番外 約束と誓い
これは、冒険の裏にあった小さな物語。
これは出発する数日前の出来事。まだ、レオ四世がこの世を去って幾時も無い頃。
フロリマールは、王城の境内の墓地に埋葬されたレオ四世の墓の前に立っていた。また、その日は雨が降っていた。彼の悲しみを示すかのように、空は暗い灰色に包まれていた。
防水のマントを被っていたフロリマールは、その墓標の前で立っていた。
“父さん。俺は、本当に、この国をまとめて行けるのか?”
憂いが映される瞳は、これからの道への不安があふれ出ていた。焔やアッシュたちに励ましの言葉を送ってもらえたが、それでも父親の死を受け入れる事は難しかった。誰だってそうだ。
「……。父さん、母さん。リュカ兄さん、ラファエル」
国王の墓標の隣には、亡くなった王妃と第一王子と第三王子であった。
第一王子はフロリマールとは四つ上で、享年は十三歳。第三王子は、彼の四つ下で十二歳であった。何て悲しい事だろうか。村でも、王族でも天涯孤独となった彼にとって「絶望」しかなかった。
すると、そこへ洋傘をもったジュヌヴィエがやってきて、彼を傘の中へ入れた。
「フロリマール様。」
「……ジュヌヴィエ様。どうして」
「貴女に伝えたい事がありますし、ずっとそのままでは風邪を引いてしまいます」
ジュヌヴィエはフロリマールを心配していたのは本当だが、もう一つ「伝えなければいけない事」があったからだ。彼は彼女に「伝えたい事?一体、何だ」と尋ねる。
彼女は、「以前国王から承った言葉と送る品がある」というが、それよりも肌寒い中で来させてしまった事をフロリマールは申し訳ないと思い、ひとまず城へ戻る事を決め、彼女を城へ入れる事にした。
濡れた服を脱いで、私服に着替えたフロルマールは、ハーブティーを飲み、クッキーを食べているジュヌヴィエの向かい側に座った。ジュヌヴィエは話を切り出す。
「レオ陛下は、ガノが自分を暗殺しようと知っていました。だから、その前にと、私に伝えていたんです」
『フロリマール。こんな形で、急遽…王子という事実を伝えてすまない。しかし、私はもうじき危うい……そんな予感がするのだ。
だから、お前には王位継承権を委ねる。お前の安全の為に、赤ん坊の頃にイグラド村に送ったが、辛い目に遭わせてしまう事…置き去りにしてしまった事を、どうか許して欲しい。
だが、お前は立ち上がらなければならぬ。お前は、苦しい状況でも進まなければいけないんだ。いつか、守る者がお前の中に存在するのならば、守り切れ。
そして、この国を頼む。守って欲しい、平和を、調和を保って欲しい』
「―と。そして、陛下がフロリマール様にお渡ししたいと預かっておりました。王家の証が刻まれた、ループ・タイです。これは、代々王が受け継ぎし物です」
そう言って、ジュヌヴィエはハンカチに丁寧にくるまれたラピスラズリのループ・タイを差し出す。また、ラピスラズリには金で刻まれた王家の紋章があった。フロリマールは、それをそっと手に取って――
「父さん……ぐすっ…。」
と呟いて、涙を流して膝をついた。ジュヌヴィエは、彼の姿を見て――
“私も、両親は知らない。でも、彼は帰れる場所がある。でも、こんな辛い事を、光明神様……彼に、この様な辛い事があって良いのでしょうか?”
と思っていた。彼女は彼の傍に行き、優しく、彼の肩に手を置いた。フロリマールは涙を零しながら、彼女を見上げる。ジュヌヴィエは言う。
「辛い事からは逃げてはいけませんが、時には涙するのは人として正しいのです。ですから、今日は心を休ませてください。私に出来る事なら、何か言ってください。あの時のご恩を返す為にも」
「……ジュヌヴィエ様。すみませんが、しばらく、傍にいていただけませんか? 心が落ち着くまで」
「はい。それで、フロリマール様が安心なされるのなら」
ジュヌヴィエは、フロリマールが安心するまで彼の傍に仕えた。彼の話を聞いたり、彼女は自分の事を少し話して行き、互いの事を少しずつ知り合っていった。そして、ジュヌヴィエはフロリたちと共に旅に出る事を決意していたらしく、従者の反対を押し切ってまで判断したそうだ。
数十分後、フロリマールは落ち着きを取り戻して涙を拭い、ジュヌヴィエに礼を申し上げて、彼女の手をそっと握って跪き――
「ジュヌヴィエ様。俺は、いえ、私は、貴女がいなければ、こうして立ち直る事が出来なかったかもしれません。なので、誓わせてください。貴女様を、ライトシル第三王子フロリマール・ルミソワが、剣に誓い、必ずやお守りいたします」
と騎士の誓いを立てた。ジュヌヴィエは彼の誓いに――
「その誓い、受け入れましょう。私も、貴方様の為に、お支えできる事を約束します」
と言った。彼女は、王子としての彼をサポートをする約束を、心の底から思っていた。
番外編も連載していこうと思いますので、よろしくお願いします!




