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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
序章 光と騎士の共和国 ルミソワ 編 ―己の役目―
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第9節 武勇を

 特別訓練として、焔はルノーから学んでいく!

 それから、数日後の昼頃。焔とフロリは、訓練所にてそれぞれの専属教師から剣術を教わっていた。フロリは順調に上達しているが、焔はまだまだである。


「また、相手に剣先が向いてないぞ」


「は、はい!」


 ほのかは、ルノーのそのアドバイスを聞くのは十回くらいだろう。申し訳ない気持ちで一杯である。ルノーはある程度の所で止めて、焔に問う。


「式守。お前、剣術をやった事はあるのか?」


「えっと、少しは。でも、同じチームの人達とはコミュニケーションを取れなくて、辞めました」


「それだけか?」


 ルノーは彼女レイの答えに、更に問う。彼に質問された焔は戸惑う。それだけか、彼女にとって、とても怖い質問だった。


 (目が、自分の考えを見据えている様で怖い)


 ほのかは、そう思って口が上手く開かない。そう思っていた時、腰辺りがチクっと痛んだ。腰痛かと思っていたが、違和感な事に、ホノは反抗心を燃やしていた。


 (うるさい……。あたしの何が、分かるんだぁぁぁぁ!)と暴走し始めるホノ、

 (ホノ、やめて!)


 とほのかは止めようとするが、それはあっと言う間に阻まれてしまった。


「……っ!」


 ホノは脇差を手にして、ルノーに突進して斬りかかる。彼は、腰にある剣を抜いて刃を受け止めた。それを見ていたロランとフロリは、焔の行動に不味いと感じて駆け寄るが――


「ロラン、フロリ。俺一人で、何とかします」


「あたしの、何が、分かるんだぁぁぁぁ!」


 ホノはそのまま暴走して、また斬りかかる。それでも、ルノーは受け止め――


「はっ!」


 と剣を振るって、軽く刃を焔に刻んだ。背面の腰あたりをやられた彼女にとって、強烈な痛みであった。狼の魔物……ルヴトーによって怪我した時よりも、激痛なのは本当である。


「う゛っ!」


 焔は激痛によって立っていられるのが、困難となってその場に倒れてしまい、意識が薄れて行く。彼女の耳には、困惑するフロリと怒りに燃えるロランの声が聞こえた。




 焔が目を覚ますと、天井が見えてベッドに横たわっていると気付いた。そして、腰の痛みも瞬時に戻ってきて、彼女は顔をしかめた。


「…っ‼︎」


 それに気付いたのか、オリヴィエが彼女に声を掛けた。


「焔‼︎ 良かった。心配したよ」


「オ、オリヴィエさん? 私……」


 ほのかは、あの後、どうなったのかと心配であった。


「オリヴィエで、良いぞ。昨日の事、説明するよ」


 オリヴィエは、心配する彼女にこう説明をした。

 まず、焔が倒れた後、フロリは直ぐにロランやオリヴィエ、アストルフォを呼んだ。彼女をオリヴィエが救急室へ運んだが、ロランは怒り心頭でフロリやアッシュ、アストルの三人で押さえたようだ。

 焔は剣の刃による傷の痛みにショックを受けて、気絶して寝続けていたと言う。時計を見ると、昨日より二十時間が経過していて、午前八時を指していた。


「ーーって事なんだ。けど、ルノーは意図的に斬った訳じゃなかった。実は、焔の腰辺りに何者かの使い魔が張り付いていたんだ。厄介な事に、透明魔術を用いていた。ルノーは幼い頃から魔力感知に鋭いから、使い魔を潰そうとした」


