第4節 アルスター&騎士団VSコノート-Ⅰ
シャーウッドの森へ入った焔。一方で、騎士団はコノート軍との戦いへと踏み出す。
白銀騎士団は、コンホヴォルから現在の状況を説明してもらっていた。
――――――――――――――――――
現在、アルスターとコノートは、一カ月前から戦が続いている。まだ、始まりに過ぎないと思われるが、互いの戦士の奮闘によって激しさが増すばかりである。
ここ…【アルスター陣営】は現国王コンホヴォルをはじめとし、後継者の第二王子『クー・フーリン』、第三王子『クースクリド・メン』を主とする。
対する【コノート陣営】は、現国王『アリル』がいるが、支配上の王は『メイヴ』である。配下に置いているのは『フェルグス・マック・ロイ』、『コルマク・コン・ロンガス』。
ちなみに、フェルグスは元アルスター王であり、コルマクはコノール王の実の息子である。
両者共に互角の戦いを広げているが、最近はややメイヴの軍が推していると言う。
だが、アルスターには【もう一つの問題】があった。南の方にあるロクスリー領を巡って戦いがあると言う。陰謀者は『ジョン・ノーディン』と言い、ロクスリー領を奪って自身の領地を広げて何かを策略させている様だ。
それに対抗する組織が、シャーウッドの森を拠点にしている。その頭首は『ロバート・ロクスリー』と言い、多くの仲間を率いて抵抗運動をしている。
――――――――――――――――――
「―焔殿には、ロクスリー領の奪還を行って欲しいと、クーが伝えているだろう。本来ならば、二手に分けたいのだが、明後日には戦が待ち構えている。……すまないが、力を貸してはくれぬか。フロリ王子。」
コンホヴォルはフロルリに頭を下げて言う。彼は王子と言う自覚は、まだ身に付いていなかったが―
「…勿論、手を貸します。困っている人には手を差し伸べるのが、我が国の騎士の務めですから。」
と答えた。コンホヴォルは「すまない。感謝する」と言ってフロリの手を取って握手をした。そして、焔を「何故、シャーウッドの森へと送ったか」と言う説明をコンホヴォルは行う。
彼曰はく、友であるレオ四世の手紙にそう記されていたと言う。以前に、ロクスリー領の事について相談すると―
『コンホヴォル殿。こちらに、新しく入った騎士がいる。その者は娘だが、国内の問題を解決しようと自分なりに努力していた。
名を、式守焔と言う。私の国の巫女・ジュヌヴィエ殿によれば、その者ならシャーウッドの力になると言っていた。頼りない返事をしてしまい、申し訳ないが、式守君は信頼できる人物だ』
と。ジュヌヴィエは「それは真実です」と答え、自分はアルスターで怪我人の治療をする事が今できる力だと言い―
「私は、ここで怪我をした人たちを少しでも助けたいのです。焔には、申し訳ないのだけれど…。ですが、神託ではメイヴの軍は徐々に力を増しているようです。明後日の戦は、怪我人が増える可能性もあります。」
と話した。アッシュとフロリマールは、苦渋の決断を迫られた。このままでいくか、それでも二手に分けるか…。
「俺は少人数でも二手に分かれるべきと思っていたが、フロリマールはどう思う?」
アッシュの言葉にフロリマールは考えに考えて―
「敵の様子が気になるし、二手に分かれたら、万が一の時…嫌な予感がする。父さんが言ってたんだ。軍には軍をって。だから……心配なのは分かるけど、俺は軍に協力したい。」
「フロリマール様がそう言うのなら、その方針で行こう。」
アッシュはそう言うと、フロリマールは「良いのか?」と問う。彼はアッシュの考えを採用しなくてもいいのかと思うと、アッシュは―
「この騎士団の団長というのもあるが、お前は王子だ。慣れないのも分かるが、王子の方が決定権は強い。……それによく考えると、お前の考えの方が妥当さ。」
と言った。騎士団は、コンホヴォルに協力を申し込み、明後日に備えて準備を整える事にした。
その後、クーが城へ戻り、フロリマールは約束の通り、稽古をしていた。訓練用の武器を手に、二人は訓練を開始する。
「それっ!」
「せやぁっ!」
二人は懸命に動いて汗が流れ、刃が交わるごとに木製の剣と槍の音が鳴り響く。しかし、二人が競り合いを始めた時、木製の武器が真っ二つに破損した。フロリマールは、驚いて何も言えない状況だった。
「また、ぶっ壊しちまった…。くそっ…。すまない、フロリマール。怪我は無かったか?」
「う、うん。クーこそ、平気か?」
「俺は大丈夫だ。……また、訓練の武器を減らしちまう結果になったか…。」
フロリマールは、彼の小言を聞いて「クーって、もしかして、物を壊しやすいのか?」と口を滑らしてしまった。彼は我に返って「……あ、ご、ごめん。」と謝罪をするが、クーは謝らなくて良い、と言って話をする。
「昔から、こうなんだ。壁に穴を開けたり、戦士に昇格する事を認めなかった親父に腹を立てて…武器も破壊しちまった事もある。
だから、おまえのせいじゃねぇ。こんな事も、またあるかもしれないが、次の訓練も付き合ってくれないか?」
「勿論だよ。俺にとっても、いろんな勉強になるから、クーが知っている事、教えて欲しい!」
