016 賭け
賭け?どういう事?こんな人気のない所に美少女三人を連れ込んで一体こやつは何を?!
って、まぁこの人に関しては、その辺は問題なかろう。あまり魔術と錬金術以外には興味ないって感じだもんね。女なんか面倒くさい位に思っているんじゃないだろうか。全くライナさんの苦労が偲ばれると言う物だ。
で、賭けって何?
「ほら、アスカは魔術騎士課程への進学を悩んでいただろう?それを後押ししてあげようかなと思って。」
ん?どういう事。
「このドラグーンは、何とか仕上がったとはいえ、少々難点があってね。今量産中のあの二つのゴーレムに比べて、操作する上で魔術士への負担が大きい。というか要求される魔術士のレベルが高いんだ。」
だから、何?!
「そこで賭けの提案だ。もし、君がこのドラグーンをまともに動かす事が出来たら、僕は、君を子爵付きの助手として、この王立錬金工房で雇ってあげよう。その上で、すぐには無理だけど、何年か僕の下で錬金術を学んだ後、僕が国家錬金術師資格への推薦をしてあげよう。勿論受験は必要だけど、条件は錬金課程進学者と同じだ。どうせ彼方でも試験合格相当の知識と技術は卒業条件だからね.」
うっ・・。悪くない。王立錬金工房の名誉顧問自ら手ほどきを受けられるんだ。周りにもその手のマイスターもごまんと居る。そんな良い環境に居たら、おそらくそう長くかからず、国家錬金術師の資格を得る事が出来るのではないだろうか。ぶっちゃけその自信はある。
で・・でも、賭けに負けたら?
「その時はあきらめて、魔術騎士課程に進みなさい。みっちり何年か勉強して、卒業後は大手を振って、ここに来るがいい。僕の工房のテスト魔術騎士として、雇ってあげるよ。」
な、成程・・。魔術騎士課程進学の後押しとはそういう事か。どうせ動かせないから、素直に進学しろと・・。だが、この賭けを断っても状況が好転する訳じゃないからな。やってやろうじゃな無いか。小娘だと思ってなめんなよ!
「あーちゃん、判っているのかしら?」
「そうだな。賭けに勝っても負けても、結局アスカの将来はあの子爵様にこき使われる未来しかなんだけどな(笑)でもいいんじゃないか?うまくすりゃ。玉の輿だぞ。」
「えー。あーちゃんとあんなおじ様が?なんか嫌だわ。それになんかオタク全開で私、あの方ちょっと苦手・・」
「まぁ少なくとも顔と地位と家柄はいい。人柄も少なくとも悪人ではなさそうだ。私も正直ちょっとお断りな人種だがな・・・。」
なんか、後ろでアイとメリーがひそひそ話しているが、私には聞こえない。
「わ、判りました。受けて立ちましょう。その代わり王立錬金工房就職の件確かに約束しましたよ!」
私だって馬鹿ではない。これが兄さまなりの魔術騎士課程進学の後押しなのは判っている。いくら工房の子だからといって、勿論ノヴァゴーレムの操作などやった事はない。せいぜい、魔術核に座って、父の指示通り、魔術を込めたり、ちょっとだけ操作の真似事をしたりした事があるだけだ。普通に考えて本格的な操作など出来る訳がないのだ。
だけれど、それはそれとして、実はこの父と兄さまが作ったと言うドラグーンには興味がある。恐らくこの機会を逃したら、このオンリーワンなゴーレムの魔術核に入れる経験など一生無いだろう。それだけでもこの賭けに乗るメリットはある。
「君ならそう言うと思ったよ。アスカ」
兄さまはそう言うと、我々が入って来た扉から見て左の壁に行くと、そこに手を置いてなにやら操作した。
途端にごごご・・という低い音と共に、側面の壁が大きく開いた。
その向こうには練兵場の様な大きな広場が広がっていた。恐らくゴーレムの稼働確認や試験をする為の場所だろう。
扉が開くと同時に、ドラグーンが乗っていた台座が、ゴーレムごと広場の真ん中に向かて、ゆっくりと滑る様に移動し出した。魔術駆動車だったのか?
台座が移動する間に兄さまは警備員と思われる方に声を掛けていた。おそらくこれから使う旨の許可を取っていたのだろう。実験中に人とか入って来たら危ないもんね。声を掛けられた人も慣れたもので、彼の部下と思われる人たちに素早く指示を出している。
兄さまは、アイとメリーに危ないので建物からは出ない様にと指示した上で、私に付いて来る様にと素振りを示した。
私は、コートを脱ぎアイに渡すと、兄さまの後に続く。
冬にしては穏やかないい天気でそれ程寒さは感じなかったが、多少ニットワンピ裾が気になる。やはりズボンにしておけば良かったと思ったが、時既に遅しだ(;^_^A
兄さまは、手前で私を制すと、一人だけドラグーンに近づき、それに触れ何やら操作をした。
途端にドラグーンが、直立不動から片膝立ちの乗騎姿勢になった。突然の事にびくっとする私。これは、ゴーレムが戦場に姿を見せただけで、民衆が逃げ惑う気持ちがわかる。大きさと言う物は大きいだけで脅威なのだ。動くだけで他を圧する事が出来る。
私の挙動った態度が少しおかしかったのか、ニコニコしながら、私に近づいて来た。私の目の前まで来ると、急に私の髪をかき上げた。
ぎゃーーー!!突然なにすんじゃワレ!!
と一瞬怒りをあらわにしそうになったが、続いて、懐から取り出した器具を私の頭にカチューシャの様に取り付けた。続いて自分も同じものを頭に付ける。
(インカムだ。聞こえるかな)
取り付けられた装置から兄さまの声が聞こえた。私は頷く。
「今はこちらからの一方通行だが、あれに乗ったら座席のヘッドレストの右側にあるジャックにこれを差し込んでくれ。魔術核と接続されて、特に魔術操作しなくても、そちらからも通話ができる様になる。」
兄さまは私の右側頭部付近の装置から少しだけ飛び出た端子の様なものを手で引っ張って私に見せた。いったん止めて再度少しだけ引っ張って離すとシュルルルと元に戻る。巻き取り式になっているらしい。こんな所まで凝っている。さすがは錬金工房だ。
さて準備万端と言った所だろうか。兄さまは「さぁ、どうぞ」と言わんばかりの所作で私をドラグーンに誘う。
いっちょ、やってやりますか!