第8節 森の神殿 ―鎮まれ、炎の門番―
神殿の奥へと進んで行く焔とアーサー。彼らを待ち受けていたのは―
階段を降りると、広い空間が開けていた。正面に超巨大な柱があり、その周囲に水が満たされている。焔がいる場所から、柱の方に扉が見えた。
“あの扉かな?”と焔、
“行ってみましょう”とレイは思う。
焔は歩き出して、水の前まで来る。よく見ると、扉に向かって蓮の巨大な葉が三つ並んでいた。彼女は、蓮の葉の上に乗れるのか試したかったが、戸惑う。
“し、沈むよね…コレ…”と焔、
“知らねぇよ。俺に聞いても”とホムラ、
“ホムラ、酷い事を考えない!”とユウ、
“これ以上時間をかける訳には行かないだろ。行くぞ、焔”とエフ、
“わ、分かったよぉぉ‼落ちても知りません‼”と焔は思う。
焔は、ジャンプして一つ目の葉の上に乗っかる。彼女は沈むと思ったが、見事に葉は浮いたままだ。奇跡と思いたいが、時間も無い。彼女は、二つ目、三つ目と慎重に進んで行き、無事に扉の前に着く事が出来た。
「危なかったぁ…。」
「キュ!」
アーサーも同じ意見を言う。焔は、そっと扉を開けると螺旋階段が続いていた。すると、蝙蝠の魔物がこちらへと来た。
「うぅ、うわぁぁぁぁぁっ‼」
「キュウ!フォォォォォォッ‼」
アーサーは、火炎放射で蝙蝠の魔物を焼き払う。焔は、アーサーが火炎放射を止めた後、礼を言う。
「ごめん。はぁ…何ビビっているんだか…。」
「キュウ!」
「あぁ、次に行くぞ。」
焔は、そう言って螺旋階段を昇っていく。しかし、相当の高さで昇って行くうちに息切れが酷くなる。身体強化の魔術を施しているが、いつになったら到着するか分からない状態だった。
“いつになったらぁ、着くのぉぉぉッ‼”と焔、
“あぁ、ダリぃ…”とホムラ、
“そろそろ、限界だよ”とユウ、
“まだまだと言うのに…困りました”とレイ、
“それでも、歩け。ここで死にたいのか?”とエフは思い―
「死んでたまるかぁぁぁッ‼」
と叫んで走って行くと、頭に何かが勢いよくぶつかってしまった。
「痛ってぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛‼」
「キュウ…。」
アーサーは、強打した焔の額を舐めて痛みを抑えようとしている。焔はその場にしゃがみこんで涙を堪えた。
“泣くな‼泣くなぁぁぁぁッ‼メソメソは嫌いだ‼”
焔は自分に言い聞かせて立ち上がると、目の前に鍵穴らしきものがあった。沈黙が訪れる。我に返った彼女はそれを見て、渡された物を思い出す。
「これ、鍵穴?ってことは、コイツを、はめ込めって事?」
焔の言葉に、アーサーはどうだろうと首を傾げる。彼女は、鍵と思われる黄金の物体を回してよく観察すると、鍵には細く線が刻まれている。鍵穴の外にも、線の様なものが刻まれている。
彼女は鍵穴の壁と繋ぐ文様の面を探して、鍵穴に黄金の鍵をはめ込む。
ガシャンッ
鍵穴にはめ込むと、上のドアが開いた。階段は鍵穴の場所よりも上へ続いていたので、歩いて行くと奥へ通じる階段があり、小走りで昇って行き、その先にある扉を開いた。
中に入ると、入って来た扉が魔術によって閉じられる。部屋は薄暗く、黄金の部品が幾つも床に転がっていた。
「ふふっ。まさか、本当に来るとはな。」
「…っ‼誰だ?!」
「グルルルッ‼」
焔はアーサーの威嚇する方向へ振り返ると、そこには紫のローブに金髪に近い髪で垂桂髻をした女の魔女がいた。焔は、脇差を抜いて構える。
「どこから入った?」
「私は、ここで待っていただけさ。君をね。」
女であるはずが、声は落ち着きのある青年のように聞こえる。焔は、気味が悪いと顔を顰める。
「顰めた顔をしては、君の顔が台無しだ。しかし、その様子では分かり合えないか。いずれ、我らを受け入れよう。それまで、生きろ。」
女はそう言って、焔が待てと言う前に姿を消してしまう。すると、部屋が明るくなり、視界が良好になる。そして、目の前にある物が良く分かった。部屋の真ん中に置かれた門番は、下半身の無い黄金の銅像の様なものだった。
しかし、胸部となっている部分に埋め込まれた赤い不気味な物が、心臓の鼓動のように打ち始め、転がっている金属が銅像に集まり、赤黒い液体が金属を通して六本の腕を作り上げ、魔術で大きな刀を六つ構えた。
焔は困惑の余り、冷や汗が酷かった。
“え?!ちょ、ちょっと、待ってよぉぉぉぉ‼あんな気持ち悪いのと、戦うのぉぉぉ‼イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ヤァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ‼死ぬ死ぬゥ、絶対にィィ!”と焔、
“うるせぇっぞ!汚ねぇ叫び声出すなッ、馬鹿‼”とホムラ、
“ったく、ここは俺が出る。焔は表に出るな”とエフは思う。
表に出た焔により、彼女の目付きが変わる。
“確か。炎の門番に魔が差す時、鎖が腕を落とし、魔を消し去るだろうと言う伝承か…どういう事だ?”