フロリマールがそう言うと、クーは「おう‼」と言う。彼らは、また稽古をしようと約束し、約束の証としてグータッチをした。
その後、クーと別れたフロリマールはふと思った。
“クー王子。何か、辛い事でもあったのか…”
フロリが部屋に戻ると、アッシュがソファーに座り込んでいた。
「アッシュ?」
「あ、フロリ。戻って来たのか。」
「まぁね。先に、風呂に入る。」
アッシュはそう言い、フロリマールは上着を脱いで汗を流してサッパリする為に風呂へと向かう。
アッシュは彼が風呂部屋へと向かったのを確認してバルコニーへと出る。
「焔。こんな形で、すまない。一人にさせてしまう事に…。」
彼の瞳はどこか遠くを見つめていた。空の遠くを見る様に。
そして、騎士団は戦いの日を迎えた。フロリマールは装備を整え、廊下を歩いて行くと部屋から出て来たジュヌヴィエの姿が映った。彼女も彼がいる事に気付いて向き合う。
「私も、救護部隊として出陣する事になりました。力になれない事もありますが、努力を尽くします。」
「あぁ。で、でも、無理は…するな。」
フロリマールは照れくさそうに言うが、ジュヌヴィエは「はい」と気付かずに返事をした。二人は馬に乗る為、共に馬小屋へと向かった。
コンホヴォルの布陣通りに、騎士団のメンバーは配置について城から隊列として続く。
「貴方が、フロリマール王子…。僕は、クースクリドと言います。お会いできて光栄です。」
「い、いいえ。こちらこそ、よろしくお願いします。」
フロリマールは隣で馬に跨るクースクリドにそう言う。クースクリドは彼が緊張している事に気付いて—
「大丈夫ですか?そんなに畏まる必要はありません。僕と同じ歳ですし。」
と言った。フロリマールは彼の優しい物腰に少し安堵したのか、固まっていた肩から力が抜けて行った。
クースクリドは、それを見て過度の緊張が和らいだことを確認した。
「戦は厳しい状況になるやもしれないけど、その時は共に戦おう。フロリマール王子。」
「え?あ、はい‼…すみません、まだ王子と言う自覚がなくて。」
フロリマールは返事をしつつ謝罪をする。クースクリドは「良いんだよ。僕も、小さい頃は貴方と同じだったからね」と話す。
彼の話に、フロリマールはその佇まいと気品さからは、そうは思えなかった。クースクリドは話を続ける。
「慣れるまでは大変だったさ。
民と同じ様に話す事は出来ないと教えられた時は、反抗して怒った事があるし、難しい学問の本を読解する時、いまいち分からなくて苛立って放り投げた事もあった。
けど、フロリマール王子にはそれに向き合う力があると、思う。」
「……そ、そこまで言われるのは、は、恥ずかしいな。でも、ありがとう。まだ、王子としては半人前で、国を軍師に任せてしまっているが、この戦いで力になろうと思う。」
「ありがとう、クースクリド王子。」
二人は礼を言い合って、共に愛馬で隊列に沿って戦場へと向かった。
そして、戦場が行われる平原に到着し、アルスターと騎士団はそれぞれの配置につく。馬に跨っているコノールは、クーに角笛を鳴らす指示を出す。
クーはその指示を受けて、戦車に乗ったまま角笛を鳴らしてから「突撃だ!」と指示をした。
『おぉぉぉぉぉぉぉ‼』
「てやぁっ!」
フロリマールは手綱を手にしてタシュブランを走らせ、クースクリドと共に出陣する。軍は、右翼と左翼は軍から少し離れて進軍し、中央部は橫隊陣を保ったまま、コノート軍の戦闘とぶつかる。
右翼に布陣するフロリマールはミュルグレを片手に持ち、敵兵を斬り進む。クースクリドも、自前の槍で敵兵を打ち倒す。その時、矢の雨がこちらへ向かっているのをフロリマールは見えた。
“マズイ‼”
「風よ、邪を討ち祓え‼」
フロリマールは短剣の一つを鞘から抜刀して、大きな風の魔術を放ち、矢の雨を防いだ。
クースクリドは「助かった。矢の雨には気づかなかった」と言う。フロリマールは「いいえ。矢の雨は任せて」と言い、周囲の敵をミュルグレで薙ぎ払う。
一方その頃、左翼に布陣するルノーの方では激しい戦いが繰り広げられていた。ルノーが相対しているのは、コノート軍の将軍…フェルグス・マック・ロイであった。
「貴様が、フェルグス・マック・ロイか?」
「ん?…お前はルミソワの者か!珍しいことだ!名を名乗ってみせよ!」
フェルグスは笑ってそう言う。嘲笑っているのではなく、まるで、自分の好敵手を見つけた時の高揚感とでも言うべきだろう。ルノーはフェルグスの要望に答え、名を名乗る。
「ルノー・ド・モントーバン、か。……いかにも、良い勝負ができそうな相手だ。」
「……良いだろう。そちらは、炎の攻撃と伺った。ならば、俺は、氷の力で。」
ルノーは冷静にそう言って、アルマスとフロベージュの両方を手にして、フェルグスと同じタイミングで直進し、ぶつかり合った。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
次回、『第5節 アルスター&騎士団vsコノート➁』。お楽しみに!




