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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
序章 光と騎士の共和国 ルミソワ 編 ―己の役目―
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第16節 復興へ

 冬、惨事に遭遇した焔。彼女は懸命に、民の為に働く。しかし、ガノは魔力を宿す特別な剣を使って、騎士団を追い込む。

 焔とフロリマールは、他に避難できていない民を援助して行く。アッシュは、ガノと一騎打ちをしているが、苦戦している。


「俺のミュルグレは聖剣だからな。ただの鋼の剣じゃ、対抗が難しいぜ?」


「何をっ!」


 アッシュはガノに目掛けて刃を刻もうとするが、奴は避けて――


「がっ……!」


 アッシュの腹にグサッと一突きした。焔とフロリはそれを見て、駆けつけていく。ガノが剣を引いたと同時に、ロランとオリヴィエは連携体制で斬りかかって距離を離す。

 駆け付けた焔は、アッシュの上体を起こして声をかける。


「しっかり!アッシュ!」


 声を掛けるも、アッシュは薄っすらとしか目を開けていない。


 “このままでは死んでしまう”


 そう直感した焔は、どうすれば良いのか混乱してしまう。どうにも出来ないと思った彼女だが、アッシュは何かを呟いている。焔は耳を傾けると―


「血、血を……くれ」


 と言って彼女の右首筋に口を近づけて噛み付いた。焔は彼の言動と行動に驚いたが、牙が刺さった様な痛みが一瞬だけ感じた。アッシュは、虚ろな状態で彼女の血をある程度飲むと自力で上体を起こす。


「アッシュ?」


 焔は首筋を押さえて彼に尋ねるが、彼の体から魔力が漏れていて赤黒いと言うのか、紫をもっと暗くしたものなのか……そのようなものが立ちあがり――


「ゥゥ……ウゥガァァァァァァァァァァァ‼」


 と叫び、魔力を大量に放つ。焔は掌の紋章が光るも、その衝撃波によってフロリマールと共に飛ばされる。ルノーは彼らを怪我させまいと、上手く受け止めて助ける。彼らはルノーに礼を言うが、アッシュの容態の変化をルノーと共に見ていた。

 アッシュは、人から徐々に変化する。頭は青い炎に包まれ、背中からは翼が生え、体中は鱗となって人肌の面影が無くなった。その姿は――


「アッシュが……」

「竜?!」


 焔とフロリマールはそう言う。それだけじゃない。ルノーも、アストルも、ガノと戦うロランとオリヴィエも、敵となった奴もその様子を見ていた。


「ガァァァァァァァ‼」


 竜となったアッシュは突如、ガノに突撃した。ロランとオリヴィエは避けるしかなく、その場を離れる。ガノは、アッシュの体当たりに歪んだ表情を見せる。奴は瓦礫の山に叩きのめされるが、アッシュは容赦なく殺しにかかる。

 焔は掌を見ると、通常は白銀色なのだが、赤黒い色がグラデーションがかっていた。その時、ソフィーに言われた事を思い出した。


『もし、白銀竜が現れ、紋章の色が赤黒くかかっていましたら暴走状態です。完全に色が変わってしまえば、獣として人を襲い続けるでしょう。危険なのは承知ですが、それを止める事ができるのは主人(ロード)……貴女だけです』


 (レイ)はフロリマールとルノーから離れて、急いでアッシュの元へと向かう。


「おい!」


「焔、戻れ‼」


 フロリマールとルノーは「彼女を止めなくては」と後を追う。彼女は耳を貸さずに、アッシュの元へと走り続ける。彼は暴走状態のまま、ガヌロへ攻撃を続ける。焔は、見るに耐えられないと感じて走りながら叫ぶ。


「アッシュ‼ お願いです! 戻ってください‼」


「ガァァァァァァァァァ‼」


 しかし、アッシュには届いてない。そのまま、ガノを鷲掴みにした。フロリマールとルノー、ロランとオリヴィエ、アストルは嫌な予感を察知する。ガノは鷲掴みにされたまま、竜の手は口へと持っていかれる。