「使い魔?」


 使い魔。魔術師が行使する偵察や仕掛けなどを行う道具である。形は様々で、鳥を模していたり、固形型だったりと様々である。

 オリヴィエはその証拠を示す為に、包まれた布を出して、中に納められた壊れた使い魔の全ての破片を見せた。


「でも、その時の対応が不器用なルノーが悪いけど。……焔、昨日の稽古で、何か違和感は無かったかい?」


「えっと、そう言えば、腰のあたりがチクっと痛みました。あまりそう言うのは、経験していなかったので」


 レイはそう説明すると、オリヴィエは「やはり」と言う表情をする。彼女はオリヴィエの表情に、何かあったのかと気になっていると説明がなされた。


「実は、この使い魔。人にくっついて、催眠魔術に罹る様に出来ていた。焔が急に暴れ出した原因だね」


「で、でも、私。ルノーに、私が剣術を辞めた理由に対して、それだけかって聞かれて。ホノが、腹立たせていた時に、チクってなったから気のせいかなって思って」


 ほのかはそう説明するが、オリヴィエは彼女の口調や雰囲気を見ていて、話をしてから質問をしようと考えた。彼は話を変えて、質問を投げかける事にする。


「ねぇ、焔。私は、騎士をやっているけど、医者でもあるんだけど……。その立場として、一つだけ質問させてくれるかな?」


「いいよ」


 本人の許可を得た事を確認して、オリヴィエは質問する。


「今は、誰が喋ってるんだい?」


「ほのか、だよ。昨日、暴れたのは、ホノで。さっきの丁寧な説明はレイで。あとは、ユウは性別が無くて、ホムラとエルって言う男の子がいるんだよ! ……暴れたじゃねぇ、怒っただけだ。……ホノ、落ち着いてください」


 それを聞いて、オリヴィエは――


 “ほのかは、やはり診断通り多重人格者か。名前が付いているとなると、長い年月寄り添って来たんだね”


 と察する。


「ありがとう。君達の事情は分かった。何か困った時は言ってね」


「うん」


 オリヴィエの言葉に、焔は頷いた。そして、先程の使い魔の用途を聞いた。彼によると、人の中にある恨みや怒り、不安を利用して催眠魔術を発動させるものだった様で、焔の不安などに反応した、との事だ。


「でも、使い魔の持ち主が分からない。魔導探知ができる僕なら、直ぐにできるんだけど……」


「オリヴィエって、医学だけじゃなくて、魔導の才能があるのか」


 ホノは、彼がその様な力がある事に凄いと思った。オリヴィエは話を続ける。


「これは、魔力封じが強くて、誰のか探知できない様になっている。厄介なもんだ。……焔、何か心当たりはあるかな?」


 オリヴィエの質問に、焔は考える。まだ、この世界に来たばかりで心当たりは無いが、何となく嫌な予感がすると感じた。「これから、何か起ころうとしているのでは」と。


「う〜ん。特にないかな……」


 焔は、オリヴィエにそう言った。彼女の傷は完治するまでの時間は短いが、一日は休んだほうが良いとの事だ。


「一日か。筋肉は馬鹿だから、直ぐ鈍りそう……」


「その時は、その時。慌てない。一緒に乗り超えて行こう! ……そうそう。ルノーが言っていたけど、式守は上手いほうだから、才を開花させるとか言ってたんだよ」


「ルノーが?!」


 焔が驚くのも当然だ。クールで「氷の騎士」と言われるくらいだから、怖い人かと勘違いしていたようで、内側には人を思う気持ちがあるようだ。


 (人は、見た目だけじゃないんだな)


 とホノは感じた。そう思った時、救急室の扉が開いてアッシュ、フロリ、ロラン、アストルフォ、ルノーが入って来た。


「焔!」


 アッシュは、焔が目覚めた事に嬉しい表情をして駆けつける。フロリも同じで、良かったと言った。オリヴィエは事情を話した事を伝えると、アッシュは焔に言う。


「今日はゆっくり休んでおきなよ。明日、オリヴィエに傷の具合を見てから、稽古するか否かだ。……大丈夫。俺たちがついている。ガノも、ブラタマンテもオジェもだ。個性溢れる俺たちだが、仲良くやって行こうぜ!」


