第1節 願いと旅と出会い
アルスター王国へと向かう為に、騎士団は首都のクランへと向かう。その道中、小さな出会いが…。
その後。グリンを新たな相棒として迎え入れたアストルは早速、鞍を装備させて試しにと空を飛んでいる。焔とジュヌヴィエは荷馬車の上にて、それを眺めて微笑む。彼らしい、と思った。
「アルスター国領へ入るよ。」
オリヴィエが全員にそう伝えると、道の端にライトシルとアルスターの首都の方向と国境をを示す看板があった。
焔とジュヌヴィエはそれを見て、目的の国の領内に入ったと確認した。あとは、首都・クランへと進むのみである。
その日の夜。焔たちは野宿をする事を決定した。夕食は、焔とフロリが担当する事になっていた。二人は腹持ちの良い料理を作り、見事な腕前を見せた。
アッシュ、ジュヌヴィエ、ロラン、オリヴィエ、アストル、ルノー、グリンも…皆、喜んで食べてくれた。フロリマールは、ジュヌヴィエに手作りデザートを照れつつもあげていた。
片付けを終え、焔は荷馬車の外……星空の元で緑茶をゆっくり飲みながら、空を見上げていた。すると―
「風邪、引くぞ?主。」
そう言って、彼女に優しく温かい布を掛けてくれたのはアッシュだった。焔はありがとうと言い、彼は隣に座る。彼は、彼女に二日目の野宿はどうだ、と聞く。
「ちょっと、不安はあるけど……悪くねぇと思うぞ。」
焔は不器用ながらもそう答える。アッシュは彼女の答えに微笑むと、こんな質問をしてきた。
「なぁ、焔は……叶えたい願いとか、未練と言うか、一時だけでもいいから叶えたい事ってあるか?」
叶えたい願い、未練、一時でもいいから叶えたい事……焔にはそれが沢山あって答えようがないが、一つだけ未練と言うよりも後悔をした事を話した。
「いっぱいあるけど……強いて言うなら、一つある。」
「何だ?」
「私は、小学――……九歳の時に引っ越しをしたんだ。そのあとも学校を二回転校した。
でも、虐めが酷くて、怯えてばかりだった。気付けば、十六になってて……なんて、私は、弱かったんだろうって思った。
もし、逃げなかったら、今以上に強かったかなって。」
「そんな事が…。」
アッシュは思い返し―
「そう言えば、彼女事、詳しく聞いていない…」
と気付き、申し訳なく思う。
焔は「あの時、逃げ出さず、全ての事に怯えず、前を向いて進んで行けたら、違ったのかなって」と呟いた。
「……。」
焔の後悔話に、アッシュは寂しい表情を見せる。彼女は直ぐに改まって―
「ごめん。長く話しちゃったね。……今更、後悔しても進まないし。切り替え、切り替え!……さて、そろそろ戻ろっと!」
と微笑んで言った。アッシュは、彼女の前向きな姿勢に合わせて言う。
「そうだな。早朝に出発するから、早めに寝ろよ?」
「はーい!」
焔はそう返事をして、アッシュと共に荷馬車へと戻って行った。外で、グリンは監視をしつつ睡眠を取っている。また、オリヴィエによる結界魔術で魔獣の襲撃を受けずに済むようにしてくれているので、一応は安心できる。
焔はふと思った。アッシュが何よりも寂しく感じた。
話を別にするが、思い返すと、あの事件もそうだ。奴に対する発言を、真っ向から怒りを示してその言葉を否定するような、完全否定しているように思えた。
“何故だろう。彼は何故、誰よりも秘めた怒りを示し、ガノの発言を誰よりも拒んでいたのだろうか”
と、焔たち人格は思っていた。
『二人は仲が悪い……犬猿の仲だ』
と言う噂がある、と兵士たちが教えくれた。何か、深い訳でもあるのだろうか?
それから、数日が経った。魔獣の出現は無かったが、郊外の街の人々の情報に不穏を感じた。
『同じ民族であるアルスターとコノートが戦争を始めた。宣戦布告をしたコノートの女王は強大な力を手に入れ、美しく男らしい我が国の第二王子をも手中に納めようとしている。』
と聞いた時には、焔は半分確信に至った。
“直接、見て確かめないといけないけど、多分、あの伝説だよね?”と焔、
“そうでしょうね。でも、何故かはこれから調べましょう”とレイ、
“……となると、コノートの女王となると、……はっきり言って、厄介で我が儘な奴か?”とホムラ、
“お前も言えるのか?まぁ、良い。とりあえず、状況はこの国の王から聞こう”とエルは思った。
“確信してしまえば、混乱するだけだ”
そう直感した焔はその考えを片隅に置く事にした。そして、焔は初めて、英雄とも称された名の人物たちと出会う事になる。
ある森の近くでキャンプする事になり、焔は森の中に行って薪を集めていた。すると、地面に何かが横たわっているのを発見した。
そっと近づいて見ると、赤い小さな角を生やし、赤い小さな翼を持った生き物の子供であり、首には雫型の紅玉が装飾された首輪を付けていた。よく見てみると、怪我をしている様だ。
「大変!」
焔は、急いでその動物の元に行き、オリヴィエに教えてもらった簡単な治療魔術で傷を治し、体力を回復させた。
すると、その動物は目を覚ました。目の前にいる焔に驚いたのか、口から火炎放射した。どうやら、竜の子供だ!
