第13節 初めてのパーティー
事件は一件落着となり、一躍有名になった焔とフロル。二人は、普段通りに生活をしていたが……
事件は収束して、王都ではジュヌヴィエが無事に救われた事に喜びを走らせる。また、フロリや焔の活躍も話題となり、注目を浴びてしまった。さらに、国内に発行される新聞にも大きな記事で報道された。
その翌日。
「俺たち、騎士でもないのに凄い注目だったな」
「確かに。入団式はまだ、先って言うのに……」
そう会話しながら、焔とフロリは住まいの平屋の外で、洗濯物を干していた。
確かに。騎士に昇格したと言う事が報道されない限り、騎士でもないに、注目されるのは複雑である。まして、焔は人々の視線が苦手なので尚更であった。
“ずっと前なんか、半ズボン無しって言ってた癖によぉ”
焔がそう思っていると、出掛けていたアッシュが走って戻って来て――
「お〜い! 二人共、今夜の城のパーティーに招待されたぞ!」
「え?」
「ん?」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁈』
あまりの事に、焔とフロリは同時にそれしか口に出来なかった。城のパーティーは王族や華族・騎士の者しか招待されない、即ち、庶民にとって未知なる世界だ。何もパーティーに相応しい服など持っていない。アッシュは言う。
「服については、安心しなよ。今日から、二人は騎士なんだから。騎士正装を着て参加すれば良いだけさ。焔は特にブラタマンテについで、女性で二人目の騎士だからな。国王も、話を聞いてぜひと招待したそうだぞ。ほら」
アッシュはそう言って、招待状の手紙を二枚取り出した。本物……ガチの招待状である。国王からの直々の招待状を断るのは、当然のこと無礼だ。二人は悩んだ末に、パーティーへ参加する事になった。
夕方になり、二人はアッシュと共に城へと向かう。門番に招待状を見せて、二人は着替えをする為に更衣室で騎士服装になる。焔はブラタマンテから、フロリはアッシュから着方を教わる。
「とてもお似合いですよ、焔先輩!」
ブラタマンテは、オーダーメイドされた騎士の服に着替えた焔を褒める。彼女は少し恥ずかしい思いをしつつ、ブラタマンテにこう言う。
「そ、そうかな。でも、先輩なのはブラタマンテの方だよ」
「いいえ! とんでもないですよ。ルノーお兄様が進歩したのは、焔先輩のおかげですから」
ブラタマンテはそう言う。彼女はルノーの事をお兄様と慕っているようだ。「お兄ちゃん子だ」と焔は強く感じる。ブラタマンテの案内で、アッシュとフロリとの集合場所へと集まる。フロリの騎士正装も中々似合っている。
「似合ってるじゃない!」
「そ、そうか。焔の方が似合ってると思う」
焔とフロリはそう話す。すると――
「フロリ様ですか?」
と声がかかった。四人が振り返ると、従者を連れているジュヌヴィエの姿があったので一礼をする。彼女は、四人に挨拶をしてからこう言った。
「焔様、フロリ様。あの時は本当に助かりました。騎士団と貴方たちがいなければ、どうなっていた事か。感謝しきれません」
「い、いいえ。もったいないお言葉です。ジュヌヴィエさん」
焔はそう言うと、ジュヌヴィエは彼女の手を取ってこう言う。
「焔さん。……お恥ずかしい事ですが、私のお友達になってくれませんか? 神からのお告げがあったんです。焔さんは友達に相応しい人だ、と」
ジュヌヴィエの言葉に、焔は突然の事だったので戸惑ったが、「う、嬉しいです。喜んで」と緊張気味に言う。
「緊張なさらなくて大丈夫。もう、私たちは友達よ」
「あ、ありがとう」
焔はそう言って頭を下げた。
(アッシュたち以外の皆に「様」付けで呼ばれ、神の予言を宣う事が出来るジュヌヴィエと友達に、また敬語では無く友達として話して欲しいと言われると周りに申し訳ない気が……)
と焔たち人格は思った。ジュヌヴィエは「では、また後で」と言って会場へ向かう。フロリは、彼女が去って行く様子をずっと見ていた。アッシュは彼にこっそりと言う。
