表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラージュ・イストワール  作者: Hanna
序章 光と騎士の共和国 ルミソワ 編 ―己の役目―
21/169

第18節 初めての旅と新たな出会い

 旅を、冒険へと踏み出した騎士団は、アルスター王国へ向かっていた。

 王都から旅立った白銀騎士団(アージョン・オルドル)一行は、北東の方向に延びる街道に沿って進む。焔は荷馬車の上から景色を見上げ、見まわし、こっそりスマホで撮影をする。


 小雪が舞う灰色の空。そして、どこまでも続く草原と河。伝統を守りて続ける街や村。

 焔の世界では、一部の地域や国でしか見れない景色だろう。


「焔? ……やはり、ここにいたのね。隣、良いかしら?」


「うん」


 そう言って焔は直ぐにスマホをしまって、隣にジュヌヴィエを座らせた。


「王都の外は、初めてだよね。私も、初めてなんだ」


「そうなの?」


「えぇ。私達が向かうのは、アルスター王国。その首都・クランに向かう街道に沿って行っているわ」


 彼女によると、自然豊かな国で、南には精霊が住まう森・シャーウッドもある。また、北にある海をずっと進んでいくと、その国のケルト民族を鍛え上げる影の国に着くとか。


 シスターから聞いたと言うジュヌヴィエの話に、焔は耳を傾けた。


 アルスター。焔の世界では、欧州の島国でその北方の地域を指す。クランと聞いて、真っ先に浮かんでくるのは、幸運が低過ぎる悲しい英雄だ。

 また、シャーウッドの森となると、あの正義の英雄しか出て来ない。

 それに、影の国というと、強くて綺麗なあの女王が統べていること。


「どんな人に会うか、楽しみだ」


 焔は、そう言った。ジュヌヴィエも頷いた。まずは、その街道に沿って立つ郊外の街で食糧確保を行う。


「じゃぁ、買い物担当は、焔とオリヴィエ。頼めるか?」


「任せて‼」

「分かりました」


 焔、オリヴィエはアッシュの頼みに了承の返事をして、街の市場へと出かけた。人数分の食料をある程度の時期までに保つ為には、大量に必要だ。

 荷馬車には勿論、食料が必要な物を積んでいるが、足りない物もあるので買っておく。


「こんな量で平気なの?」


「大丈夫だよ。荷馬車にはある程度は積み込んであるよ。これだけ足りなかったんだ」


「そっか。……」


 焔は、あの時の光景が忘れられなかった。看護をしていた母親とガイブの様に無事だった人、巻き込まれて死んでしまった人がいた。


「まだ、忘れられないかい?……いや、忘れろ、という訳じゃないよ。君にとって、初めての恐怖だったよね。……ごめん。」


 助けたかった人を救えなかった事を、焔はとても後悔していた事をオリヴィエは思い出して謝る。

 しかし、彼女は首を振って「オリヴィエが悪いんじゃない悪いのは、情けない自分だから」と言った。また、攻撃をしようとした時に、アストルの相棒である天馬(ペガース)・イヴェールは巻き込まれて致命傷を負って死んでしまったのだ。


 “自分よりも、苦しい人達がいるんだ。この世界だって、元の世界だって。なら、私は我慢しないと……我が儘なんて言わないようにしないと”


