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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
序章 光と騎士の共和国 ルミソワ 編 ―己の役目―
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第8節 知恵を、力を、武勇を

 焔は、オリヴィエと稽古に。彼女は、諦めずに進めるだろうか?

 数日後。エルはオリヴィエの教えを呑み込んで、筋トレに剣術を体に叩き込む。

 訓練所は、雨風や雪から守る結界が張られていて天候を気にせずに訓練できるようになっている様だ。しかし、日本の剣道とは異なっていて、素振り以外の西洋の慣れない剣術のせいで腕がパンパンになりそうであった。


「少し、休憩! 慣れていないから、あまり動かし過ぎるのは良くないよ」


「はいっ!」


 ユウは返事をして、水飲み場へと足を運ぶ。汗をかいたので、持って来たタオルできちんと拭き、水を飲む。秋にしては冷たいと言う所だが、水分補給をする焔にはちょうど良いものであった。

 オリヴィエは焔が水を飲み終えた所で、彼女の元へ来て話しかける。


「焔は、呑み込みが早いね。何か、剣術でもちょこっと身に付けた感じがあるようだけど?」


「ま、まぁ、そうだね。少しだけ……木製の剣で稽古をした経験はちょびっとある」


 剣道と言ってもどう説明して良いか分からず曖昧な表現をしてしまったが、オリヴィエは彼女を褒める。


「それでも、凄いよ。木製より鋼の方が勿論重いが、慣れてきた頃にはそれを使って稽古をする所だから、もしかしたら持てなかった剣も持てる様になるよ。それと、騎士としての基礎も教えてあげるね」


「あ、ありがとう!」


 と焔が言ったその時だった。


「あ゛、いだだだぁぁ!」


 フロリの声がして、二人はアストルフォと彼の方を見ると―


「へへ~ん。どんなもんだい!」


「くそぉぉぉ…。最初の一発目からこうじゃ、恥さらしだ……」


 その話を聞いて、ホノはオリヴィエに――


「え? オリヴィエ、その、フロリが最初からこうだって…どう言―――――」


 と尋ねようとしたが、オリヴィエは――


「おい、アストル」


 と言って、彼の元へと歩み寄って行く。焔はオリヴィエの豹変に背中が凍るが、フロリの元へ行って手を差し出してゆっくりと彼を立ち上がらせる。オリヴィエはアストルにこう言う。


「ちゃんと、剣術教えたのか?」


「教えたよ! だから、実際に剣で僕と勝負をしようとなったんだ」


「そうじゃない! どうせ、魔術で転ばせたに決まっているじゃないか。顔に出てるぞ」


 オリヴィエがアストルを説教している言葉の中に、脳内で考え始める。


(何で、オリヴィエはお説教をしているの?)とほのか、

(あたしに聞いたって、知らないわよ)とホノ、

(転倒する魔術……それなら、分かるだろ?)とエルが思う。


 焔は、それに該当する事を思い出し――


(触れれば転んでしまうって言うアレか? けど、槍じゃないし……)


 と考える。オリヴィエは真剣に説教をしたのか、アストルは――


「うぅ、ごめんなさい」


 と言う。オリヴィエは、ため息をして言う。


「はぁ……君のおっちょこちょいは相変わらずだ。今度からは、気をつけてと何度言わせるな」


「あはは……」


 アストルは苦笑いをし、オリヴィエは困り果てた顔つきであった。すると、焔とフロリの元へ一人の青年がやって来た。焔は気配を感じたので、振り返ると黒髪で黒い瞳の青年がこちらへ来ていた。


「おっと、驚かせてすまなかったよ。訓練所が賑やかだと思って来たんだが、客人だったから挨拶に来たんだ」


「あ、貴方は?」


 フロリの言葉に、青年は自己紹介を始めた。


「すまない。私は、ガヌロン・マージ=フランクと言います。皆からはガノと呼ばれています」


 青年・ガヌロンに言われて、焔とフロリはそれぞれ簡単な自己紹介をする。しかし、焔は警戒していた。


(怪しい……明らかに)とホノが、

(どこが、怪しいの?)とほのかは思う。


 たが、そんな場合では無い。最初から疑ってしまえば、相手に申し訳ない。焔は、その思いを隠す事にした。フロリは「マージ=フランク家のご子息様ですか?! 会えて光栄です!」と言う。


