第10節 背水の陣
森で新しい生命の誕生を喜んでいた。しかし、森への脅威はすぐそこに…。
その晩。森は、寝静まり返った頃。マリアンは、ロビンからの伝書鳩を受け取り、手紙を呼んでいた。
「まぁ、お子さんが…。いつか、祝いを送らないと…。」
そう言った時、一階から妙な物音がした事で、短剣を手にゆっくりと降りる。そして、暖炉の方を見ると火が消えていた。
“何だ?暖炉の火が消えた音だったのね…”
マリアンはそう思って、部屋に戻ろうとした時だった。誰かに手を掴まれて、テーブルに押し倒される。正体は、ノーディンの兵士だった。
「質問に答えろ。ロバートとあの娘は、どこにいる?」
「教えないわよ‼」
マリアンはそう言って、兵士の股に目掛けて蹴りを入れた。兵士は、股を抱えて倒れる。しかし、兵士が次々と屋敷に入り込んで、マリアンは短剣で応戦するも人数の差で囚われてしまった。
「いやぁぁぁぁぁっ‼ロビン‼」
その声を聴いていたダンカンは、馬に速く走る様に命令した。彼は、彼女を見送った後、しばらくは仕えていたが、彼女から目を付けられたら危険だと忠告されたのだ。
「早く、ロビン様に知らせないと…!不甲斐なし…!」
翌日。焔は、ウィルと弓矢の稽古をしていた。
シュバッ!
焔は櫟の弓矢を見事に使える様になり、的の中心を狙い打った。
「やるじゃないか。最初は、弓を引くにも苦労してたのによ。」
「い、言わないでよ‼恥ずかしいから!」
焔は、ウィルの言葉に最初の頃を思い出して赤面する。彼は、そんな彼女の頭をわしゃわしゃ撫でると、ふと話を始める。
「実はさ。兄貴の、あのペンダントは親父のなんだ。」
肌身離さず身に付けている十字架のペンダント。かつて、ロビンが帰って来た時、火災で廃墟と化した屋敷と、汚名を着させられ、皮を剥がされて死亡した父だけが残されていたと言う。その時、父親が身に着けていたペンダントを形見として持つようになったと言う。
「そんな事が…。ノーディンは、何を目的で…。」
「分からない。でも、不味い事なのは間違いないだろ。……そう言えば、ダンカンさん。帰って来るのが、遅くないか?」
「大丈夫なのかな…。」
焔がそう言うと、拠点の方から仲間がロビンに声を掛ける音が聞こえた。見張りの者が、ロビンに向けて警告を促す矢を放ったようだ。焔とウィルは、急いで身支度を整えてロビンの方へと戻る。
「何があったんだ、兄さ…。」
ウィルはロビンの元へ来て言葉が詰まった。焔は、衝撃的な光景に悲鳴を上げそうな口元を押さえた。ロビンの元には、息を引き取ったダンカンの姿があった。
伝令に戻ったデイビッドの説明によると、ダンカンは何者かの攻撃を受けて怪我を負った為、偶然に合流した自分と共に帰還。そして、ダンカンが言ったのは―
『昨夜、マリアンの屋敷にノーディンの兵が入り込んで、彼女を連れ去った』
“こんな事って…うぅっ”と焔、
“マリアンが、連れ去られたって‼このままじゃ、ノーディンの思うがままだよ!”!とユウ、
“どーして。爺さんまで殺すんだ。あの下衆野郎は…”とホムラ、
“嫌な予感がする。レイ、見張り台へ向かうぞ”とエフ、
“はい。焔。私とエフが変わります”とレイは思う。
焔と焔が出て来て、彼女は急いで部屋の方へ昇って見張りから見下ろす。すると、入り口方面から何かが近づくのが見えた。かなりの数だ。
「ロビン‼皆を早く、避難させろ‼すぐそこまで来ている‼旗は、コノート軍のだ‼」
焔がそう言うと、入り口方面から拠点の正面に軍勢が見えた。ロビンはそれを目の当たりにして、皆に指示を出す。
「逃げろ‼警報を鳴らせ!戦える奴は、配置に付け‼急げ!」
焔は、急いで警報の鐘を叩く。ロビンは、いつ攻めて来るか分からない状況だったことを彼女から聞いていた為、拠点の全員に警報の鐘が鳴ったら奥へ逃げる様に伝えた。その事があってか、皆が急いで走って行く。
「かかれぇ‼」
敵側から声が聞こえ、コノート軍の戦士たちが武器を掲げて走り出した。
「キュウ!」
「アーサー!……アイツが、ジョン・ノーディン…。」
焔はアーサーの忠告を察し、敵側の指揮を取っている貴族服の男を見て呟いてフードを被る。アーサーは、フード内に隠れて彼女のフードが取れない様にしてくれる。やっぱり、知性があるのでは?