「アッシュ先輩の仰る通りです、乙女マドモアゼル・焔。聞きたい事があれば、何とぞ」


 とロラン、


「そうだよ‼︎ いつでも、頼れる僕たちがいるよ‼︎ 安心して!」


 とアストル、


「俺も、出来る事なら答えてやるさ! 騎士様たちも、そう思っているよ。」


 フロリはそう言って焔を励ます。そして、ルノーは照れながらもこう言った。


「……さっきのは、悪かった。お、お前を、強くしてやっから!」


「ありがとうございます。皆さん」


 焔はお礼を言って、笑顔を向けた。すると、扉が再び開いて二人の騎士が来た。一人はルノーと髪の毛の色が同じで水色の瞳を持つ少女と、もう一人は茶髪で黒の瞳を持っている少し小柄な青年が来た。


「ルノー兄様。ここにいらしたのですね!」


「な、なんだよ? ブラタマンテ」


「今日、私とオジェの訓練生昇格認定式に来るって約束しましたよね!」


 ブラタマンテと言われた少女はルノーにそう言う。そう言われた彼は「ゲっ!」と言う反応をする。焔以外の皆は彼が「完全に忘れ、行くのも忘れた」と察した。ルノーは不器用に言う。


「わ、悪かったよ。あ、あとで、記念に料理をおごってやるからよ」


「本当ですか?! 嬉しいです、兄様‼︎」


「ブラタマンテ‼︎ 先輩の皆さんがいるのですし、もう少し声を…。」


 オジェと呼ばれる青年はブラタマンテに言う。彼女は周囲を見て、ハッとしたのか、シャキッとして―


「すみません‼︎」


 と言う。すると、アッシュが彼女にこう言う。


「大丈夫だ。お前を怒らせた、兄が悪いんだから」


「アッシュ先輩。それ以上、言わないでください」


 ルノーの冷たい眼差しに、アッシュは冗談気味に「ひぃ~、怖い怖い」と言う。焔でも彼の冷たく鋭い視線はオリヴィエとは違う感覚で背筋が凍る。やはり、氷の騎士と言われるのは伊達ではなさそうだ。

 ブラタマンテとオジェは、焔とフロリに気付いたのか、名乗りを上げた。


「自己紹介が遅くなり、すみません。僕は、オジェ・ル・ダノワと申します。こちらは――」


「ブラタマンテと申します! ルノー兄様が、お世話になっています。よろしくお願いいたします!」


 二人の挨拶が終わった後、焔とフロルも挨拶を返す。ブラタマンテはルノーが焔の専属剣術模範である事を知っているので、彼女に話をする。


「怪我は平気なのですか? 貴方の為とはいえ、兄様が……」


「き、気にしていませんよ! むしろ、助かった方です」


「焔。ブラタマンテは、お前より一つ下だぞ。敬語は無用だぞ?」


 焔が年下のブラタマンテに敬語を使っている事に、アッシュはクスクスと笑って言う。だが、焔にとってはとても(ある意味)ヤバい状況の中で、気楽に喋れないのである。


 (で、でもぉ~! こんな、状況でタメ口は言えねぇって!)とホノ、

 (こりゃあ、まぁ、そうだな。十二勇士の名前に当たるような人物がずらりだもんな)とホムラが思考する。


 そう。焔以外の人物は、名前からして騎士道物語の代表の一つ『ロランの歌』や『シャルルマーニュ十二勇士』に登場する騎士たちである。主人公のロランを中心に、それぞれ武勇たる逸話が残されている。当時の中世で、人気を博した様だ。


「で、でも……」


「ふふ、緊張はなさらず大丈夫ですよ。兄様や先輩たちの世話になっているのですから!」


 ブラタマンテはそう言って焔を励ました。


「う、うん。こんな体勢で申し訳ないけど……よろしくね。ブラタマンテちゃん、オジェ君」


 焔は、二人とそれぞれ握手を交わした。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします!


 次回『第10節 武勇を、今ここに』です。

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