第2節 首都・クランへ
アルスター王国の首都・クランへ向かっている騎士団。もう少しという所で?
旅立ってから九日後。ついに、クランへもう少しと言うところまでやって来た。焔はいつも通りに荷馬車の上で、アストルはグリンに乗って上空を飛んでいた。
そして、新たな相棒にして赤竜のアーサーは焔の肩でスヤスヤ寝ていると、突然、遠くで爆発音が聞こえた。アーサーは飛び起きる。
すると、スマホに連絡が入る。画面を見ると、アストルからだった。実は、魔術による遠隔会話器「伝言の瞳」の機能をスマホに写し取った。
以前、自分の身体に相手の技を写し取るという模倣魔術をアストルから教わったので、それを応用したのだ。
「アストル?」
[今の爆発、ちょうど丘が三つある所で軍同士がぶつかっているんだ。それに、丘の頂上がさっきの爆発で丸焦げだよ。ここから少し近いよ!万が一の事を考えて避難するのがお勧めだよ!]
「よし!皆、聞いていたな?ロラン、飛ばせ‼」
「了解です‼」
アッシュの指示に、ロランは返事をしてタサドルとタシュブランを走らせる。焔は手すりにつかまり、アーサーは焔の肩に捕まる。
アストルは、荷馬車の後を追う様にグリンと共に降下して空を駆ける。道の両脇に生える林を抜けて行くと、左の方には、アストルの言う通りで丘が三つあって頂上は見事に破壊されていた。焔はそれを見て思い出す。
“アレって、確か…三つの丘の頂を焼き払って壊したのって、フェルグス?”と焔、
“そうだ。だが、フェルグス本人がそうしたかは分からない”とエル、
“後に、国王様にお聞きしましょう”とレイ、
“そうだね”と焔は思う。
彼女は、こちらへ被害が出ないか見張っていた。無事に戦場から離れた騎士団は、目的地である首都・クランへ訪れた。関所で用件を離すと、伝令兵の案内によって城へと案内された。
焔は伝令兵の元へ寄り、この国についての情報を聞く。
「すみません。あの、これから城へ向かうんですよね?その前に、だいたいで良いのでこの国の状況をお話しできませんか?」
「あぁ、良いとも。数年程前、王妃が亡くなられたのですが、それを機にフェルグス様とコルマク様はコノートへ寝返りました。
他にも数名いるのですが、どうやらコノートの女王メイヴに手を貸したそうです。それから、メイヴはアルスター王・コンホヴォル様へ宣戦布告。戦へと発展しました。」
「そうでしたか。」
「国民の安全はとれている所ですが、いざと言う時はシャーウッドの森へ逃げ込むようにと言われています。
……さぁ、見えてきました。あれが、アルスター国王・コンホヴォル様と王族が住まう赤枝王城です。」
伝令兵はそう言う。焔は、伝令兵の話を聞いて考える。
「シャーウッドの森」
「コンホヴォル王」
「女王メイヴ」
「三つ丘の頂の爆発」
主力と考えられるのは、四人の英雄だ。確かめてみようと思いながら、騎士団は赤枝王城へと辿り着いた。門を通り、二階へ上がり王の間へと着いた。
しかし、王が不在である。伝令兵は「しばしお待ちください」と騎士団に言い、王の間を後にした。すると―
「お前さんたちが、王が言っていた騎士団か?」
と黒髪に毛先が炎のように赤く、真紅の瞳を持つ青年が現れた。フロリマールは誰なのかを尋ねると、アッシュは面会していたのか――
「セタンタ王――…いや、クー・フーリン。久しぶりだな。」
という。フロリマールは首を傾げると、アッシュは説明する。
「アルスター王国第二王子にして、この首都の番犬……クランの猛犬って言われている勇敢な戦士だ。」
「説明、ありがとさん。アッシュ。……騎士団が来るって、父さんが言っていたが。生憎、俺はさっき帰って来たんだが、王はもう少ししたら来るさ。わざわざ、来させちまって悪いな。」
セタンタ、いや、クー・フーリンはそう言った。フロリマールは「いいえ!こちらこそ、お会いできて光栄です」という。