 焔はそう考えていたが、オリヴィエを心配させるわけにはいかないので笑顔になって言う。


「さぁ、帰ろう! これ以上、時間が過ぎれば、皆心配するし」


「そうだね」


 二人は、荷馬車の元へと帰って行った。

 その街を出てから、あっと言う間に昼になった。かなり進んだ様なのだが、実感が湧かない。騎士団は、川の畔で昼食を取ることにした。

 調理担当のアッシュとオリヴィエが料理をしている間に、ジュヌヴィエは祈祷を、アッシュはハンモックで昼寝している。

 ロランとルノーで剣の稽古を、焔はフロリと共に短剣の稽古をする。


「はぁっ!」

「てやぁっ!」


 焔とフロリは互いに木製の刃を交え、激しく勝負が行われている。二人は、師であるロランとルノーの訓練でどれだけ強くなったかと言う模擬試合を行う事にしたようだ。


「そこだっ!」


「甘いよ!」 


 上からのフロリの攻撃に、焔は迅速に木製短剣で防御して対応する。そして、焔は身体強化で斜め上に彼を押し返した。

 フロリは、体勢を整えて着地する。直後に、焔は攻撃をするが、フロリと同時に喉元寸前で止めた。


「はぁ……はぁ」


「はぁ……はぁ……。随分強くなったな、焔」


 フロリは一歩引いて言う。焔は首を振って答える。


「それ程じゃないよ。まだ、力勝負で魔術を使うくらいだし。フロリの方が、強くなったよ」


「そうか?……なんか、動いたら腹が減ったな」


「確かに。言われてみれば。……ん?! いい匂いだ!」


 焔はそう言って、皆がいる場所へと走る。フロリも「ちょっと?!待てよ!」と言いながら焔の後を追った。

 昼食はガーリックトーストに、コーンスープ、ヨーグルトである。こんな野菜はこの地域の原産ではないはず、と焔は以前思っていて、ソフィーから聞いた事を思い出す。


 一時の時代。空の島国で様々な植物が育てられたので、原産国や地域で育つはずの物が、既に広まっているとの事だった。

 焔の世界なら、大航海時代に様々な食料が発見される事となる。焼き立てより少し冷ましたトーストを、焔は大きく口を開けて口にする。


「ん〜! 美味しい! 頬が落ちるぅ〜!」


 と彼女はそう言って幸せそうに言う。ジュヌヴィエも、フォークとナイフでトーストを口にすると目を輝かせた。初めて食べるトーストだったようで、口にして良かったらしい。

 ヨーグルトはヴェーネチ諸侯同盟国の内の東に位置する国が原産で、牛乳を発酵させる事によってできた健康食品。オリヴィエによると、体に良いと父が勧めているとの事だ。

 確かに、健康に良い。特に、食後に食べると腸に乳酸菌が届きやすくなり、腸内環境が良くなるのだとか。

 食後、焔は緑茶を手に、寂しそうにしているアストルの隣に行く。


「アストル。……隣、良いかな?」


「うん」


 元気がない。やはり、大切な相棒を失うと言うのは心身にもダメージを与えるのだ。焔は、彼に話しかける。


「ねぇ、イヴェールについてあんまり聞いてなかったんだけど、詳しく…聞かせてくれる。嫌だったら、構わないけど」


 焔はそう言うと、アストルは話してくれた。


「……あの子は、寒い冬に生まれたんだ。当時、僕は九歳だったんだけど、お母さんはあの子を産んで直ぐに死んじゃって。その時に、僕は思ったんだ。

 この子を、一生懸命育てるって。当然、こんな僕だから、親はとても心配した。でも、僕は意志を変えなかった。親は僕が育てる事を許可してくれた」


 アストルは冬に生まれたから『イヴェール』と付けて、天馬(ペガース)についての知識を本で探して調べて、育てた。気付けば、七年も相棒として育て、散歩するにも、どこに行くのにも一緒に行った。だから、家族の様な存在だった、と言う。


「そう、だったんだね。さらに辛くさせちゃって、ごめん」


 焔は申し訳なく言うと、アストルは首を振って言った。


「焔ちゃんには話していなくて、ごめんね。……僕はイヴェールの為にも、生きるって決めたんだ。それに、(ガノ)みたいに無益な人を傷つけるのは、騎士として許せない。

 だから、クヨクヨしてはいられない。さっきまで、しょんぼりしちゃったけど、焔ちゃんが話を聞いてくれただけでも、頑張ろうと思えた」


 とアストルは両手をグーにして、「頑張るぞ」と言う意気込みでもするかのような行動をした。


 “それだけで元気になるのだろうか?”と焔は思った。


 だが、アストルはとても天真爛漫でおっちょこちょいだが、こういう所があるからこそ、騎士を続けられるのだろう……と改めて考えた。

 そして、少しでも早くアルスター王国に着く為、出発する。太陽は西へと傾き始めている。

 風が心地よく吹き、焔は荷馬車の上で涼んでいると、道の向こうに何かが倒れているのを発見する。


「ロラン、止めて!」


 馭者(ぎょしゃ)を務めているロランは、直ぐに荷馬車の動きを止める。焔は大気魔術で地面へ着地して、倒れている何かの元へと駆けつけると、そこには鷲の上半身に後ろ脚が馬の動物が傷を負って倒れていた。

 焔は、何かの事故で怪我でもしたのかと考えた。すると、荷馬車から降りて来たアストルはその動物に駆け寄って治癒魔術を行った。


「大丈夫かい?」


 彼が声を掛けると、その動物はゆっくりと目を開けた。アストルは“君がここで怪我をして倒れていたんだよ”と言うと――


「君が、助けてくれたのか?」


「喋った‼ わーい! 鷹馬(ヒッポグリフ)と初めて喋った‼」


 焔は“やはり、幻想種に認定されている鷹馬(ヒッポグリフ)族だ”と確信した。鷹馬(ヒッポグリフ)はゆっくりと立ち上がって、アストルに礼を言う。そして、自己紹介をした。


「僕は、グリン。君の言う通り、鷹馬(ヒッポグリフ)族の生き残りだ。突然、帝国の皇帝に襲われて怪我をしていたんだ。ありがとう」


「こちらこそ! 僕はアストルフォ‼ あ、ちなみに、君を見つけてくれたのはあの子…焔ちゃんだよ!」


「助けていただき、感謝します」


 グリンは、焔に礼を言う。彼女はいいえと謙遜する。グリンによると、家族と離れてしまい、おまけに帝国の皇帝によって怪我したと言う。

 帝国となると、ここから、南東に栄えるあの国だが……。迂回する道しか無い。アストルはグリンにある提案をした。


「ねぇ! 僕たちはこれからアルスター王国に向かうんだけど、グリンも一緒に行かない?」


「僕が、一緒に?」


「うん! それに、君の家族を見つけられるかもしれない! 一人より、皆と一緒に! 大丈夫! 僕の仲間はいい人ばかりだよ!」


 アストルの輝く笑顔と真っ直ぐな言葉に“嘘は無い”とグリンは確信に移った。


「……その言葉、信じる。共に旅をしよう。相応しい主・アストルフォと共に」


 グリンはそう言ってアストルに、彼が主である事と自分はそれに従う従者である事を誓った。アストルはイヴェールの為にも、グリンの主人として守り、友に戦い抜こうと決意した。

 まだ、旅は始まったばかりだ。これから、焔にとって苦渋の決断などが迫られるかもしれない。

 それでも、彼女は敵であれ、数多の人々との出会いを大切にしていこうと思っていた。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします!

 

 次回から『第Ⅰ章 緑と戦士の国 アルスター ―紅棘の死の魔槍―』です。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


《第Ⅰ章 アルスター編  あらすじ》

 行く先は、緑豊かな戦士の国。行き交うは、二つの国の策略と攻防。

 ある者は己の国を守る為。ある者は正義と愛の為。ある者は権力を手にする為。ある者は全てを手にする為。様々な意志や野望が行き交う中、闇は大きく静かに蠢いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは!ヤムです! Twitterの企画から読ませていただきました! プロローグ&序章まで ①好きな人には刺さるであろう緻密な設定 ②読者に分かりやすいスマホをツールとして活用 ③多…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