第13節 強化訓練 ―錬金術師の思い―
焔は、監督生の仕事をこなしながら、これまでの冒険を振り返る。
翌日の早朝。焔は、起床時間より一時間も早く起きた。学園のルールでは、規定された起床時間の前に起きても罰則はなく、ただ就寝している生徒たちの邪魔にならなければ問題ないとのこと。
彼女は普段着ではなく、アッシュと初めての買い物で購入した服装で支度を整え、朝日が差し込む海辺へと向かった。
焔は、砂浜に腰を下ろす。海は穏やかなさざ波を立てながら、差し込む朝日の光を反射していた。
彼女は、誰もいないと確認して、イヤホンを通じて今の風景に相応しい音楽を聴く。
“ホントにこの曲は、浄化されるなぁ”
焔はそう思いながら、これまでの冒険を振り返る。
――森でアッシュに救われ、崩壊してしまったイグラド村でフロリマール、首都パリスでフロルドリと白銀騎士団と出会い、首都の図書館でソフィアさんから世界の基礎を知った。色んな人にも出会った。
そして、ガヌロの裏切りにあって、レオ国王がフロリマールを守って亡くなった。同時に、アッシュは白銀竜に覚醒。一時は混乱したけど、なんとか収束して完全復興へあと一歩の所で、騎士団は旅立った。
アルスターのシャーウッドの森でロビンフッドと仲間たちに出会って、マリアンを救う為にノーディンを倒した。ロビンは、無事にマリアンを救出して夫婦となった。実に、英雄の物語に相応しい。
そして、アルスターとコノートの戦いで、メイヴの元へ行った。裏で策略があって、メイヴはアリルに暗殺。元アルスター国王だったコンフォヴァルは、アリルと手を組んでいてどちらの味方では無かった。何故そうなったのかは、詳細が謎に包まれたまま。
アリルは、聖杯の力を使おうとしたが、アレは偽物だったのか。奴は、化け物……メリウス・ヘヴンに変異した。私は、この手で奴を斬った。
ローマ。偽ネロ帝によるクレアシオンを信仰する者に対する迫害。一時は無くなり安堵する者は多かったが、私の予想通り油断大敵だった。アレは、私たちを探し出す為の酷いやり方だった。
途中で、闘技場でアルを保護して、打ち解ける程になった。しかし、私は召喚された暗殺者・ブルートゥスに暗殺された、と偽って地下牢に閉じ込められた本物のネロを救出。スラム街で身を潜めて決着の時を待った。
これも、果報は寝て待て、と言うべきか。ローマの大火と言うべき大火事が発生。火付け役を担った奴隷の子を助けて、証言者として連れて行った。偽ネロ、アグリッピナはこれに焦って暴走。メリウス・ファンダルに変異した。
アグリッピナは、アリルと違って巧みにその力を使って、私たちを苦戦へ追い込んだ。アルは、私を庇って大怪我を負った。私の最大の力を行使しても、アグリッピナを止められなかった。
でも、ネロの決意と大英雄・尊厳者様のおかげで、アグリッピナの野望を阻止した。後日、ネロはアクテと再会して再婚。奴隷制が無くならないのは悲しかったが、これ以上他国へ干渉をするのは駄目な感じがした。
そして、急用で私とアーサー、アル、ロラン、ルノーは、オリュンポスに来て今に至る――
“夢みたいだけど、感覚が残ってる限り現実……なんだよな”
焔はそう思う。すると、こちらへ寄ってくる気配がする。彼女はスマホとイヤホンをしまっい、起き上がって気配がする方向に目を向けるとゾーイだった。
「ゾーイ。」
「焔がこんな所にいるのは珍しいですね。……隣、良いでしょうか?」
焔はゾーイの問いに快く頷いた。ゾーイは隣に座ってから、彼女に話を始めた。
どうやら、学園の北西辺りで山を越えた先に謎の穴がいくつもある平原が広がっている。学園の地下から繋がっており、かつて戦場に向かう通路の一つだと判明。
「戦場に向かう、通路?」
「はい。町にいる魚介料理店のお婆さんから話を聞きました。かつて、邪悪かつ毒を持つ大きな竜が攻め寄せ、多くの戦士が立ち向かった大きな戦いがあったようです。学園は、かつて戦士たちの大きな訓練場だったようです。」
「邪悪、毒を持つ竜。……まさか。」
「焔は、知ってるのですか?」
焔はゾーイの問いに、オリランドという妖精から教えてもらったと話した。更に、邪悪な気配はその平原のどこからか漂ってきており、平原は何かの力に覆われているとゾーイは話す。
以前、アールシュとアーサーがそこへ踏み入ろうとした為、忠告を下ことは事実だった。
「ありがとう、ゾーイ。アルとアーサーを助けてくれて。」
「いいえ。私は、貴女の従者として行動をしただけです。」
「それでも、ね。……あ! 今度さ、ゾーイの言ってた店に行きたいなぁ。無理にとは言わないけど。」
「……ど、どうしても、と言うのなら仕方ありません。」
ゾーイは、そう言ってプイっとそっぽを向いてしまった。焔は、彼女の行動に少しずつ変化が訪れているのを感じた。
“人と話す事が出来る様になったのか。嬉しい。……もしかしてだけどさ、○○○○○。本当は、人間が好きなんだよね? 神様とか関係なく仲良くしたかったんだよね?”