それ所では無い。焔は、魔力を集中させて鎖を出現させた時と同じく、今度は弓矢を出現させて構える。狙いを定めて、次の動作を推測して相手の懐へ矢を放つ。
しかし、矢を放っていくうちに敵は拠点内へと入り込み、梯子から上へ上がって来る者もいた。アーサーはそれを見かけて飛び出し、火炎放射と爪に尻尾で攻撃して撃退させる。
すると、アーサーを殺そうと敵戦士が刃を振るってきた。
「はぁっ‼」
「キュ!」
「…ッ!タックさん‼こ、子供たちは?!」
アーサーを助けたのは、タックだった。彼は、子供たちを森の奥へと向かわせて、援護に戻ってきたようだ。焔は、アーサーを救ってくれた礼を言う。しかし、まだ敵は止まらない。
焔は、やむを得ず、地上へと降りて脇差を構えた。アーサーは、急いで彼女のフード内へと隠れる。
「タックさん、ここから奥を任せます。」
「任せた。お前さんは、前に出過ぎないようになっ!」
「了解。」
焔は脇差を構えて、前進して斬りかかって来た敵戦士を相手する。しかし、敵と言えど、人だ。先程の弓矢で敵を射ってしまった時点で、人を殺めた。
“人、殺して、しまった…”と戸惑う焔、
“焔。これは、仕方がない事だ。やるしかないんだ!守りたい者の為に戦え!今、お前ができる事、使命だ‼”と強く言うエフ、
“守る、使命……守る‼……悪いけど、コノートの戦士は通さない‼”と焔は思う。
焔は、自らの意志で、今は戦える身として『守る』と言う使命を選択した。彼女は、敵との鍔迫り合いとなり、身体強化で押し返して斬り伏せた。彼女は、周囲を見ると、母親と思わしき女性が敵によって服をはがされる所だった。
焔は、許しがたい行為に怒りが募って突進する。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ‼はぁぁぁぁぁぁぁッ‼」
焔の声に敵は顔を上げる。彼女は勢いよく蹴り飛ばして、立よろめいた所で突き技を放って討伐した。女性は無事だった。
「さぁ、早く‼今のうちに‼」
「ありがとうございます‼」
女性は家の中にいた子供を引き連れて非難すると、焔の正面に大柄な戦士が現れた。ノーディンは、男に命令する。
「お前は、あの者を捕らえて連れて来い!」
“私を、狙っているのか?!”
