第16節 ヒュドラ退治
エディタの文書に嫌な予感を巡らせつつ、焔は大型魔獣と対峙する。
数日後。焔は、戦場から少し離れた所から部隊を指揮する。各飛行部隊の隊長は、巨大で四つの頭を持つ蛇・ヒュドラに――
「撃てぇッ!………旋回ッ!」
と、伝達魔術による交信で指示を出し、効率よく誘導作戦を行っていた。
ヒュドラは弱点が首であるも、再生能力は凄まじく斬れば斬るほど頭の数が増えてしまう厄介者だ。
焔はケイローンから神話にある怪物も現れると聞き、『ヒュドラ退治作戦』と名付けて組み立てていた。被害妄想にも程があるか、と思っていたが、組み立てて悔いはないと今は感じていた。
[こちら飛行部隊A班。ヒュドラ、目標地点へ移動開始!]
「了解。……飛行部隊全員に告ぐ。今回、大変な任務になりますが、よろしく頼みます。」
トラップの周囲には大砲・魔装部隊が控えており、今か今かと待機している。飛行部隊は順調に誘導をするが、ヒュドラの反撃もあって墜落する者も多い。
陸上部隊は大砲・魔装部隊の援護に回っている。また、アルケイデス、アールシュ、ロラン、ルノー、ギャレット、アシェル、モージ、オリランドをヒュドラ特攻隊として拝命。自分も加勢すると話した。
[こちらC班。目標地点まで、あともう少しです。魔力切れの者もいます]
「了解。魔力切れの人は、直ちにこちらへ退避を。残った人で誘導をかけます。狭い場所になるので、怪我にご注意を!」
焔はそう言うと、魔力切れになりそうな者たちが次々と低飛空で来た。救護隊の一班は、彼らを迎えて治療に当たる。そして、ヒュドラはトラップを知らぬまま目標地点に到達した。
「トラップ起爆ッ!」
焔の指示に、陸上部隊のトラップ班は魔術の元素爆発を利用し、土砂崩れを起こしてヒュドラの足を止める。
「大砲・魔装・魔術部隊。ヒュドラの体力を削れッ!」
[撃てぇッ!]
大砲・魔装部隊は、総隊長の指示でヒュドラの体力を削るべく遠距離魔術を放つ。ヒュドラは身動きができず、うめき声を上げる。奴に当たった弾は、小さなヒュドラの首を破壊する。
“今の所、順調。けど、ヒュドラの弱点は首以外の場合、聖なる炎ってケイローン先生は言って――”
[姉さん、危ないッ!]
焔はアールシュの伝達で、ふと我に返って現場の方向を見ると大きな岩が目の前に迫っていた。直前、ヒュドラが暴れて土砂崩れの瓦礫にあった大岩を、口に挟んで投げ飛ばしたのだ。
咄嗟に、焔は旗を盾にした。しかし、大岩は勢いよく彼女に降り掛かった。
[監督生ッ!]
[焔ッ!]
『焔ちゃん‼』
生徒たちは心配した。目の前で起きた出来事に、救護班の誰もが不安になった。土埃が晴れると――
[これくらい、平気ッ!]
と、焔は声を上げる。彼女は軽傷を負って大岩に押し潰されそうになったが、身体強化を最大限に行使し――
“倒れちゃ駄目! 皆を守れないッ!”
と、緑炎を宿した刃で大岩を破壊した。直ぐに指揮を再開すると、大砲・魔装部隊は順調に迎撃していた最中、ヒュドラの反撃を受けていた。
「大砲・魔装・魔術部隊、撤退ッ! 特攻隊に合流する。」
焔はそう言って、旗を握りしめて飛行術で現場へと向かって特攻隊と合流する。すると、ヒュドラは傷口から新しい首を再生させ、頭は八本になって周囲へ強く威嚇する。
“ヒィーッ! やっぱり、蛇は嫌だァァァッ!”焔、
“んなこと、言ってる場合がボケェ!”とホムラ、
“ホムラ。……焔。ここは、私にお任せを”とレイは思う。
「皆さん、行きましょう。共にヒュドラの首を一撃で破壊します。……弓矢部隊、放てぇ!」
控えていた弓矢部隊は、三段攻撃でヒュドラに傷を追わせて体力を削る。総隊長の指示で、矢の雨が勢いよく降り注ぐ。
その間に、特攻隊はヒュドラを囲む様に配置する。
[撤退ーッ! あとは、任せました!]
