第1節 背水の陣での救いの手
ルミソワ編、開幕!
不思議な夢を見た焔が目を覚ますと、そこは―――
焔が爆睡してから数時間後…人間が夢を見る時間帯に、彼女は不思議な夢を見た。
『焔……』
(誰?)
と、何も知らない相手から呼ばれて体を強張る。
『焔。……貴女は、これから様々な事を知らくてはならぬぞ』
(そんなの、分かってる‼)
と感情的になり、そう思ってしまう。声の主は話し続ける。
『そんなに怒るのではないぞ。だが、今の貴女では今の世界を生きれない。………貴女が訪れる世界は、貴女にとって異世界の様に見えてしまうが……貴女の力が必要なのだ。
貴女だけにしかできないこと。でも、一人だけでは成せぬ。多くの仲間たちと共に、世界を……幻想界を救って欲しい』
(はぁ⁈ 無茶だ! こんなクソなあたしが。確かに、異世界って言うのは興味あるかもしれないけど…絶対、情けない私だし、直ぐに諦めちゃうよ)
と本当の事だと自分にも言いつける。
『貴女は、まだ知らないだけ。大丈夫。貴女は、成長する……数多の知恵を得る。喜び、悲しみ、怒り……人を愛する事も、貴女が知って成長する。どうか、自分の未来の為に諦めないで欲しい。……貴女は――――』
―――――――――――――――――
(ん……今、何時?)
焔はそう思い、徐々に意識が覚めて目を開ける。視界がはっきりしてくると、周囲が森である事に気付いた。
(あれ? 何で、あたし……?)
彼女は、その事よりも自分の服を見た。いつも学校に来て行っているワイシャツ、女子用のズボン、ネクタイに靴下とローファーであった。
(ん? いつ制服着たっけ? それに、コンタクトしてないのに……)
確かに。焔は、裸眼で就寝していたはずが、眼鏡やコンタクトをせず、はっきりと物が見える。さらに、右手甲には白銀色の紋章があった。
(何だ、これ? 何か、竜の様な紋章、聖痕か? ……私、こんな装備してたっけ?)
また、自分の腰に帯刀用のベルトがズボンに巻いてあり、大きさが三十cm少し程の大きさの脇差があり、右腰の後ろ辺りにはウエストポーチがあった。
焔は立ち上がって砂を祓ってから、その中に何があるのか確かめる為、ポーチを前に動かして中身を見ると、まるで亜空間の様な風景で、いつも使っているスマホとイヤホンが入っていた。
(ん? これって……。あたしの、命の次に大切にしているスマホぉぉぉぉぉ‼)
と焔は心の中で発狂。
カバーケースや好きなアニメキャラ、推しキャラのキーホルダーが付いている。確かに自分の物だった。焔は、スマホを操作してみると、ロック画面に――
『ゲームアプリは圏外でプレイする事が出来ませんが、データー自体は消えておりませんのでご安心ください』
急いで彼女はホーム画面を開くが、文字通りになっていた。まるで、ゲームシステムによくある「地図」や「図鑑」に「写し絵」などがアプリのアイコンとしてに表示されていた。
(えぇぇぇぇ?! うっそぉぉぉ! ゲームアプリが消えてるぅぅぅぅぅ‼ 連続ログボ(連続ログインボーナスの略)がぁぁぁぁ‼ ……あ、確か圏外だったんだよな。データーは残っているって書いてあるし、諦めるしかねぇか)
焔は、残念に思いつつ、スマホをウエストポーチにしまい辺りの様子を見る。木々が生い茂っている森……初めて見る景色に不安が募る。彼女は勇気を出して、一歩踏み出したその時。
「ウォォォォォォォォォン!」
狼のような遠吠えが森に響く。焔は足を止め、周囲を警戒する。
(嫌な予感……)
と思うが、それは的中している。
「グルルルルゥゥゥゥ……」
焔は、威嚇の鳴き声に背中を凍らせる。ゆっくり振り返ると、森の暗闇に赤い瞳が光る。そのまさかのまさかであった。焔が思っていた通り、嫌な予感がそこにあった。正体は、狼の形をした魔物であった。
「……っ‼」
(……に、逃げろ‼)
と思い、足を動かそうとするが、上手く動けない。
彼女が住んでる日本には、狼という動物はいない。とうの大昔に、絶滅している。
焔は、初めて見る狼に恐怖が出て来て、必死に足を動かすも腰が抜けてしまった。狼は、逃げて行こうとした彼女を囲む。
彼女が腰を抜かした時、右手甲のにある白銀色に刻まれた竜の紋章が淡く光るも気付かない。
(こんな所で死ねるか……。武器なんて使えないし。刀は重くて、只の御飾りだぁぁ!)