「どーした、フロリ。あ! まさか、惚れてるのか?」
「なっ! んな訳無いって!」
フロリは頬を赤くして言う。アッシュは「悪かったって」と笑って言う。焔もブラタマンテも、互いに見合ってからクスクスと笑った。
(フロリはジュヌヴィエに惚れこんだらしい)
と。
そんな事もありながら、四人は騎士団も出席している会場へと向かった。騎士団の立ち位置に着くと、新人騎士の焔、フロリ、ブラタマンテ、オジェなど数名が前列に出された。
しかし、騎士団の一員でもあるガノは「体調を崩した」と言って欠席した様だ。焔はガッチガチに緊張している、とチルパが声を掛ける。
「大丈夫だ。いつもの君らしく振る舞うのが一番だぞ。その方が皆にとっても、君にとっても良い事だ」
「あ、ありがとうございます。チルパさん」
焔は深呼吸をして落ち着かせた。そして、焔とフロリに招待状を送った国王・レオ四世が現れて、会場にいる皆は敬意を示す礼をする。焔とフロリも、皆に倣って礼をする。焔は、あの方が国王陛下と思うが―—
“誰かと似ているような気が”
と思った。そして、国王は始めの言葉に、こう話を始めた。
「皆様方。今宵の宴にご参加いただき、誠に感謝しております。皆様方には、パーティーを存分にお楽しみ頂けたらと思います。そして、今年の騎士昇格者をご紹介致しましょう」
そう言われて、焔たちは立ち上がる。国王の近衛騎士でもあるアッシュは昇格者の名前を上げる。そして、最後に白銀騎士団の紹介に移る。
「続いて、白銀騎士団への昇格者を発表いたします。……ブラタマンテ・ド・モントーバン。……オジェ・ル・ダノワ。……式守焔、フローリ・マール。…以上となります。昇格者には、盛大な拍手をお願い致します。」
アッシュの言葉に、パーティーの参加者たちは拍手を上げる。焔を含む昇格者たちは一礼をした。管弦楽団による音楽で、パーティーは盛り上がりを見せてゆく。焔はダンスには行かずに、フロリと国王との面会をしていた。
「騎士昇格、おめでとう」
「い、いいえ。こちらこそ」
焔は慌ててそう言って、一礼する。フロルも慌てて倣う。
国王はアッシュやロラン、ルノー、ジュヌヴィエから聞いた焔の怪物退治の事を称賛した。また、フロリはジュヌヴィエを救出した事と怪物から守り切った事を称賛した。二人は、ほんの少しの努力だけだと謙遜する。
「そこまで謙遜はしなくて良い。誇りに思いなさい。……して、焔、フロリ」
『はい!』
「アッシュやルノーからよく聞かされていた。焔は、稽古に励み、己を強くして行こうとする意志が強いと。そして、仲間を大切にすると。……フロリは、焔と同様に稽古に励み、己のやるべき事を成していると。イグラド村の者の避難は、ご苦労だった。ジュヌヴィエ様も、たいそう感謝している」
「あ、いいえ」
フロリは少し照れながら、そう言った。国王は優しく微笑んでから「今宵の宴を存分に楽しみ給え」と言った。焔はアッシュたちの元へ行こうと立ち上がって行くと、同じ年位の青年たちが集まって来た。
「焔さん! 私と一曲踊りませんか?」
「焔さん。僕とお話しませんか?」
突然の誘いに、焔は困り果ててしまう。それを察したのか、助っ人がやって来た。
「皆さま。そんな一度に、一斉に来られては乙女焔が困りますよ。」
「モングラーヴ様!」
彼女のかかりつけ医者であるオリヴィエは言う。青年たちは彼に一礼をして敬意を示す。オリヴィエは「彼女の為にも一人一人落ち着いて話をして欲しい」とお願いした。青年たちは反抗する事も無く、オリヴィエの言う事に従った。
「あ、ありがとう、オリヴィエ」
「どういたしまして。さぁ、ゆっくり話していってね。困った事があったら、遠慮せずに呼んで」
オリヴィエの言葉に安心した焔は返事をした。そして、彼女は誘われた青年たちと少しずつ馴染みながら話をして言ったり、ダンスをしたりした。その一方で、国王はフロリに話しかける。