「マージ、何だって?」


 ホムラが首を傾げると、フロリは「マージ=フランク家は、王家に仕える家系……名家だ」と説明をしてくれた。


「名家?!」


 ユウは驚いた。その反応に、ガノは面白かったのか――


「そんなに驚くなんて、珍しいな。だいたいの人は、恐れののくのに」


 とクスクス笑いながら言う。彼自身は、焔の反応が周囲と違っていて、新鮮味があったと言う事らしい。オリヴィエはアストルへの説教が終わり、ガノがいる事に気付いてから二人に言う。


「ごめんね。今日は、ここまでにしよう。明日から、念入りにやって行くよ」


『は、はい‼』


 いきなり焔とフロリが来た事もあるが、アストルの説教にも時間を割いてしまった事も原因である。だが、稽古の約束をしてくれた事はとても嬉しい事であった。訓練所を後にすると、丁度アッシュがこちらへと来た。


「訓練、終わったのか?」


「先輩! やはり、アストルフォに訓練は任せられません」


 アッシュの声掛けに、オリヴィエがいきなり言い出したので、アストルは「酷いよぉ〜」と嘆く。アッシュは考えてから言う。


「俺は、さっき会議を終えたし、ロランも来るって言っていたんだが」


「本当ですか! ロランが来てくれるのは嬉しい。体を動かすのに、丁度いいと思っています!」


「僕のせいにしてる?!」


 オリヴィエの言葉に、アストルフォは「ひぇ〜」と言う表情をする。「どういう事だ」とエルはアストルに尋ねると、彼は小声で言う。


「オリヴィエは、イライラすると、ロランと一騎稽古試合でをするんだ。智将ちしょう・オリヴィエが怖いって言うのはそれさ」


「なるほど……。オリヴィエさん、そういう事だったのか。大変だな」


 アストルの説明に、フロリはオリヴィエの大変さを思って言う。智将とは、優れた知恵を使って戦を切り抜く将軍のことを指す。

 フロリによると、オリヴィエは最近、魔獣の出現した際に少数の兵士で見事な指揮で群れを蹴散らしたと言う伝説の様な話を持っている、とか。


(凄い!)


 とほのかは思い、ホノは相変わらず――


(智将・オリヴィエ、流石だな!)


 と思いながらオタクのように興奮している。まぁ、ホノがそうなるのも一理ある。


 ロランとオリヴィエは、焔の世界では騎士道物語の代表作である「ロランの歌」で登場。この二人は名コンビとして有名である。ロランと言う人物はモデルとなった人物がいるも、その仲間たちには実在するか否かの差がある。

 それは、今いる彼らかは置いといて。


「アストルフォ。お前、また魔術でずるしたろ? せめて稽古くらいは止めておけ」


「はーい!」


 アッシュの注意に、アストルの楽観的な返事に「ほんとに、分かってんのかな」とアッシュはため息しつつ思った。そこへ――


「騒がしい。……先輩、何かあったんですか?」


 とクールな青年が登場した。アッシュは「丁度良い所に」と言う嬉しそうな顔をして話す。


「丁度良かったぞ、ルノー。今、新米の剣術の稽古を誰が担当するかって話し合っていたんだ。オリヴィエによれば、アストルフォとやっていたんだが、またおっちょこちょい魔法をやったそうだから」


 アッシュの説明に、ルノーと呼ばれた青年は「またか」と呆れつつ、焔とフロリを見る。彼女(ほのか)はルノーの冷たい視線に緊張してしまい、フロリの後ろへと隠れる。アッシュは彼を紹介する。