「や、やめろぉぉぉぉぉぉ‼ 俺は、まだ()に゛た゛く゛な゛い゛ぃぃぃぃぃ‼ た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ! 何で、来てくんないんだよ! なぁ!」


 ガノは、恐怖を覚えたのか「死にたくない」と叫んで混乱している。焔たちは「誰が」来てくれないのか、知る由もない。そして―


「ギャァァァァァ‼」


 ガノは叫びながら、竜の口によって体を引き裂かれた。アッシュは口まわりを血で汚しながら、周囲を見回すと恐怖で立ち止まる(ほのか)を見つけ、襲い掛かる。

 (エル)は、自己(ほのか)の防衛をするべく表に出て、打刀で竜の拳を受け止めて、魔術で身体を強化させて弾き返す。しかし、余りにも強い攻撃で、それに反する力を行使した成果、ガクッと言う感覚を、焔自身が体内でそのように感じた。

 ルノーは、その風圧で近づけられない。


「グァァァァァァァ‼」


 アッシュは構わず、次の攻撃を出す。焔は身体強化を体にかけて攻撃を刀で受け止めるが、アッシュの方が勝っていた。


「やめて! ……う゛っ!」


 (ほのか)の胴体前面に浅くも深くもないが、暴走したアッシュの爪による傷を負ってしまった。


「焔!」


 焔は一気に力が抜けて、刀を地面に落として倒れる。ルノーは駆けつけようとするが、竜の火炎放射でまたもや近づけられない。


 “アレ? 何で、私、倒れているんだ? 痛い……全身に雷が落とされたみたいに、痛い……死ぬのかな?”


 焔はうっすらと目を開けたままそう思ったが、奥底にある「本能」が彼女の朦朧とした意識を覚醒させた。


 “何を、やっているんだ。まだ、死なない! アッシュを、助けるんだ‼”


 すると、彼女の傷の部分が光を発して、傷を癒して回復させた。痛みが消えた彼女は、意識を取り戻して刀を手にして立ち上がる。(アッシュ)は彼女が立ちあがるのを見て、再び襲い掛かる。


「……っ‼」


 (エル)は、(ほのか)と半分で表に出ながら、身を守り、アッシュが元に戻る方法を試すべく、アッシュの拳や火炎放射攻撃を避けて彼女は竜の頭に上る。


「アッシュ‼ 戻って‼ 私は、(ほのか)。貴方の、主人(ロード)‼自分を、見失わないで!」


 そう言って、焔はアッシュの目の前で白銀竜に使用される竜石を翳した。すると、彼の動きが止まり、漏れていた魔力らしきものが竜石へと吸い込まれた。

 また、竜の姿は徐々に人へと戻って行った。焔は戻ってよかったと安心して涙を流した。


「……っ! 俺は、一体?」


「アッシュ!」


 焔はアッシュが戻って来た事に嬉しくなり、彼に飛びついた。彼は驚いているようで、先程の記憶が無いようだ。そして、フロリマール、ロラン、オリヴィエ、ルノーは二人の元へと駆け付けた。


「先輩!無事で何よりです」


 ロランはそう言うが、アッシュは「何があったんだ?」と話す。彼によれば、倒れた後の記憶が薄れているらしく、ガノの事も全くであった。オリヴィエは説明する。


「先輩は、その、白銀竜に変身したんです」


「巨大な白銀竜に、です」


 オリヴィエの説明にロランは付け加えた。オリヴィエは続ける。

 アッシュが竜に変身した直後に、ガノに突進して攻撃。そして、奴を鷲掴みして、口で引き裂いた。そのまま、暴走して焔に傷を負わせてしまうも、焔は回復して立ち上がって、もとに戻ったと話した。


「……っ! 俺が、ガノを引き裂いた? それよりも、主人(ロード)を怪我させたなんて……」


「それでも、アッシュがこうして戻ってきてくれたのは嬉しい、けど…。焔、お前の傷、どうやって治ったんだ?」


 フロリマールの問いに、焔は首を傾げる。「確かに」と感じた彼女だが、どうしてかは分からない。後で、オリヴィエに傷を確認する事にし、この場をなんとかして一日でも復興するようにしなければならない。すると、別の場所へ避難した民の元にいたオジェが駆け付けた。


