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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
序章 光と騎士の共和国 ルミソワ 編 ―己の役目―
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第17節 使命を背負って

 ルミソワは復興の道を進んでいたが、時は白銀騎士団(アージョン・オルドル)を待ってはくれなかった。

 暑い中、アストルの後を追うと、瓦礫が撤去されて再整備された第一広場にはアッシュ、フロリ、ロラン、オリヴィエ、ルノーとジュヌヴィエとその従者たちがいた。焔が到着すると、ジュヌヴィエは話を始めた。


「お忙しい中、集まっていただいてありがとうございます。実は、国王レオ様から以前に伝言を授かっています。それを、お伝えに来ました」


「失礼ながら、ジュヌヴィエ様。何故、今になってお知らせを?」


 ロランはそう問うと、ジュヌヴィエは確かにと頷いて話をした。

 彼女曰はく、国王は「この事を予感しておられており、フロリに国を明け渡す事を決意していた」という。また、一部の国以外には手紙を送ったとの事。

 そして、城の奥にある巨木の頂上に封印されていた聖なる武器六本と聖槍が目を覚ましたと言う。


「聖なる武器? 聖槍?」


「はい。この地に伝わる六つの聖なる武器。……そして、定められた者だけ許される聖槍と言われる武器です。ご案内します」


 ジュヌヴィエは、焔たちを連れて城の奥に聳え立つ巨木へと向かった。辿り着いて螺旋階段を抜けて行き、日差しが射し込む神々しい場所へと入った。

 優しい日光が照らされている石畳の台には五本の剣と魔法槍、聖槍が置かれていた。ジュヌヴィエは焔たちを石畳の台の前に来て、説明を始めた。


「これらの神器は全て、使うべき主が定められたり、時によって選ばれる者もいます。あの惨事の犯人でもあったガノも、聖剣に選ばれし騎士でしたが、道をどこかで踏み外してしまった様です」


「アイツが、聖剣に選ばれた?」


 フロリマールは初めて聞く情報に驚いた。焔はその剣が“ミュルグレ”であることをジュヌヴィエに尋ねた。


「焔の言う通りです。そして、あなた方も聖なる剣と槍に選ばれた一人。また、聖槍を扱えるもう一人の騎士です」


 “もう一人の、騎士?”


 焔は疑問に感じたが、今はジュヌヴィエの話に耳を傾ける。彼女によると、既に聖なる武器たちは主の出現によって淡く輝き始めていると言う。


 アッシュ、フロリマール、ロラン、オリヴィエ、アストルフォ、ルノーは石畳の台上に行き、それぞれ相応しい武器を手にする。


 フロリマールは、二対の風の力を持つ短剣「ヴァン・ポワニャール」とガノの形見…闇の力を持つ「ミュルグレ」を、

 ロランは、炎と地の力で不滅の刃を持つ「デュランダル」を、

 オリヴィエは、光と風を纏う高清な剣「オートクレール」を、

 アストルは、魔法が宿る槍「ソルセルリー・ランス」を手に、

 ルノーは、魔法が宿る剣「フロベージュ」だけでなく、氷の刃を持つ剣「アルマス」を手にした。


 しかし、アッシュは自身が手にした武器の名を話してくれなかった。

 


 焔は、その中で柄が銀色に輝き、刃が純白の槍の前にいた。彼女はゆっくりと槍に手を伸ばして手にすると、淡い光が彼女を包み込んだ。

 光が静まり、焔は槍をじっくり見る。ジュヌヴィエは彼女に説明する。


「焔。その槍は使用する際に、神に近づく人となるのです。最大威力は計り知れないとも」


「計り、知れない?」


 焔はそう言うと、ジュヌヴィエは彼女の為に説明してくれた。


「はい。私を育ててくださいましたシスター様からは、最果ての光の槍……聖なる槍の中でも光を強く放つものだと。魔槍と、どちらが強いかと言われるほどです。

 伝説では、ここより北にある大きな孤島にて分裂だった王国を統一した王が所有していたとも。もし、貴女が最大の危機を感じた時に使用するのが得策でしょう」


 ジュヌヴィエはそう言った。

 ロンゴミニアドまたはロンギヌス。かの王が息子を迎え撃ったあの槍だ。しかし、彼女が説明した国は今の所発見されていないどころか、無い。

 焔は「そんな自分が聖槍たるものを持っても良いのだろうかと思っている」と、ジュヌヴィエはこう話した。


「焔。貴女は、これから……世界を救わなければならないの。避けても、いずれ成し遂げなくちゃいけない。……時は、待ってはくれない。聖なる武器を持つアッシュ様たちと私と旅に出なくてはならないけど……その覚悟はある?」


