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6.1歳になって




「リヒト! 誕生日おめでとう! 今日はお前が生まれて一年経つんだぞ」



時間が経つのは早いもので、転生してからすでに一年が経過した。

この世界でも誕生日を祝う伝統はある様で、僕は今現在家族全員に祝福されている。質素ながらも多くの飾り付けがされたリビングでささやかなパーティが行われる。


正直にいうと自分が誕生日だというのはついさっき知った。

最近コリンがやけにそわそわしていて、僕と一緒にいる時間が減ったから何があるんだろうと思ってたけど、まさか僕の誕生日とは。


コリンから何か聞き出そうとしても口を開かず、ニコニコして『秘密!』なんて言われたら大人しく引き下がるしかないじゃないですか。可愛すぎですよコリン。


ハイハイはできる様になったけど結局主な移動手段はコリンだからね、コリンがいないと何もできないのです。ベビーベッドに入れられたら僕にはどうしようもない。結局今日まで何も知らなかったわけだ。



「あう〜」



父さんは僕の体を抱き上げてくるくる回っており、母さんはそんな父さんを見て笑っている。コリンは大きなテーブルの上に乗っかっているケーキにチラチラと視線を向けながら拍手を送ってくれている。子供だからね、好物に目が行くのは仕方ないよね。


それにしても父さん、喜んでくれるのはいいけどそろそろグルグルさせるのやめてください。



「今日はお祝いだ。たくさん飲んでたくさん食べるぞ」



父さんは大きなケーキをざっくりと切り分けていく。コリンは分けられたケーキを大喜びで受け取っている。

この世界でも砂糖などの甘味を出す材料は非常に貴重なので、ケーキはめちゃくちゃ高い。ここは平民から成り上がった貧乏男爵家だからね、食べる機会は一年に一、二回ほどだ。平民だったらたぶん、一生食べることはない。


どこでそんなこと知ったかって? 借りパクした本に書いてありました( ^ω^ )

僕だって日々知識を蓄えているのだよ。


多少味は違うかもしれないが、この世界でもケーキを食べれるとは思わなかったので、僕に回ってくるケーキを非常に楽しみにしてたんだけど……見事にスルーされました。よくよく考えたら一歳でケーキは危ないよね。今日のご飯は野菜入り離乳食です。おいちー!



それにしても一年かー……もう一年が経ったのかぁ……

ケーキを美味しそうに頬張るコリンを横目に、思いに耽る。


この一年はなんだかあっという間に過ぎ去った。

異世界に転生しちゃって少し興奮していたのも束の間、先のことを考えるとすぐ頭を抱えることになった。自分的には頑張ったつもりだ。


両親への愛情表現、文字の習得、コリンとの関係、この世界の重要事項……色々なことに気を付けた。親の二人には怪しまれない様に気を付けながら絵本で文字を学び、本を読んで知識を蓄え、将来を考えてコリンとの仲を良好にしておく。


そんな事に一人奮闘していて気が付いたら一年が経過していたわけだ。時間が経つのは早いね。



午前はコリンとキャッキャして遊びながら、正午を過ぎてからは絵本の読み聞かせに参加、午後は両親が仕事の為にベビーベッドで自主学習をする。夕方を過ぎて夜は眠気が猛烈に襲ってくるのでそれに従い眠りにつく……


ここ数ヶ月はそんな毎日を繰り返していた。

変わった事といえば、この男爵家でも使用人を雇う様になったことか。この屋敷を二人だけの愛の巣にしたいとは言っても、父さん母さん二人だけで仕事家事を含めた全てをやるのはキツかったらしい。自領の仕事熱心な農民から使用人を雇う事になった。


貴族で上位階の公爵や侯爵なんかは子爵や男爵から二次三次の子息や子女を雇うらしい。が、ここ貧乏男爵家はそんなこと出来ないし、雇ったとしても払うお金がない! 言い方はアレだが安上がりで済む平民を雇ったわけだ。



