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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅲ章 魔法工学先端国 オリュンポス諸国 編 ―小さな光と大きな闇―
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第23節 光と闇

 オリュンポスを守り通した焔。しかし、邪龍との戦いの傷……呪いは後遺症として残るのだった。

 焔はファヴォックの呪いを受けた日を境に、夜に(うな)されることが多くなった。ゾーイは、英雄として召喚され、睡眠を必要としない為に彼女の傍にいた。


(マスター)。」


 “どうか、(マスター)を悪夢から解放してください。私の様に、()()に囚われずに……”


 ◆


 夢。焔は暗闇の中、辺りを見回していた。

 どこもかしこも暗く、光が見えてこない。突如、気配を感じて振返ると、白と赤紫の光を放つ球体が浮かんでいた。


「誰?!」


「名前はない。存在価値を認められなかった者に、名前を持つ資格はない。」


 姿は分からないが、声は青年に近い感じだった。球体は、思念体として存在しているのだろう。


「認められなかった?」


「エディタだよ。ボクは、彼女の依頼を完璧に果たせなかった。」


 “依頼を果たせなかった? エディタが?”


「いらないものは、初めから存在すべきではない。君も、そう思わないか? この世界は、いや、全宇宙はそう法則づけている、と。」


 青年は、焔へ断言するかのように話した。彼女は、真剣な眼差しで彼に訴える。


 「そう簡単に決めない方が良いよ。たった一人の言葉で、そう判断するのは早すぎる。」


「何故? 何故、君はそう言い切れる。……フフ。やはり、人間って命に危険があると抗うって本当だ。

 君は左腕に呪いを受けて、ボクがここにいることになる羽目になったというのに。」


「い、今なんて……呪いで貴方がいる?」


 焔は混乱する。しかし、青年は、彼女に衝撃を与える言葉をすぐに言う。


「ボクは、存在する必要はないとして、ファヴォックの心臓の源として捨てられた。ボクは、心臓の中で姿を変えられ、目も見えなくなった。世界を、この目で見たかったのに……。」


 “世界を見る視界を奪われた?"


「まさか……。」


「やはり、見てしまったんだ。……あんな醜い姿、君は恐ろしいだろ?」


 青年は、そう口にする。確かに、恐ろしいのはほんとうだ。けれど、ファヴォックの真相を知っている焔にとって答え難いところ。彼女は、自分の考えを答える。


「……。……分からない。恐ろしいとは言い切れない。むしろ、残酷だと思う。実は、エディタからファヴォックの真相についての資料を受け取って、貴方が話してくれたことで納得した。」


「エディタ、自ら?」


「貴方のことも……ほかの子も。だから、私はあの時、ファヴォックを魔剣(ダイン・グラム)で消滅させた。

 剣は、ファヴォックの性能を完全に受け継いでる。それに、他の人に持たせないし、持てない。むしろ、使いこなすかな。」


「使いこなす? 君の体がどうなるか分からないぞ。」


「分からなくても、魔剣に利用価値はある。それに、監督生の使命を果たさないといけない。……それで多くの人が救えるなら、身体が朽ちても構わない。

 あと、貴方に世界を見せるよ。世界は、未知で不思議ばかりだって。力も、限度はあるけど振るってもらうから。」


「世界を、見せる……。力を使う……。君の頑張り次第はあると思うけど、その意見を承諾する。だけど、邪龍の脅威は、まだある。忠告しておいたから。」


 ◆


 焔はゆっくりと目を開けると、カーテンの間から朝日が降り注いでいたのを見る。ゾーイは、彼女をのぞき込んで言う。


「おはようございます、(マスター)。」


「おはよう、ゾーイ。」


「少しだけ魘されていましたが、大丈夫ですか?」


「うん。……? 腕の痛みが、ない?」


 “あの声の主が、説得したからか?”


「痛みは無いのは幸いです。しかし、見た目はお変わりなく……。」


「あぁ、すまない。独り言だから、今のは忘れて。……そういえば、ゾーイは何か調子悪いとか無い?」


 焔は、ファヴォックの呪いが魔力にも影響がないか確認する。ゾーイは、今のところ体調に異変はなく、魔力も悪い流れではないと話した。彼女は、周囲に影響が出ていないことを聞いて安堵する。

 その時、焔の右手の甲にある紋章が光り出した。ゾーイは反応の正体が何かを、驚く彼女に知らせる。


(マスター)! 新たな英雄が召喚されたようです。時期に、貴女の元へ来るでしょう。」


「新たな英雄、か。」


 『焔よ。聞こえるか?』


 “その声は、ゼウス様?”