「パーティーは、いかがかね?」
「はい。楽しいです。初めてなので、緊張もしますが」
「それは何よりだ、我が息子よ」
「え?」
フロリは一瞬、国王が何を仰ったのか覚えていない。混乱していると察知した国王は、彼を落ち着かせて話をする。
「お前は、我が息子。第二王子、フロリマール・ルミソワだ。お前をイグラド村へ送ったのには訳がある。都合が合う日に、全てを話そう」
瞬く間に、食事や音楽を楽しみながらのパーティーは終わりに入った。国王は席を立ち、話を始めた。
「今宵の宴をお楽しみ下さり、ありがとうございました。……皆様にお伝え致します。我が国の後継者を、第二王子・フロリマールと致す」
国王がそう言うと、フロリは席からおずおずと立ち上がる。その瞬間、周囲はざわついた。焔は「どういう事なのか」と思っていると、アッシュは――
「十三年前に、王妃が何者かに暗殺され、五年前には第一王子、三年前には第三王子が暗殺され、第二王子は行方不明だって聞いただろ?」
と言い、焔は「オリヴィエから聞いた」と答え、
「フロリが、王子だったなんて」
と呟いた。国王は説明をする。
「我が息子にして、後継者。第二王子・フロリマール。未来のルミソワの国王である」
フロリを指し示して言った国王の言葉に、さらにざわついた。焔も、アッシュも、皆は当然驚く。国王はざわつきを沈めて言う。
「民にも、この事を伝える。来年の四月初日、正午にて第一広場で正式に公表する」
パーティーは無事に終了したが、国王の言葉は明日にでも影響が出るのは間違いないだろう。焔はそう確信するも、フロリことが心配だった。
「まさか、な」
「アッシュ。ちょっと、良いかな?」
焔は、アッシュにコソコソと話をする。話の内容を聞いて驚くアッシュだが、真剣な話だったのか「分かった」と言った。二人はフロリを迎えてから、平屋へと帰って行って明後日の事を話し合う。
「俺が、王子だなんて。何か、信じられないな」
「急に言われては、信じるのにも時間が必要ですからね」
焔の言う通り、今のフロリの様に状況が受け止められないに決まっている。アッシュもフロリがその状況である事は知っている。しかし、国王・レオ四世は明後日に民にも伝えるという急遽なものである。
明後日までには、心の準備なども整っている状態でなくてはいけない。王家が町に出る際には、騎士たちも護衛に回る。
フロリは、なおさらである。村人からいきなり王族身分へと昇格し、正統なる王子として振る舞わなければいけなくなってくる。負担は大きいに決まっている。
「俺、やって行けるのかな?」
「……フロリらしく、で良いと思う」
焔は、不安だらけのフロリに言う。フロリ彼女の顔を見る。彼の目に映ったのは、優しさと真剣な眼差しの焔だった。
「恐れてちゃ、何も始まらないよ! 誰だって、不安だ。困ったら、俺達に相談するのは、悪い事じゃない!」
「焔。……あぁ、その通りだな。国王陛下によれば、明日は王城で部屋とか、仕来りを覚えてくる予定なんだ。頑張ってみる」
「俺たちは、フロリの事を応援するからさ。明後日の警備は任せてくれ!」
「すまない。よろしく、頼む」
フロリは二人の頼もしい言葉に、励まされた。
(不安はあるけど、やってみよう)
と、それだけは彼は思った。
しかし、その夜。城の裏口から何者かが素早く出て行き、兵士の目を掻い潜って人気のない場所へと着いた。そこにはフードを深くかぶった一人の青年がいた。
「貴方様の言う通り。フロリマールは帰還していました」
「ご苦労。このまま、計画を実行する。あの娘にも、注意しろ」
「御意。貴方様が次世代の王になる事を、祈りましょう」
青年の指示に、仲間と思われる男はそう言った。
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次回『第14節 誇りを持て!』です。




