第18.5節 最悪の事態
謎の魔術師たちによる侵攻は、凄まじく学生たちは苦戦の淵に立たされる。
学園の正門で多くの生徒らが神々の援護を受けて奮戦をする中、焔たちはスタミナが限界に近づいていた。
「うわぁッ‼」
「モージ‼」
焔はモージの元へ駆けつけたかったが、敵に油断を突かれる訳にはいかず彼の前に立つ。アーサーは、アールシュから離れてギャレットに盾の加護を施して守りに入っていた。
彼女は、怪我を負ったモージの代わりにギャレットの盾となる。
「ギャレットに指一本触れさせません‼ 殺すなら、私を狙いなさいッ‼」
焔はそう言うと、身体に緑炎を纏って輝きを強く放つ。魔術師らは、ケイローンと彼女に向かって攻撃を仕掛ける。彼女は右手に日輪天空を、左手に月輪地闇の銃形態を手に近遠距離を駆使する。
“水の型 水曲の技 渦潮ッ‼”
彼女は他にも『流麗の技 青孔雀雅舞斬』や『水精の技 洪一文字』を水の魔術を纏って行い、銃で緑炎の魔法弾を剣舞の後に素早く放つ。しかし、数が多く、時間と共に敵への反撃に遅れが出た。
そして、魔術師らが放った魔法弾は、ケイローンと焔に直撃させて衝撃で飛ばす。ケイローンは壁にめり込まれる形で飛ばされ、焔は体の前面を勢いよく地面に打ち付けてしまう。
同時に、彼女の体を纏っていた緑炎が静まってしまった。
「キュウッ‼」
「アーサー!」
アーサーは、魔術師の乱暴な扱いを受けて焔の元へ転がる。ギャレットは、守られてばかりではいけないと剣と盾を手に抵抗を始める。焔は痛みを堪えて回復を待つが、ギャレットを守らなければと体を起していく。
その時、魔術師らはギャレットの周囲にバリアを張った。彼はバリアを破ろうとするが、ビクともしなかった。そんな暇もなく、魔術を駆けられたのか気絶してしまう。
「ギャレット!」
モージは魔杖を頼りに立ち上がるが、魔術師らは彼らに構わずにバリアと言う檻に閉じ込められたギャレットを連れて空へと舞いあがった。
「や、めろ……ギャレ、ット――」
焔はそう言って手を伸ばしたが、魔力切れの体への負担が限界を迎えて気絶してしまう。
しばらくして、目を覚ますと視界に入ったのは保健室の天井だった。焔はハッとして勢いよく起き上がるが、背中に強い痛みを感じた。衝撃で飛ばされた時に強く打ったせいだ。
「探さないとッ!」
「こら。無闇に動くな。」
「ピオ先生。」
「傷はないが、打撲が激しい。しばらく、安静にしてろ。今は、な。」
「……はい。」
焔はアスクレピオスの指示を受け入れつつ、魔獣討伐クラスを含む全ての生徒らが無事なのかを尋ねる。彼は、誤魔化すことなく事実を述べた。
「被害は抑えられた……と言っても、魔獣討伐クラスを中心に怪我人が多い。大怪我をした者は数名いる。」
「私のせいだ。」
“やはり、思っていた通り、心の風邪を持っていたか”
「……行く先々で、関係のない人を、巻き込んで――」
「それは違う。」
アスクレピオスは、医者として一人の人間として焔に強く進言し始めた。彼女は俯きながらも、彼の言葉に耳を傾ける。
『自分のせいで他人を巻き込んでいるのではなく、人は初めから人と関わることは避けられない。だからこそ、ここまで魔獣クラスの生徒らはお前に付いて来たのだ。
人間関係は、考えている以上に複雑で。しかし、付いて来た者の誰がそんな事を言う。時には手段を選ばざるを得ないこともあるだろう。
お前はここまで来たのだ。自信を持て。多くの事を悩み、お前の答えを見つけろ』
「アスクレピオス様の言う通りですよ、焔。」
「アシェル。」
「焔は、クレアシオン様の使命を託されています。何故、世界を救うのかを知るのは長い旅をかけてまみえるでしょう。どうか、今は十分な休養をなさってください。99%推奨します。」
「……分かった。」
“アシェル、段々……。ギャレット、無事でいて”
焔は幾つもの感情が乱れる中、自身の体の治療に努めながら監督生として各班長との連携強化を務めた。一方、ゾーイは町の郊外にある穴が開いた大地を眺めていた。
「やはり、危機が迫っている。」
「気付いたのか。可憐な女神よ。」
声がして振り返ると、白い大きな雌狼がいた。ゾーイは、彼女の正体を知っていた。
「……貴女は、天空神の。」
「あの娘に力を貸す時が来るかもしれぬ。それも、天の導きを妨げない為。運命の時は、すぐにも迫りつつある。」
数時間後。焔は、アスクレピオスの指示通りに安静するしかなく、机で書類と向きあっていた。しかし、ギャレットの事が気掛かりで、書類を上手く読み込めない。
「あぁ~、もうッ!」
彼女は書類を投げ出して、ベッドにあるクッションに八つ当たりをする。数秒後、彼女はクッションを投げ出してベッドに身を投げた。こうしている場合ではないのは明確、しかし焦りが先走る。
どれだけの日数が経ったのかは不明。ギャレットは、意識を取り戻して目を開ける。目の前には、深紅の光を放つ何か。それは、周囲の岩にへばりついている。
「あれは、何?」
「ようやく気が付いたか? 無垢なる白亜。」
と、現れたのは黄色の灯りを持つフードマントを身に纏った魔術師だった。
「誰? ここは、どこ?」
「名前は教えられないけど、オリュンポス国内とだけは言っておこうか。」
「貴方は、私たちにとって必要なんだ。」
ギャレットの質問に、今度は別の魔術師たちが答えた。彼が気づいた時には、自分を取り囲むようにしてフードマントを纏った魔術師らがいた。ギャレットは、予想もしない敵の多さに驚く。
「貴方がたは、何を企んでいる?」
「君には、ある怪物の力になってもらうんだよ。」
魔術師はそう言うと、ギャレットを宙に浮かせた。彼は、抵抗できず深紅の光を放つモノに衝突する。深紅のソレは、不気味なほど柔らかい。その時――
ドクンッ! ドクンッ!
と、ソレは心臓の様に動き始めた。同時に、ギャレットの体に細く黒い帯の様なモノが巻き付き、深紅の心臓の中に引き込もうとする。
「離せ!」
「あぁ、説明していなかったね。ソレは、かの災禍で恐れられた怪物の“心臓”さ。君は、その力となってもらうよ。」
「うわぁぁぁぁぁッ‼」
ギャレットの叫び声と共に、深紅の光が強く放たれる。その魔力は、夜空の色を変えるほどだった。
「……ッ!」
焔は、ベッドから上体を勢いよく起こす。冷や汗を書いていることに気づいたが、カーテンの隙間から差し込む光に違和感を感じた。
ゆっくりとカーテンを開けると、空が深紅の色に染まって行くのを見た。
“さっきの夢は……”
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