 ジュヌヴィエの問いに、(ほのか)は戸惑ってしまう。世界を救う旅に出る、つまり、「過酷な戦いに身を投じる事」である。

 自分がその様な場所へと行かなければならないのかと思うと、正直、怖い。でも、自分とアッシュたち……白銀騎士団(アージョン・オルドル)にしかできないのなら。


「今は、まだ、その実感はないけど。自分にしか、できないのなら、やるしか、ないよ。……でも、ジュヌヴィエも行くって、大丈夫なの? アッシュたちもこの国を離れるの?」


「今じゃないよ。ある程度の復興と、惨事の真実を話すまで。待つしかないわ。……私も、こう見えて弓術と回復魔術に心得を持っているから、ある程度はね。……それに、ある小説にはこう記されている。……一人は皆の為に、皆は一人の為にってね。国の今後については、皆で話し合うそうよ」


「うん。ありがとう」



 そして、第一広場とその周囲の復興は着々と進み、一ヶ月半程で復興が完了した。また、アッシュとフロルから惨事の真実を話し、民に謝罪をし、自分たちは旅に出る事を話した。

 しかし、民はそんな二人と騎士団が自分たちを守ってくれた事に感謝と応援の喝采を送ったのだ。

 当分のライトシルの最高指揮官は、軍師でもあるチルパとなり、若き騎士であるブラタマンテとオジェはその補佐をすることになった。


 ――――――――――――――――――


 その日の夜、焔は夢を見ていた。


「あれは! ◯◯だ! ……我が◯の救済を!」


 顔の半分は見えないが、真っ暗な空間に星の様な光の粒があり、天高くには黄金か白い光とも言える大きな天冠の輪と一つの光があった。

 それに目掛けて、青年と思わしき人物は手を伸ばしながら走る。


「やめておけ。お前が手にした所で、救済など叶わぬ。諦めろ」


 トーンは低いが、基本的に声が同一に聞こえる。後ろから誰かが走って行く彼の肩に、引き留める様に手を置く。


「……っ! 貴様、僕の邪魔を――……っ!」


 青年が振り返ると、また顔が見えないが、体格が同じ様な青年がいた。


「邪魔、だと? そんなの、お前の勝手な判断だ」


 もう一人の青年は、立ち尽くすだけの青年の背後に回って片目を押えて離すと、片目から肌質も変化していた。はっきりとは見えないが、焔にはその瞳からは(あか)の涙が流れているのを感じた。


「◯◯が欲しいとは、お前の浅ましく愚かな考えだ。王であるならば、時には悪行も必要だ。もう一人の◯◯◯◯」


 そう聞こえると、周囲景色が変化し、何処かの高い場所となって、岩肌だらけの荒野に地平には青空と雲があった。焔は辺りを見回すと、何かが接近したので避けきると――


「避けきるとは、見事なものだ。◯◯を内に秘めし者よ」


 自分が見えているのかと思うが、それよりも漆黒の服を身に纏った相手からの殺気と魔力の膨大さに圧倒される。何者なんだ、と感じた。しかし、そんな暇もなく。


「◯◯を、寄越せ」


 そう言って、相手は焔の間近まで接近して――


 ――――――――――――――――――


「……っ!」


 ベッドで勢い良く上体を起こした焔は、相手の武器か何かが自分の身を貫くような気がしたので冷や汗をかいてしまっていた。


 “夢か”と焔

 “すっごい、シリアスな夢だったっスね”とユウ、

 “何かの暗示なのでしょうか”とレイ、

 “んな訳、ねぇだろ気にすんな”とホムラは思った。


 朝だったので、焔は騎士服装に着替えて、洗顔を済ませてから食堂に顔を出すと、騎士団とジュヌヴィエがいた。


「遅くなってごめん」


「いいよ。……おはよう、主人(ロード)・焔」


 アッシュはそう言った。(ほのか)は笑顔で皆に、おはようと言った。皆は、それぞれ挨拶を返した。

 この朝で食べる食事が、旅に出る最後である。皿にはパンがあり、バター、ジャム、蜂蜜をつけて食べる。飲み物にはハーブティーなどだが、焔は苦手なのでオレンジジュースとなっている。