焔はそう思いながら、ゾーイと共に学園へ戻った。
魔獣討伐クラスは、午前の知識系教科の授業を終えて午後に強兵訓練の時間に入る。
「今日は、陣形についてお話させていただきます。皆さんは、この液晶画面を見ながらメモなどを取ってください。」
焔は監督生として、陣形の配置やどういう時に活用できるかなどを説明する。聞いている生徒らはメモを取っているが、中には寝ていたり、退屈そうに聞いている者もいた。
彼女は気にせず、堂々と立ち振る舞う。
「説明は、以上となります。では、実際に訓練を行う日、その陣形を皆さんで組んでもらいます。
お疲れ様でした。今日は、ここで終了します。明日、小テストを行おうと考えていますので、復習をよろしくお願いします。」
小テストを行うと決めたのは、焔ではなくケイローンの学問方針である。伝説に名を遺した彼の弟子たちも、鍛錬や知識を積み重ねて言ったことは彼女は知っている。
『知識は、常に日頃から積み重ねがあって、成し遂げた時に初めて自分の知恵となるモノです』
と、ケイローンは話していた。
「焔さん。体調に問題はありませんか?」
ギャレットは授業の終了後、焔に尋ねる。彼女は、問題は無いと話して彼に短い話をする。
「ギャレット。私は先輩じゃないから、さん付けとか、敬語はいらないよ。私たちは、仲間なんだから。」
「仲間……。何故、そう言い切れるの? 心を合わせて何かを一緒にする間柄を長く保っていることではない?」
焔は、ギャレットの言葉に言葉を失う。まだ、彼の事を詳しくは知らない。それでも、なんとなく『この世界の矛盾や残酷をいうものを知らない。まだ、多くの事を知らない無垢の子だ』というような所だろう。
また、彼女は彼の髪色と瞳の色が誰かと酷似している様に思えた。彼女は、今はそんな場合では無いと我に返って言う。
「……そ、そうじゃないよ。例え、そうであっても、魔獣を討伐する目的は同じ。言葉の意味、そのもの通りじゃない場合もあるんだ。」
「意味そのもの通りじゃ、ない?」
ギャレットはそう言う。焔は、まだ完全とまではいかないも常識レベルには至ってない彼の様子を見て、どことなく周囲から浮いてしまっているのは何故だろうと思った。同時に――
“人間の幼い時は全員そうだけど。善悪の矛盾に気付く前、言葉に縛られていた頃の自分に似ているな”
と思ったのだ。焔は夕食後、部屋に戻って風呂を済ませてからレイラが執筆した資料を見ていた。途中から黙読を始める。
【私は父の代わりに錬金術師となり、宮廷錬金術師に任命された。国王様から「他国に引けを取らない最強の兵器を作って欲しい」と命を受けて快く承諾した。
機械は既に開発され、改良へと進んでいたのを知っていたので私は錬金術を使った生命体を作ろうと考えた。
そして、試行錯誤をした結果、遂に初めて生命体を作り出した。彼の者の名を『ファヴウォック』と名付けた。怖がる人が多いけど、私にとっては子供たちだ。
この文を見ている、勇気ある貴女なら分かると思う。私の本当の名は『エディタ・ルイス=ノリス』。貴女は、この世界をどう思っている? 私は、神が人間に過干渉するのは好きではない。
神々は、人間が作り出した神話から生まれたに過ぎない。人が信仰しなければ、存在する事が出来ないと言うものを。
それに、『聖杯』と言われる魔法工学や錬金術でも説明しきれない不思議な力があるモノのせいで世界は崩壊しつつある。
貴女なら、知っているはず。神は信仰は許されても、存在してはいけないと。時代を切り開くのは、いつでも人である事を。私は、それに終止符を打ちたいと思った。
“世界の正しい在り方はなんだ”
“人は、どういうものなのか?”
と。最後に、一つだけ忠告。貴女たちが魔獣と呼んでいる子供たちは数体作り上げた。しかし、一体だけ目的地外へ行ってしまった。
そう、オリュンポスだ。ファヴウォックは、何もかもを吸収して周囲を破壊する。聖なる力などを持つ人やモノも当てはまる。
どうか、ギャレットだけは、ファヴウォックの心臓に近づけないで欲しい】
“ケイローン先生、オリランド先輩……エディタ。それが正しいなら、心臓に強力な英雄たちが閉じ込められているってことですよね?”
焔は、災禍についての結論の一つを脳裏に浮かんだのだった。
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