「あっちぃぃぃぃぃっ‼」
焔は直接喰らった為、急いで回復魔術で治した。あまりの吃驚に、焔は怒りそうだったが、焔は落ち着かせて声を掛ける。
「大丈夫ですよ。貴方が倒れていたのを見つけて、怪我を治しました。怖がらなくていいのですよ。さぁ。」
焔はそう言って手を差し伸べると、赤き動物はそろそろと飛びながら近づいて彼女の手に頬ずりした。彼女はその動物が可愛らしいと思い、頭を優しく撫でた。
「よしよし!良かったら、私の所に来ませんか。安心して、優しい人たちがいっぱいいますよ。」
そう言うと、その動物は理解したのか、可愛らしい鳴き声をした。焔は「やった!」と言った。
しかし、直ぐに妙な気配を感じて、束ねた薪を手にすると、背後に魔獣の狼がいた。焔は直ぐ動物に「走るよ」と言い、両手で抱えて走った。魔獣は、彼女と動物に向かって走る。
焔は走りながら、氷魔術の罠を仕掛ける。上手く発動して凍らせたことによって、魔獣から距離を離す事が出来た。
そして、外に出てキャンプのある地点に帰還した。同時に、フロリマールとジュヌヴィエが薪集めに還って来て、彼女の傍にいる動物に気付く。
「焔、その動物、どうしたんだ?」
フロリマールに尋ねられ、焔はおずおずと答える。
「あ、えっと、森で怪我して倒れているのを見つけて、連れて行こうって決めたんだ。大丈夫。怯えていたけど、旅に出る事に賛成してくれたよ。多分…。」
「キュゥ~!」
すると、その動物は優しく鳴く。ジュヌヴィエはその事を理解し、焔に伝える。
「本当だって。焔が助けてくれなかったら、危なかったって言っているわよ。」
「……そ、そうなら、嬉しいな。」
焔は照れながらそう言った。皆に紹介する為、昼に動物の事を紹介した。しかし、まだ名前を貰っていないらしく、焔は「アーサー」と名付けた。理由は言わなかったが、赤き竜と言うと伝説の王を思うからだ。
ジュヌヴィエの動物会話によると、アーサーは雄で赤い竜の子供だとの事。また、全身が鱗だらけではなく、角とその周囲のみらしく、大人になれば鱗が全身を身に纏うという。
「そっか。よろしくね、アーサー。」
「キュ~♪」
そう鳴いた後、アーサーはアッシュの元へ行って、いきなり指に噛みついた。アッシュはあまりにも突然すぎて、涙を貯めてしまった。焔は、アーサーに丁寧な躾をした。
アーサーは反省を見せるが、アッシュに対しては鋭い眼差しをしている。アッシュは、怪我した部分を押さえて言う。
「な、何するんだよぉ!赤竜の子供とはいえ、いきなりはないだろ!……え?!膝枕してた竜が言うなって、おい!って、どこで聞いたんだ!」
「赤い竜とは、架空の存在では?」
アッシュとアーサーが喧嘩し、焔が止めている間、ロランはそう言う。
彼によると、赤き竜……「赤竜」は架空に存在しており、実在しないとまで言われている。竜には、白銀、黄金、漆黒、青、緑がいるようだ。だが、赤はこの世界には存在しない、人々によって物語られたという。
「そうだったのかい?……伝説が本当なのかは置いておくとして、何故、ここにいるのだい?ジュヌヴィエ様、何か分かった事はありませんでしたか?」
オリヴィエは彼女に尋ねる。ジュヌヴィエは説明をする。
「アーサーによると、親に連れて来られて、遠くへ逃げる様に言われた。けれども、途中で、魔獣に襲われて怪我を負ってしまったとの事です。
……まだ、竜にしては幼いですし、詳しい事情は分からない、と。」
「そうですか。」
オリヴィエは、謎が深まるばかりだと思う。喧嘩が嫌いな焔は、アッシュとアーサーの喧嘩を鎮めて説教した。彼らは、主に怒られた事もあってか、小さくなっていた。
確かに、架空上の動物がいるとなると、またアッシュの反応も気になる所だが、それよりも一刻も早く隣国の首都へ向かう為、昼食後に片づけを行う事になった。
「随分、お前に懐いている様だな。」
ルノーは、共に片づけをしている焔に言う。アーサーは焔の肩にいて、中々離れようとしない。また、ジュヌヴィエには会話をしたり、アッシュにはちょっと攻撃的だったり、他のメンバーには飛び回ったり、触ったり程度で、焔以外に懐く事は無いようだ。
「そうかな?」
「お前が助けてやったんだから。ちゃんと守れ。」
「あ、あったりまえじゃない!……まぁ、いざと言う時は手伝ってもらうかもだけど。」
ルノーに言われた事に恥ずかしくなり、焔は慌てて言う。
「その心意気があれば、十分だ。」
ルノーは、そう言って荷馬車へと戻って行った。焔は褒められたのかなと少々考えてしまった。アーサーは彼女の頭の上で「キュ~」と鳴いた。
「あ、改めて。よろしくね。アーサー。」
「キュゥ~♪」
彼女の挨拶に答える様に、アーサーは返事をして彼女の唇にキスした。アッシュはそれを見て、何か怒ってたらしいが……。騎士団一行は、首都への道を行く。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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次回、『第2節 首都・クランへ』。お楽しみに!




