第2章 001 ~魔法のチカラ~
ーー舗装されていない道を進む。
道の脇には草木が生い茂っており、陽は出ているのだが何とも不気味な雰囲気を醸し出している。それ程にこの森の存在感は大きい。
「しっかしあれだな。 歩いて二日くらい掛かるってあの綺麗なかーちゃんが言ってたけど、こんな森の中で野宿する事になるのかー」
『まぁ仕方ないよぉ。 でもでも、王都までの道はまだまだ危ないって言ってたよねぇ。 どういう意味かなぁ?』
「魔物さんでも出るんですかねー? まっさかなー」
レンとニーチェの会話を聞き、エマが顔を赤くして
「なんですって?! 野宿…? 二日って本気なの?」
「あ、ああ悪い、言ってなかったな。 でもそれくらい知ってるものだと思ってたもんでぇ…」
レンという男はそれ程に気の回らない男なのだ。 何も告げずに女の子をこんな森に野宿をさせるなど、元の世界でのモテ具合が伺える。
「最悪だ最悪だぁ! ああ、もうどうしてこんなっ。 …あなたと一緒になんか寝ないんだからね」
「え?! そこですか?」
「なによ?」
エマは鋭い目でレンを睨む。
「な、なんかもっとこうーーお風呂は? とか、ベッドは? とか。 そういう乙女チックな問題かと思ったわ!」
「ふんっ! そんなの我慢する覚悟くらい出来てるわよ。 でも、男の方と壁で仕切られてない所で寝るなんて…それに相手はあなたよ?」
「……そんなに信用されてないんですかねぇ。 むしろそんな勇気ねぇよ。 魔物より怖えわ」
そんな会話の中シャルが『エマに何かしたら許さない』などと言っていたが、そんなシャルに追い回された事を思い出しニーチェは警戒していた。
ーー何はともあれ賑やかな旅路である。だいぶ歩いただろうか、休憩を挟みつつだが、なかなか進んだ気はする。 陽も沈み始め、野宿の準備を始める。
「そういえばニーチェ、シャル。 お前らってそっくりだけど精霊ってみんなそうなのか? 他にもいるだって話だったよな? 」
『まぁ、自分以外の精霊を実際に見たのは僕も始めてだったし、よくわからないな。 産まれて気がついた時からエマと一緒だ。 それは君たちも同じだよね?』
「そうか。 なんかその辺不透明だよな。 精霊の里とかあっても良さそうなのにな」
『ボクも知らないなぁ。 でもどこから来たのかとかは気にしないかなぁ。産まれてずっとレンと一緒に居た。その事実だけでボクは充分かなぁ』
「まぁ結局わからない事だらけ…って事だな」
そんなレンに対して、エマはその腰に手を当て胸を張り得意げに「そうね、新人君」と言う。
「新人って、お前も似たようなもんだろう。 なーんにも知らない訳だし?」
「知ってる事くらいあるわよ。シャル! いくよ」
そういうと彼女はシャルを肩に乗せ目を閉じて…
ーーーー「『イグニ』」
声を合わせて唱えたのだ。同時にシャルが光りだし、シャルの目の前に炎が生まれる。炎はそのまま野宿に備えて集めていた木の枝に着火した。レンは初めて見る魔法というモノに瞳を輝かせた。
「おおおおお!! 凄え! すっげえよ! イグニ?! それが魔法か! 火の魔法ってやつか?! 」
エマはキラキラとレンからの熱い視線に、キメ顔をする。
「まぁこれくらい? 私くらい精霊と仲良しなら当たり前のことよ」
「って事は俺らも出来るって事だよな? よしっ!」
「行くぜぇ!! イグニ! ……イグニ! …あ、あれ?」
何度唱えても炎はおろか煙すら出てこない。そんなレンにやれやれと言った感じで
「そんなんじゃだめよ。 ちゃんと心を合わせないと。 そして意識を合わせて想像するの。 まずはちゃんとニーチェと触れ合って」
そう言ってエマはニーチェをレンの肩の上に乗せる。それからもう一度気合いを入れ直し、目を閉じニーチェと心をあわせる。
「『イグニーーーーーー…』」
…………変化はなし。 ニーチェが少し光ったようにも感じたが錯覚かもしれないレベルだ。 こんなにも難しいモノなのだとレンは肩を落とす。
「あなた…よくあの中間地点にある扉を開けれたわね。 あそこは魔法のチカラが必要なはずなんだけどね。 ニーチェの事を精霊と知らずによく開けたとは思ってたけど…もしかするとあなた、相当センスが無いのかもしれないわね。」
その言葉にレンは落胆する。ニーチェはボクは知らないと言った顔をする。
「まぁ私も魔法に関してはそこまでよくわからないの。 この魔法くらいしか知らないし…きっとこれからいい事あるよ! 泣かないで」
「泣いてねぇよ! まぁあれだ。 俺はきっと凄え武器とか手に入れて戦うバリバリの戦闘タイプなんだよきっと! あれ? そうするとニーチェの存在価値がただの可愛いペットになるな」
『危ないのは嫌だからそれならそれでいいのよぉ』
レンの軽口にもニーチェは相変わらずな感じだ。 ーーしかしなんだかんだ言ってもそれから何十回もレンに付き合っていた。その光景を横目にエマとシャルは勝手に食事をとるのだった。