第7節 知恵を、力を
簡単な魔術すら、失敗して落ち込んでいた焔は「謎の青年らしき人」によって―
青年が姿を消した後、焔は――
(もっと、聞きたい事があったのに……てか、教える本人が姿を消えるか⁈)
と思い、そんな感じな英雄の事を思い出すが、それは後回しにし――
「やるしか、ねぇのか」
そう呟いて集中する。魔力の流れを感じる様に全身に感覚を研ぎ澄ます。
(落ち着け、自分はできる。……紙よ、浮け!)
と心で叫ぶと――
「う、浮いた!」
ふわっと、紙が浮いたが、直後にビリッと破れてしまった。それでも、紙一枚を浮かせた事は彼女にとって、とても嬉しかった。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
焔はそう叫んだが、ソフィーがこちらを見ているのに気づいて、急に静まる。
「す、すみません」
焔はそう言い、頬を赤らめる。ソフィーは青年が去ったのを見ていたので、彼女におめでとうございますと言う。
「い、いえ。でも、嬉しいです! あとは、体を動かす運動もしておこうと思います」
「体力向上は良いことです。魔力の器が成長しますので、一石二鳥ですよ」
「あ、ありがとうございます!」
気付けば、半年は過ぎていて季節は夏の終わり。もう少しすれば秋、そして冬。秋は少し肌寒い時期で、十二月末から一月末は、もっと寒くなると言う。
家には暖炉があり、人々はそこで家族団欒をする事が多いと言う。日本には無い暖炉の文化……また、この地域の服装からしてヨーロッパ地域の一国の様だと思わせる。
この国の女性としての服装はドレスなのだが、焔はあまり着たくない方で祝い事のみが相応しいと思い、わざと男装をしてアッシュの助手として生活している。
図書館を後にして、焔は真っ直ぐ家へと帰る。
「うぅ……寒い」
急いで家に戻り、彼女は心を癒やす。
(あぁ、やっぱり家は最高!)
と焔は思う。
「お帰り」
アッシュはそう言い、フロリは「お疲れ様」と言って焔用のハーブティーを用意する。彼女は、話をする。
「うん。もう夏の終わりか。……俺の国は、もう少しすれば紅葉を見に行く頃だね」
「……紅葉? 聞いた事はあるが、わざわざ見に行くのか?」
フロリは首を傾げて尋ねると、彼女は言う。
「あぁ、木の葉っぱが赤や黄に変化して、秋が来たと言うのを一つの娯楽……楽しみにしてる」
「へぇ~。それも良いな」
焔はそう言って、アッシュと共に椅子に座り、用意されたハーブティーを口にするが――
(……うっ!不味い!)とほのか、
(やっぱり、あたしの口は合わねぇ)とホノ、
(ホノ、言っても仕方ないぞ)とエル、
(おい、エル。ほのかがハーブティーとか紅茶が嫌いって事、知ってるだろ?)とホムラは思う。
実は、焔にとってハーブティーや紅茶は大の苦手。匂いも慣れておらず、甘い香りを持つアップルティーや甘いミルクティーも飲めない。しかし、苦手な物だと言いづらい。
折角、用意してくれたものに断りを入れるのは失礼、と彼女は思うのだ。彼女の反応に、フロリは気付いて「悪い、熱いの入れちまった事、言うの忘れてた」と言う。
「あ、大丈夫。その、ハーブティーは……」
「もしかして、焔。飲めないのか?」
焔の言葉に対して、そう返したフロリに図星を言われて、彼女は何も言えない。
「そうなのか? 言ってくれれば、別の物を用意したんだが……」
「ごめん」
焔はフロリに謝る。申し訳ない。「嫌いだ」と言って怒ってしまうかもしれないと不安があったのだ。断りを入れてしまえば、社交儀礼が無いと烙印を押されそうで怖かった。
「気を遣ってくれたんだな。ありがとう。でも、今度からは口に合わない物とか教えて欲しい。それと、食べれそうな物とかは、少しずつ慣れる事も大事だからな」