 また、しっかりと食べておきたい彼女には、パンの他にプレーンオムレツとスープが用意されていた。彼女は申し訳ないと思いつつ、口にする。


「ん〜! おひしぃ〜!」


 “これで最後の食事が終わると思うと何か、寂しいっスね”とユウ、

 “最後じゃないよ!必ず、帰って来るんだから!”と焔、

 “そうですね、別れは永遠ではないのですから”とレイ、

 “よく、胡散臭い事を言うぜぇ”とホムラ、

 “お前が言うか……まぁ、しばらくの別れだな"とエルは思った。


 朝食を終えて、焔はすべての支度を整えていた。私服なども、騎士団の荷馬車(キャラバン)に積み込む。

 荷馬車の中には一つの扉があり、開けると魔術で廊下が展開し、各自の部屋が点在する。そこで日常生活が出来るという技術を要している。また、戦闘時にもかねて、コーチと言う馬車の特色である天上に昇れる構造を加えている。

 荷馬車を引く馬は、アッシュと焔の愛馬のタサドル、フロリマールの愛馬のタシュブランである。他の愛馬たちは馬小屋テントに入っており、折りたたんでも魔術で馬をしまえる様になっている。なんて、便利過ぎるものなのだろうか‼


 焔は、ある程度のの荷物が無くなった平屋の全ての窓と玄関を閉じて鍵を閉めて―


「また、帰って来るね」


 と言って、急いで集合場所へと向かった。すると、チルパが焔たちの元へ来て「第一広場に集まって欲しい」と話した。彼らは何だろうと思いつつ、広場へ行くとそこには民たちの姿があった。

 どうやら、旅へと見送ってくれるようだ。チルパは、拡散魔術を使ってフロリの声を民に届かせる。


「皆さま。お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。今日より、フロリマール様、白銀騎士団(アージョン・オルドル)団長・アッシュ、副団長・ロラン、智将・軍医のオリヴィエ、勇者・焔、ルノー、アストルフォは旅へ出ます。どうか、壮大な見送りをお願いしたい!」


 そう言うと、民たちは「いってらっしゃいませ」「気をつけてくださいね」などと言っていて、中には寂しくて泣いている人もいる。

 焔が「勇者」と呼ばれた訳は「惨事で混乱する中で懸命に戦い、復興で人々に助けを差し伸べて、民の為に働いた」と言う事からだった。だが、この時の彼女は知る由もない。

 そんな中、一人の男の子が母親と共に、焔の元へと来た。ガイブである。


「お姉ちゃん。……また、一緒に遊ぼうね‼ 約束だよ!」


「うん。ありがとう」


「気を付けて、行ってきてください」


「ありがとうございます。お二人が、いつまでも元気である事を祈っています」


 すると、今度はパーティーにて出会った青年たちや密かに難癖をつけて来た貴族の少女たちがやってきて、それぞれ言葉を交わしたり、手紙を渡したりなどをした。

 そして、チルパは焔の名を呼んで、彼女を前に出させると二mくらいの丈夫な棒に旗が付いている。旗には、百合をモチーフとした紋章が刻まれている。


「勇者・焔。君は、この国で、私たちの助けとなった。国王が私にこう言っていたんだ。君に、この国の旗でもあり、騎士団の旗でもあるこれを授ける、と。…さぁ、どうぞ。……仲間たちを、頼みましたぞ。」


 焔はチルパそう言われ、彼が持っている旗を丁寧に受け取って天へ高く上げた。民は祝福の拍手を送った。そして、騎士団は荷馬車を出発させ、東門から旅立った。留守となるブラタマンテとオジェは――


「焔せんぱ~い、ルノーお兄様、先輩方‼ 気をつけて‼」


「この国は、僕たちに任せてくださ~い‼」


 と叫んでいた。旅立つ白銀騎士団(アージョン・オルドル)の皆は手を振り、ある程度の所で前へと向いた。焔は荷馬車(キャラバン)の上へと昇って、外の景色を眺めた。



 ここからが、本当の冒険の始まり。長い長い、旅の始まり。彼女は、旅で何を得て、何を答えるのか?

 世界を巡り、数多の人々に出会う事は、一期一会。その出会いを、彼女はどう捉えるのか?


 目指すは北東の国、『(みどり)と戦士の国 アルスター王国』へ‼

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします!


 次回『第18節 初めての旅と新たな出会い』です。

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