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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅲ章 魔法工学先端国 オリュンポス諸国 編 ―小さな光と大きな闇―
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第10節 決闘➁

 決闘で、アルケイデスは神ごとき力を発揮。焔は、彼の力に敬意を払いつつ、成すべきことを行う。

 焔は緑炎を身に纏いながら、背中をコロシアムの壁に勢いよく叩きつけられて強烈な痛みを受ける。彼女は、鞘の力を発動させて傷を癒す。


 “痛ぇ。これが、アルケイデス、いや、ヘラクレスの力か。流石、チートだわ。けど……”


「まだッ!」


 焔は己を鼓舞し、打刀を手にして専心を行って前へ進む。アルケイデスは全力を示す為、召喚術で弓を構えて遠距離魔術を行使し始める。彼は、弓を構えて炎の魔術を纏った矢を三本、否、十本放って来た。


 “炎矢(フレイム・アロー)! 上等ッ‼”


 焔は刀身に水魔術を纏って、向かってくる矢を避けたり刃で弾いたりする。そして、徐々に技の威力を上昇させていく。アルケイデスは、それにいち早く気付いて次の攻撃方法に移る。


 “雷矢(トーネル・アロー)ッ?!” 


 焔は、水魔術にとって弱点である雷属性の矢を見てマズいと感じたが、技の技能である回避を巧みにこなしていく。しかし、一本だけ命中しそうな矢があった為に刀で弾くも、属性の効果が全身に染み渡る。


「ぐッ‼」


 “潮煙(しおけむり)・水竜の技 泡沫青龍乱舞転(ほうまつせいりゅうらんぶてん)ッ‼”


 彼女は痺れを纏いながら、二つの技を発動させた。その技を初めて見たアルケイデスは、行く手を阻もうと拳を地面に叩いて岩の柱群を、焔に向けて次々と出現させる。


「はぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 焔は、正面のまま突き進み――


 バキバキバキバキ  ドッカーンッ!


 と豪快な音を立て、岩の柱群を斬り払った。彼女が持つ打刀の切先は、アルケイデスの喉元で止まっていた。観客は、その勝負に歓声を上げる。

 その時、アルケイデスは焔の襟元を掴んで――


「君の眼が嫌いだッ‼ 監督生の地位は、俺のだッ‼」


 と言い、そのまま彼女を投げ飛ばす。焔は、突然の出来事に受け身を取れず、コロシアムに残っていた柱群に叩き伏せられた。砂埃が舞い上がり、柱群は砕け散る。


「姉さんッ!」

(マスター)ッ!」

「焔ッ!」

『焔ちゃん!』


 アールシュ、アシェル、ルノー、アンジェリカとメガラは、焔を心配する。当然、観客は突如の出来事に驚いて歓声が止む。


「ギャレットくん!」


「了解です。」


 ケイローンの呼びかけに、ギャレットは盾を手にしてコロシアムのコートに入り、焔の元へと走る。


 “こ、これが……本気、なのか? 鞘があったから良いけど、全身骨折した”


 焔は立つこともできず、その場に座ることしかできない。緑炎は、衝撃と共に収まってしまった。すると、スマホが彼女にアナウンスする。


 [神性及び魔力反応、急上昇 神性ゼウスの反応あり]


 焔はアルケイデスが自分に何をするか、おおよそは推測していた。しかし、彼の言葉に、ふと住んでいる世界の記憶が蘇る。


 『式守さんって、何考えているか分からないよね』


 中学の頃、教室に向かう直前に同学年の女子らの言葉を小耳に挟んだのだ。当時、人との関わりを拒んでいたせいもあったが、彼女にとって反吐が出るくらいだった。


 “そんなに感情がないかな? 私……”


 焔はそう思ってしまい、動きが止まる。アルケイデスは、弓を構えて矢を上空へと放ち――


雷矢雨(サンダーアロー・レイン)……。」


 と詠唱すると、放たれた矢が輝いて雨の様に焔一点へ降り注ぎ始める。彼女は防御体勢も取れず、死を覚悟して目を瞑る。

 その時、彼女の前に大きな盾を持った青年・ギャレットが現れて降り注ぐ雨を防いだ。


「……っ!」


 焔は彼の背中を見て、自分は生きていると感じる。同時に、彼は降り注ぐ矢に動じず、懸命に盾を握っている。

 その姿に、焔は無意識に諦めからとある希望を持ち始めた。


「アルケイデスッ!」


 ケイローンはアルケイデスに迫り、今すぐに辞めるように言う。彼は、師匠の言葉には逆らえず弓を下げた。逆らえば、怪力のアルケイデスでさえ苦戦する巧みな技を行使されるからだ。

 ケイローンは観客席にいる生徒らに、試合は“引き分け”と伝え、決闘を終了させた。


「立てますか?」


 ギャレットはそう言って、焔へ手を差し伸べる。彼女は、ゆっくりと立ち上がって彼の手を取ろうとしたが、意識が朦朧として目を瞑って倒れてしまう。


「しっかり!」


 ギャレットは彼女を受け止めて、様子が変だと感じて急いで保健室へと向かう。アスクレピオスは、その様子を見て保健室へと向かった。



 目を覚ますと、保健室の天井が視界に入った。焔は、全身の痛みは取れていたのを感じる。


「目が覚めましたか? (マスター)。」


「アシェル、先輩。……私は、どれくらい寝ていたのでしょうか?」


 焔は、アシェルから詳細を聞いた。盾を持って焔を守っていたのは、ギャレットという名の二年生で剣や魔術の成績も上位に入る実力を持つ。噂では、美少年で物欲が無い清廉な騎士、と。

