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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第9節 幸福 ―生まれて来る事への奇跡―

 奇跡的に助かった焔は、アーサーと共に炎の間へと向かう。

 『其は、恵みと幸福…治癒と不老不死をもたらす聖なる鞘。目覚めよ、我に力を。解き放て、王の聖なる鞘(イモールタリティ・シーフ・アヴァロン)…』


 焔の脳内に響く呪文…。それが発動すると同時に、彼女の体は治癒される。手先の壊死は、完全治癒されて元に戻った。


「んっ…。」


 焔は、目を開けてゆっくりと起きる。


「い、今のは…。鞘…そうか!私の中にあるあの鞘、騎士王の…。でも、この世界にはブリテンは無い。どういう事?」


「キュウ~!」


 アーサーは、彼女が起きた事に嬉しい余り、彼女の胸元へ飛びついた。焔はしっかりと受け止めて、心配させたことを謝罪して、優しく撫でた。


「さぁ、炎の間へ行こう。手にしないといけない物もあるし。」


「キュ!」


 焔は立ち上がって、炎の間に通じる扉を開いて奥へと進む。そこには、大きな燭台と奥には外に出られるようになっていて女神の石像があった。燭台には、大きな緑の炎があった。焔は、どうすればいいのか悩んでいると、聲が聞こえた。


 『聖なる炎を求めし者よ。その身体で、炎に耐えよ。さすれば、汝の瞳に炎を宿す』


 焔は、聲に従って覚悟を決めて立つと―


 バシュンッ‼


 揺らめく炎から一塊の炎が現れて、彼女の体の中へ吸収された。焔とアーサーは思わず目を瞑ったが、ゆっくりと目を開けると一瞬だけ光った。


 “あれ?って、そうだ!女神像の所に!”


 焔は急いで向かい、アーサーは小さな翼を羽ばたかせて付いて行く。女神像の台座周囲には水が広がっており、焔が石畳みを歩いて来るも水に浸されていた。

 彼女は水面を見ると、自分の瞳に緑の炎が揺らめいていた。すると、再び聲が―


 『聖なる炎を宿した者よ。これより、汝に神器を渡す。それは、このアルスターの戦士に相応しい物。()()に囚われず、意思を持ったまま戦士の思うがままに戦えるだろう。汝の宿す炎を渡した後、戦士は呪いから解放される。』


 と聞こえ、女神像の手元から光が現れて焔の手元へとゆっくり移動した。彼女は、光をそっと手にすると、掌には翆玉(エメラルド)のイヤリングがあった。同時に瞳にあった緑の炎は、静かに消えた。

 急いでこの事を報告するべく、焔はポーチにしまって神殿の入り口へと戻って里に帰還した。


「おぉ!戻ったか、無事で何よりだ。心配していたが、お前は戻ると思ったぜ。」


「ロビン!…あ、ありがと。ただいま。」


 ロビンに言われて恥ずかしくなり、焔は顔を俯かせる。


「ご無事で何よりです‼私たちは、ロビン様と共にお待ちしていました。」


「フォレくん!うん。無事にね。でも、そろそろシャーウッドに戻らないと皆に心配をかけてしまう。」


 これ以上の時間を空ければ、シャーウッドにいる皆を心配しかねないと焔は言った。フォレは、それもそうだと言い、二人をシルフの元へ案内した。


「シルフ様‼焔さんのご帰還でございます。それと、ロビン様も森を出るそうです。」


「ふむ。分かった。シャーウッドの事もあるからな。……さて、焔よ。よくやった。お前は、この先も新たな試練が待ち受けるだろう。その時は、初心を忘れず。武運祈っておる。ロビンもな。」


「あ、ありがとうございます‼」

「ありがとさん!」


 焔とロビンは、シルフに礼を言った。すると、フォレが笛を持って二人の前に現れた。何と、彼らを見送ると同時に音楽を送ってくれるそうだ。


「お二人の為に詩を届けます。焔様にとっては、重要な(うた)…メロディーとなります。」


「詩?」


「フォレの言う通りだ。焔。お前は、フォレの演奏する音楽と妾の詩を覚えておくと言い。蒼き炎と赤き炎が納められている大地にも詩がある。それを、全て重ねる事で一つの詩へと収束し、力が生まれるだろう。安心なさい、汝の心に宿る炎にも詩が刻まれる。」