「コイツは、ルノー・ド・モントーバン。家系は領主で貴族圏の騎士だ。……フロリは聞いた事があるか? まるで、氷の様な騎士だって言う噂」


「き、聞いた事はあります。ル、ルノー様は、氷の様に鋭い御方だって。剣術もロラン様と互角だとか?」


 緊張しながら話すフロリに、(レイ)は――


(お坊ちゃまと言う所なんですね。それにしても、ロランさんと互角の騎士と言えば、物語では一人しかいませんね)


 と思う。レイの考えに、(ホノ)は――


(ルノーって、たしか、イタリア語でリナルド。あの、ロランと勝ち負けもせずに引き分けを続けている騎士にして、ブラタマンテの兄さん!)


 と思い出す。


「良く知ってるな! その通りだ。騎士団としては、優秀な一人だ。ロランと互角なのも、本当だ」


 アッシュはそう言い、ルノーに肩組みする。


「先輩。重いです」


 ルノーはそう言って、アッシュの腕を左肩から降ろす。アッシュは「すまん」と言って、彼に言う。


「なぁ、ルノー。丁度良い機会だし、焔の専属稽古教師に任命しようと思うんだが」


「焔? 誰の事ですか?」


 ルノーの質問に、アッシュはフロリのついでに焔を紹介した。焔は緊張しつつも挨拶をした。彼は、彼女の事情を聞き、少しして言う。


「わ、分かりました。……式守と言ったか?」


「はい」


「教えてやるから、わ、分かんなかったら、遠慮せずに言え」


 ルノーは照れくさくそう言った。


(不器用だな)とホムラは思ったが、

(お前も言えたことではないだろ)とエルが思う。


 そこへ、ロランが来た。オリヴィエは彼を見つけると――


「ロラン! 悪いけど、稽古に付き合って欲しい‼」


 と言うと、彼は「分かりましたよ。お供いたします」と少々呆れた口調で答え、訓練所へと戻った。アッシュはガノとアストルフォに今日の巡回兵士の報告を頼むとお願いし、二人はさっそく兵士たちの兵舎へと向かった。

 ロランはオリヴィエとの稽古を終えて、フロリの稽古に付き、ルノーは焔との稽古を始めた。だが、オリヴィエの凄まじい剣術や魔術に、焔とフロリは絶句また驚いてしまった。


(よく、ロランは耐えられてるなぁ。流石、名コンビであり、第二のマルスだ)


 とホノは思った。



 翌日。焔はルノーから引き続き、筋トレに剣術を教わる。


「初心にしては、わ、悪くない。だが、剣を相手に真っ直ぐ捕らえないと、相手から突き技を受けやすい状態になる。覚えておけ」


「はい!」


 ルノーの的確な指示に、焔は直して行く。それは、あっという間に過ぎて、夕方となった頃に焔とアッシュとフロリは家へと戻った。疲れながらもアッシュが作った夕食は、疲労が回復するようなものばかりであった。


「夕食、任せちゃって、ごめん」


「俺も、すまない。アッシュに任せてしまって」


 疲れでぐったりしていた焔とフロリはアッシュに謝る。


「良いんだよ。ルノーと俺の教えに必死について行っていたんだから、休みは必要だ。遠慮は済んな。……それにしても、ルノーが他人にアドバイスをするの、ブラタマンテとオジェ以外でいなかったな。」


 アッシュの言葉に、焔は不思議に思い――


「……? ルノーは、他人にあまりアドバイスをしないんですか?」


 レイはそう言う。思考では、(ホノ)はブラタマンテとオジェがいる事に喜んでいて、正直騒がしい。アッシュは、ルノーの剣術についてこう言う。


「そう。剣術には、俺も一目置くって所かな」


「アッシュがそう言うって事は、戦いになったら凄そうだな」


「いつか、見てみたいですね!」


 三人は夕食を楽しんで、風呂へ入ってから就寝した。まだまだ、騎士への道は長そうだ。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします!


 次回『第9節 武勇を』です。

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