第5節 アルスター&騎士団vsコノート-Ⅱ
軍同士での戦。勝敗は如何に。
氷の魔術を身に纏ったルノーはフロベージュとアルマスを手に、炎の魔術を身に纏ったフェルグスと鍔競り合いをする。
魔術だけでも勢いは凄いが、バチバチと火花がぶつかり合う刃から飛び散らせる。
数秒程の鍔競り合いをしたところで、二人は距離を取る。ルノーは連れていた兵士に、離れた場所で相手の兵士と戦う様に言い、兵士たちは彼の指示に従って敵を引き寄せて戦いを始める。
「これなら、お前にとって戦いやすいだろう?」
「一騎打ち、か。」
フェルグスは、ルノーの言葉に微笑んで言う。ルノーは再びフロベージュとアルマスを握りしめて―
「この方が、俺に相応しいな。」
と言い、アルマスを振って氷魔術を弧の様にして放つ。フェルグスはそれを愛剣で弾いて防ぎ―
「ふむ!ならば、我が剣・カラドボルグで、確かめるとしようか‼」
と言って、フェルグスはカラドボルグを構えて、再びルノーと刃を交えて交戦を開始した。氷と炎の戦士の戦いは一層の激しさを増した。体格は違えど、両者は怯む事も無く、互いの刃を、力を、ぶつけ合った。
一方、ロランとオリヴィエは連携攻撃をかなめとし、コルマク・コン・ロンガスと交戦していた。交戦する直前、二人は彼とフェルグスがアルスターを離反した理由を知った。
『コンホヴォルは、アイツは!若い女を欲しいがために、フェルグスのご子息方を殺めた。
それに、禁忌を、本気でかけやがって、分断され皆…謀殺された。でも、この事をコンホヴォルの前では言わず、お前らの仲間の、騎士の娘に言え。』
その言葉は二人に、疑問と言うものを持ったが、今はそれ所でないのは当然だった。なんせ、彼は一度……過去にルミソワのとある学園に留学した者であったからだ。焔はその学園の事は知っていはいたが、人混みは嫌だと遠慮していた。
それはさて置き、ロランとオリヴィエは彼と面識があった為に、複雑な気持ちであった。
「コルマク殿…なぜ…。」
「ロラン。気持ちはわかるけど、今は今だ!」
戸惑いの言葉を漏らすロランに対して、オリヴィエは切り替えの言葉を掛ける。
ロランは彼の言葉を聴き入れるしかなく、自身が持つ剣・デュランダルを握りしめて刃を振るい、コルマクの魔法弾を分断する。
オリヴィエはコルマクへ接近して、突き技を高速で行う。彼の鋭い突き技をコルマクは回避するが、腕や頬に一傷や二傷を負う。
「くっ!」
「コルマク!貴様は、わざわざルミソワに来たのはこの時の為なのか?」
オリヴィエの問いに、コルマクは「あぁ、そうだ」と答え―
「何が悪い‼てめぇらの様に、誰にも裏切られる事無く、不幸もなく、それを知らずに笑顔でいる‼生温い人間なんぞ、俺の憎しみを理解できるか‼」
彼の答えに、オリヴィエは「だったら、この戦いで決着をつけるか」と凛とした声で言う。その時、騎士団のメンバーは知っている。彼が怒りを露わにする時が。
「てめぇだけが、憎しみを持っているわけではない‼」
オリヴィエは、コルマクに言う。
幼い頃は、平和な暮らしをしていた。しかし、幼馴染みのロランと騎士になって、ルノーと友情を結び、彼の過去を知り、王妃や王子が暗殺された事も聞き、現場で見た。そして、ここに来る前、騎士道を共に歩む仲間に裏切られ、国王を自分たちの前で暗殺した。
自分も、裏切った事に激しい怒りと憎しみを持っていたが、時は止めてくれない。
「それを、憎しみと言わずして何と言う?てめぇは、自分だけしか考えない、小心者だ!」
ロランは、彼の声をしっかり聴いていた。彼だけに、任せる訳には行かないとオリヴィエと共に前進する。そうだ。ここで、怯んではいけない。国が栄えるも、復興するも、傷はいえないだろう。しかし―
「オリヴィエ殿の仰る通り。貴方は、根っこからの小心者です。」
「チっ!……てめぇら、ここで、惨めに散れ‼」
コルマクは魔術を利用して、自分の周囲に大きな棘を放って二人へ攻撃をする。刺さったかと思いきや、二人の姿は無い。
「…っ!」
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼』
コルマクが二人が消えたと認識した直後、叫び声が届く。彼らは一瞬のうちに、コルマクの上へと飛んでいた。
「チィっ‼小癪なぁっ‼」
コルマクは魔術を放つ。ロランとオリヴィエは風魔術で回避をし、コルマクを狭んで立つ。奴は、炎、水、雷、風、光、闇など様々な魔術を行使する。
二人は走りながら、炎を水で阻み、水を風で避け、雷を炎で打ち消し、光を闇で撃ち祓い、闇を光で防ぎ、岩を水で流し…と息が合うようにコルマクへと間合いを詰める。
「死ねぇぇ‼」
コルマクは強靭の盾魔術を両側へ出現させ、二人はそこへ自身の剣を振るう。彼らの剣は……ロランは炎、オリヴィエは水と風を、刃に纏っていた。
二人は諦めてはいなかった、揺るぎる事の無い意志で刃を振るおうと力を押し込んでいる。
「ぐっ‼…ぐおぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁっ‼」
コルマクは、二つの刃を両側面から受けた。二人は、コルマクの強靭なる盾…壁を打ち破ったのだ。偶然か、否。二人は深き絆で結ばれており、それは誰にも止められず、断ち切る事は出来ない。
