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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第11節 再起 ―騎士の誓い―

 新たな命の誕生で祝いに包まれる中、脅威はすぐそこに…。

 夜。マリアンは、ノッティンガム城のバルコニーにて帰って来た兵士を見下ろしていた。その中に、囚われたマッチがいて、彼を含めて五名が囚われていた。

 そして、帰還したジョン・ノーディンは彼女に近づいて言う。


「これで、シャーウッドの奴らはもうお手上げだろうな。……頭と呼ばれた男が死んだのだからな。」


 ノーディンは、ロビンのペンダントをマリアンに渡した。彼女は、ノーディンの悪い笑みを見て、涙が溢れてしまいバルコニーから走り出す。


「あぁ、あぁぁぁぁぁぁ‼…あぁぁぁぁぁぁっ‼」


 マリアンは、部屋に駆け込んでペンダントを握り締めて泣き叫んだ。ノーディンは、計画の一部が失敗した事に苛立ちを覚えていた。


 “あの野郎。あの大柄を倒すとは、何者だ。顔を隠しおって。黙っていられん。次は、殺してやる”


「ノーディン様。明後日の昼に、行われる処刑と婚礼の儀は予定通りで?」


 ノーディンの従者は、明日に実行される行事を述べる。


「あぁ。司祭はいるのだろう?」


 ノーディンの問いに、従者は答える。


「はい。準備は整っております。」


「ならば良い。下がって、休め。」


「はい。」


 従者はそう言って、部屋を後にした。しかし、この従者は他の者と違ってフードを深くかぶっている。正体は、戦闘後になりすましで潜入していたデイビッドだった。彼は、周囲を確認して急いでシャーウッドへと戻って行った。



 夜のシャーウッドは、鎮まっていた。焔は布団で、ブランドの治療を終えてジョンとエマに土下座で謝罪をしていた。まだ、立つ事が出来ない焔にとって精一杯の謝罪だった。


「すみません。目を離している隙に……ごめんなさい。ごめんなさい…。」


 マッチを助けられなかった後悔に、焔は涙が出てしまった。二人は、顔を見合わせる。ジョンは、彼女の肩に手を置いて言う。


「焔。お前さんは、マッチに助けに行くと言ったんだろ?それも、俺とエマと一緒にって。アイツは、分かっているさ。それを伝えたお前さんは、勇気のある奴だ。だから、マッチを助ける為にも、顔を上げろ。」


 焔は、ジョンの言葉に顔を上げる。彼も、エマも、表情から怒りが一つも感じない。エマは、彼女の涙を拭き取って言う。


「元気を出しなさい。マッチは物心がついた頃から、いつも森の外に出ては奴の兵士に追いかけられたの。そんなある日、捕まりそうな所を、ロビンが助けたの。

 それに、焔ちゃんが来たことで、人との触れ合いを学んだと思うの。自分がどれだけ、親を心配させたかを。……だから、皆で、捕まった人たちを助けに行くのよ。泣いていたら、マッチも悲しいと思うわ。」


 エマは、微笑んでそう言った。


 “怒ってもいいのに。役立たずだって。なのに、どうして、そう優しくいられるんですか…。ズルいですよ…。マッチ君。絶対、絶対に、助けてやるから‼”


「さて、俺はウィルと一緒にロビンを探してくる。エマ、ブランドとタックと共に頼むぞ。」


「分かったわ。気をつけて行ってらっしゃい。」


 ジョンは頷いて、ウィルと合流してロビンを探しに行った。エマは、焔に言う。


「無理して、戦ってたのね。辛かったでしょうに…。」


 エマの言葉に、アーサーは同情して彼女の手に頬をスリスリする。焔は、アーサーが宥めさせてくれるのに感謝して頭を優しく撫でる。


「情けないと、思います。私は、武器を一度も握った事が無いのにもかかわらず、人を守りたい意志と、騎士や魔術への憧れだけで、騎士になったんです。人を間近で、あんなことが、今日が…。」


