第15節 運命の歯車、動く
いよいよ、フロリが正式に王子として、民の前に立つ。しかし…
そして、瞬く間に時は過ぎて七月となり、フロリにとって重要な日がやって来た。
また、パリス祭が行われ、更に、ライトシル共和王国創立記念一五〇周年なので、大賑わいである。
焔は、稽古を続けていたせいで、あまりゆっくりしていなかったが、王がフロリの事を話す時間までは食べたりできる事に嬉しい気持ちで、アッシュとフロリはジュヌヴィエを加えて売店などを回る。
ロランとオリヴィエ、アストルフォとルノー、ブラタマンテとオジェとチルパで町を見回る班になっている。
当然、ガノもそこに配属される予定だったのだが、本人は“今日も体調が悪い。しばらく休みたい”との連絡を入れていたので少し残念である。
「焔。何から食べるんだ?」
「ま、迷っちゃうなぁ。パエリアに、ワッフル! ビューニュ! 良いものばっかり!」
ビューニュとは、簡単に言うと「洋風せんべい」で砂糖味のもの。他にも、マカロン、ガレットなどなど、国内外問わずの料理が出されている。
「ジュヌヴィエは、な、何か、食べたい物はあるのか?」
「そうですね。私は、ワッフルを食べたいです」
「お、俺も、それ食べるから。ここで、待ってくれ。な、何味が良いかな?」
「では、蜂蜜味で。わざわざ、ありがとうございます」
フロリは緊張しつつも、ワッフルの売店に行って二人分を注文して戻って来た。フロリはバニラアイスとチョコソースらしい。焔とアッシュは、見守りながらフロリを応援する。
また、周囲もフロリの事を見て、コソコソと話している。多分、王家の者だ、と言うのだろう。
焔とアッシュは、パエリアを食していた。パエリアは、この国から南西に言った国の伝統料理だとアッシュは話してくれた。お米を久しぶりに食べた焔は―
「ん〜! 美味しい! やっぱ、米は旨い‼」
と満足な顔で言う。アッシュは彼女の幸せそうな顔を見て微笑み、こう尋ねる。
「そう言えば、焔は米の料理をよく頼んだりしていたってオリヴィエから聞いたけが。どうして、好きなんだ?」
「……俺が住んでいたのは、米の食文化を持つ国だ。気候的にも、温暖で湿気も丁度良い、米の生産に適してる。俺たちが住んでいる国民は、米を良く食べている方だ」
焔はそう話をする。この場で自分の事を話せる時じゃなので、あえて、誤魔化すしかない。
「なるほど。……話を変えるが、昼になったらどこに配置するか、確認しようか」
「うん」
焔とアッシュは、昼に行われる王の会見にての自分の立ち位置を確認する。彼女は、アッシュと共にフロリとレオ四世の警護を。ロランとオリヴィエ、ルノー、ブラタマンテとオジェ、兵士たちは広場を囲むようにジュヌヴィエと国民を守る。
「――で、良いんだよね?」
焔がそう言うと、アッシュは笑顔で言う。
「あぁ。バッチリ! あと、三時間はある。見回りをしながら、祭りを楽しもうぜ。」
「うん!」
だが、そんな間も束の間。三時間はあっと言う間に過ぎ、昼を告げる鐘がなる。焔たちは一番大きな広場へ向かい、配置を完了させる。アストルや天馬騎士は、イヴェールに跨って空から警備をする。
“よっし!警備開始っス!”とユウ、
“油断はしない”とエルは思って同時に表に出る。
この反応に、瞳は左目が黄、右目が灰色となる。背後には噴水があり、周囲には民である人々が集まって行く。緊張感が高まるが、冷静に周囲を警戒する。
国王陛下が現れ、フロリは国王の隣へと行く。そして、いよいよだ。
「寒い中、お集まり頂いた我が国の民よ。此度は、創立年一五〇年を迎える事、誠に嬉しいことです。そして、我が息子にして、正当なる後継者、第二王子・フロリマールの帰還を祝おう。……さぁ、フロリマール。民に、ご挨拶をする時だ」
「でも、俺は、何を言ったら……」