 彼女は初めてそんな噂を聞いたが、彼の容姿を実際に見ても“確かに”と思った。


「あの人が、ギャレットさんだったんだ。凄く綺麗な人だから、女の子かと……。」


 “ふつくしぃ〜。オタク的には、ヤバみ。現実で見ても、別次元だわ。アニメも別次元だけど”


 アシェルはその言葉に、噂でも男女問わずに美少女と勘違いする者が多かったと話す。そして、育て親は妖精の一族で男性で、引き取られたとのこと。


 “孤児って、本当? この違和感は一体?”


「あの、ミュケナイ先輩は?」


「ミュケナイ先輩は、賢者ケイローンから説教をお受けになられました。彼は、(マスター)が自分を追い込むとは思っていなかったのでしょう。」


「はぁ〜。ただ、度胸をもっと出せって意味ですよ。……時には、大胆にって言うように。」


「確かに、大胆さと慎重さの両立が、人生、と言うものに深く関わるのでしょう。」


「あの、アシェル先輩。初めて会った時より、言葉遣いが変わってませんか?」


 焔は、違和感の正体に気付いた。アシェルの口調は、ミステリアスな雰囲気を持ちながらフワフワした口調をしていた。急変にしては、劇的すぎる。彼はそう問われて、話を始める。


「私は、主人(マスター)である貴女に仕える為、天理を定める女神・クレアシオン様によって創られた存在です。

 勇者の儀を行う際に、台座にはめ込まれていた剣。皆、真理の剣と呼んでおりますが、私こそが真理の剣です。……いきなりで驚かれるのも、無理はありません。

 しかし、私は、剣としてあるべく、感情が薄れつつあるのです。また、人の形をする時間も終わりに近づいております。剣の姿となれば、私はその剣に宿る精霊として仕える事になります。

 そして、勇者としての役目を果たした時、私は剣の中で永遠の眠りにつくでしょう。」


「……っ! そ、そんなの、あんまりですッ! 役目を果たしたら、眠りにつくなんて……。」


 焔は、アシェルに課せられた残酷な運命を聞いてそう言う。RPGやアドベンチャーゲームなどでその展開が待ち受け、寂しいと言う気持ちはあった。

 しかし、目の前でそんな事が起きると思うと、寂しさより悲しみが大きくなって拒絶してしまいそうになる。アシェルは、そんな彼女の手を取って優しく握る。


(マスター)は、優しいです。でも、心配は無用です。例え、剣の姿になってしまっても、死ぬ訳でもなく、離れ離れになる訳でもありません。

 女神様は、真理の剣は定められた者しか所有できませんと仰っていました。どんな旅であろうとも、離れません。」


 “その微笑みは、ズルいよ。どうすればいいのか、分からなくなるじゃない”


 焔は、彼の微笑みを見て言葉を失い、沈黙する。アシェルは、しばらくしてこう話す。


(マスター)。台座に納められていた剣は、とある邪悪の竜からオリュンポスを守るために作られた聖剣にして魔剣です。」


「聖剣でもあるし、魔剣でもあるってこと?」


「はい。かつて、人でありながら勇敢に立ち向かった者がおりました。ファヴウォックは、ジャバウォックとファフニールと同等です。

 その者の剣は、貴族の剣でした。しかし、邪竜を見事に打ち破り、名をファフニールを倒した魔剣の名を借りて“グラム”と名付けられたのです。

 しかし、英雄と称えられた彼は、ファヴウォックの毒で苦しみを背負い、亡くなりました。人々は、人を苦しませて命を奪う力を剣が宿したとして、名を改めて“ダイン・グラム”となりました。」


 “系統は、北欧神話から、か。……なるほど。ファフニールを倒した魔剣・グラムと、生き血を吸う魔剣・ダインスレイヴから名を取ったのか。意外と、恐ろしいものなんだな”


 話を終えた時、保健室の扉が開いてアスクレピオスとギャレットが入って来た。彼女は、サッと気持ちを切り替える。アシェルも、場を弁えてピシッと姿勢を正す。


「目が覚めたようだな。アシェル、彼女の体調は?」


「はい。異常ありません。三日ほど睡眠したことで、十分な休養も取れたと思われます。」


「ふむ。……しばらくは、戦闘を控えることだ。指揮官としての仕事は果たさなければならないだろうが、休憩を怠らないように。」


「わ、分かりました。」


 焔は、アスクレピオスの診断に従う。彼を怒らせると、大変なことになりそうだ。彼は、焔に支障がないように、アシェルとギャレットを助手にする様にとケイローンからの伝言を話す。


「あ、ありがとうございます。」


 “ゔっ……こんな美男子を助手にして、いいのだろうか”


 焔は、オタクとして複雑な思いを抱いていた。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご報告おねがいします。

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