と焔はそう思い、周囲の狼に警戒する。
その時、一匹の狼が彼女に襲い掛かる。焔は上手く避けるが、別の狼が襲い掛かり、左二の腕に傷を負ってしまう。傷を負った部分のワイシャツは破れて、傷から血が滲み、腕を伝って地面に落ちる。今まで負った事の無い傷の痛さに、焔は涙を堪えて傷口を押さえる。
(痛い……)
これは夢ではない、と彼女は悟る。
狼は、怯まないまま威嚇し、彼女へ一斉に襲い掛かる。焔は「死ぬ!」と思い、目を瞑った時だった。
「せやッ‼」
誰かが声を挙げた。焔は、何が起きたのかと思って目をゆっくりと開けると――
そこには、腰辺りまである白銀色のマントと服、装備を身に纏い、右手には鋼の剣を握る青年だった。彼は、一斉に襲い掛かる狼を始末してくれたようだ。焔は、助かったのか、とホッとする。
「あんた、大丈夫か?」
「え、あ、はい」
「怪我は、後で治してやる。……立てるか?」
青年はそう言って、剣を鞘に納めて焔に手を差し伸べる。彼女は頷いたが、腰を抜かしたせいで立てなかった。青年は、立ちあがれない彼女を抱えて言う。
「ひとまず、ここを抜けるぞ!」
青年が焔にそう言うと、飛翔魔術を発動させて森の上空へ飛んで行く。彼女は、姫様抱っこをされた事に驚いたが、森を抜けた事に安心しきっていた。しかし、疑問が浮かぶ。
(えぇ?! ここ、どこぉぉぉぉ!)
と、目を見開く。
森の上空で見たのは、日本では無い。今まで暮らしていた世界と違っていた。
高層ビルは一つもなく、自然が豊かだ。そして、向こうに見える一つの円形の壁に囲まれた町。まるで、中世のヨーロッパかアニメのファンタジーっぽい世界をイメージさせるものだ。
太陽が、まだ東寄りにある為、午前の時間帯である事がわかる。
青年は、焔を姫様抱っこをしたまま空を飛び、壁に囲まれた町の方へと向かった。焔は、上空から壁の中にある街並みを見る。石造や木造の家屋があり、道路は石畳で造られていた。
(どゆこと?! 一体……)
と周囲を見回す。
しばらくして、二人はとある小さな丘に建つ平屋に着いた。青年は、平屋のドアを開いて焔を平屋の中へと入れた。
「待ってろ。今、傷を治す」
青年は、テーブルの椅子に焔を座らせてどこかへ行く。彼女の左二の腕の傷口は少し深く、出血はあまり止まっていない。
直後、青年が救急箱を手に戻って来た。テーブルにそれを置き、焔の傷口を手当し始めた。彼女は、傷口の手当をする青年の顔を見る。顔立ちは整っていて、綺麗な蒼の瞳に、銀を主体とした紺の混髪を持つ。
(見知らぬ人なのに、どうして私を?)
と、彼女は思った。彼女の怪我の部分は、青年の丁寧な手当てですぐに済まされた。
「はい! 手当て、終わった! 治癒魔術が宿っている包帯を巻いたけど、無理に動かすなよ」
「……は、はい」
「狼に襲われたのは、災難だったな。ところで、君は初めて見る顔だけど……。名前、教えてくれないか?」
青年はそう言うが、焔は見たこともない景色が広がっている事に疑問が起き、自己紹介と言う状況では無かった。青年はまず、彼女を安心させるべく自分の自己紹介をする事にした。
「俺は、アッシュユ。騎士だ。アッシュと呼んでくれ。……あんたの名前は?」
「……式守焔、です」
「珍しい名前だな。……どう呼んで良いんだ?」
「……焔で良い、です」
「それで焔。あんたは、どこから来たんだ? 見た事もない服を着ているようだし」
焔は、緊張が走りつつも自分の住む場所を話した。しかし、アッシュは首を傾げていた。彼女は、首を傾げている様子から、ある考えを持つ。
《ひょっとして、異世界とか来ちゃった系か? いや、それは無いか》
と思った焔は、思い切ってアッシュにこう質問した。
「あの。……この世界って、何て言うんですか?」
「えっ……幻想界って言うよ」
(イリュド、か……。え、マジぃぃぃぃぃ?!)
と焔は、彼の言った言葉が信じられず、もう一度聞く。「もう一度、言ってくれませんか?」と。
「幻想界だが……」
彼は、先程と同じ言葉を話す。
(本当に……異世界に来ちゃった系?! よっしゃぁぁぁぁ‼ あ、でも、声優になれねぇ。まぁ、今は今だ!)
と、焔は興奮を心で落ち着かせ、アッシュに質問する。
「あの、私、この世界の事、まだ知らないんです。だから、その……」
緊張してしまい、焔は口を閉じてしまう。異世界から来た可能性もあるなかで、「自分が異世界の者である事を伝えても信じてくれなさそう」という不安に。
「しかし、自分がいても人に迷惑をかけてしまうのでは」という気持ちが混ざった。
読んだくださいまして、ありがとうございます!
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次回、『第2節 異世界生活、スタート!』です。お楽しみに!