7.昨晩はお楽しみでしたね
結局朝ギリギリまで寝られませんでした。
赤ちゃんだから寝不足でクマができるなんて事はないだろうけど、身体に何かしらの影響はありそうで怖い。もうちょっと音を抑えて欲しい。
「おあよう!」
コリン、我が癒しよ。
純粋さゆえか、昨日のお祭り騒ぎを気に留めることなく朝まで熟睡していた。今日もニコニコ笑顔が眩しい。その純粋さを僕に分けておくれ。
日が完全に登っており、午前8時と言ったところか。父さんと母さんは今現在熟睡中だ。昨日は一晩中してたみたいだからね。正午までは寝てるのかな。僕の誕生日のために仕事は全部片付けたって言ってたし。ここ最近忙しそうだったから寝かせてあげよう。
もうすぐ使用人が家に来ると思うから、それまではコリンと戯るとするか。
「きゃー」と言いながらベビーベッドの向こう側から手を伸ばしてくるコリン、まだ身長が低いから僕視点からは髪の毛しか見えない。手もギリギリ僕に届いてない。コリンが悲しそうな声を上げるが僕にはどうすることもできない。
コリンがベビーベッドをジャングルジムに見立ててよじ登ってこようとする。危ないからやめときなさい。落ちて頭打ったらどうするの。
端までハイハイしてコリンに顔を見せてやる。すると小さい手でペチペチ叩いてくる。朝だからか、少し力が強い。
僕を顔を見て安心したのかまだ寝足りなかったのか、コリンは大きく欠伸をするとまた布団に潜って寝息を立て始めた。遊ぶんじゃなかったんかい。
どうしよう暇だな……何もやることがない。
本もベッドの下に隠してあるから僕じゃあ取ることができない。両親が寝静まっている今、昨日の分寝るのも良いけどどうせ数分後に起こされる事になるしなぁ……
この世界について復習するか? 最近は宗教系しか読んでなかったからちょうど良いかもしれない。この世界の国と地理について復習だ。
今の時代においては大きな勢力を持つ国が六つ存在する。そのうちの一つがこの国、グローリア王国だ。ラテン語でなんか意味があったとも思うけど忘れちゃったから割愛。
この国は文字通りの王国で国の頂点に立ってるのが一人の王様である。王が国における全ての全権を持っており、その人が「戦争しようぜ」って言ったら戦争勃発するし、「こんな法律作っちゃおうぜ」って言ったら出来ちゃうのだ。王の決定で全てが決まる、そんな国だ。
王になる人は責任重大、ちゃんとした選抜の末で王は選ばれる。基本一度王になったらその血族から王を選ぼうとするが、国を治めることのできる者がいないと判断されれば高位の貴族から順に推薦、選抜される。愚か者が王になる事は絶対にないのでその点は安心だ。
王がある事を決定するにしても独断で決定するわけではなく、他の者も交えて意見を交わし取り決める為、王は最終的な判断を下す役目と言ったほうがいいかもしれない。王の意見が尊重される事は確かだが。
そして王一人だけで国を全て収めるわけではない。王の部下、臣下のものを各地に散らせ統治させる。それが貴族だ。貴族の役目は王に与えられた領地を治めることが一つ。もう一つは戦争が起きた際、領民を守る為に戦う事。貴族は戦争の際に戦うことが義務付けられている。
貴族は民からの税で贅沢な暮らしができるかもしれない。その代わり領民に危機が訪れる場合、彼らを守る為命を賭して闘う。正直かっこいいと思った。
貴族の爵位は王の信頼度で区分されている。王直属の配下、最も信頼のおける者たちを公爵として侯爵、伯爵、子爵、そして男爵となっている。そして平民はか弱く守るべき者であるとされている。
王は首都を守り、貴族をまとめ上げ国を守る。
公爵は首都の周りを囲む様に領地を持っており、侯爵はその周りを、伯爵はまたその周りを……と言った感じで首都を守るように布陣が置かれている。
……ぶっちゃけると他国から攻め込まれた時に一番に戦うことになるのは領土の端っこ、田舎を治めている男爵になるわけだ。僕はこれがどうも不安で仕方ない。これっていわゆる足止め、囮になるってことだよね? 王都もしくは他の領地から援軍は送られてくるかもしれないがそれまでは孤軍奮闘しなければならないのだ。
