第24節 慈悲深い心
魔獣からオリュンポスを守り抜いているある日のこと。ゾーイと街の散策に出かけた焔は、ある人物から彼女の慈悲深い心を聞く。
翌日。オリオン、双子、ペルセウスを新たに迎え入れた部隊は、より一層の魔獣討伐を有利へ進ませ、防衛兵器も十分に備えられた。
しかし、怪我人は少しばかり増え、英雄だよりにする者が現れたのだ。焔はそれを見て、自分と仲間に雨と鞭を施した。
“あれから、左手の訓練は順調……といっても、呪いが進行する”
「姉さん。」
「キュッ!」
「アル! アーサーも。どうしたの?」
「いや、その。左腕、気になってて。大丈夫かなって。」
「キュウ……。」
焔はアールシュとアーサーの表情を見て、心配している事は明らかなのを確信する。彼らの為、「いつ呪いが進行するか分からないけど、今は大丈夫。ありがとう」と言った。
また、アールシュは彼女に自分の事を話した。記憶が段々、蘇って来ているという。
「さっき思い出したんだ。予言なんだけど……。」
「予言?」
「天空で、誤解が招いた戦争勃発す。だが、勇猛と叡智の炎を携えた者が、現れる新たな神に世の真実を伝えん……って。」
“不思議な予言。叡智の炎は、いずれ探さないと……”
「ありがとう、アル。それに、立派になって来たじゃん。……そう言えば、騎士団の皆に会ってないなぁ。」
「まだ外出刻限は先だよ。今からでも、遅くないよ。」
「キュウ!」
「……アルとアーサーが言うなら行こうか。帰ってきたら、いろいろやる事があるけど。」
焔はアールシュの案内の元、騎士団が学園の特別許可で寝泊まりしている場所へ到着して再会を果たす。早速、目の当たりにしたのはロランを睨みつけるオリヴィエの姿である。
「貴公。最近、鍛錬を怠って怪我をしたと。その理由が、愛する人にフラれた?」
“コっっワッ!”
「ほ、ほんとうですぅ……。」
“……虫の息”
ロランは涙ぐみ、オリヴィエの氷のような恐ろしい怒りである。焔は勿論、仲間たちも手出しできないほどである。その間、アストルとグリンに会う。
「あ、焔~!」
「ご主人がお会いしとうございましたよ。」
「アストル、グリン! 元気そうで何より。」
「本当に大丈夫と信じたいけど、モルガンって言う鴉とクー・フーリン王子が急にアテネ向かうように言ってきて。その直後、モージから手紙が来てさ。」
「そうだったのか。」
「アッシュは焔に何かあったって聞いて大慌てだったよ。さっきの様子だと、君の無事を見て安心しきった感じだね。……あ、そう言えば、アテネから離れた沖合に何かがあったんだ。水の中にあったから何かは分からないけど……。」
「四角い何か?」
「そ、ちょーデカいの!」
「アストル、ありがとう。ちょっと、仕事を思い出した。」
焔はアストルとグリンに見送られ、急いでトリトン観測所へ向かった。彼女は、観測所の者たちへ海の調査を依頼して、スクリーンから確認する。
「確かに、焔さんの言う通り。海の水中に何かあるようですね。」
「近づく事はできますか?」
「それが、強力な結界魔術の魔力を感知し、迂闊に近づけば危険と分析されています。ですが、ここの所の地震の震源は、丁度ここになっています。」
「ありがとうございます。結界魔術の解析はできますか?」
「ある程度ですが……。円形に展開しており、生命を吸収する吸血魔術であるのは間違いないと思います。」
職員は、焔にそう伝えた。その時、魔法魔術研究機関の職員が焔の元へと駆けつけた。魔法工学の技術で海底にあるモノの調査を報告しに来たらしい。
「実は、トリトンとニーケのデータから我々は魔法工学の無人小型潜水艦を発射させていました。極秘だった為、報告は遅くなりましたが、近づいた途端に囚われて通信が遮断されたんです。」
「忙しい中、ありがとうございます。その対策を、こちらでも協議します。」
焔は急いで研究所を後にし、会議室で緊急会議を開催した。早速、研究機関が調べたデータを共有し、対策を急がねばならないと話した。