「でも、私は、焔ちゃんが情けないとは思った事はないよ。」


「え?」


 焔は、どうしてそう言えるのかと首を傾げる。エマは、揺り籠でスヤスヤと眠る赤ん坊・アレックスを見て話を始めた。

 初めて来た時、緊張しつつも堂々とあろうとする姿から新米騎士と言えど、乗り越えたものが大きいとエマは思えたのだ。

 子供を多く抱えており、多忙な時に、必死に子供たちの遊び相手をしてくれたり、数少ない本で読み聞かせをしてくれたり、時には料理を振る舞ったり、家事を手伝ったりした。

 他の人々との関りは、緊張ながらも多くの人と、老若男女の人々との会話を望んだ。手伝いや見張りも兼ねて、頑張っている姿は立派な騎士だ―


「―って思ったの。この子が生まれる時も。焔ちゃんは、出産を見るのが初めてだったのかな。一生懸命、アレックスの体を支えてくれた事、嬉しかった。」


「中々ない経験で、良い機会だったと思います。……それに、エマさんの言葉が、ずっと頭の中に残っているんです。生まれた事への幸せ、と。

 よく考えてみたら、作りたい物を作ったり、自由に旅をしたり、住む場所を選んだりする事が出来るのも、人間だけです。

 人に生まれるのが、どれだけ奇跡で、大切な事かを、まだまだですけれど、少し知る事が出来て嬉しかったんです。」


「ふふ。焔ちゃんは、やっぱり、立派な子ね。アーサー君と言う可愛い相棒もいる。それに、アルスターを支援する騎士団の人たちもいる。…仲間を、友達を、大切にね。」


「はい。…ふわぁぁぁ…。」


 焔は欠伸をする。アーサーも、彼女のが移ったのか、大きな欠伸をする。


「そろそろ寝なさい。貴方たちは、寝なくちゃいけないよ。」


 焔は、エマにそう言われ、睡魔に襲われてアーサーと共に就寝した。

 一方、ジョンとウィルは仲間と共に森の中でロビンを探していた。拠点があった場所には、焼かれた家や亡くなった仲間の遺体が転がっていた。


「一体、どこにいるんだ…。」


「兄貴。無事でいろよ……ん?」


 ウィルはふと空を見上げた時、木の枝に誰かがいるのが見えた。こちらへ手を振って、地上に降りてこちらへと歩いて来た。ジョンも気付いて、ウィルの元へと駆けつける。

 丁度良く、月が雲の間から現れてその人物の顔を照らした。


「あ、あぁっ‼」


「お、おい‼」


「……どうも、心配をおかけしてすんません。木の上で敵さんの撤退をのんびりと、見てたぜ。」


 その声は、皆知っている。そして、皆が心配している事を分かっている。何よりも、腕には彼だけが扱える櫟の弓があったのだ。


「ロビン‼無事だったのか!」


「兄貴‼」


 ジョンとウィルは喜んだ。付いて来ている仲間たちも歓喜に包まれる。英雄は、まだ死んではいない。戦いは、これからであった。ウィルは、心配の余りロビンを抱きしめて、涙を流した。ロビンは、彼の背中を優しく摩った。



 翌日。焔はブランドの治療によって震えは収まり、ロビンたちと共に亡くなった仲間たちを大きな櫟の元へ弔っていた。


「これから、どうすればいいんだ…。」


「ロビン?」


 デイビッドの連絡を受け取り、ロビンは状況的にも最悪だった。焔は、いつもと違う彼の顔を見て首を傾げる。


「これから、どう立ち向かえば…。全て、無駄だったのか?」


 パチンッ‼


 ロビンの頬が勢い良く叩かれた。叩いたのは、(エフ)だった。彼女は、ロビンの襟元を掴んだ。アーサーは彼女の行動に驚いてオドオドしてしまう。焔は、ロビンに言う。


「お前は、何のためにここを守って来たんだ‼何のために、仲間をまとめてきた‼」


 焔の声にウィルや皆は抑えようとしたが、ジョンは何かを察して止める。焔は、ロビンに言う。


「まだ、好機がある‼お前なら、俺よりも工作が上手いだろ‼まだ、死んでないだろ‼マリアンだって、ロビンが来るのを待っている‼

 それに、俺は、マッチに両親と共に助けに行くことを約束したんだ‼ここまでこれたのも、生き残っているのも、お前のおかげだ‼お前なら、やれる……そう信じてる。俺も、皆もだ。

