第6節 森での生活
戦は、疑問を残したまま終わった。一方、森では穏やかな営みがあった。
その日の夜。焔とアーサーは、ロビンたちによる歓迎の宴に出席していた。
「どの料理も絶品物だから、満足するまで食べると良いぞ。」
酒を飲むロビンは焔にそう言う。アーサーは器に注がれたミルクを飲む。焔は「あ、ありがとう」と緊張気味に言い、料理を皿に盛って食べる。口の中に、野菜やキノコのうまみと味付けのバターの香ばしさが広がる。
「んん~っ‼」
焔は目を輝かせ―
“こんなに美味しいの、初めて!”と焔、
“美味い‼”とユウは思う。
すると、仲間のウィル・スカーレットが彼女の隣に来た。彼は彼女に、この森はどうだ、と訪ねる。焔は、過ごして行くうちに慣れてきていると話す。ウィルは、良かったと言って話を始める。
「皆がこうして、協力して、一つの小さな街を作り、守る……それが俺たちの役割だ。」
「役割……。」
「あぁ。お前の役割は、俺たちの役割でもある。細かい事になると、違うかもしれないが…。今は、お前が見張りしてくれるおかげで、戦えない人たちを守れてる。」
ウィルはそう言う。焔は、彼がどうしてここにいるのかを尋ねてみた。無理に話さなくても良いと彼女は言ったが、ウィルは答えてくれた。
「実は……俺は、血は繋がっていないが…アイツの、ロビンの弟なんだ。」
焔は、話の通りだと確信した。ウィルは話を続けた。
彼が幼い頃、母はロビンの父親と愛人関係だった。けれど、ロビンはその事を酷く拒絶。母と彼は追い出される形となっていき、母はショックのあまり自殺した。ウィルは彷徨っていた所で、ジョンに拾われ、以後、仲間として過ごしてきた。
最初、この森に来たロビンを認めていなかった。
今は、ロビンはその事について「すまなかった」と謝罪し、弟だと認めてくれて、上手く過ごしていると言う。
「良かった。」
「あぁ。そうだ。明後日、開いている時間があるんだ。少し、弓をやってみるか?」
「…やってみる‼」
焔は、ウィルと稽古を約束して部屋へと戻った。すると、スマホが鳴ったので開くとオリヴィエだった。
「オリヴィエ‼戦は大丈夫だった?」
[みんな無事だよ。戦いは引き分けと言いたい所だけど、微妙なんだ。いつもの割に、怪我人が少ないって救護班の人が言っていた。アストルの偵察によると、コノートは温存している動きを見せていたようだよ。]
「温存……女王メイヴなら企みが一つや二つあると思う。」
[やっぱりね。皆そう思っている。……ん?分かった。……今、フロリに代わるよ。]
オリヴィエはそう言って数秒後、フロリが代わって出た。
[いきなりで悪い。報告する事があるんだ。……クースクリドって言う友達が、俺に言って来たんだ。
今レジスタンス運動をしているロクスリー領を乗っ取ったノーディンと言うヤツにメイヴが協力していると斥候から情報が入った。]
「なっ‼」
“こっちの読み通り…いや、勘が当たったのか…”
焔は驚くが、フロリは彼女に言う。
[いつどうなるか分からないから、気をつけろ。]
「ありがとう。」
再びオリヴィエに変わって、焔は他に何かあるのか尋ねると彼は話を始めた。
[実は、一年程前までルミソワに留学していたコルマクがコノートの方にいてね。ロランと一緒に彼を討ったけど、彼はこんな事を言っていたんだ。
『コンホヴォルは、アイツは!若い女を欲しいがために、フェルグスのご子息方を殺めた。それに、禁忌を、本気でかけやがって、分断され皆謀殺された。
でも、この事をコンホヴォルの前では言わず、お前らの仲間の騎士の娘に言え』
って、意味深な事を言っていたんだけど。あまりにも真剣だったからね。]
「なるほどね…。相手なりに何かを言いたかったって事かもね。片隅に置いておくよ。それと、ノーディンってヤツの事もロビンに言っておく。」
[ありがとう。そろそろ、寝た方がいい時間帯だ。おやすみ。]
「おやすみなさい、オリヴィエ。」
焔は明日に話そうと決めて、就寝に着いた。
翌日。焔は、ロビンの部屋にて彼を含め、ジョン、ウィル、ブランドにロクスリー領の事を話した。
「クースクリドの王子。よくやったな。」
「もしやとは思っていたけど、まさかね…。」
ウィルとブランドはそれぞれそう言う。ロビンとジョンは、コノートと手を組んでいた事を掴んだ焔に礼を言う。焔は、話す。
「それと、私の仲間から、いつ何が起きるか分からないから注意しろと忠告されました。警備を固めた方がいいかもしれません。」
「そうだな。ロビン、どうする?」
ジョンの尋ねに、ロビンは考えて警備の強化をする事になった。デイビッドの報告でも、アルスターでは今の所、何の異常も無いと言う。