フロリはそう言った。
「そうだな。焔、遠慮はいらないぞ。嫌いな物すべてとは行かないけど、無理はすんな」
アッシュはそう言い、焔は頷く。フロリは彼女に飲めるものを訪ねて、そのコップに暖かい緑茶を入れた。この世界は中継貿易が既になされており、極東の帝国・夏から緑茶を仕入れていると言う。また、各国の栽培技術はそこそこらしく、「自分の世界とは少し違う様で同じような感じだ」と彼女は思った。
「そう言えば、焔」
「なに、アッシュ?」
「この世界で半年は過ごした様だけど、慣れて来たか?」
アッシュの問いに、焔は「生活に慣れて来た」と言い、焔は「剣術を教えて欲しい」と頼む。アッシュは「構わないが」と言って続ける。
「もしかしたら、俺じゃなくて仲間が稽古の相手をしてくれるかもしれないが……良いか?」
「はい! 自分にとって、大事な事ですから! 勉強になります」
焔が励みになることを言い、焔は照れ臭されて「レイは黙ってよ」と思っていた。
また、フロリもお願いを申し出る。騎士になることが彼の夢だと語っていたのを思い出す。
本来ならば、騎士になるにはもっと早くお仕えする主の元へと参るのだが、焔とフロリは特別枠……訳ありである。
来年の春に、騎士認定試験があり、剣術を学んだ人々が試験に挑んで実力を示す。厳しい観点で見られ、合否を問うのだ。とにかく、彼女とフロリは特別に剣の稽古を受ける事になった。その代わり、スパルタになる事もあると話された。
(少し、嫌だな)と思うほのかとホノ、
(大丈夫。私たちがいるのですから)とレイは思う。
ユウやホムラ、エルも同意見だった。それでも、焔はフロリと共に騎士への道を歩む事になった。
翌日。焔とフロリは朝食を終えた後、アッシュが言う「騎士団のアジト」へと向かう。今日は肌寒いも天気は秋晴れで、パリスはいつもの様に賑わいを見せていた。
やはり、「自分はドレスは似合わない」と焔は町を行き交う貴婦人たちを見て言う。貴族だけではない、庶民などの女性たちはドレスのような服装を身に纏っているが、彼女にとってはやはり慣れない服装らしい。
アジトへ到着するが、焔は騎士団のアジトにしては荘厳な建物だと驚く。
「騎士団と言ってもいくつかあるんだ。町を防衛する駐屯団、町や国を警護する警ら隊。そして、主に仕える臣下の役割を担うのが、騎士だ。俺は、この国の王・レオ四世様に仕えている一人にして、白銀騎士団…アージョン・オルドルの一員で団長だ」
アッシュの説明に、焔は驚いた。フロリは、彼は焔にとっくに伝えていたと思っていたので少々呆れていた。
フロリが言うには「数ある騎士団の中でも優秀な人たちが集まり、十一人の勇士がいると言われている」と話す。
(なんか、アレみたい…何とか十二勇士ってヤツ。でも、一人足りねぇな)とホノ
(歴史的な何かが好きなお前が、あんな騎士道物語の代表の一つを読むなんてな)とホムラ、
(いいね!)とユウ、
(そうですね。日本だけでなく、海外文学も読む事も悪くないのですから)とレイ、
(あぁ、そうだな)とエルは思う。
アジトの中に入り、アッシュは挨拶をすると、その場にいた二人の青年が反応した。一人は茶髪で灰色の瞳、もう一人は同じく茶髪で青色の瞳だ。
「アッシュ先輩‼」
「ご苦労様です」
青年二人はそれぞれ挨拶をする。アッシュは「久しぶりだな」と言って続ける。
「今日、二人空いているか?」
茶髪で灰色の瞳の青年は「これから会議がありまして」と言って、茶髪で青い瞳の青年・オリヴィエに「用事はありますか」と尋ねる。
「僕の方は大丈夫。あとは、アストルが空いている」
青年の問いに、オリヴィエはそう言う。
