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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第17節 影の国Ⅱ ―修行・破―

 焔たちは、スカアハから与えられた厳しい修行を、何日もかけてクリアして行く!


 『生きる事もまた闘いの一つだ』


 その言葉を胸に、焔は訓練を続ける。


 ―しばらく続いている山下りは徐々にできる様になった。前より、罠を多く避けていき、肺活量も多くなって以前より長く走れるようになった。でも、罠は恐ろしいものに変わっていく。小石が刃こぼれした小刀になっていて、落とし穴にも仕掛けられていた。殺す気満々と言って良いかも。まぁ、戦う術を得る為の訓練だけど…。


 今日は、武器を持ったまま走る。意外と苦戦した。片手が塞がる事で、罠に引っ掛かる事もあった。罠を完璧に避け切るのには時間がかかった。


 今日は、素振り。打刀を実際に持って剣道の素振りと同じことをする。これも、しばらく続いていた。腕が捥げそうなくらいだ。手も、豆が出来てしまった。―


「991……995……999、千‼」


「あと、千回‼」


「ガァッ‼」


 スカアハの言葉に、焔はそれは地獄だと身を強張らせた。それでも、彼女は師匠の指示に従って、千回素振りをした。その影響で、酷い筋肉痛が発生した。ウアタハは、そんな彼女の為に薬湯の風呂を用意してくれた。


「湯加減はどうですか?」


「あ、ウアタハさん!はい。大丈夫です。それで、この薬湯は、どんな効果が?」


 —ウアタハさんによると、筋肉痛や傷を治癒して疲労回復を促し、肌をツヤツヤにさせる様だ。温度も丁度良くのんびりする事が出来る。別の日に、ジュヌヴィエも薬湯の風呂に浸かって癒しを受けていた。彼女も筋肉痛や疲れが直ぐに治ったと話していた―


「凄い!まるで、温泉そのものです。」


「ありがとうございます。では、私はこれで。」


 ウアタハはそう言って保険舎へと向かった。毎日彼女は、そこで怪我の治療を行っているようだ。縁の下の力持ちと言っても良い。

 その後、焔は訓練を受け続けた。挫けそうなこともあったが、その度に()()を思い出して奮闘する。そして、山下りを終えて、彼女はスカアハに直接稽古を教える事になった。


専心(せんしん)、ですか?」


「あぁ。常に集中力を研ぎ澄ませる事ができる。」


「なるほど…。」


 それは、簡単に言うと腹式呼吸だ。肩の力は抜くも、姿勢を崩さずに腹筋を意識する。焔は、真剣に腹式呼吸を深く行った。しかし―


「ガァッ‼」


 と腹にスカアハの拳が当たって、あまりの痛みに腹を抱えた。


「もっとできるはずだ。」


 スカアハはそう言って、焔の腹を何度も叩いて腹筋を意識するように指示をする。また、一日中ずっとそれを行えば、息切れもしづらくなるとの事で、朝昼晩ずっと続けた。

 ジュヌヴィエも会得するまでに、焔と同じくらいの時間は掛かったが、弓術の腕は上がってきている様だった。


「弓はどうなの?」


「うん。遠くの的も狙えるようになったから、あとは中心に目掛けてズバッと決めて行くだけ。スカアハさんも、このまま精進して行けと言ってくれたよ。」


「良かった。私は、まだまだだよ。今度は剣技で、訓練は続くみたい。時間かかるかもしれないけど、頑張ってみる。いや、努力あるのみ、かな。」


「うん。焔、頑張って。応援してる。」


「ありがとう、ジュヌヴィエ。」


 焔は、彼女に礼を言った。

 それから、腹式呼吸を上手くできる様になり…その上の『専心(せんしん)(じょう)』を取得した焔。彼女は、次に魔術の訓練を受ける。魔術の属性上の相性を見る。

 しかし、ソフィーの診断では属性は不確かで、いつ安定するかは分からないと言われている。


「ふむ。恐らくは、体内の魔力が混濁している可能性が高いだろう。だが、魔術と言えど一種類だけではないぞ。……ところで、焔。お前は、ルーンは知っているか?」


「はい。文字を書く事で放たれる魔法、でしょうか?」


「そうだ。魔術と言えど、ルーンは文字を書くだけで詠唱や魔力を必要としない効率的な物だ。

 火と水、氷など。破壊、探索、見抜き、治癒と様々な効果がある。危険な物もあるが、お前に必要なルーンを教えてやれる。ルーンと体内の魔力を行使する魔術、万が一を備えて両方取得した方が、この先、良いからな。」


 スカアハの言葉に、焔は考える。彼女は、スカアハが千里眼所有者である事は知っている為、この先で何かがあるのだろうと静かに察した。

 スカアハからルーンを教わり、焔は実践する。彼女が放ったルーンは、適度な出力を見せた。


「どうやら、相性は良い方だな。だが、今の時点では同時に二つの属性を取得するのは難しい。よって、扱いやすい水の魔術を特訓させる。取得後、水の流れのような剣術の型を()()()()で編み出せ。」


「型を、自分で、ですか?」


「あぁ。東洋は、残念ながら私はあまり詳しくは無い。よって、お前が型を作る。技の形や特徴を私は言うが、水に関連する景色や流れの様子などを観察するのも、訓練の一種だ。期待しているぞ。」


「は、はい‼」


 焔は、スカアハの言葉に元気に返事をした。


 ―それから、毎日、水の様子を眺めては魔術の訓練に励んだ。川、海、滝、波、雨、雫。思い出してみれば、水の脅威は計り知れず、どんな状況でも変異する。無理のない限り、色んな技を作れるかもしれないのだ。