 ロビンフッドは、どんな困難が来ようとも立ち上がる男だと。」


 焔は、襟元から手を離した。ロビンは、彼女の言葉で今までを振り返る。


 ―父親と喧嘩し、遠くまで出かけていた。けれども、申し訳ないと感じて帰った時に、屋敷は焼け落ちていて、父親が皮を剥がされて殺された。また、その場所にノーディンからの手紙があり、父親に汚名を着せた事と自分の命を狙う事が書かれていた。

 絶望であった事で、幼馴染みのマリアンの元へと訪れる。しかし、ノーディンは兵士を使って追いかけて来る。マリアンは自分を逃してくれた。

 逃れた森で、ジョンと勝負して、仲間へと入った。けれど、不満に思っていたウィルはロビンに喧嘩を打って、一時騒然。訳を問うと、本当なら家族として暮らす運命だった。義理の弟である事が分かった。

 ロビンが父親と喧嘩した理由は、別の女性との結婚で()()()がいる事だった。ロビンは、ウィルに謝罪をして和解。そして、森にいる仲間とノーディンの手によって居場所を無くして森へ駆けこんだ人々をまとめて、抵抗運動(レジスタンス)をするべく自ら統率者として名乗りを上げた。

 人を傷つける事無く金銀財宝を集め、ノーディンの兵士が襲撃に来た際には打ち祓って来た。そして、焔とアーサーがやって来て、人々の為に頑張っていた―


「ご、ごめん‼し、失礼な事を‼」


 焔は(エフ)がした事を謝罪して頭を下げたが、ロビンは彼女の頭にそっと手を乗せて顔を上げる様に言い、話をした。


「焔。お前の言う通りだ。自分がまとめるって言っておいて打ちのめされちゃ、お終いだ。それに、お前は、無理をしてでも拠点を守り抜いたし、マッチに助けに行くと誓った。

 …ありがとさん。お前のおかげで、今までの努力が無駄じゃないと気付いた。だから、俺たちでノーディンに、正義がどんなものかを示してやろうぜ!……あとは、マリアンは俺のモンだって知らしめてやる‼」


「そうこないと‼」


 “キャア‼イケメンだわ、ロビン‼”と焔、

 “正義を貫く森の義賊はこうでないとな!”とユウ、

 “俺たちも、負けていられねぇな‼ノーディンに一泡吹かせようぜ‼”とホムラ、

 “ノーディンの行為は、残酷です。例え、アイツが正義と言おうとも、多くの人は正義と思っていない事を示しましょう‼”とレイ、

 “あぁ。(オレ)たちも、ここまできて引き下がるわけにはいかない。焔、そうだろ?”とエフ、

 “うん。人を殺めるのは、怖いのは分かっているけど。でも、避けようがないのも分かってる。戦うと言うのは、武器を持つと言う事は―


 『人の命の重さを知っているから』


 だ”と焔は思う。

 彼女は、『人の命』、『生まれて来る奇跡』をシャーウッドで学んだ。それを、ノーディンと言う卑劣な領主にロビンと一緒に教え込んで、マッチ君と囚われた人を、ロビンを待ち続けているマリアンを絶対に救うと誓ったのだ。


 “マリアン、待ってろよ…。俺が、君を絶対に助ける。義賊として、騎士として、ロバート・ロクスリーとして誓うぞ”


 ロビンは焔の言葉で、騎士の一人として、マリアンの恋人として強い誓いを立てた。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 焔:戦いを恐れずに進もうと決め始めたのは、この時だったな。


 アーサー:キュ。


 焔:大丈夫だよ。まだまだ、戦いはこれから長いんだ。守りたい人たちがいるからね。

   と、ここで『イリュド豆知識!』。ロビンの敵であるノーディンは、ワインが好きで、かなりの女好きの様ですが、ロビンの恋人であるマリアンを手中に収めようとしているよう。ちなみに、マリアンはノーディンを酷く嫌っています。

   次回!『第12節 救出』。いよいよ、ノーディンと決着の時だ。

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