これを聞いたアルケイデスとメガラらは驚きを隠せなかったが、「すぐさま準備を進める必要がある」と全員の意見が一致した。
自室に戻ると、ゾーイがいた。彼女は、焔にある事を尋ねた。無論、会議室で話していたことだ。
「……うん。観測所と研究所の人が言っていたから、間違っては無いよ。英雄が召喚されたのは、それに対抗するため。……ゾ、メドゥーサ。もしかして……。」
ゾーイは、焔の言葉に「自分は、その為に呼ばれた」と口にした。
彼女は召喚された際、未来の自分がオリュンポスを滅ぼしかねないこと、自分ながら大きな過ちをしたと知った。しかし、未来の自分は姉たちを巻き込んだ挙句、過去の自分を忘れていると思うと話す。
「自分を、忘れる?」
「はい。彼女、未来の私は“復讐”という概念に囚われています。とにかく、人間とその文明、神々を容赦なく破壊することが目的です。」
「……。」
「焔?」
「あ、ごめん。なんか、思い出しちゃってさ。昔の自分が、どれだけ無知だったんだろって……正義が、時に人を傷付けることもあるって気付くのが遅かった。」
焔は、唯一の後悔を口にした。もっと早く言葉の真意に気付いていれば、と。すると、ゾーイは彼女の手を握って言う。
「そうであったとしても、貴女にはまだ未来があります。私だって、人間は嫌いでもいい人がいると今になって気付いたんです。神々も、ほぼ同じです。気付けただけでも、良いと思います。」
「ゾーイ……あ、ありがとう。あー、こうなったら、町へ散歩しようかな。ゾーイ、一緒に良いかな?」
「はい。」
二人は言葉にしなくても、心で通じ合ったかのように部屋を出た。路面電車で町へ出て散策をしながら、甘いものなどを口にする。焔は束の間でもゾーイとの思い出を作れたことに嬉しさが零れた。
ゾーイは、帰りの道中で持ち帰りのスイーツを店舗前で考えていた時のこと。
「お嬢さん。すまないが、アテネ剣魔術学園を知らないかい?」
焔は、一人のお婆さんに道を尋ねられた。彼女は、お婆さんに監督生である事を伝えて道案内をしようかと尋ねた。お婆さんは、笑顔で答える。
「監督生さんだったかい。道案内と言うより、ある子にお届け物をしたくてね。これなんだよ。」
「花冠、ですか?」
「そうじゃ。魔法工、というモノで永遠に枯れない様にしたんじゃ。加工しないままのほうが綺麗なのは確かじゃ。
あの子はまだ可愛い少女。大人になれば、きっとべっぴんさんじゃろう。良い旦那ができた時は、この花冠を使うのも悪くはないじゃろ?」
「そう、ですね。ゾーイなら、綺麗な女性になれると思います。」
「そうか、あの子はゾーイと言うのか。……では、監督生さんよろしく頼みました。店はここ等へんだ。見送りは、ここまでで良いよ。」
「分かりました。道中、お気をつけて。」
焔はお婆さんを見送ると同時に、ゾーイが帰って来た。彼女は、焔の手に花冠がある事に気付いた。ゾーイは、事の敬意を知って花冠を差し出されるが――
「すみません。それは、受け取れません。」
と悲しい表情で言う。
「ゾーイ……。」
「私は、お婆さんと一緒に花屋の仕事をして楽しかったのは間違いないのです。しかし、私は醜い怪物です。その恩は、お婆さんの為、強敵と戦います。」
“ゾーイ……”と焔、
“随分、覚悟があるようじゃねぇか。あの目”とエル、
“あの目つき。あの人と同じ、ですね”とレイ、
“レイ?”と焔、
“ごめんなさい。少し、懐かしいと思って”とレイ
は、脳内で会話する。ゾーイは心で喜びを持っているに違いないが、自分は何のために召喚されたかという使命を全うするために抑えていた。
一方、場所も分からぬ闇の中――
「……我らの神の降臨は近い。今度こそ、喰らおうぞ。儀式を完成させるには、あの道具が必要だ。」
と、薄笑いを浮かべる魔術師は、謎の黒曜石を持つ焔を魔術・千里眼で見ていた。
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