「丁度良いな。この二人に、剣術を教えてやって欲しい。色々と訳アリなのだが、頼めるか?」
「はい。では、アストルを呼んで来ますね」
アッシュの頼みに、オリヴィエはアストルと言う人を呼びに行った。直後にもう一人の茶髪で灰色の瞳の青年はアッシュに言う。
「アッシュ殿。チルパ殿が申していたのですが、私と共に会議に出て欲しいとの伝言が」
「お! そうか。分かった、ロラン。行こう。じゃぁ、二人共、無理はせずに励んでね」
アッシュの言葉に、焔とフロリマールはそれぞれ返事をした。そして、アッシュとロランと呼ばれる青年が去った後、オリヴィエはもう一人の少女らしき人物を連れてやって来た。
「自己紹介が遅くなってしまったね。僕は、オリヴィエ・ド・モングラーヴ。家系的には医学魔術師だが、騎士の道も選んだ。それと、自分で言うのも何だけど、焔の応急治療もしたよ」
オリヴィエがそう話し終える。どうやら、オリヴィエと言う名はこの国では男性の名前のようだ。焔は「あ、ありがとうございます」と礼を言った。次に、隣にいた小柄な少女らしき人物が話を始めた。
「やっほ! どうも! 僕は、アストルフォ!アストルフォ・ド・メッシアだよ! 僕は、白銀騎士団の中でも、有力な白銀十一勇士の一人。
天馬騎士で相棒の名はイヴェール! あ、ちなみに僕は男の子だよ‼よろしくね☆」
アストルがそう言うと、フロリは目を見開いて「コイツ、男なのか?」とでも言いたい表情になる。焔の脳内は慌ただしい事になっていた。
“お、男の娘、だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼ それに、アストルフォ? アストルフォと言った⁈”とホノ、
“あ、あの人、男の人なんですか⁈”とほのか、
“落ち着いてください、ホノ!”とレイ、
“しゃぁねぇな! ホノを押さえるぞ”とホムラは思う。
ユウとエルは、ホノを抑えるために無意識へと向かう。
「よ、よろしくお願いします」とフロリ、焔は彼に続いて「宜しくお願い致します」と言い、それぞれ自己紹介をした。
オリヴィエはアッシュから事情を聴いており、早速訓練所へと案内した。訓練所は王城と繋がっており、時々国王が見に来ると言う。早速、焔とフロリは稽古に入る。
焔は、オリヴィエから剣術を教わるので、彼から訓練用の剣が渡されるが――
(お、重い!)
と焔は剣を握るも、持ち上げるのに精一杯であった。しかし、持ち上げるのにも腕がパンパンになりそうだった。
「乙女・焔?」
オリヴィエが彼女に声を掛ける。焔は「剣って、こんなに重いのか?」と呟く。
「もしかして、持った事が無いのかい?」
オリヴィエの尋ねに、焔は頷く。それを聞いた彼女は、焔の腰にある脇差に目をつける。
「焔。腰につけているその剣はどうだい?」
オリヴィエに言われて、焔は「これですか?」と言って両手で脇差を見せる。それを見たオリヴィエは興味深い視線になる。
「珍しい形をしているね。どういう作りなんだい?」
「あ、あのぅ」
オリヴィエの輝く瞳に焔はおずおず言うと、彼は我に返って――
「ごめん。僕、探求心が出過ぎる事があってさ。……さて、まずは筋肉トレーニングから稽古しよう! それから剣術をつけて、魔術と合成攻撃もできる様にして行こう。
あと、敬語はなし! 先輩によれば、僕たちと同い年って言うから。これからよろしく、焔!」
「は、はい!」
焔は元気よく返事をし、オリヴィエの剣術の教えを学んで行った。
読んでくださいまして、ありがとうございます!
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次回、『第8節 知恵を、力を、武勇を』です。お楽しみに!