“二人で、仲間と共に戦い続ける”
かつて、ロランとオリヴィエが騎士になる前、訓練生の頃に誓った事だ。
倒れたコルマクは息が途絶える間際、血を払って剣を納め、この場を去る彼らを見て―
「俺は、もしや、お前らの様な…。」
と、呟き、瞳は光を失って瞼を閉じた。
同時刻。ルノーは、フェルグスとの一騎打ちを続けていた。引けを取らず、炎と氷の衝突は凄まじく、地面に罅が入る。
「なかなか、良い腕前だな。」
「そちらこそ。流石、お前は、アルスター王と言われるに相応しいな。」
「それは、どうも。」
そう話をしていると、撤退を知らせる角笛が鳴り響いた。フェルグスとルノーは鍔競り合いを止めて、距離を取る。フェルグスは息を整えて、ルノーに言う。
「どうやら、我が軍は撤退の様だな。クーによろしく言ってくれ。次は負けないぞってな。」
「伝えておく。だが、俺は、ここで簡単に引かない。」
「それでこそ、戦う男だ。では、次の戦場でな!ルノー・ド・モントーバン。」
「あぁ。お前こそ、フェルグス・マック・ロイ。」
ルノーはそう言い、フェルグスは馬に跨ってコノートの方へと帰って行った。彼がアルマスとフロベージュを納めると、バヤールが駆けつける。
「ルノー様、ご無事で何よりです。我が軍もコノート軍に乗じて撤退との事です。」
「バヤール。……そうか。行くぞ。」
ルノーはそう言ってバヤールに跨り、アルスター陣営へと走らせた。
戦果は、アルスター陣営の苦戦と思えたが、五分五分だったようだ。しかし、戦力的にコノートが若干上だったのだが―
「意図的に撤退したように思えた、か…。」
と、フロリマールは呟く。
「何か企てがあっるように思えるんだ。コノートの女王は、そう言う事には長けているって、戦士の皆さんから聞いた。」
とアッシュは話す。すると、二人がいる部屋に騎士団メンバーが入って来る。それぞれ戦果を報告し合う。
「そうか。あのコルマクを討ち取ったのか。ご苦労だ。」
アッシュは、ロランとオリヴィエにそう言う。ロランは、丁寧に礼を言う。
「いいえ。ただ……。」
オリヴィエは、コルマクの言葉に疑問を抱いて相談しようとした。しかし、奴の言葉を裏切る訳には行かなかった。自身も怒りで忘れかけていたが、最後の言葉が引っ掛かる。
「何でもありません。すみません。」
「いや、良いさ。……でも、何とも言えない状況だな。コルマクは無念だったが、問題はフェルグスとコノート女王・メイヴだ。ルノーと互角のフェルグス、策略家のメイヴ…。」
アッシュは考えつつ、ジュヌヴィエに怪我人の事を尋ねる。彼女は答える。
「アルスター国の軍一万五千人のうち、怪我人は六〇〇名余り。大きな被害を予測していた救護班の人でさえ、今日は少ない方だ、と仰っておりました。」
「今日は、か。俺は、相手の、メイヴ女王だっけ?その人が策略家なら、この程度で満足する感じじゃないと思う。」
ジュヌヴィエの言葉に、フロリマールは嫌な予感がすると考える。
「空から見ても、コノートは温存しているように思えたよ。何か考えているって!」
と、グリンに跨って空を飛んでいたアストルはそう言う。彼の言う事に嘘は無いと見て、アッシュは結論を出す。
「よし!焔への連絡は、オリヴィエに任せる。それ以外の者たちは、無理はせず、アルスター軍の援護に当たって欲しい。自分たちの休憩も怠らずにな。」
『了解‼』
騎士団は部屋を後にして、それぞれ援護へ回る。フロリマールは、ジュヌヴィエと共に救護班の元へと向かって怪我人へ治癒魔術を施す。すると、そこへ―
「フロリマール、ここに居たのか。」
と、クースクリドが声を掛けて来た。彼は、フロルマールに話があると言った。
フロリマールは、ジュヌヴィエに直ぐに戻ると伝えて、クースクリドと二人きりになった所で話をする。
「で、話って何だ?」
「実は、コノートから斥候が帰って来たんだ。コノートのメイヴの事だが……。
あの女、今レジスタンス運動をしているロクスリー領を乗っ取ったノーディンと言うヤツに協力していると情報が入った。確か、君の仲間で、シャーウッドへ向かった人がいるって聞いて。」
クースクリドの目に嘘と言う言葉は無かった。焔がいるシャーウッドに何か仕掛けるに違いないと言う彼の見解だと言う。
「ありがとう。メイヴって人、本当に策略かなんだな。」
フロリマールは礼を言いつつ、メイヴの策略に感心するが―
「感心するな。あの女、夫がいる癖に何人もの男を侍らせている酩酊の女だ。」
と、クースクリドは注意する。メイヴは、従者として従えている者や肉体関係のみ築いている者もいると言う。フロリマールは、ぞっとする。
「騎士団の皆にも、気をつけろって言って欲しい。すまない、本当は直に言わなきゃいけないんだが…この後に公務があって。」
「それなら、大丈夫。伝えておく。」
フロリマールはそう言い、クースクリドは感謝すると言って公務へ向かった。
“不味いな。焔を安全な所へと思ったが、それが仇となるか…。すまない、焔”
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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次回、『第6節 森での生活』。お楽しみに!