 失敗を繰り返して、練習を積み重ねて行く。そして、水の魔術の威力は小規模から大規模と変化を付ける事ができた。ジュヌヴィエは、光の魔術を見事に行使していた。巫女さんと言う事もあるのかもしれない。

 そして、待ちに待ったスカアハ師匠から技の形や特徴を指示される事になった。

 始めの課題は、一本技、水平斬りだ。次の課題は、居合斬り。次に、突き技、回避をしながら攻撃の技二種類、回転技、足運びの技、痛みのない慈悲の技と計十二の技を編み出す事に成功した。他にも、空手と射撃も教わった。

 スカアハ師匠には褒められたけど、師匠が状況や技の威力を上げる方法などアドバイスをしてくれたおかげだ。それに、使い魔の使役の勉強もした。

 そして、ある日の事。スカアハは、最後の課題と言って物静かな場所へ私を案内した―


「お前の眼に映るこの石柱を、断ち切れ。そうすれば、全てを取得した勇者と認めよう。」


 焔は、スカアハの言葉に何も言えない。目の前にある石柱は、静かにたたずんでいる。しかし、石肌には何かが滲んだ跡があった。赤黒い何かだが、なんの跡なのかは分からない。


「あっ!スカアハ師匠‼」


 そう呼んだ時には、焔の傍にいたスカアハはいなかった。ここでじっとしても課題をこなさなければ、影の国おろか幻想界(イリュド)にすら戻れない。

 焔は覚悟を決めて、刀で石柱へ振るう。しかし、刃が石に当たった反動が彼女の全身に響く。それでも、切り直して石柱へ刃を振り続けた。

 何度も、何度もやり直した。けれども、空腹になって立ち上がるにも限界があった。


 “ここで、倒れる訳には、いかないのに…”


 焔はそう思っていたが、瞼が無意識に閉じてしまった。


 ◇


 目を覚ますと、真っ白な空間だった。ここはどこなのだろうか?焔は辺りを見回すと、誰かが立っていた。姿はシルエットで、何者なのかを見極める事ができない。


「目が覚めた様だな。」


「ここは?貴方は一体?」


「儂の名前はあえて言わんでおこう。ここは、夢……精神の世界といっても過言では無かろう。儂は、お前さんの剣技を極める者としてここにおる。」


「剣技を、見極める者?」


 口調的に、日本人で昔の時代に生きた男と確信する。焔は何故、自分の剣技を見極めようとするのかを問う。その者は、彼女の質問に答える。


「儂は、お前さんに止めてもらいたい者がおる。しかし、その者はお前さんよりもはるかに強い。お前さんが今の剣技の状態では挑んでも、木端微塵さ。だから、その剣技を、儂が磨き上げるのじゃ。」


 “な、何か。複雑だな。図書館の時も、知らない人だったな…”


「儂の勝手な願いなのは承知の上だ。頼む、この通りに…。」


 焔は、理由も説明してくれた男の願いを受け入れざるを得ないと判断して請け負うと返答した。


 ―不思議な夢を見た。夢なのかは分からなかったけど、現れたのはとある剣豪の一人。名はあまり知られていないが、いずれ知る事になる……と言う。

 「その時までは前に進め」と本人は言っていた。気になったけれども、今は目の前に集中する事だ。

 怖い感じに見えた人だったけれど、私の手癖を的確に直してくれた。右手の力が強い分、振り上げた時に切っ先が左に傾いている事。真っ直ぐに構える事はできるようにはなったけど、意識していないと前のようになっている事もしばしばだった。

 でも、男の人は上手になったと教えてくれた。最後に、男の人は言った。


 『儂の思いを、あやつに伝えてやってくれ。また、会えると良いな』と―


 ◇


 目を覚ました焔は、ゆっくりと立ち上がる。夢を見ていたせいか、かなりの時間が流れている感覚だった。それでも、彼女は石柱へ刀を振り続けた。しかし、何度も同じことを繰り返しても石柱を斬る事が出来ない。


 “焦るな‼基本からやり直すんだ”


 焔は、スカアハと夢の中に出た男から教わった事を繰り返して、石柱へ刃を振るい続けた。

 刀を振るい続けた結果、石柱は未だに斬れずに手に豆が出来て、それが潰れて出血して瘡蓋(かさぶた)になっていた。


「負けるな、私‼諦めるな‼」


「静かにしろ!」


 聞き覚えの無い声が彼女の耳に入った。辺りを見回すと、焔の正面にある石柱の後ろから赤い縦長の仮面を被った青年だった。歳は焔と同じ十八歳くらいだろう。手には、木製の槍があった。


「あ、貴方は?」


「お前、この石を斬るのか?だが、スカアハ師匠の元で、何をやっていた?まだ、体に刻み込まれていないぞ。」


「……ッ‼」


 青年は名を名乗らず、焔に攻撃を仕掛けて来た。


「ま、待って!話を!」


 焔は武器の性能上、圧倒的に不平等だ。しかし、青年は攻撃しながら、俺にはそんな事は関係ないと言い放って、彼女の手から武器を手放させた。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 焔:名を名乗らないで、稽古して去って…。後で分かったけど、そんな事がって思う…。

   今日の『イリュド豆知識!』は…そうだ。スカアハ師匠について、師匠はイリュドにとっても、どんな世界であっても、影の国は異空間。でも、一つだけ不満があるとすれば、自分が永遠に不老不死である事みたい…。

   次回!『第18節 影の国Ⅲ ―修行・離―』。次こそは、石柱を斬る‼

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