第12節 和解
決闘は、勝負が判定されないまま終わった。焔は、監督生として魔獣退治に新たな手を提案した。
焔は、アシェルにおぶられて羞恥心を抱いたまま会議室に入る。ギャレットも二人に続いてはいる。円卓には、ルノー、アンジェリカ、アルケイデス、メガラ、モージ、オリランド、他生徒五名が座っていた。ロランは欠席している。また、ケイローンも来ていた。
「ギャレット君。君は、焔くんの右隣の席に。」
「分かりました。」
ギャレットは、焔の右隣にある残り一つの席……十三番目の席へ向かう。その時、焔はギャレットが座る椅子の前の机に光る文字が刻まれていた。
『この席は、災厄の席なり。だが、聖なる無垢の騎士のみ許される。その者の名は、ギャレット』
“この文字は?!”
その文章を見て驚くが、周囲の生徒らは何の驚きも無い。見えていない、と言う事なのか?
それはさておき。ケイローンは、焔に――
『魔獣の到来あり、相手の規模や脅威が大きくなる、とマーキュリー様の神託が下った』
と話す。
また、緊急として、ルノーとロランに新たな討伐班の隊長に、アシェルとギャレットを焔の護衛に、アルケイデスとアールシュを先制兵士に任命したと言う。
更に、焔の席の近くに、試作品と思わしき荷物と資料が積みあがっていた。焔は、ケイローンに礼を言って会議を始め、試作品について説明を始める。
「見た目は、不思議な板機器です。従来の伝達の瞳と同じですが、一度に全体への指示を行う事が出来ます。
これらは、魔獣討伐・貿易・航海専用に開発しています。耐熱・耐水・耐衝撃に備えられており、そう簡単に請われる事はありません。装着の仕方ですが、こうして左右のどちらかの聞き耳に装着して――」
焔は、小型の機器・インカムマイクを右耳に付けて、スマホ程の大きさの板を起動させて操作する。空中に大きな画面が展開され、その場にいる全員は驚く。
「あとで、操作方法を教えます。アル、アシェル。機器とプリントを配ってもらって良いかな?」
アールシュとアシェルは頷いて、機器とプリント冊子を十二人の席へ置く。焔は大画面を開いて、十二人はプリントを見ながら大画面を見る。
プリント冊子の一ページと大画面には、いくつもの陣形が載っていた。焔は、陸上部隊と飛行部隊と弓矢部隊のそれぞれ適切な陣形を丁寧に説明をする。
「――と言う訳ですが、討伐クラスの皆さんに明日から強兵訓練を行う事をお伝えください。トリトンでは私たちが感じられない地震の連続、ウラノスでは天空の異常の観測があります。
そこで、明日から陸上部隊の強兵訓練を実行します。まだまだ未熟な所はあるので、皆さんの力を是非お貸ししたいです。
後日、万が一の災害に備えて住民の避難場所などの指定、全部隊の再編成を考えていますので、よろしくお願いいたします。」
焔の言葉に、全員は頷いた。その後、会議は解散して、焔は会議室に残って荷物の中にある旗を手にする。青色の旗地を広げると、鳩とオリーヴと惑星と月と思わしきデザインが白で描かれていた。
「それが、以前渡したいと思っていた貴女の旗です。」
「私の……。」
「えぇ。それは、監督生に認められた生徒のモチーフを描いており、それぞれ違うデザインになっています。
その旗は代々、人々を守る盾の力があると言われています。災禍の時も、その旗は人々を救済したとも。」
焔は、ケイローンの説明に“なるほど”と思いながら、旗を立たせて見上げる。実際、校旗などは比較的重いのだが、今持っている旗は特殊な材質故か軽い。
ケイローンは、学園長の仕事がある為に会議室を後にした。焔は気持ちを切り替え、ゆっくりと起き上がって自室へ歩こうとした時、アルケイデスに呼び止められた。
「ミュケナイ先輩?」
「その、一昨日の決闘、すまなかった。お前の方が、正しかった。」
「ど、どうして、謝るのですか? 先輩は色んな苦労をされているというのに、私は……。」
「いや、あの言葉があったからこそ、決意する事が出来たんだ。ケイローン先生に、こっぴどく叱られたのもあるが。」
アルケイデスはそう言いながら、焔が目覚める日までの事を振り返る。
♢
「もう少しで君は、焔くんを死なせるところだったんですよ。焔くんは、何とか無事で良かったものの。
そろそろ、これまでのことを反省すべきです。彼女の言葉の真意、よく考えてください。」
「言葉……。ケイローン先生は聞こえていたのですか?」
「えぇ。どうして、彼女がそう言ったのかを自分で答えを探すのです。それに、彼女は、貴方が戦場に来ないと聞いて“どんな素晴らしい力があるのか知りたかった”と落胆されていましたよ。」
「え?」
「決闘の時の言葉、とある英雄の名をあやかっていると知っているようでしたが。……とにかく、反省をする事です。
ミュケナイ家に傷をつけてどうするのです。それに、彼女への謝罪もきちんとするのですよ?」
「はい……分かりました。」
アルケイデスはそう言い、決闘の日で焔が放った言葉を思い出す。
『貴方は、その力を誰のために使おうと考えているのですか?』
『先輩なら、守りたいものが、あるでしょう!』
『……周囲の人間がそう言うから、このまま押し黙る? 馬鹿ですか。そんなの無視すれば良いじゃないか‼ 守りたいものがいると言うのなら、貫き通せばいいじゃねぇか‼ 偉大なる神の息子で、英雄の名をあやかった貴方なら尚更でしょうがぁッ‼』
冷静にじっくりと考える中。数時間後、ふとある事を思い始めた。
“そう言えば、アイツのこと何も知らないな。いや、自分が他人を避けていた。守りたいものがあるなら、その意志を突き通せ、か。
自分の岩属性の魔術を打ち破ったヤツは、あの時が初めてだったな。ケイローン先生の言う通りに謝罪したら、なにか話すべき……なのだろうか?”
