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ノヴァゴーレム戦記 ~美少女ポンコツ魔術騎士がいく~  作者: とむ熊しのぶ
王立学園 初等科編
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002 アスカ・ミナモト


私の部屋に大音量の目覚ましが鳴り響いた。


深い眠りから突如たたき起こされた私は、反射的に音の鳴る方向に手を伸ばした。勿論目覚まし音を止める為だが、その勢いは殴りつけるに近い。


案の定ガキっと言う音と共に私の手に叩かれる形で、目覚ましが吹っ飛ばされ、部屋の隅に転がった。それでも目覚ましは鳴りやまない。


むしろ理不尽な扱いに抗議するかの様に一段階音が大きくなった気さえする。


まだ壊れず鳴り響いているのは、さすが我が王国が誇る大衆向け魔術具メーカー、タソニック製である。


突然の目覚めで、治まらない動悸を奏でる私の心臓を落ち着かせる為に、枕元に置いてあったクマのぬいぐるみを抱き寄せてそれに顔をうずめた。不細工な顔と柔らかい感触の私のお気に入りのぬいぐるみだ。


ふとある事を思いつき、クマのぬいぐるみを体から引きはがし、その微妙にデッサンが狂った様な顔をしげしげと見つめる私。このクマを父にねだった時に「もっと可愛いクマが居るだろう?」と言われたのだが、父もぬいぐるみ道を判っていない。整った顔のぬいぐるみ等、真のぬいぐるみ愛好家にとっては何の魅力もないのだ。少しぐらい不細工な方が、愛着が沸く。あれである「美人は三日で飽きる」理論である。


「私が錬金術師になったら、けたたましい音ではなく、優しく揺り起こしてくれるぬいぐるみ型の目覚まし時計を作ろう。」


私は思いついた事を気が付いたら口走っていた。このちょっと不細工なクマのぬいぐるみが、朝私をその柔らかい手で起こしている姿を想像して、ちょっと情けなく頬を緩めた。


しかし、直ぐ現実に引き戻されて表情を微妙にゆがめる。そんな高度な術式を施した目覚ましを一般家庭に売る様な値段で作れる訳がない。私はあきらめ半分クマのぬいぐるみを枕元に放り投げた。


タロスケ(ぬいぐるみの名前)が逆さになって恨めし気に私見つめている。


現実に戻った私は、いまだに鳴り続けている目覚ましに目を向ける。


しょうがないので、ベッドから立ち上がり、目覚ましの所に行って手に取ると、注意深く目覚ましを止める為の魔術刻印に魔術力を流し込んだ。ぞんざいにやるとブレーカー機能が働いて、目覚まし機能そのものが停止してしまうのだ。今では一般家庭用の魔術具でもブレーカー術式を刻印する事が義務付けられているが、これが搭載されていない古いタイプの魔術具は下手に魔術力をオーバーロードさせると刻印毎を吹っ飛ばして、魔術具としてお亡くなりになってしまうのだ。


一昔前、故意に魔術をオーバーロードさせ、魔術具を暴走させて、簡易な爆弾を作った馬鹿が居てそれ以来家庭用の安い魔術具にもブレーカー術式を組み込む事が法律で義務化されている。正直魔術操作が苦手な私としてはありがたい法律ではある。


それでも一度ブレーカーが落ちると復旧手順はそれなりに面倒なので、丁寧に魔術操作してやる事が必要なのだ。部屋の壁に叩き付けても壊れない程頑丈なのに、なんでそんなところだけ繊細なのか全く謎である。


目覚ましが鳴り止むのを確認した私はベッドに戻る。そこへ再び倒れ込む誘惑にかられるが、それをやったら確実に二度寝して終わりだ。高等科への進学を控えた私にはもはや遅刻は許されないのだ。


なんとか誘惑に打ち勝った私は、寝具を整え、ついでに寝相の悪いタロスケをちゃんと定置の枕の横に座らせ、カーテンを開ける。カーテンを開ける前から日差しがかなり差し込んでいたので想像をしていたが、かなり良い天気だ。



私はクローゼットから着替えを取り出し、部屋を出てそのまま浴室に直行する。


寝巻替わりのざっくりしたTシャツにパジャマの下だけを履いたあられもない格好だが、どうせ家に父しかいないし、おそらく既に工房に籠っている。


シャワーだけの入浴を澄まして、完全に体まで覚醒させた。浴室の脱衣所で身なりを整える。髪を乾かすのは、うちには高性能なドライヤーがあるので簡単だ。魔術で水分を適度に乾燥させる優れもので、私が父に強硬に作らせたミナモト錬金工房謹製オリジナルの魔術具だ。


父は泣く子も黙る元王国の秘密兵器の作成にかかわっていた国家錬金術師で、本来こんなチマチマした魔術具を作る立場にはないのだが、娘に甘い性質で気まぐれ半分手慰みに作ってくれた。代わりに私は父の工房をたまに手伝ったりしているのでお互い様だ。


さすがに髪のセットまではしてくれなので、鏡を見ながら二~三度櫛を入れると、いつものサラサラ、艶々のストレートヘアーの完成だ。この母譲りの淡い栗色の髪の毛には毎朝助けられる。サラサラすぎて、寝ぐせとか一切つかないのだ。


その代わり三つ編みとかしようとしても簡単にほどけてしまうというデメリットもあるが、友人にはくせ毛で悩んでいる娘もいるので、それに比べれば贅沢というものだろう。いずれにしてもガサツな私にはありがたくて、亡き母に毎日お礼の祈りをささげている程だ。


私は、初等科の制服を着て、胸のリボンが曲がっていない事を鏡で確認する。


うむ、どこから見ても完璧美少女完成だ。


この着慣れた制服を着るのも後一か月ちょいだなぁ、と思うとちょっと名残惜しい。


私は今年十五歳。来年十六歳なので、今年で九年通った王立初等科は卒業だ。来年からはうまくいけば王立高等科へと進む事になるだろう。なったらいいな(^^;A



王国は子供教育には熱心だ。


辺境国という事で、大した産業もないので、人材の育成に力を入れているのだ。王都に住まう国民であれば、六歳から十歳までの間なら入学出来る九年制の初等科には、ほとんど無料で通う事が出来る。


働きながら通える定時制迄用意されている程だ。


王都以外にも、王立学園の分校や、国から支援を受けた私塾などが多く置かれており、優秀な子供は国費で王都の寮に入り王立初等科に通う事も出来る。他の国の住民からするとうらやましい程の充実ぶりである。そのおかげで王国の識字率は七割を軽く超える。


専門課程に分化する、四年~七年制の高等科は王都にしかなく、さすがにこちらは誰でも、という訳に行かないが、貴族かあるいは一般庶民でも初等科でそれなりに成績を残した者だけが進む事が出来る。私は今その境目付近に居るわけだ。



私は初等科最上級生として恥ずかしくない身なりである事を確認すると洗濯物を籠に放り込んで、キッチンへ向かった。


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