国王…実の父親にそう言われて、フロリは困惑する。彼のその様子を見て、「心配はいらぬ。私が付いているし、友も付いている。自信を持ちなさい」と国王は言った。
「はい」
フロリは勇気を出して一歩前へと出た。焔はその瞬間を見ていたが、周囲に怪しい動きを見せるフードを被った者を見つけた。焔は、隣にいたアッシュに小声で話した。
「確かに。怪しい動きをしているな。……っ‼ 魔力反応が膨大になった?!」
アッシュがそう言うと同時に、怪しい動きを見せる者は前に出て黒く赤い模様が刻まれた剣を地面に突き刺した。アッシュはその瞬間に、何かを察知して――
「伏せろ‼」
と大きな声で叫ぶ。
しかし、次の瞬間に剣からの膨大な魔力によって広場はたちまち吹っ飛んだ。焔はアッシュが守ってくれた事で怪我を免れたが、被害は甚大だった。爆発が静まるが、怪我が重傷の民がおり、会場はパニック状態となった。
アッシュは、直ぐに怪我を免れた騎士団一同と兵士たちに命令した。ジュヌヴィエも従者によって避難する。しかし、それだけでは無かった。
怪しい者は、剣の力を使って黒い槍を複数出現させて、フロリへ遠距離攻撃を放つ。フロリは逃げる事ができず、彼は「死ぬだろう」と思い、手で自分を守る事しかできない。だが、次の瞬間。
「うぐっ‼」
何という事だろうか。息子を守るために、レオ四世は身を投げうってフロリを助けた。
だが、国王は急所を打たれ、倒れてしまう。フロリは父を支えるが、膝の力が抜けてしまったので地面に膝をついた。彼は、目の前で父親である国王が自分を守って倒れた事にショックを受けて何も言えない。すると、国王は力を振り絞ってこう言う。
「怪我は、無いか?」
「…は、は、はい」
フロリは、震えながらそう言うと――
「この国を、頼んだぞ。」
と言って目を閉ざしてしまう。フロリは声を掛けるが、反応が無かった為に不安と恐怖に襲われ――
「父さぁ〜ん!」
と叫んだ。それが、彼にとって最初で最後の親として呼んだ言葉だった。焔は涙を堪え、フロリを守る様にして前に出て、刀を手にしながら奴に向けて話を始める。
「てめぇ、よくも周りを巻き込んだな。無慈悲な行為だ。予め、俺や国王はこの事が起こるのではないかと予感はしていた。騎士たちの配列の変更もそうだ。……そろそろ、本当の姿で名乗ったらどうだ? ガノ」
つまり、焔が以前にアッシュに話したのは、この事であったのだ。そして、正面にいる者はフードを取る。正体はやはり、ガノであった。彼は驚くどころか、落ち着いている。
“ロンズヴォーの戦いにて、ヨーロッパの基礎を築いた大帝の側近のような存在の騎士の裏切りがバレるというようなモンか”とホムラは思う。
ガノの姿を見て、騎士団のメンバーは怒りに包まれる。焔は「何故、このような事をしたのか」を問うと――
「…フン! 我が一族は王家を恨んでいた。いつか、敵を返してやると。同じ考えを持たぬ者を殺し尽くすあの王は、間違っていると。人間は同じ考えを持たないと!」
「それは、過去の事だ。」
それに対してアッシュは答え、焔の前に出て続ける。
「お前の先祖が恨んでいたと言うのなら、そうだったかもしれない。……けどな。無関係の者を巻き込むのは、焔の言う通り、無慈悲だ。それ以上、事を大きくすれば処刑だぞ」
「うるせぇ! てめぇに、何が分かるってんだ。この恨みは果てしないものだ‼ 滅びを持って、祝福を‼」
ガノはそう言って、アッシュへ向かって行く。アッシュは剣を抜いて、ガノの攻撃を受け止めて焔を守るために反動で返して、奴との距離を置く。
そして、すかさず周囲からロラン、オリヴィエ、アストル、ルノーはガノを攻めて行く。アッシュは兵士たちにフロリと国王を避難させる指示を出し、兵士たちは急いで行う。