 『新たな英雄が、汝の元へ来るだろう。天と地を行き来する双子、翼を持つ白馬の戦士、狩人及び海の子が大地へ降りる。汝が邪竜を倒した事で、彼らの魂が解放された。感謝する。

 しかし、汝に背負わせてしまうものがあろうとは……』


 “ご心配なさらず、全能神・ゼウス。私は、オリュンポスの平和を守れたことが良いと思っています。十二神の皆様にも、安心して欲しいのです”


 『うむ。流石、汝は肝が据わっている。これを受け入れるのも神の役目だ。だが、決して無理はせぬ様に』


 “はい”


 焔はゼウスとの意思会話を終え、支度を整えていると、部屋へフロリマールとフロルドリが訪れた。フロルドリは焔を見た途端に走り出し、飛びついて抱きしめた。


「わぁっ!」


「焔……。良かった、無事で。」


「フロルドリ……心配させてごめん。」


「言っただろ、フロルドリ。焔は、こんな所で倒れる友じゃないって。」


「うん。」


「二人共、ありがとう。今の所、大丈夫。」


 焔は二人と分かれてゾーイを連れたまま、会議室を訪れた。数日ぶりと言う事もあり、アルケイデスが大変そうな表情をしているのが直ぐに分かった。


「皆さん、すみません。」


「いいのよ、焔ちゃん。何があっても無茶は駄目だから、ね。」


 と、アルケイデスの傍にいたメガラは言う。(レイ)は、彼女に「ありがとうございます」と頭を下げる。他のメンバーも同じだった。


「まぁ、無事でよかったよ。僕も、なんとか怪我は治った。ケイローン先生も。」


 モージは、焔へ励ましの言葉を言った。彼女は彼に礼を言い、現状を把握する。負傷者は回復に向かいつつあり、アスクレピオスによる心理治療も順調である。

 また、アテネの災害時の避難経路などの情報も市民へ広がり、対魔獣の防衛兵器は開発・展開されているという。


「よかった。……でも、油断は禁物。過去のオリュンポスは神々の時代があったそうですから、封印されただけの魔獣や敵対組織は多くいると聞きます。」


「確かにそうだね、焔。それと、トリトンが微弱な地震が頻発のを観測しているんだ。あの一族が復活したら、大変な事になるのは間違いない。」


「モージの言う通りです。」


「あ、そうそう。焔、報告があったの。」


 アンジェリカはそう言って、メンバー全員にあるデータをホログラム画面に表示する。そこには、世界安定観測望遠鏡ニーケから観測されたデータである。


 【二ヵ月間はアテネや己の周囲に警戒せよ】


 【一ヵ月前後にて、女神から獣へ落ちた怪物が海より現る】


 焔は一つ目のデータはともかく、二つ目のを見て察した。ニーケは、以前にファヴォックの復活を模予言していたが、伝説として残っている現在ではありえないと勝手に取り下げられていたらしい。

 彼女は取り下げたことに少々腹を立てたが、これは対策を必要とすると直感した。


「えっと、対策として……一つ目は、二ヵ月ほど町の警備を増強すること。二つ目は、弱点を探すことになります。」


 と焔は言った。その時、アッシュが随分と慌てて部屋に駆け込んだ。アテネ剣魔術学園の門前にて焔を待っている四人の男がいるという。

 彼女は、急いで門へ向かう。そこにはアッシュの言う通り、四人の男女がいた。


「お待ちしていました、我らの(マスター)。」


 と言ったのは、大柄の男。名を問うと、熾天英雄(グレートヒーローズ)の一人。弓兵の狩人・オリオンだった。そして、残りのメンバーは、剣士・双子(デュオスクロイ)と騎兵・ペルセウスである。


「貴女が邪竜を倒してくれた事で、私たちは久しぶりに地に足を点ける事が出来ました。本当に、感謝しています。」


 と、ペルセウスは話す。


「私は、カストル。こちらは、妹のポルックス。(マスター)を支え、オリュンポスを救う為、過去に空より馳せ参じました。」


「兄上の仰る通り。(マスター)とオリュンポスへ尽力いたします。」


 と、カストルとポルックスは言う。

 焔は彼らに感謝の一礼し、オリュンポスを守る契約を再確認した。すると、ペルセウスは彼女にある質問をする。


(マスター)。その、アテナ様から聞いたのだが、私が討ち取った怪……女神がいると聞いたのだ。」


「ん? あぁ。でも、大丈夫だよ、騎兵(キャブマン)。まぁ、気まずいのは分かるよ……。ただ――」


 と、焔はペルセウスだけに“ある件”について耳打ちする。彼は、自分が呼ばれた理由を悟った。

 また、双子には早速町の様子を見たいと聞き、門限内であれば心配は無いと話した。オリオンは、早々肩慣らしにと訓練所へ向かった。その様子をゾーイは物陰から見ていた。


 “あの騎兵……間違いない。未来の私の、()……”

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

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