アルケイデスは悩みに悩んで、焔に対する会話について幼馴染みのメガラに相談した。彼女は、久しぶりに彼と話す事が嬉しかったのか、笑顔で答えて応援してくれたのだ。
メガラの為にも、自分は頑張らなくてはならない、と気付いた。
“悔しいが、俺の負け、なんだな。……今まで本気を隠してたけど、あそこまで追い込まれるなんてな。負けねぇからな。授業も、今までの分を取り返してやるぞ”
♢
「……そ、それで、お前は見た事もない風貌故、珍しい武器を使いこなす。は、話を、聞かせてもらえるか?」
“ん? どういうこと、ユウ”と焔、
“つまりは、貴女がどのような人であるのか知りたい、ってことだね”とユウ、
“うふふ、懐かしいですね”とレイ、
“懐かしい?”と焔、
“あ、ごめんなさい。今のは忘れてください”とレイは思う。
「ミュケナイ先輩がそう言うのなら……。そうだ! ミュケナイ先輩が知っているオリュンポスのこと、是非聞かせてください!」
と、焔は笑顔で答えてゆっくりと歩いて自室へ案内する。アルケイデスは、彼女の表情を見てツンッとするだけだったが、彼女の招きを受け入れて足を踏み出した。それを扉の向こうからメガラとアールシュが見ていた。
「ちゃんと話せたようだね、アルケイデス。」
「はい。姉さんは、アルケイデスさんと話せるのを楽しみにしていたんだと思うんです。あの笑顔は、絶対そうです。ただ……。」
「ただ?」
「ちょっと、無理する時があるんです。」
「うふふ。アールシュは、良い子だね。ま、ここは見守るってことにしよう。」
メガラはそう言って、アールシュを説得して会議室を後にした。
焔は、アルケイデスを部屋に招き入れて部屋に置いてあるお茶を用意した。ゾーイは彼女を手伝っていたが、アルケイデスには目を向けず警戒していた。
「お前、結構お人好しだな。あんな仕打ちをしたヤツを、堂々と招き入れるなんてさ。」
「正直、そう考えはしました。でも、なんて言うんでしょうか……雰囲気から、辛い事を経験したんだと思いました。馬鹿らしいですけど、なにか一つ助ける事はできないかと思ったんです。」
「……何だよ、ソレ。」
「……あ、そうです。このオリュンポスのこと、教えてください。未来の同盟主である先輩なら、詳しい事も!」
“はぁ~。そんな曇りなき瞳、苦手だってのに。メガラが別視点から見ろって言うから、大人しくしてやってるが……”
アルケイデスは、やれやれと思いながら焔に自分が知るオリュンポスについて会話して行った。そう思っていた彼だが、オリュンポスについての話を終えると、他愛もない話を始めて想像していた時間を大幅に過ぎていた。
「お時間を取らせてすみません。」
「平気だ。余計なことを考えるな。」
「気を遣いすぎましたね。……では、また明日。」
焔は、そう言ってゆっくりと扉を閉めた。アルケイデスは、彼女の部屋を後にすると、歩き先の所で一人の人物と会う。
「メガラ……。」
「ちゃんと話ができたじゃない。予想以上の時間で。」
「ア、アレは、たまたまだ。それに、アイツが聞きたい事があるって言うからな。今まで会ったことのない性格で、正直相手にしにくい。」
「アハハ!」
「な、何がおかしいんだよ。」
「ごめん。でも、他人と交流する勉強にはなったでしょ? そうそう。その事について、アンタのお父さんに話しておいたわ。」
「はぁッ?! 何やってんだよ!」
アルケイデスは、メガラが父親にそんなことを話していたと知って今までにない赤面をした。彼女は、彼の慌てように笑ったが――
“今までより、表情が豊かになって来てる。……ありがとう、焔ちゃん”
と、心で思っていた。
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