「先輩! ご無事でしたか。ガヌロは、どうされたのですか?」


「あぁ」


 どう説明すれば良いか、分からず、アッシュは「悪い。後で知らせる。取り敢えず、怪我人の応急措置と瓦礫の整理だ」と言った。



 この事件は、後に『第一広場の惨事』と名付けられた。レオ国王が亡くなった悲しみは国中だけでなく、国外にまで伝わった。

 ガノの死因は、アッシュ団長による成敗で、竜に変身した事は一応伏せて置く事にした。

 その日の夕方。焔はオリヴィエの元にいて、傷を見てもらった。


「跡は、少しあるようだけど、完治しているね。ありがとう、着直して良いよ。……それにしても、不思議なものだね」


「私も、よく分からない。……ウェっ」


「大丈夫かい?」


 “そうか。あんな事があったから。ショックは大きいのは当然、か。目の前で、誰かが殺されるなんて……”


 オリヴィエは、焔がガノが殺られた瞬間は、ある意味、殺人事件の発生直後に初めて遭遇した人の感覚に近いだろう。

 焔は初めてで、相当の衝撃を受けるのは当然のこと。その為、彼女は吐き気がしているようだ。


「しばらくは、戦えないかもしれない。どうしよう……」


「焔。……誰だって、いざ、戦いで直ぐに剣をまともに人へと振るうのは嫌さ。僕だって、そうだった。怖かったよ。人の命を、あんな風にして奪うのが怖くなった。

 でも、人を守る為に、自分が生きる為に、剣を取り続ける事にしたんだ。焔も、いつか、剣を取るか取らないかの選択は来ると思う。それで、どちらかを選ぶか、だよ。」


「ありがとう、オリヴィエ。オリヴィエが、そう言うなら、その時まで頑張る」


「あぁ。焔にしか、出来ない事は絶対にある。それを、忘れないでね」


「うん」


 焔は剣を取るの迷いはあるも、今できる事に専念した。翌日からは、瓦礫の処理、負傷者の看護や援助、建設材料の運搬と様々な事を行った。ある程度は魔術で行うので、作業は進んでいく。

 そんな某日、救護テントである女性の看護をしていた時の事。


「体調は、どうですか?」


 (レイ)が話しかけると、女性は笑顔で言う。


「随分、良くなりました。……焔さん、と申しましたか。わざわざ忙しいのに、ありがとうございます」


「とんでもないです!私は、これくらいの事しかできませんし、騎士と言う立場で有りながら、剣を取るか迷ってしまいますので」


 焔は「まだ一人前に戦える身ではないと話す」と、女性は首を振って言う。


「いいえ。私は、あの時、焔さんに助けられなかったら、惨事に巻き込まれていたでしょう。息子も、私がいなければ、不安だらけでした。

 感謝します。息子とも、他の子たちの遊び相手もしてくださって、私達一同は感謝をしております」


 すると、病室テントに女性の息子が入ってきた。


「ママ〜! あ、焔お姉ちゃん!」


「こんにちは、ガイブくん。元気で嬉しいよ!」


 彼の名はガブリエル。ニックネームでは、ガイブと言われていて五歳である。あの時は母親が庇った為に、軽い怪我で済んだ。


「あのね! お姉ちゃんに手紙を書いたの! はい、どうぞ!」


 ガイブはそう言って、焔への手紙を差し出した。彼女は「ありがとう。後でちゃんと読むね」と言い、ポーチにしまった。すると、今度はアストルが駆けつけてきた。


「焔ちゃん」


「アストル? どうしたの?」


 イヴェールが死んでしまってショックを受け、中々立ち直れない状況だったアストルが駆けつけてきたので、(ほのか)は驚いた。


「ジュヌヴィエ様から、今すぐに第一広場に来て欲しいって。僕たちも呼ばれてる」


 焔は、ガイブとその母親に席を外す事を謝罪してからアストルの後を追った。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします!


 次回『第17節 使命を背負って』です。

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