焔は、青年の名を聞いて驚きのあまり、彼に背を向けてしまう…と言いうよりも、彼女はオタクの血が騒いでいた。
“え⁈マジ!嘘⁈クー・フーリンって、あの有名な光の御子でしょ?それに、中々の美男子‼顔面で乙女を殺しにかかっているし、兄貴っぽいし……。あぁ、何もかもヤバい…‼”と焔、
“まぁた、オタクスイッチが入ったぜ”とホムラ、
“私が出ましょう”とレイ、
“頼んだぞ”とエルは思う。
彼女は、焔の興奮を奥にしまい込んで、焔は開き直って前を向く。クー・フーリンは彼女を見つけて近くへ行く。
「お前さんが、ルミソワ王が言っていた式守……焔か?」
「はい。そうです。」
彼女がそう返事をすると、クー・フーリンは顔を近づけてじっと見つめる。焔はあまりに近さに、目を閉じる。すると、アッシュが彼女と彼の間に割って入る。
「ちょっと!主に近すぎるよ!」
アッシュがそう言うと、さらに、アーサーはクー・フーリンの頭に目掛けて体当たりをした。
「いてぇ‼」
「あぁ‼ご、ごめんなさい‼……アーサー、駄目だとあれ程言ったではありませんか!」
焔は慌てて謝罪をして、アーサーを注意すると「キュゥ‼キュ、キュっ‼」と反省の色が見えていない、という状態であった。
「はぁ…。ごめんなさい、悪気があった訳では無いので。あとで、いっておきます。」
焔はそう言う。また、アッシュにも「いきなりは吃驚する」と言った。
「わ、悪い。で、でも、俺の主だし、守らないとって思っただけ…。」
アッシュの言葉に、落ち着いて表に出て来た焔は、主として仕える立場としての行動だし、仕方のない事かと思った。
「まぁ、仕方ないか。……大丈夫ですか?怪我は?」
「これ位、平気さ。俺も、いきなりで悪かった。」
クー・フーリンがそう言うと、「クーよ。お客の相手、ご苦労」と別の声がした。アッシュは直ぐに気付いて跪いき、焔たちもアッシュに倣う。彼は王に言う。
「コンホヴォル様。……ご無事である事、真に嬉しい事です。戦に出ておられると、クー王子から仰せられていましたので。」
「面目ない。待たせてしまって申し訳ない。……顔を上げよ。……其方が、フロリマール王子か。父は元気にしているか?」
その問いに、フロリマールは事実を述べ、挨拶をした。コンホヴァルは残念だと言い、続ける。
「レオ国王のご冥福を祈る。……さて、白銀騎士団が来る事は友であるレオ国王から聞いておる。新たな仲間もいるそうじゃな。」
「はい。私もその内の一人ですが、巫女のジュヌヴィエ様と新しく入団した式守焔殿、赤竜のアーサーと鷹馬族のグリンを加え、計八名で旅をする事になりました。」
フロリマールは王子としてそう言う。コンホヴァルは「よく頑張った」と誉めて言う。
「ふむ。ここまでの旅、ご苦労であった。さて、正午になる頃だが、良かったら共に食事をして行きませぬか?宿も、しばらくはこの王城に泊まる事を許そう。」
なんだか、申し訳ない。
騎士団はコンホヴァルの言葉に甘えて、王城に暫く泊めてもらう事になり、焔はジュヌヴィエと同じ部屋に泊まる事になった。荷物を部屋に置いた後、食堂へと向かい昼食を摂る事になった。
クーの右隣に焔が座り、アッシュは彼女の右に座る。食卓に出て来たのはバームブラック、アイリッシュシチュー、コルカノン、レモネードである。焔は食事が始まったと同時に―
「いただきまーす!」
と言い、まずはレモネードを口にする。レモンの甘酸っぱさに、彼女は嬉しそうな表情をする。クーは彼女に話を掛ける。
「焔と言ったか。今、いただきますって言ってたが、何か意味があるのか?」
「えっと、その。いただきますとは、料理を作ってくれた方とその材料を作ってくれた方や肉を提供してくれている動物に感謝を込めるんです。」
「なるほどなぁ。……言うの遅くなったが、敬語は止してくれ。どうも、苦手でなぁ。悪いんだが、お前さんの仲間にも言っておいてくれ。」
