喜していた。その者たちは、今尚戦い続けるアルスター戦士の若者だ。


「すげぇよ、嬢ちゃんたち‼」

「師匠の修行を越えちまうなんて!」

「見くびっちまった自分が恨めしいぜ…。」


 戦士たちは、それぞれ彼女たちに言う。今日は、食堂では彼女たちの祝いの料理がもてなされていた。テーブルには、アイリッシュシチュー、バームブラック、チャンプ、レモネード、クラブオレンジが用意されている。

 ジュヌヴィエとアーサーは、初めて目にする料理に目を輝かせて食べて行く中、焔はスカアハと話をしていた。


「師匠。ここまでお祝いさせてもらえるなんて、申し訳ないです。」


「お前は謙虚だな。でも、それがお前を鈍らせる。時には素直に、時には冷徹に、時には敬意をだ。臨機応変だ。」


「は、はい。ありがとうございます。……そう言えば、師匠の飲んでいるそれは、何ですか?」


「あぁ、これか。これは、ミード……蜂蜜酒(はちみつしゅ)だ。蜂蜜を水で薄めて発酵させる酒だ。セタンタが好きな酒だ。」


 “セタンタ……確か”


「セタンタとは、クー・フーリンの事ですか?短い人生であっても最期まで炎の戦士として戦った…。」


 焔はそう言った言葉に、スカアハは頷いた。

 そう。彼女の言う通り、セタンタという名はクー・フーリンの幼名だ。伝説では、彼はセタンタから名を変えた理由としては、猛犬を手に掛けた事で代わりに番犬になると誓ったことからである。


「よく知っているな…。神に誘われ、幻想界(イリュド)に来た娘よ。」


「……っ‼師匠、知っていたのですか?私が…。」


「あぁ。今まで黙ってはいたが、お前は神によって誘われた者と。」


 スカアハは千里眼所有者。それを、予知する事が出来たのだろう。影の国に来る事も……。焔は、思っていた悩みを打ち明ける。


「師匠。私は、何を倒せばいいのか分からないんです。ずっと、思っていたんです。どうして、私はこの世界に。元々、異世界へと飛んでみたいと思ってはいたんですけど……。」


「焔。お前は、まだ知らぬ方が良い。お前は、ただその国それぞれの悪を倒せ。いずれ、敵を知る事にはなる。

 倒すべき敵の詳細は、三つ目の、聖なるき炎を守護する王の元で知る事になる。それまでは、良いな?」


「は、はい‼」


「分かったのなら良い。ほら、皆の元へ行ってこい。思い出を今のうちに作れ。」


 スカアハの言葉に、焔は返事をしてジュヌヴィエとアーサーたちの所へ向かった。すると、スカアハの持つ小さな水晶から映像の様なものが映る。そこには、妹であるオイフェの姿だった。


「良いのか?」


「これで良いんだ。」


 スカアハは、今は大きな闇を知る必要は無いと話す。


「しかし、いずれは試練が来る。空から舞い降りし大いなる厄災。黄金たる力を持って、(いのち)を喰らう者と戦うだろう。」


「黄金たる力?なぁ、スカアハ。かつて、星を喰らおうとした()()か?」


 オイフェがそう言うと、スカアハはそう言って続ける。


「あぁ。どうやら、その厄災と因縁を持つ英雄が、どこかに召喚されるはずだ。」


「因果な話って事ね。分かったよ。じゃ。」


 オイフェは、画面から姿を消した。スカアハは水晶をしまって、祝いを楽しむ彼らを見守っていた。



 その頃のコノート城。


「秋の季節。ハロウィン、ねぇ。」


 王の部屋のバルコニーから町の景色を眺めているメイヴは呟く。戦を始めてから数ヵ月ほどが経つ。

 元々は、夫であるアリル・マク・マータとは有する財産が多いかという比べ合いだった。それに端を発したのが、此度の戦争だ。

 今の所、メイヴの統率力は計り知れないほどになり、アリルは王の象徴を示すだけになった。


「女王陛下。次の作戦は如何致しましょう?」


 コノートの伝令兵は、彼女に尋ねる。


「そうね。……ハロウィンもあるし、冬を越すのも時間の無駄。よって、この二週間後に大戦。最終決戦といたしましょう。直ちに、会議室へ集まるよう伝えて頂戴。」


「はっ‼」


 伝令兵はそう言って部屋を素早く後にする。メイヴは町を眺めて言う。


「全ては、コノートの女王である私の為。そして、アルスターを我が物とする。あとは、あの忌々しい()()を始末して、クー様を私の手に。」


 メイヴはそう言って、バルコニーを後にして会議室へと向かう。


 “この国を繁栄させる為、私の思うがままにする為…”


 彼女は、思うがままに進み、手に入れたい者はどんな手段を選ばない。国を、自分のものと定めた男を手に入れる事も、何もかもだ。


 “私は、決して歩みを止めませんわ。どんな手段でも…”


 そして、彼女たちが帰還した三日後に、メイヴの使いによって宣戦布告がアルスター王国赤枝王(エヴァン・マハ)城のコノールの元へと届くことになる。



 影の国。焔とジュヌヴィエは、スカアハによって海岸まで見送られていた。ルーから授かった戦車も、そこに配置されている。


「師匠。今までありがとうございます。何とお礼を言ったらいいのか…。」


「キュウ!」


「私もです。巫女である私を、ここまで成長させてくれました。」


 焔、アーサー、ジュヌヴィエはそう言う。スカアハは、微笑んでから彼らに言う。


「礼は良い。お前たちは、私の課題をこなした。私にとって、それが礼だ。」


 スカアハは、彼らに言う。これからは、訓練よりも厳しい戦いが起こる事を。彼らは当然分かっている。しかし、スカアハは特に焔へ言う。


「良いか。お前の判断が、運命を変える事になる。選択を迫られた時、お前の判断はとてつもない重さを背負う事を覚悟せよ。」


「は、はい‼」


「うむ、良い返事だ。さぁ、仲間の元へ帰ると良い。楽しかったぞ。」


 スカアハは笑って行った。戦車に乗り込んでいた彼女たちは、この時に初めて師匠の笑顔を見た。微笑む事はあったが、笑顔としてはあまり表に出る事は無かったのだ。

 戦車に乗った彼らは、スカアハに礼を言って手を振る。スカアハは霧の中に消える彼らを微笑んで静かに見送った。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 焔:乗り越えたぞ!


 アーサー:キュウ!


 ジュヌヴィエ:うん。やったね!


 焔:自分じゃ、三年かそれ以上かかったと思うだけど、時間の概念がないから戻ったら、出発した時刻に戻るみたいだし…。


 ジュヌヴィエ:不思議ね。この世界には無い神秘も綺麗で良いね。

        それでは、今日の『イリュド豆知識!』。スカアハさんによりますと、「焔は、私の技を時間かけてでも覚えてくれている、よい弟子だ」と誉めていたそうです。


 焔:師匠が、そう言ってたのか?褒められることは、ないよ…。


 ジュヌヴィエ:自信もって。焔なら、できるもの。次回、『第19節 炎の戦士 ―願いよ、届け―』。何だろう、嫌な予感がします…。

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