 とシルフは言う。


 “凄いな、この世界…”と焔、

 “そうですね。と言っても、焔がこの世界に来たことも凄いと思います”とレイ、

 “確かに‼でも、万が一の時には安心だよ”とユウ、

 “まぁ、俺は暗記面倒だから、楽だけどな…”とホムラ、

 “何を言う。(オレ)たちは覚えるつもりだぞ”とエルは思う。


 焔はそれでも覚えようと、目を輝かせる。シルフは、彼女の様子に微笑む。フォレは、拍子を合わせて前奏を始めた。そして、シルフは音楽に合わせて歌い出す。

 それは、とても美しく、清らかになる心地良さだった。音楽は、森のざわめき、川のせせらぎ、穏やかな風と鳥の声を表わす詩だった。

 シルフの詩とフォレの演奏が終わり、焔とロビンは盛大な拍手をする。


「ブ、ブラボー‼」


 (ユウ)はそう言った。ロビンも綺麗な詩だったと感想を述べた。シルフとフォレは、二人の拍手に礼を言う。二人は、シルフとフォレに感謝を述べてから森を後にしようとすると、レーシーたちが彼らを持ち上げる。すると、霧に包まれて、目を開けると森の外にいた。


「森の外?」


「あぁ。言い忘れてたが、レーシーは迷い人をこうして外へ見送ってくれるんだ。」


 ロビンは申し訳なさそうに言う。


「そ、そうだったんだ…。吃驚した…。」


 焔はそう言い、彼に言い忘れた事については直ぐに許して、メドレーを頭の中で繰り返す。ロビンは、菱に覚え得ようとしている彼女をエスコートしつつ、拠点へと戻る。ジョンが駆けつけて来た。


「ロビン、焔‼手伝ってくれ!」


「どうした?ジョン。」


 ロビンがジョンに尋ねると、エマが陣痛でブランドの看護テントにいると言う。どうやら、八人目が生まれるようだ。


「だけど、手伝いが足りないんだ。」


「分かりました。出来る事を、させて頂きます。」


 (レイ)はそう言った。ロビンも手伝う事になり、急いでブランドのテントへと駆けつけた。エマは布団に横たわって、陣痛に耐えていた。焔はブランドの頼みで、赤ん坊を受け止める重要な役目を任された。ロビンは、焔に赤ん坊を包む布を持って来た。


「はい‼」


 “あ、赤ちゃんを抱っこぉ?!だ、大丈夫かな?”と焔、

 “落とさない様にするのも大事だが、首は絶対に支えろ”とエフ、

 “焦らずにやれば、できるよ!焔とレイなら”とユウ、

 “焔。一緒に、頑張りましょ”とレイ、

 “う、うん”と焔は思う。


 エマは、呼吸を整えてジョンの手を握って陣痛に耐え続け、声を上げる。ブランドは、医師としてエマを支える。そして―


「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼」


 と産声が上がった。焔は、布でしっかりと赤ん坊を優しく包んで首を支える様に抱っこをした。ブランドは、臍の緒を切って赤ん坊の様子を確認する。産声を上げてることから、無事に出産でき、性別は男の子だった。

 ブランドは、焔に赤ん坊をエマの元へ連れて行くように言う。彼女は、エマに言う。


「おめでとうございます!元気な男の子です。」


「ありがとう、焔ちゃん。…まぁ、元気な子。」


 エマは、布に包まれた息子を抱きしめた。


「おめでとう。ジョン、エマ。」


 ロビンは、出産祝いの言葉をジョンとエマに送る。ジョンは、テント前で見守ってくれていた皆に言う。


「男の子だぁぁぁぁ‼」


 彼の言葉に、皆は歓喜に包まれた。皆は、祝いに音楽、詩、踊りをジョンとエマに送った。夕食は宴になり、その日一番の盛り上がりを見せていた。


「焔ちゃん、ありがとうね。」


「いいえ。私は、エマさんの様な強いお母さんが羨ましいです。私は、そうなれるかよく心配されるんです…。私の母親は、情けない所があるので。」


「大丈夫。焔ちゃんは、貴方なりの強さを持って立派な母親になれるわよ。今は、まだ、分からないかもしれないと思う。でも、いざ母親と言う立場になれば分かってくる。それに、私は、この世界に生まれて来た事への幸せを実感したわ。」


「生まれた事の、幸せ…。」


「えぇ。命が生まれるのは、奇跡と同じよ。ただ、それが身近にあるもの。そして、子どもは立派な大人になって、愛する人と一緒に幸せになる。そう思うと、凄い事だって思い知らされるわ。」