「え⁈あ、う、うん。よ、よろしく?」
「おう。よろしく頼むぜ。」
クーはそう言った。焔は、英雄と馴れ馴れしく会話が出来るかと複雑な気持ちもあったが、彼自身の要望に応える事にした。
食後、クーはフロリマールと話をしていた。彼はフロリの話を聞いて、お前さん、大変だったんだなという。
「でも、焔やアッシュ……ジュヌヴィエや騎士団の皆がいてくれたおかげで、今の自分がある。まだ、精神は完全に戻れてはいないど、メソメソしてはいられない。」
「それこそ、男ってもんだ。それと、心を許した相手にだけは泣いても構わないんだからな。……まぁ、俺が言う事じゃねぇんだが。」
「そう言えば、アッシュから聞いたけど、クーってモテ男だって。」
フロリマールの言う通り、彼は容姿が良いので女性が寄って来る。しかし、彼は「そんな事ねぇよ」と言って続ける。
「確かに女が寄って来るが……他の男より、女に恵まれてねぇよ。前に好きな女に『好きだ』って伝えても、断られたしな。」
「えぇ⁈」
フロリマールは驚く。実はクーは、女性に恵まれていないと言っても良い。彼曰はく、強引に引き留めてしまって余計フラれる原因を作ったという自業自得の行為をしている。彼は、フロリマールに言う。
「もし、好きな奴がいるんなら、俺を参考にしない方が良いぞ?……さて、悪いが、後で稽古相手してくれねぇか?少し出かけて来るが、お前の戦術、見てみたいぜ。」
「戦いは、見事だってアッシュが言っていたし…。では、是非!」
フロリマールはクーの言った言葉に少々焦るが、稽古を共に行う事を約束した。クーは約束して、フロリマールから離れて行った。
丁度、同時刻。焔たちは、コンホヴォルの王室にて話を受けていた。
現在、コノートとの戦線は続いており、中には反逆者であるフェルグスと数名。
また、南東にあるロクスリー領ではジョン・ノーディンによる横暴が行われていて、首領者である青年を中心に精霊の森「シャーウッドの森」にてレジスタンスをしている。彼らとは情報を提供し合う間柄であると、話す。
コノート王国を統治するのは「女王メイヴ」。戦争の原因は、この国を支配する為で、さらに第二王子のクーを狙っている、との事だ。
“やっぱり、メイヴ女王が敵になるか。となると、最悪の結末となるのか?”と焔、
“心配だ。クー・フーリンの伝説は尚更”とユウは思う。
すると、コンホヴォルに名を呼ばれて焔は返事をする。
「君の事は、レオ国王から聞いた。そこで、君にはシャーウッドの森に行く許可を出そう。クー、後は頼んだぞ。説明はこちらに任せてくれ。」
「あいよ。早速、行くか。案内は俺に任せろ。」
「うん。ありがとう。」
焔だけ森へ行くのに心配な騎士団だが、コンホヴォルは安全は保障できると話してくれた。彼女はクーの戦車に乗ってシャーウッドの森へと向かった。
同時刻。とある城の自室にいる男は、現れた魔術師の報告を受け取る。
「ふ~ん。ついにここへ来てしまったのね。でも、戦場に出ないだなんて。可哀想だけど、仕方ないわね。」
魔術師の報告を受けて、男の部屋にいた十九歳くらいの少女はそう言いつつ、中身はこれっぽっちも「可哀想」とは思っていないのが伝わって来る。
「当分、監視はこちらにお任せください。必ずや、居場所を見つけ出し、打ち砕きます。」
「良いわ。魔術師の勇士、ここは彼に任せましょう。貴方には別の用があるのでしょ?行きなさい。」
少女がそう言うと、「御意」とローブに身を包んだ魔術師が返事をする。
「良い働き、見せてね?」
少女はそう言って、部屋を後にした。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
次回、『第3節 シャーウッドの森へ ―義賊たちの出会い―』。お楽しみに!




