第20節 災禍の再訪➀
空が深紅の色に染まるのを見た焔。彼女は、思いもよらない事態に遭遇する。
焔は、空が深紅の色に染まるのを見て、急いで身支度をして部屋を出る。
廊下には赤黒い魔力の流れがあり、何処か繋がっているようだ。彼女は魔力の流れに沿って、誰も起こさぬ様に静かに歩く。
“これは、術を使わなくても見えてるのか?”
疑問をいだきながら、しばらくすると流れが壁で遮断されていた。彼女は、考え込む。
“ん? そう言えば、隠し通路があるって言ってたような……どこだ?”
焔は何処かと探していると、無意識内にいるユウが目を覚ましたのか――
“焔、一つだけ煉瓦の大きさが違うよ”
“ユウ?!”
“仕掛けの隠し通路さ。少し、身体を借りるよ”
と、焔は仕掛け部分の煉瓦に触れて押し込む。一つだけ大きさが唯一異なる煉瓦は、仕掛けを動かすスイッチそのもの。スイッチが押された事で、壁になっていた部分が静かに扉として開く。
魔力はその先に流れていて、焔は直ぐに流れを辿って行く。数分かけて到着したのは、外に通じる洞穴。その先に『エディタの災禍』の激戦地跡である。
焔は、その激戦地から膨大な魔力反応を感じ取った。すると――
「焔。」
と、ゾーイが声を掛けて来た。隣には、人よりも大きい狼がいた。彼女はゾーイがいる事に驚くが、大きな狼に一歩退いてしまう。ゾーイから詳しい話を聞き、狼の正体を知った。
「まさか、天空神を育てた母狼とは……恐れ多いです。」
「ふふ、気にするな。私は、彼ら双子を活かす為に守り抜いていたにすぎぬ。……それよりも、ここに来たのは魔力の流れに導かれたということだな?」
「はい。」
「月夜が赤いのは、あの災禍が再び起ころうとする予兆だ。焔と言ったな。直ぐに討伐班を集め、この山に待機させると良い。精鋭だけで元凶の元へ。このままでは、無垢なる盾騎士の命が危ない。」
「……ッ?! まさか!」
焔は母狼に従い、スマホを操作して討伐クラスに緊急指令を出す。生徒らは眠気に負けそうだったが、空が赤くなっている事に一気に眠気が覚めていく。
いち早く集合場所へ来たのは、特攻隊と各班班長たちだ。
「おい、何があったんだ? って、なんだ?! その狼は!」
「ミュケナイ先輩。すみませんが、今はそれ所ではないのです。空の異変に気付いたと思いますが、あの災禍が再び起ころうとしています。
特攻隊で私と同行するのは、ミュケナイ先輩、オリランド先輩、アールシュ、アシェルです。残りは、各部隊の隊長と連携して欲しいです。私たちは、直ぐに出陣します。」
焔は、そう話して指揮権をロラン、彼の補佐をルノーとメガラに託した。彼女は「オリュンポスが、再び災禍に見舞われない様に食い止めること」と号令を出した。
「ゾーイ。ここで部隊の援護を、お願い。」
「分かりました。」
焔は連れて行くメンバーと話をする為、全部隊の集合場所から少し離れる。
母狼から詳細を聞いたメンバーは、ギャレットが危ない事を知って、急いで準備を整える。その時、狼の遠吠えが聞こえてきた。
「何だ?」
「仲間の声だ。……ギャレットが危ない!」
「皆、行くぞ!」
焔は、飛翔術を使って崖を飛び降り、追いかけて来た母狼の背に乗る。
アールシュとアルケイデスは俊足で、オリランドとアシェルは飛空して出陣する。アーサーは、アールシュの肩にしがみつく。
一方、ギャレットは、身体に巻き付く細い黒い帯へ必死に反撃していた。しかし、深紅の光を放つ心臓を中心に、ウネウネとしたモノが集まって形へと変化して行く。
“なんだ、これは!”