 エマは、笑顔でそう語った。すると、そこへマッチが駆けつける。彼は、八人兄弟の長男だ。


「焔、姉さん。母さんを支えてくれて、あ、ありがと…。」


「こちらこそ、ありがとう。マッチは、お兄さんとして、頑張って。でも、無理はしないようにね。」


 焔はそう言うと、マッチは照れながらも返事をした。不器用な所はあるも、毎日、兄弟や家族、仲間の為に頑張っているマッチは、いつも無理して倒れるか不安だった。

 長男としての責任もあるけれど、子供である故にまだ知らない世界もあって、それが危険でもある。また、焔はある日の事を思い出す。


 ―――――――――――――


 焔は、持ちに落ちていた枝を大量にに集めた背負い籠(しょいかご)を背負う。


「ふぅ…。よし、そろそろ戻ろっか。」


 焔は頃合いと見て、集合場所へ戻ると多く枝を集めた背負い籠を持ったマッチがいた。マッチは彼女を見て言う。


「焔、姉さん。随分、集めたな。」


「そ、そうかな?」


 焔は、身体強化で何とかしてしまっている事を微妙な柄に後悔する。男だからと言って、十歳で育ち盛りの彼ばかりに負担はかけられない。

 拠点へ向かって歩いていると、マッチは焔に尋ねる。


「なぁ、どうして姉さんは身長が大きいんだ?」


「え?どうしたの、マッチ君いきなり…。」


「べ、別に‼大きくなりたいだけだ!」


 マッチは照れつつも、正直に言う。焔は、考え込んで少ししてから言う。


「ん~。特にって訳じゃないけど、好き嫌いを減らす事かな?」


「ゲッ?!」


「マッチ君が毎日飲んでいる牛乳を飲む事は悪くないよ。でも、野菜や魚を嫌ってたら、大きくはなれない。」


「ゲッ!」


 マッチは、好き嫌いな物を食べなくては大きくなれないと知って、青ざめた顔をしていた。彼は、野菜と魚を嫌っており、あまり食べようとしていなかったのだ。焔も言える事ではないが、エマが他の兄妹の世話している時に、注意した事もある。

 焔は注意しても食べようとしないマッチに困惑し、最終的にはエマに相談して解決方法を探って試行錯誤をしていた。

 そんなある日、森にいるイノシシを狩った時に、肉を購入して野菜に巻き付ける肉巻きを作って、塩の味付けで焼いて試食させてみた。


「ど、どうかな?」


「美味い‼ど、どうしてこんなに旨いんだ?!野菜が、不味くねぇ‼」


「よかった!」


 エマに報告をすると、彼女は焔が作った野菜の肉巻きを知った。


「その方法があったのね。ありがとう。」


 エマは笑顔で、焔の頭を優しく撫でた。その肉巻き料理は、他の兄妹たちにも好評だった。彼らは、肉巻きを食べて、嬉しそうに―


「美味しいよ‼」

「おいしー!」


 と言っていた。焔は、子供たちの喜ぶ顔を見て―


 “自分のこんな頃があったな。何で、大人になって行くうちに、その事を忘れかけるんだろ…”


 と思っていた。


 ―――――――――――――

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 焔:炎を宿せてよかったよ、アーサー。


 アーサー:キュウ‼


 焔:こ、こらっ!いきなり飛びつくなって、アハハ。本当に、可愛くて不思議な奴だ。

   と、ここで『イリュド豆知識!』。ジョンさんとエマさんは、現在八人のお子さんを持つ大家族の夫婦です。ジョンさんは、エマさんの堂々としている所が好きになり、エマさんはジョンさんの人思いに惹かれたそうですよ!


 ジョン:お、おい。ここで、その話はしないでくれよ…。


 焔:え?良いじゃないですか。夫婦円満ですし、マッチたちも幸せですし…。


 エマ:ふふ。良いわよ。それに、焔ちゃんも仲間でもあるし、家族の一員でもあるよ。何か相談したいなら、言いなよ?アーサーくんも、ね。


 焔:はい‼


 アーサー:キュウ!


 ジョン:次回!『第10節 背水の陣』‼な、何が起こるんだ?!


 エマ:何が起こっても、私たちは揺らがないわよ‼


 ジョン:おう‼


 焔:(このお二方は、いい夫婦や…)

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