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ノヴァゴーレム戦記 ~美少女ポンコツ魔術騎士がいく~  作者: とむ熊しのぶ
王立学園 初等科編
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004 三人娘


慌てて、工房を飛び出した私は最寄りの学園用乗り合い馬車の停留所に急ぐ。


停留所は家から三分も掛からない場所なので、通りに出てまだ馬車が到着していない事を確認しちょっとホッとして歩みを緩める。


馬車というぐらいなので、お馬さんが引っ張る王都でもメジャーな乗り物だ。ちなみに馬車に関しては、魔術的要素は皆無だ。技術的には魔術で駆動させる様な乗り物を作る事は可能だが、動いてる最中魔術力を流し込んだり、魔術制御をしつつ、馬車そのものも操作しないとならない事を考えると、素直にお馬さんに引っ張ってもらった方がはるかに単純で楽なのだ。という事で、人の移動手段として、馬車は未だ重宝される存在なのである。


いずれ、魔術力を効率的に貯蔵出来たり、魔術操作を自動制御出来る様な技術が開発されない限りは、お馬さんの職業が奪われる事は無いだろう。



この事例でもわかる様に、人体から一旦放出された魔術力は直接的には保存が出来ない。一定の時間は世界にその力を及ぼすが、直ぐに霧散して消えてしまう。魔術によって引き起こされた事象だけが後に残る事になる。


なので、例えば保存庫の場合、冷却対象物質(石とか水とか)を一挙に凍らせて、それを保冷に使ってその効果を持続させる仕組みとなっている。


目覚まし時計についても、実は無理に魔術具として作らずともゼンマイを手で巻けばいいのだが、魔術によって、目覚まし時間、音量や鳴動時間が一挙にセッティング出来る(実際の時計の動作は先の魔術で巻かれたゼンマイにより機械的に行われている)と言うのが売りで、当初は子供が魔術操作を練習する為の教育魔術具として世に出たものだった。ところが、いざ使ってみると意外と便利なので、大人になっても使い続ける人が増えて、今では普通に世に出回る商品となっている。


魔術操作の苦手な私は、毎晩目覚ましをセットする時、未だにひどく緊張を強いられる。失敗すると目覚ましが鳴らなかったりするので、過去それで何度か遅刻をやらかしてしまった事もある。普通の手動ゼンマイ式の時計に変えたかったのだが、父に厳しく禁止されてしまった。うちではいまだに本来の魔術操作練習用の用途が健在なのだ(笑)



馬車が到着し、乗り込んだ私は友達と挨拶を交わす。馬車は定時運行なので、毎朝乗り合わせるメンツはほぼ変わらない。学園ではこのバスで仲良くなるケースは多く、私も例にもれず、彼女達とはこの場所で知り合った。二人とはなんだかんだで入学以来の親友だ。


私に声を掛けた一人は、黒髪を肩で切りそろえたきりりとした美人さんで、名をアイーナ・レイヴリックソーという。それ程位は高くはないが王都に家族で暮らす(すなわち所領を持たない)貴族の出身で、将来的には王国軍人となる事を目指している。


成績も優秀で去年の席次は次席だった。今年は首席を狙っているのではないだろうか。もちろん高等科への進学は間違いなく(貴族だし)、軍人の中でもエリート育成が目的の戦務課程の入学を目指している。彼女なら確実だろう


もう一人はユルフワカールの淡い赤髪が可愛らしいおっとり系美少女だ。丸い眼鏡が丸顔の彼女にとっても似合っている。彼女はメリエル・マクスウォル・ハーヴェスター。名前でも判る様に王国の大貴族ハーヴェスター伯爵家の令嬢だ。


ハーヴェスター領は王国の南の端なので、本来なら寮に入るところだが、さすが大貴族だけあって、王都にも館を持っており、そこから通っている。


彼女は、普通課程を志望している。普通と言っても高等科での普通とは吏僚(役人)志望という事だ。高等科は国の将来を背負う者の為の教育機関だからだ。もっとも彼女の場合、大貴族の令嬢なのでいずれはいずこかの貴族に嫁ぐ可能性が一番大きいかもしれないが、正直あまりその人生を望んではいない。おっとりとした見た目とは裏腹にかなり野心的なところがあるのを私は知っている。


「今日も何とか遅刻を免れた様ね」


アイ(アイーナの愛称)がいつの間にか曲がっていた私のリボンタイをまっすぐ直しながら、つぶやいた。


「朝から、ゴーレム調整の手伝いよ。」


と私が首をコリコリさせながら言うと、メリー(メリエルの愛称)はまぁと口をお上品に手で押さえて驚いていたが、アイはあまり本気にしてない様で苦笑していた。


どうせ大した事はしてないんだろ?と言った感じである。確かに大した事はしていない(笑)さすがに九年の付き合いともなると聡明な彼女には通用しないらしい。


「でもあーちゃん(私のメリーだけの愛称、因みにアイはそのままアスカと呼ぶ)は錬金課程を目指すんでしょ。家のお手伝いが勉強になるなんて、良い事だと思うわ。」


なんて、素直でいい子なんだ。志は兎も角、この子が権謀うず巻く、吏僚や貴族の世を渡っていけるのか人ごとながら心配になる。まぁ何気に芯は強いので何とかなるとは思うけど。


「まぁね。でも軍人や吏僚とか柄じゃないし、魔道士とか致命的に才能ないから、どちらかというと消去法なんだけどね。物を作ること自体は好きだし。それに無事卒業して国家錬金術師の資格を得られれば、準貴族扱いでしょ。一生左団扇よ。あっはっは」


私はワザとらしく悪ぶってみた。今度は二人そろって苦笑である。


そうなのである。国家錬金術師の資格を取れば、貴族に準ずる。準貴族に列せられる。この準貴族というのは、当人限りとは言え、貴族と同等(末席だが)に扱われ、卒業後は俸給や年金がもらえる。とりあえず一般王国民が目指すエリートコースと言ってもいいだろう。


こんな立場も身分も違う三人だが、幸い気が合い仲良く過ごしている。しかも、それぞれがそれなりの美人三人組なので、学校でも目立つ。同級生や下級生の男子からおれアイーナさん派、おれはメリアナさん派等と言う対象になる事しばしばだった(多少は私派もいる(笑))。


もっともこんな美小女三人が固まっているのに、中々言い寄る男性諸氏はいなかった。アイは言わずもがなで、軍人志望だけあり見かけも性格的にも近づき難いし、一方メリーは男好きする見た目といい、優しく穏やかな性格といい、彼女にしたいナンバーワンといった感じかもしれないが、如何せん身分が高すぎる。とてもじゃないが一般庶民には声を掛けるなど不可能だ。一方同じ身分の高い貴族は、お付き合いするとなると家同士の関わり合が出てきてしまい、正直話が重くなる。それはそれで敷居が高い。最後に私はというと、身分的には手ごろな感じだが、見た目は兎も角その中身はガサツでポンコツな感じなので、男性側の嗜好としてはマニアックな色物扱いである。


そんなある意味注目だけ高く、恋愛関係ではリア充には程遠い残念三人組だったのである。本人たちにはその自覚は無いけどね・・。


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