第25節 海の魔獣 ―人も神も……―
オリュンポスに危機が迫ると予言され、油断ならない状況の中、海の怪物が姿を現す。
翌日。焔は、魔獣討伐の警報を聞いて現場へ向かう。敵は海の中におり、シュメールへ向かう為の航路を邪魔している。
[敵性反応補足。敵性個体:カリュブディス 超大型怪物・危険生物認定。ポセイドン、ガイアの神性反応あり]
「俺の親父と繋がりがあるってよぉ……厄介すぎる。」
「オリオン。……確かに、神の娘に手を出す訳には行きません。しかし、人に危害を加えるのはよくありません。」
「あぁ、ポルックスの言う通りだ。だが、今は従者。焔の判断が必要だ。」
「怪物退治は得意ではあるが、カストル殿が言う通り。我ら主のご判断次第だ。」
オリオン、ポルックスとカストル、ペルセウスは話をしながら焔の判断を待つ。焔は飛行部隊に偵察と貿易船の護衛を依頼しているが、一刻も早く討伐命令を出さなければいけない。
「皆さん、聞いてください。今回は、囮作戦を取ります。陸上部隊は軍艦へ乗り込み、カリュブディスに近づいてください。渦を発生させ、カリュブディスが姿を現したところで、私が白銀騎士団団長と共に止めを刺します。」
[か、監督生がか?!]
[む、無茶です!]
誰もが伝達魔術を通じて言う。しかし、焔は怯むことなく――
「私一人ではなく、今回は全員が無茶をすることになります。カリュブディスは、あらゆるものを飲み込みます。獲物をより多く海の上にいることが、倒す為の作戦です。
オリュンポスの為に、脅威は取り除きます。弓兵、剣士、馭者。そして白銀騎士団に、各部隊の援護をしてもらいます。……生きて帰りましょう、皆さん‼」
と述べた。彼女の言葉は、不思議な事に全部隊の戦意低下を押しとどめた。焔自身もレイの言葉に不思議な力があると思った。白銀騎士団とクー・フーリンは二手に分かれる。
アルケイデスら陸上部隊は、魔法工学技術を使った船に乗り込んでカリュブディスの周辺へ向かう。
[陸上・魔装部隊は、遠距離魔術で顔を出したカリュブディスの体力を削ります。弓矢部隊は、雷魔術を使用してください。飛行部隊は最初にカリュブディスを刺激して顔を出させ、クロストライアングル陣形戦法を行います]
[了解]
[分かりました]
[御意]
焔は各隊長の返事を聞き、白銀竜となったアッシュの背中に乗った。アストルは、グリンに跨って軍艦周辺を飛ぶ。飛行部隊は、ある場所で旋回する。一方、モージは軍艦の甲板から海を眺める。
「あの渦がカリュブディスがいる場所……。」
「モージは、初めてなのか? 俺が言うのも何だが。」
と、ルノーはモージの隣に来て言う。
「神話の怪物だなんて聞いただけだよ、従兄さん。オリランド先輩は、まだ治療受けてる状態だから色々聞きたかったけど。でも、先輩に頼りっぱなしは良くない。自分に出来る事をしたいって思ってる。」
「そう思って行動するだけで十分だ、モージ。そろそろ、近づくぞ。」
焔は、アッシュの背から海を見下ろす。カリュブディスの影は、魔獣討伐クラスが敷く陣形の真ん中にある。
そして、彼女は伝達魔術で飛行部隊に「雷魔術を影に向けて発射」と指示を出す。飛行部隊から発射された雷魔術は、海に着弾して水面の広範囲に広がる。それに反応してカリュブディスの影が水面に近づき、口を開けて渦を作り始めた。
[船は、常時渦に注意してください! 全部隊、作戦開始です‼]
焔の指示で、部隊全体が動き出す。カリュブディスは、大きな口を開けながら上へ長い触手のようなモノを伸ばしている。そこに飛行部隊が飛空して触手を誘導し、他の部隊が雷魔術を使って攻撃を行う。
カリュブディスは海にいる事もあって、電撃で動きが鈍くなっている。しかし、直ぐに俊敏な動きを取り戻し、飛行部隊へ襲い掛かる。触手に囚われた生徒を飛空技術を身に付けた白銀騎士団が救助する。