「……っ!」
ギャレットは心臓の持ち主の正体を知った瞬間、ウネウネの中に閉じ込められる。魔術師たちは、それを確認すると姿を消していく。完全復活ではないものの、ファヴウォックは雄たけびを上げる。
「焔ーっ!」
ギャレットは、ファヴウォックの体内から抜け出せない絶望に落とされて叫んだ。
焔たちが出陣して数分後。彼らの視界は、激戦地跡の地下の大きな空間の洞窟が広がっていた。
「魔力が強くなっている。お主ら、気をつけるのじゃ!」
オリランドの言葉に、焔たちは警戒を強める。すると、母狼は足を止めた。他のメンバーも彼女の後ろで足を止めた。母狼は周囲を見渡し、オリランドは剣を手に警戒する。
焔は母狼の背から降りて、打刀と脇差を手にして魔力反応を索敵する。メンバーも、それぞれの武器を手にして、彼女と共に少しずつ前へ歩いて行く。
「ギャレット! ギャレットっ‼」
焔は、彼の名前を力いっぱいに呼ぶ。どこかにいる、答えてくれると信じて。その時、周囲にるコケ類や植物が一瞬で枯れ葉になって行くのを彼らは見た。
焔がギャレットの名を叫ぶと――
「焔ーッ!!」
と、彼の声が聞こえてきた。すると――
「気をつけろ! 何か来る!」
と、オリランドが言った直後、正面が薄暗くなる。また、気味の悪いウネウネが岩と岩の間を這っていた。合わせて、ドシンッと何かが近づく。その瞬間。
ドシャァーンッ‼
轟音と共に、洞窟内の岩柱を打ち砕いて大きな影が現れる。
彼らは、その姿を見て思わず一歩退る。オリランドと母狼は、奴の正体を知っている。アーサーは、アールシュの肩で威嚇する。アシェルは、分析を行って正体を見破る。
「奴だ。……ファヴウォックだ。」
焔、アールシュ、アルケイデスは、母狼の言葉に「これが伝説の邪竜か」と驚く。
“コイツが……”
焔はそう思っていると、ファヴウォックは爪攻撃を始めた。メンバー全員は、瞬時にそれぞれの方向へ回避する。アシェルは着地した同時に、焔へ分析結果を言う。
「焔。ファヴウォックは、まだ完全な復活を遂げておりません。このメンバーで、ファヴウォックを消滅……100%お勧めします。私は戦闘を行いながら、更なる分析を進めます。」
「うん。……皆、ここで邪竜を打ち消す! 決して、最終防衛ラインに近づけさせるな!」
「はい!」
「了解!」
アールシュ、アルケイデス、オリランド、母狼は彼女の指示に返事をする。焔は、脇差を銃形態に変化させ、緑炎の魔法弾をファヴウォックの頭へ放つ。
効果が絶大だったのか、ファヴウォックは痛みによる叫び声を上げた。しかし、同時に毒属性の霧を周囲に放って、こちらの近距離攻撃を防ぐ。
完全な力を有していない為に霧が晴れてくる。その隙を狙う。
アールシュは後ろ左脚、オリランドは後ろ右脚、アルケイデスは頭部、焔は右前脚、母狼は左前脚、アシェルは背にある翼。それぞれ近くにあるファヴウォックの四肢を攻撃して切断した。
その際に、奴の毒の血を被らない様にする。
「これで、なんとk――え?」
焔は振り返ると、斬られたはずの四肢が再生していた。ファヴウォックの再生能力は、不完全でないものにも関わらず高い。ただ攻撃するだけではダメなのではないか、と彼女はそう思う。
また、拳で奴の頭部を破壊したアルケイデスは、火傷のような痛みに襲われてうずくまってしまう。
しかし、その油断を突かれてしまう。彼女は、ファヴウォックの尾で飛ばされ、洞窟の岩壁に全身を打ち付けた。
それによって左眉の上を負傷し、顔に流血してしまう。同時に、ファヴウォックに触れた部分が熱い。
「くっ!」
“油断、した……”
「焔!」
「姉さんっ! このッ!」
「キュウ!」
アールシュはファヴウォックの攻撃を避けて、アーサーが火炎放射した後に技を繰り出す。
“日輪の型 三剣の技 日輪暈ッ‼”
彼の技は、ファヴォックの尾を切断する事が出来たが、すぐに再生されてしまう。焔は、鞘の力で回復をしつつも、状況を打開する策が以前より思いつかない。
アールシュ、オリランド、母狼と彼女の仲間は、攻撃を続けている。しかし、四肢が再生されてしまう一方で、こちらが消耗するだけ。不安が溢れ出る。
“駄目だ! 皆が、頑張ってるのに……”
焔は立ち上がろうとした時、ファヴォックの口に莫大な魔力が溜まる。避けられないと思うと、彼女の体は宙に浮いていた。
「オリランド先輩!」
アルケイデスは、痛みを堪えながら彼女を腕に抱えていた。直後、ファヴォックは紅い光線を口から放つ。光線が当たった岩は、ドロドロと溶ける。
「怪我は仕方ないが、倒れたらわしらが困ってしまう。」
「ありがとう、ございます。」
焔を保護したのを見て、アールシュとアルケイデス、母狼たちが足止めの時間を稼ぐ。
オリランドは、洞窟の上にあった風穴から安全な地上に出て、焔と話をする。
「それで、ファヴォックを倒す方法はあるのか?」
「……。」
「しっかりしろ。お前なら、思いつくはずじゃ。」
「分かってます……。」
「一度しか言わぬ。とにかく、作戦を考えてから来るのじゃ。」
オリランドはそう言うと、風穴から地下の戦地へと降りていった。焔は彼の言葉に我に返り、メンバーが疲れない内に策を考える。
「ファヴォックの回復は凄まじい。伝説通り……いや、待て。」
焔は、急いで災禍の記事をホログラム画面にする。
「緑炎……。」
「焔!」
アシェルは、焔の元へと駆けつける。彼は、彼女の怪我具合を分析しつつ、ファヴォックについて結果を報告する。
ファヴォックは、焔が放った緑炎が弱点であること。奴の心臓の中に人がいて、姿を保てない神性持ちの英雄が閉じ込められていること。緑炎以外にも、焔が持つ『ダイン・グラム』も弱点であること。
「分かった。ありがとう、アシェル。」
アシェルは、焔の言葉に礼を言う。彼女は、伝達の魔法機器を通じて隊員に指示をする。
緑炎が弱点で武器に宿り次第、攻撃して欲しい。そして、決して負けるな!
[了解!]
焔は全員の返事を受け取り、魔剣『ダイン・グラム』を握った。
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