翌日。ウィルとの約束で弓の稽古を始める。焔は腕の力がなく、苦戦ばかりだった。そうしているうちに、あっという間に夕方になっていた。食事を済ませ、温かい飲み物で空を見上げていると隣にウィルが座った。
「そう言えば、前に俺の家族のことを話したが、お前は、どうなんだ?」
ウィルにそう聞かれた焔は、予想外の質問に戸惑う。たが、聞かれたからには話すしかなく、異世界の人とは言わずに話した。父親とは上手く行っていない事を聞いたウィルは―
「お前も、大変だな。」
と言うが、焔は首を振る。
「そんな事無いよ。ウィルの方が、辛いよ。……私の知らない所でも、親のいない人だっている。その子達より、恵まれているって思うと、我が儘な自分なんか、ズルいというか自由過ぎるって思う。」
焔はそう言った。ウィルは彼女にこう言った。
「自由過ぎな訳ない。親がいる事は、俺にとってだが、大切なのは当然だが、他にも愛情を知る事ができるし、自分が作られる事もある。
……俺は兄貴がいるから、今の俺がある。だから、俺言うのも何だが、家族や仲間を裏切ったりするなよ。」
その言葉に、焔は家族がいる事に、元の世界の人々に限らず、異世界でも不変であることに、気づいた。
“なんて、馬鹿なんだろ……私”
そして、森に暮らし始めて数日後。ロビンの元に一人の女性が来ていた。彼女はマリアン、ロビンの恋人だ。彼女の護衛に、焔が任命された。緊張しまくりの彼女にマリアンは優しく声をかける。
「そんなに緊張なさらなくても平気よ。」
「で、ですが…。」
「ここで、焔が頑張ってくれているってロビンから聞いたわ。ロビンを助ける仲間ですもの、身分は関係ない。ね?」
「マリアンさんが、そう言うのでしたら。……そうする様に努力する、ね。」
焔はマリアンにそう誓った。彼女の懸命さにマリアンは優しい眼差しをして、彼女の頭を撫でた。焔は頭を撫でられる事に、恥ずかしさを覚えて顔を俯かせた。
しかし、マリアンは長く森にいられない。ノーディンに目をつけられている挙句、何をして来るか分からない。ロビンは、彼女を守る為に彼の執事・ダンカンに頼み込んで見送る事にした。
夕食時に、焔は隣に座っていたマリアンに緊張しつつも尋ねる。
「マリアンは、どうしてロビンが好きなの?」
マリアンは聞かれた時に頬を赤く染めた。焔は、彼女に悪い事を下と慌てるが、マリアンは答えてくれた。
「あの人は、幼馴染みでね。酷い時は、悪戯もされたのよ。ここに戻って着た時、彼の沽券に蹴りをかましたわ。」
“それ、男にとってアカン奴だ…”とホムラ、
“凄いですね、マリアンは”とレイは思う。
「冗談をよく言うけど…。あの人の良い所は、周りへの気遣いと悪を絶対に許さないと言う正義感かな。
私は、お転婆とよく言われて、ロビンとか他の男の子から弄られたけれど……。ある日に、ロビンは、からかった事を謝ってありのままでいいじゃないかって、言ってくれたの。気付いた時には、もう、私が負けてたわ。」
“そんな事が。ロビン、なんて男前なの‼”と焔、
“確かに。男の中の男だ!”とユウは思う。
焔は、物語にも描かれている二人の浪漫を実際に見て、あの二人の様になりたいって誰もが言うよと思った。
そして、マリアンを見送る日となった。ロビンは、彼女を河の畔まで連れて行く。護衛として焔は付いて行く事になった。河に浮かべた船には、ロビンの執事・ダンカンがいる。
焔とアーサーは護衛として付いて来たが、二人の場面を邪魔したくないと思って木の陰に隠れて見守る。
「私、貴方を信じているから。」
「あぁ、俺もだ。でも、君を巻き込みたくないのが本心だ。」
「分かっているわ。けど、助けが必要なら、私もできる事はする。」
「相変わらず、だな。……お前には、いつも負けるよ。」
ロビンはそう言って、マリアンと口づけをする。
“きゃぁぁぁぁぁ‼ロマンチックじゃなぁい‼”と焔、
“お~い、黄色信号が鳴ってるぞぉ…”とホムラ、
“まぁ、浪漫だからな”とエフ、
“エフがそう言うとは、珍しい。でも、そうかもね!”とユウ、
“二人の愛は、強いです”とレイは思う。
ロビンは口づけを終えて、マリアンを船に乗せてダンカンが送ってくれることを祈って見送る。船が見えなくなり、ロビンが振り返った所で焔が出て来た。
「焔?どうして、木の影から…。」
「そ、それは、二人の邪魔をしては、ロマンが無いですよ。」
焔はロビンにそう言った。これは、二人の愛が悪でも断ち切れない物だと、信じて。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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次回、『第7節 迷いの森とレーシーの里』。お楽しみに!