「はぁっ!」
フロルドリは、甲板から生徒らと共に弓矢を放ってカリュブディスの触手を退ける。フロリマールは飛空しながら彼女と連携を行う。
そして、奴に近づく船の甲板でローランとオリヴィエ、ルノーとモージが生徒らと連携攻撃を行う。
「やぁッ‼」
「せやッ‼」
ロランとオリヴィエの一心同体の攻撃は、遠距離攻撃を行う生徒らの支えになっている。生徒らは、安心して遠距離攻撃を行っている。
ルノーは二刀流を使いこなし、触手の所々に氷の刃で傷をつけ感電効果を高める仕掛けをする。モージは飛翔魔術で彼を乗せ、俊敏な動きをして触手の攻撃を躱す。
一方、別の船にて。
「……っ! 来ます! 反撃です!」
フロルドリは、予知を得て生徒らに注意を促す。触手がフロルドリの船へ襲い掛かり、彼女と生徒らは弓矢で迎撃。フロリマールは、彼らの前に立って暗黒剣・ミュルグレの切っ先を触手に突き刺す。そして、雷魔術の矢が多く刺さったと同時に、ミュルグレの力を使って触手を切り裂く。
その時、船がガクッと揺れ始めた。空から見ていた焔とアッシュ、アストルとグリン、飛行部隊は、海の変化を見ていた。
「カリュブディスが渦を巻き始めました。船は、例のモノを海に投げて退散するように。飛行部隊は、万が一に備えて船員の救援をお願いします。」
焔はそう指示し、奴が姿を現す時を待つ。そして、船から投げ出されたモノが全て渦の中心へ吸い込まれた直後、奴が渦の中心から姿を現した。
[モージ!]
「了解! 起爆せよ、雷霆ッ‼]
モージは手にしていた魔法石に魔力を送り込むと、姿を現したカリュブディスの様子がおかしかった。すると、奴の周囲に電気が激しく帯びた。海に投げ込んだのは、雷魔術が閉じ込められた爆弾だった。カリュブディスは、体内で猛烈な感電を引き起こす。
「やぁッ‼」
焔は魔剣を手にすると、アッシュの背から飛んでカリュブディスへ真っ直ぐに滑空する。そして、無意識の奥にある力を呼び覚ます。
“あなたの力、使う!”
“分かった”
魔剣の刀身に邪竜の力が纏い、怪しくも美しい光を帯びる。同時に、焔の左腕に巻かれていた包帯が解かれて黒く染まった腕が現れる。また、肌に張り付いている赤黒い蔓のようなモノが光り出す。
その光を合図に、弓兵、剣士、馭者が神速の勢いで奴の口元を切り裂く。そして、赤黒い光は急下降したまま、切り裂かれたカリュブディスの口へ到達した。
「おりゃァァァァァァァァッ‼」
焔は魔剣を突きだしたまま、カリュブディスの口を切り裂いて体内へ突入する。神の血を持つ英雄さえ追い込んだ力は凄まじく、奴の体内でも滑空時の速さが弱まらなかった。
心臓部へ到着すると、下半身が化け物と一体化している女性を見つけた。彼女はすかさず、女性に向けて闇の刃を振り降ろした。
その瞬間、カリュブディスは邪竜の力によって体内爆発を起こし、身体は散り散りとなって周囲に血の雨が降り注ぐ。渦で荒れていた海は、穏やかな波へ戻って行く。
焔は、魔剣を異空間へ収納して海中から水面へ顔を出す。紐解かれた包帯は彼女の首に巻き付いており、付与された魔法で左腕に巻き直された。
「いっ!」
彼女の左腕は、ジリジリと焼ける様な感覚に襲われるが、海水でいくらか痛みは和らいだ。
“た、倒したか……。でも、明日は、あの女怪との戦いが待っているかもしれない”
と、気を引き締める意気込みを心で呟きながら、カリュブディスの体内にいた女を思い出す。
『いたい……くるしい』
“あの人、そう言っていた様な気がする。人間も、神様も、同じなんだな……”
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