焔は黄金像を観察していると、奴は刃を振り降ろしてくる動作をした。彼女は急いで後ろへ避けると、手が地面に埋まった。その様子を見て、焔は黄金像の肘辺りに輪っかの金属を見つけた。彼女は、フォレが言っていた伝承を思い出す。
“鎖、か。おい、ホムラ、お前も半身だけ出ろ。コイツは、鎖魔術が要だ”とエフ。
“な、なんでぇ、俺がぁ。ったく、しゃーねぇな、すぐ終わらせるぞ”とホムラは思う。
片目で違う色になった彼女はアーサーに離れない様に言い、鎖魔術を連想する。見知らぬ人に―
『魔術に必要なのはイメージと体に張り巡らされている魔術回路だ。魔力をどこに集中させるかで影響は変わる』
と言われたのを思い出す。彼女は鎖のイメージを強く念じて、魔力を手に集中させる。
「はぁっ‼」
焔は魔術を発動させると、手元に鎖がある程度に巻き付き、先端には大きい鈎針が付いていた。直ぐに、鎖を使って分散魔術で拡張させて、肘の輪っかに引っ掛ける。
“行くぞ!エフ!”とホムラ、
“あぁ。1、2、3”とエフは思う。
「どりゃぁぁぁぁぁっ‼」
焔は叫んで身体強化を駆けて、肘の鎖を引っ張ると同時に腕をちぎり落とす事が出来た。しかし、まだ三つ残されている。すると、二つの腕で両刃のブーメランを彼女に向けて放たれる。すかさず、彼女は足に身体強化をかけて上へと飛んで免れる。
うまく着地して、準備を整えると残った三つの腕が一斉に攻撃を仕掛けるも、地面に埋まった。
「ザマァねぇなぁ‼」
焔はそう言って、先程と同様に肘に鈎針を引っ掛けて腕を落とすと心臓部が丸見えになった。隙を見せている今がチャンスだ。焔は刀を抜いて、心臓部に向かって走る。
「フォォォォッ‼」
アーサーは火炎放射で援護をして心臓部に攻撃する。焔は、その後に脇差で次々と斬り刻んで行く。すると、十発目の辺りで金属部分がゴトゴトと動き、それに気付いたアーサーは離れる様に言う。
「感謝する、アーサー。」
焔はそう言って構え直すと、突然銅像が六本の手を地面につけた。
“え?”と焔、
“何が起きるんだい?!”とユウ、
“何か嫌な予感がします”とレイは思う。
そして、銅像は心臓部に鉄格子をかけて、地面から足を生やして立ち、六本全ての手に大型の刀を持っていた。
“イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ヤァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ‼二足歩行?!何で、立つの?!ゲームで言う第二形態ってやつゥ?!気持ち悪ッ‼銅像に悪気は無いんだけどさァ!”と焔、
“焔!荒々しい叫びは避けて欲しいと言われたではないですか!”とレイ、
“お、落ち着け!な!”とユウ、
“おいおいおいおいおい!マズイ‼”とホムラ、
“だとしても、放っておけば焔が死ぬ。やるぞ”とエフは思う。
すると、いきなり三つの腕で焔へと斬りかかる。彼女は咄嗟に後ろへ回避して構え直すと、銅像が足を前に出していた。
「コイツ、学びやがったか…。」
焔は直ぐに態勢を整えて、距離を一定に保ちながら足を止めずにいると、またまた足を前に出して刀を振るって来た。彼女は刀でギリギリのところで受け流し、先程の戦闘と同じ様に鎖で腕ごと引きちぎる。しかし、心臓部は上にあり、ジャンプするにも限界があった。周囲を見て、焔はある事を思いつく。
“コイツの大きな刀…行ける。行けるぞ!”とエフ、
“敵の武器を借りて、その坂手を取るってやつだな。上等だ‼”とホムラは思う。
身体強化を全身にかけ、焔は大型の刀を両手で持って距離を取ってタイミングを計らう。すると、丁度良い時に腕が振り降ろされて、地面に埋まる。
「どりゃァァァァァァァっ‼」
焔は、三本の腕を一気に大型の刀で斬り落とした。そして、足に向かって走り―
「お゛ら゛ァ゛ッ‼」
と叫んで足を斬り落として、次に心臓部の鉄格子を破壊した。焔の影響か、彼女は戦闘狂の笑みを零して心臓部に刃を振るう。
「これで、終わらせて、やる‼焔たちを舐めるんじゃねぇぇぇぇぇ‼」
「キュウゥゥゥッ!キュウ!(特別意訳:頑張れ‼焔!)」
焔は、身体強化を最大にかけて大きな一撃を放つ為、刀を投げる。見事に命中した。奇跡としか言えない。初めての戦闘にしては、やりすぎかもしれない。しかし、銅像はガタガタと奇妙に動き、赤黒い液体は爆発した。銅像の金属は、爆発後にゴロゴロと部屋の地面に転がった。
「や、やったァァァァァァァッ‼やったよ、アーサー‼」
「キュウ!キュ、キュウ!」
焔とアーサーは喜んだ。何とか、鎮める事はできた。しかし、焔は刀を地面に置いて、数歩程度歩くと突如膝をついてしまった。よく見ると、指先が壊死して鉄錆色になってしまっている。
「キュウ!」
「はぁ……はぁ……魔力、切れ、か。しばらく、こうして、おかない、と…。」
“あれ、あの鞘があるから、無事だと思ったのに…”
焔は意識が遠のいて、そっと瞼を閉じてしまう。アーサーは、悲しい鳴き声をしている。アーサーは涙を流すと、彼女の唇にちゅっとする。その直後、彼女の体の中にある鞘が目を覚まし、体内で光を放ち、彼女を癒す。
彼女の脳内に、ある呪文が浮かんでくる。
『其は、恵みと幸福…治癒と不老不死をもたらす聖なる鞘。目覚めよ、我に力を。解き放て、王の聖なる鞘…』
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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次回、『第9節 幸福 ―生まれて来る事への奇跡―』。お楽しみに。