だが使用人といっても、日本と違い識字率が高くないこの世界では平民で文字を読める人は少なく、直接公務に携わることはない。書類を運んだりする雑務を基本としている。後は伝令があったらそれを伝える係とか。


……本来平民は貴族から薄汚いなんか思われて疎まれている。平民を雇うなんて事はしない。普通だったら許可なしで平民が貴族に話しかけたらそれだけで罰せられるのだが、そこは元平民の男爵家、メチャクチャ自由(フリーリー)です。


元一般市民の僕としてはこういう差別意識のない家に生まれて、本当に良かったと思ってる。



後は乳母さんなんかを雇って僕やコリンの世話をさせていたり、領主館を掃除する人がいたりとかだ。お節介な乳母さんのおかげでなんと本を読む時間が減ってしまったことか! 僕があまりにも泣いたりぐずらないのが心配だとかで、いきなり飛んでくることがあるのだ。赤ちゃん相手にノックする人がいたらそれはそれで怖いけど、本当に心臓に悪い……本を読んでるのがバレそうになった時以来、1日に何回かは定期的に泣き真似をしている。



僕はちらりと後ろを向いてみる。

そこには案の定、僕の事を心配そうに見てくる乳母のマーサさんが。あの人、あの人です! マーサさんにも僕と同じくらいの娘がいるらしくて、毎日いるわけじゃないけど最近は悩みの種です。普通に良い人だし、僕の事を心配してくれてるのは分かってるんだけどね……



野菜入り離乳食が空になったので母さんが再び新しいのを入れてくれる。離乳食も美味しいけど、僕もケーキ食べたいなぁ……




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




……実を言うと、僕はもう一つ大きな悩みがあります。

ここ最近使用人を雇い始めてからの事なんだけど……ね……


ベビーベッドと一緒にコリンが寝るのがこの部屋です。コリンは現在スゥスゥと可愛らしい寝息を立てながら安眠しています。僕はと言うと……あんまり寝れてない。


原因は分かってる。というかそれが原因なのだ。毎日ではないけど、数日おきにはこの眠れない日がある。

僕が寝れない原因というのは隣の部屋で行われている催事にあるんですよね。


詳しい事は言わないよ? 詳しい事を言ったら大変……非常に大変で官能的な事になるからね!



いやー……熱いねお二人さん……うむ、非常に熱い。

この屋敷って壁薄いのかなあ。声と、吐息と、衝撃と。3コンボが壁を通して僕の耳にクリティカルヒットしてくる。もう本当に……勘弁してください。


声とか……まあイロイロな物を聞くだけとはいえ、親の情事がこんなに複雑な物だとは思わなかった。記憶と自我を持って生まれてしまった弊害がこんな所にもあったとは。



二人ともまだ若いからね。しょうがないよ……ね?

今までは僕たち子供の世話と仕事を二人でやらなきゃいけなかったから忙しかったんだろうけど、使用人を雇ったから余裕が出たんだろうなぁ……


ベビーベッドは壁に据え付けになってるんだよね。両親の部屋が隣にある壁にね! ほんと!この家の設計したの誰ですか!?

嗚呼、ヤっても良いからもうちょっと静かにお願いします。コリンが起きちゃうでしょう! あとベビーベッドをもうちょっと壁から離して欲しい。お願いだから。


最近寝不足になって昼間あんまり勉強できてないんだよ。寝させてくれ……





「ーーーーーーーー」

「ーーーーー」





…………ふむ。

近々弟もしくは妹が出来そうですね。『誕生日プレゼントは弟妹です!』ってか? 



父さん達は一体何人子供を作るつもりなんだろうか。あのイチャイチャラブラブ具合を見てると際限なく子供を作りそうなのだが。


可愛い弟や妹が出来るのは嬉しいが、今は安眠をプレゼントして欲しい。

はぁ……




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