平民からの成り上がり、貧乏な男爵家とかなり馬鹿にされ嘲りを向けられているウルーフ男爵家であるわけだが、どーもうちだけではなく子爵も含めた爵位の低い男爵家が馬鹿にされている様なのだ。
定めている法や志は素晴らしいと思ったのだが……やはり金と権力で人は腐敗するということなのだろうか? どこの世界でもそれは変わらないらしい。人間はこういう生き物だ。
本を描いた吟遊詩人によれば王は大変素晴らしい仁義を持った人格者とあるが、それが事実である事を願おう。
あとは……そうだな。
国の中央に位置する王都から爵位によって同心円に区分されている領地なのだが、あれはあまり信用の置けない、又はうちの様な貴族になったばかりの新参者を敢えて遠い場所に配置してるらしい。王都に近い場所なんかに設置して寝首を掻かれては堪らない、という事だろう。
しかも年に一回、江戸時代の参勤交代の様な事をさせられる。こんな辺境のど田舎から国の中心である首都まで行かなければならないわけだ。労力と財力の消費がが半端ない。この参勤交代制度が、もとより貧しいうちの懐をさらに圧迫しているわけだ。長距離の大移動なんて金に余裕のある公爵とかにやらせろよ。
……労力と財力を浪費させて反抗の芽を摘むのが目的だから文句言っても仕方ないだろうけど。それでも文句は言いたくなる。
これでこの国について大体のことは語れただろう。
……貴族についてはまだいくつか重要事項があるのだが、その中で僕が心の底から嫌だと思ってるシステムがある。それは、学校だ
貴族の子息令嬢は十歳を超えた時点で王都にある教育機関に送られる。日本の小学校、中学校と似た様なもんだろう。前世でのトラウマが蘇りますよ。
勿論僕も通うことになるんだろうけど、僕の学年って厄介なんだよね。王様の息子と娘、つまり王子と王女がいるらしい。もうね、面倒な予感しかしない。
同じ学校、同学年に悠仁様がいる感じ。厄介事の匂いがぷんぷんするね! いや〜ん!
いやだよ貴族の学校なんて絶対行きたくねえ! 何が面白くて傲慢チキな野郎女郎がいる場所に行かなければならんのだ!
幼稚園とか小学校低学年くらいならまだ良いよ。でも十歳以上って言ったらもうダメでしょ。腹黒オア馬鹿オア傲慢チキのどれかだろ絶対。心汚れきっちゃってるだろ。
だがどんなに拒絶したとしても、貴族の子なら嫌でも学校に送られる。僕に抗う術はないのだ……僕が出来るのは父さんが貴族の地位を捨てる事を願うくらいだ。
……勿論、全員が全員心が曇った者じゃないことは分かってる。人を思いやれる心優しい人だっているはずだ。
それでも男爵だから格下〜みたいなアホらしい考えを持つのは過半数はいるとみていい。学校に行けば絶対に弄られる。男爵である為に。
だけどなんで男爵家なんかに生まれてしまったんだとは考えない。平民に生まれて一生ひもじい思いをすることになるよりははるかにマシだし、爵位の高い場所に生まれてたらそれはそれで苦労しそう。
別に裕福というわけでもないけど、貧乏というわけでもない。男爵であるから背負う物は軽いだろうし、しかも長男じゃないから将来家を継ぐことはない。そして何より、家族に愛され大切にされている。
これ以上素晴らしいと言える生まれがあるだろうか?
僕はこのウルーフ男爵家に生まれて本当に良かったと持っている。
……とはいえだ、小煩い高慢なガキにあーだこーだ言われたくはない。
彼等を黙らせるのに効果的なもの、権力と力だ! 権力はどうしようもないとして、この世界では魔法も存在して剣で戦争したりする中世ヨーロッパの様な世界。他を寄せ付けない力があれば周囲への圧力になる。ほら、最近物騒な北朝鮮には近付きたくないでしょ? アレと同じよ。
戦争も僕が生きている時代に絶対にないとは言い切れないし、力を持っておいて損はない。
そろそろ言葉や知識を覚える段階から移動しよう。これからは第二段階に移行だ。
たくさんの可能性を秘めてる、この小さい体の真価を発揮する時が来たのだ。