しかし、フロリは突如短剣を手にガヌロの元へと走って、斬りかかった。ガノは、その刃を頬に掠めた。
「ふざけるな‼ だからと言って、父さんを殺すのは許せねぇ‼」
「フロリ‼ よせ!」
アッシュは、そう言ってガノとの距離を離す。焔はその隙にガノに剣術の一撃を放つ。奴は彼女の刃を受け止めて、鍔競り合いをする。ガノはフロリの止めを刺したかったのか、イラつかせている。
「そこを、除け‼」
「断る‼ ……お前の様に、先祖を殺した事に対して、恨みがあるのは確かかもしれない。だが、そもそも、裏切りを企んでいたのなら処罰させられるのは、当たり前だ‼」
焔はそう言って、カーンと金属音を鳴らして、ガノを思いっきり突き放してフロリとの距離をつける。そして、イヴェールに跨るアストルは槍を手に急降下攻撃をする。
ガノはしつこいと感じたのか、剣に魔力を溜めて――
「どけぇ‼」
と言うと、奴の剣から闇の魔術による風が起こり、焔とアストルを吹き飛ばす。二人は不安定な体勢だったので、頬に傷を負った焔をルノーが、アストルをロランが上手くキャッチする。
「ルノー」
「大丈夫か、焔。……あれは、ただの剣じゃなさそうだ」
ルノーの言った通り、剣に宿るのは闇の力だ。しかし、アストルの方を見ると、可哀想な事に相棒であったイヴェールが致命傷を負って死んでしまっていた。相棒を亡くした事に、アストルは酷く泣いている。
怒りが込み上げた焔は、黒い刀身とその文様からして予測できるのは「あの剣だ」と感じてルノーに礼を言って立ち上がり、ガノに言う。
「貴様、手に持っている剣は、暗黒剣・ミュルグレか?」
「…っ‼ 何故、それを‼ お前が、この剣の名を知るはずが!」
「俺が学んだ知識でそう習った」
焔は、ソフィーから伝説の剣の知識も教えてもらった中で、暗黒剣・ミュルグレも含まれていて、残されている文献で複製魔術で再現してくれたのだ。それと、既に知識でガノが持っている剣はミュルグレと称される事を入れていた。
「フン。たかが、知識で成り立つと思うか?」
ガノは問い、焔は答える。
「それだけじゃない。だからこそ。騎士になるまで鍛錬を積んできた。塵と積もれば何とやら、だ。それに、お前がフロリが王子だと話したパーティーに出席しないのは、明らかに怪しいと見ていた」
「焔。これ以上、離しても無駄だ。お前は、フロリを頼む。コイツは、俺たちが片付ける」
アッシュはそう言って剣をガヌロに向ける。焔は仕方なく了承し、今にでも憎しみのみでガノに斬りかかりそうなフロリを落ち着かせに入る。
「フロリ‼」
「殺す……。アイツを始末しないと」
「フロリ、お気を確かに!」
「落ち着いてるよ!」
フロリはそう言うと、焔は思い切って彼の頬を平手打ちした。彼は驚いて何も言えない。彼女は言う。
「落ち着いてなど、ありません!貴方の想い人を、悲しませるのですか?憎しみだけで、相手を殺すなど。お父さんの言葉を、裏切るのですか‼」
「……っ!」
彼女の言葉に、フロリは我に返る。
そうだった。
『騎士は、憎しみだけで相手を成敗するものでは無く、大切な何かを守る為に戦うのだ』と稽古の際にアッシュが言っていたのを思い出した。
『この国を、頼む』…自分の父親が残した最後の言葉。そうだ。忘れてはいけない。王家の身として、民を守る。善悪を見定め、民を第一とし、平和を守る事。そして、密かに思いを抱いているあの人の為に。
「……悪かった。もう少しで、何かを忘れてた。……ありがとう」
「気付ければ、よしです! 後は、この事態を収めないと」
「あぁ、俺達のやるべき事で」
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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