焔は、それを察した。アーサーは、フード内で威嚇をする。
一方、ロビンは弓で、ウィルは剣技で敵戦士を相手し、ジョンはエマと子供たちを見送った後に応戦する。ブランドは、森の奥で怪我人の手当てに負われ、デイビッドは短剣術で応戦していた。
また、マッチは子供だと言うのに、無茶をして弓を引いて戦士を討伐していた。
「ったく!あの野郎‼」
「お前さんと同じ気持ちだよ‼このままじゃ、あの野郎の思うツボだ。」
ロビンと共に高台にいるジョンはそう言う。
「焔の方も心配だ。しかし、数が多い癖に戦士だけを送り込むなんて、どういう事だ‼」
ロビンの言う通り、軍勢は敵の方が多い。しかし、コノートの戦士のみが前進し、騎馬隊や騎士はその場を動かない。それは、焔も感じていた。だが、今は自分に迫りくる大柄な戦士の相手に忙しかった。
「…っ‼」
力も大きな差がある。今の自分には、無理だと思った。
“どうすればいい、頭を使え‼働け‼頭ぁぁぁ‼”
「ひィっ…‼」
焔は、ギリギリのところで回避して体勢を整える。その時、彼女は木の根の間を飛ぶようにして態勢を整えた事で、脳内で閃いた。
“着地を最小限にして、素早く動く事。息も、動きに合わせて小さく早く…。今の自分が無理だなんて、決めつけるな‼越えろ、越えるんだ‼”
焔は心を固めて構えを取ると、再び攻撃が降りかかって来た為に回避する。
「貴方は‼名を何と!」
「レガヴ…。」
大柄な男は、自分の名を言った。焔は、彼の名をしっかりと覚えた。そして、小さく早く呼吸をしながら、着地面積を少なくして前へ進んで行く。レガヴは、彼女へ横殴りに斧を振るう。しかし、焔は上へ飛んた直後に、木の幹を蹴って真っ直ぐに斜めへとレガヴに向かって降下する。
「レガヴ‼強いアンタと出会えたこと、誇りに思う‼」
レガヴは、敵であるはずの彼女の言葉に驚き、攻撃のチャンスを逃した。同時に、マッチが奴の動きを止めるべく、足に向かって矢を放った。彼の放った弓は、アキレス腱に刺さり、レガヴの動きを封じた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」
焔は、脇差をそのまま奴の心臓部に目掛けて刃を、突き立てた。見ていたコノート戦士は、ボスが倒れたとの事で撤退して行く。シャーウッド陣営は撤退に追い込んだ事を喜んだ。
ノーディンは、焦りを感じたのか、急いで命令する。
「何をしている‼次の手を使え!」
奴の命令を受けた騎士たちは、大きな何かを運んで来た。それは、大型の投石機だ。と、次の瞬間、投石機から投げられたのは火の玉だった。
“ま、まさか!”と焔、
“この森を、焼き払うのか!”とユウは思う。
次々と火の玉が投げられ、高台にいる者たちに被害が出てしまい、転落する。焔は見たくもない光景だったので、目を伏せた。その時、マッチが突如後ろに現れた兵士に囚われてしまった。
「離せ‼離せよぉ‼」
その声に、直ぐに目を開いた焔は助けに行こうとした。しかし、突如に手や足が震え出してしまう。それでも、焔は立ち上がって行こうとするが、震えのせいで膝をついてしまう。マッチは、彼女が震えている事は見えていたが、巻き込みたくない思いで抵抗する。
しかし、兵士は暴れる彼を腹に強烈な一撃を加えて連れ去って行く。
「マッチ‼助けに行くから‼ジョンとエマと‼絶対に‼だから、死ぬなぁぁぁぁぁっ‼」
“焔、姉さん…”
マッチは強烈な一撃で気絶する間際、焔の泣きながら助けに行くと言う声が脳裏に焼き付いた。泣いていた焔は、駆けつけたウィルに姫様抱っこをされて、森の奥へと連れて行かれた。ロビンとジョンは、高台で森の奥へと避難して行くが、途中で道が切断され、残されたロープ一本で渡るしかなかった。
「ジョン、お前が先に行け‼」
「し、しかし‼」
「良いから‼行け‼」
ロビンに強く言われ、ジョンはロープで隣の高台へと避難した。ジョンは、ロープをロビンに渡すが、火がすぐそこまで来ており、ロープの一部に引火してしまった。それに気付かずに、ロビンは飛んで行ったことで、ロープが切れてしまい、彼は落ちて行く。
「ジョン!俺が戻るまで、森の奥へ逃げろ‼絶対に、死ぬなぁぁぁぁっ‼」
ロビンはそう言って、地面の瓦礫へと埋もれた。同時に、彼が身に着けていた父親の形見のペンダントが落ちてしまった。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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焔:この日は、一番落ち込んだ。ロビンは行方不明だし、マッチや数人の人は誘拐されて、数人の仲間たちが死んでしまった。
アーサー:キュゥ…。
タック:だけど、お嬢さんたちはよくやったさ。
焔:タックさん!
タック:後悔もあるのは当然だ。だけど、戦ってくれる人がいたから、生きている人がいる。大丈夫だ。
焔:あ、ありがとうございます。じ、次回。『第11節 再起 ―騎士の誓い―』‼怖かったけど、メソメソシテ居られないぞ、私‼
アーサー:キュー‼