「了解です。特攻隊、出撃!」
焔の指示で、特攻隊は一斉に飛び出した。そして、全員一撃でヒュドラの首を破壊した。これで終わった、と思ったその時。
「再生した?!」
ヒュドラの首は、瞬く間に再生して十二本の首になった。彼女は、ヒュドラが反撃すると見込んで、特攻隊に避ける様に指示。ヒュドラは、暴れまわって周囲の崖を砕く。
「チッ! 聖なる炎って、一体……ッ?!」
焔は、崖から砕けて降り注ぐ大岩を避ける。しかし、あまりの多さに、小さな石が勢いよく顔や身体にぶつかる。
「いってぇ。」
そう思う暇もなく、ヒュドラは彼女へ迫っていた。その時、彼女の身体が緑炎に包まれ、ヒュドラは首を引っ込ませた。
“ヒュドラが引っ込んだ?”と焔、
“聖なる炎は、緑炎のことだわ!”とレイ、
“上等じゃねぇか。炎で焼いてやるよ”とホムラは思う。
「そらよ! 援護くれてやらぁ!」
焔は旗を握って立ち往生すると、緑炎は彼女から特攻隊全員の武器に宿る。同時に、不思議と力が湧いて、特攻隊は再び前進する。
ロランとルノー、アシェルとギャレットと攻撃を重ねてヒュドラを弱らせる。ヒュドラは、最後のあがきで岩の雨を降らす。オリランドは、アールシュが攻撃の余地があると見据えてモージへ言う。
「モージ! 我らでアールシュの足場を作るぞ!」
「はい、師匠!」
『岩たちよ。我が僕として、剣士を倒すべき敵へ導かん。浮遊なる、導く岩の群ッ‼』
アールシュは二人の援護を受けて、降り注ぐ岩を器用に足場として使う。肩に乗っているアーサーは必死に捕まる。
アールシュは、絶対負けたくないと思った時、彼の額には朱色の紋章が浮かび上がって――
“日輪の型 三剣の技 日輪暈ッ‼”
と、焔ですら見た事もない技をヒュドラに見舞わせた。
空中で輪を描き、攻撃時に日暈という光の現象を起こす技。その攻撃はヒュドラの首を最後の一つを残して、全て斬り伏せてしまった。
そして、アルケイデスは大きな岩を持ち、自分も岩も緑炎を纏っていた。
「これで、最後ッ‼」
アルケイデスは飛び上がって、炎を宿した巨岩をヒュドラに向かって投げた。奴は逃げる暇もなく、炎を纏った巨岩の下敷きになって弱点の聖なる炎によって塵と化した。
その勢いは凄まじく、周囲に轟音と衝撃波が放たれた。魔獣討伐クラス全員は、地面に伏せて静まるのを待つ。
しばらくして、轟音と衝撃波が止んでヒュドラのいた場所をクラス全員が見る。そこは、焼けて骨も残らず、ジューゥっと音を立てる大岩だけだった。
「倒した?」
「やった! ヒュドラは死んだぞ!」
「俺たち、生き残ったぞッ‼」
『オォォォォォッ‼』
生徒たちは歓声を上げた。また、墜落した飛行部隊隊員は、救護・補給班によって救い出された。
「ミュケナイ先輩の力、凄いです。」
「キュウ!」
凱旋の後、学園内の中庭。アールシュとアーサーは、アルケイデスの所に行って彼を褒める。いつか、自分もそうなりたいと話す。
「そ、そうか? アールシュは、お前なりに頑張れてたと思う。」
「ふふっ。私は、怪我人を治すことしかできないけど、良い活躍だったよ、アルケイデス。」
「あ、ま、まぁな……。」
アルケイデスは、メガラに言われて照れくさくなったのか頬を薄く染めていた。アールシュは二人に挨拶をした後、焔の所に向かう。
「姉さん!」
「キュウ!」
「アル、アーサー。お疲れ様。……ヒヤヒヤしたァ。」
「そうだね。あんな魔獣、僕にとって珍しい生き物だ。」
「そう言えば、アル。ヒュドラの首を一つだけ残したとき、私も見たことのない技を出していたけど……。ん? ちょっと、おでこ失礼。」
焔は、アールシュの額を見るため前髪をそっと上げる。彼の額に、見たことのない朱色の紋章が刻まれていた。彼女は、紋章のことを伝えたが、公務のことで呼び出しがかかった。
「また、後でね。」
“やっぱり、背が高くなってきてる。……追い越されるぅぅ”
焔はそう思いながらも、学園内の会議室へ入った。
報告によると、怪我の程度はバラバラだったのにも関わらず、今の所は死亡ゼロ。怪我人は、重傷が大砲・魔装部隊、援護の陸上部隊に集中していたという。
「ありがとうございます。大砲・魔装、陸上部隊には、申し訳ないです。厳しい状況の中、戦ってくれました。しかし、今回で外的だけでなく、精神面にも気を配ってください。なので、生徒全員の精神状態の健康観察を各部隊に依頼します。
次の戦いの際に危険に晒してしまいます。救護班は、怪我人の精神状況を把握してもらい、アスクレピオス先生と適切な対応をお願いします。」
「分かったわ。」
メガラは返事をして、次の任務内容をメモに記す。焔は、そのまま説明を続けた。
「そして、各部隊で健康状態が正常な生徒は、体調を自己管理しながら普段通りの生活を送るように私から放送でお伝えします。
また、住民の皆さんに災害時などの避難経路を、ミュケナイ公爵様が直々に国民の皆さんへお伝えするとのことです。」
と話をし、また明日に部隊調整などの会議があることを伝えた。部屋に戻ると、ゾーイがお菓子と飲み物を運んでいた。
「ゾーイ。」
「お疲れ様です。丁度、町の人にオレンジクッキーとレモネードを貰ったので……貴方にも、と。」
「良いの? ありがとう! 丁度、お菓子を食べたかったんだ。」
焔は喜んで、クッキーとレモネードをおやつとして食べた。そして、直ぐに次の対策に向けて、魔獣やオリュンポスの地形について調べていった。
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