第1章 005 〜探し物〜
右も左もわからない世界に来て、心境の近しい存在との出会いはとても喜ばしい事だ。 付け加えての美少女と来たものだ。 その存在がレンにとって自分のヒロインである事に疑う余地はない。 それにしてもまだまだわからない事だらけだな……
「それにしてもエマ、お前この町に一年くらいはいるんだよな? 良かったら町を案内してくれないか? 実は俺、例のあの場所からここに来て、ほんの数時間しか経ってないんだ。 まずは身辺の調査って訳じゃないが、身の回りの事くらいは知っておきたいんだ」
それは流れ的にはごくごく普通なレンの申し出に
「よろしく。 とさっきは言ったけど、なんで私がそんなことまでしなくちゃいけないの? 小さな町よ? そのくらい自分で見て周りなさいよ」
エマは冷たく返した。
「え?あ、いや…そっか。そうだよな。 じゃあちょっくら自分で周ってみるよ! いろいろありがとうな! ……とりあえずあまり町の人にイタズラばっかりするなよ!」
レンは良くあるRPGゲームのように、エマはすでに仲間になったとそんな気でいたので、エマの返答には素直にショックを受けた。ーーーーその場でエマとは別れ、レンはとりあえずニーチェと町を見て周ることにした。
『なーんかわからない子だねぇ。 仲良くなったとはボクも思ったんだけどね』
「ああ。 正直俺もショックだよ。乙女心はわかんねーよな」
『まぁボクはあのシャルって子が馴れ馴れしく追いかけ回してくるから、離れてちょっとホッとしてるよぉ』
そう言うことなのだろう。 ニーチェもきっと性別的には雌だ。 そしてシャルは雄。 知り合って間もない女が男にグイグイ来られ過ぎるのは流石に警戒するか…とさすがのレンは少し反省した。
「とりあえずあれだな。 まずは服だな! 流石にこの格好でウロウロするのは目立ち過ぎるよな。 あとはちょっと腹が減ったな。 」
転生してからというもの色々とあったものだから、腹が減った事も忘れていた。 それにしても死んでも腹は減るんだな。
『まぁ確かにそうだねぇ。 ところで服を買うお金はあるのぉ?』
意地悪そうにニーチェが言った。 当然お金はない。 それどころかこの世界の通貨すらレンは知らないのだ。
「ああ。やっぱりそうなる? 異世界に来ても現実は厳しいなー!! もちろん無一文だ。 譲ってくれる人を探すか…」
ーーとは言ったものの早々うまくいく事も無く、時間だけが経過していった。
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『エマー。さっきは随分冷たかったね。 あのレンって子、僕はそんな悪い人間じゃ無いと思ったけど』
先程レンたちと別れて、家路に着いたエマにシャルがそう言った。 エマは俯き
「悪い人じゃ無いとは私も思うわよ。 でも…これでいいのよ。 町の人たちにはその…私嫌われてるしょ? そんな私と一緒に居たらレンも変な目でめられちゃうから」
その様子にシャルはやれやれと手を上げ
「君は少し…色々と考え込み過ぎなんだよ」
そう言った。
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ーーーー町にレンのため息が溢れる。
「現実はさーいつも厳しいよなー。せっかく転生したんだから、チートレベルで人生ウハウハな感じを期待してたんだが」
レンは生前も特に目立った特技も無ければ、人望もなく、社会に揉まれ、毎日をただただ無駄に過ごしてきた。友達も少なく一人アニメやゲームに夢中になるばかり。 うまくいかない事ばかりで、異世界に来てまでその現実を突き付けられた。
『今までダラダラ生きてきたツケってやつだよぉ』
ニーチェの言葉が突き刺さる。
「と、とりあえず今日はなんか食えそうな木の実とかでも探して野宿でもするか」
ーー町の中の人気の無い場所を選び野宿を決め込む。丁度川も流れてて野宿をするには良い場所だ。 いつの間にか陽は沈み、当然火を起こすことも出来ずに寂しい野宿だ。レンはやっとの思いで見つけた木の実をニーチェと分け合う。
「こんな時こそポジティブに生きよう! 明日はきっといい日になる! はずだ……!」
『だと良いんだけどねぇ。ーーん? あれ?』
ニーチェは川の方に視線を向ける。
『レン、あっち! 川のところに誰かいるよ? こんなに暗いのに危ないよねぇ』
ニーチェが指差す方向に目を向けると、川岸に小さな行燈の灯りが見える。 近づいてみるとまだ小学生くらいの小さな少女が、なにやら川を覗き込み何かを探しているようだ。
「おい! 君。どうしたんだ? もうこんなに暗いのに、こんな場所に居たら危ないじゃ無いか」
急に後ろから声をかけたので少女はビクつき、川に腰を落としそうになったが、瞬時にレンは少女の手を取った。
「ほらほら危ない」
「あ、お兄ちゃんありがと。 」
怖がっているのか少し震えてるように見える少女の頭にポンっと手をやり
「どうしたんだ? お兄ちゃんに言ってみ?」
すると少女はうん。と言い真っ直ぐな目でレンを見つめ
「あのね。お母さんが作ってくれたペンダントを落としちゃったの。だからね。その…」
少女は今にも泣きそうだ。 レンはその頭を撫で下ろし
「大丈夫!! お兄ちゃんに任せろ! 落としたのはこの辺で良いんだな? どんなのだ?」
「んとね、これくらいの、赤くて綺麗な石で出来てるんだけど……でも、いいの?お兄ちゃん」
どうやら五センチくらいの赤い石で作られたペンダントらしい。 しかしまずは少女を家に帰すのが先だな。
「よしわかった! だけどまずはお前を家に送っていくからな。 お母さんも今頃心配でお前を探してるはずだ。 後はお兄ちゃんが探しておいてあげるから」
「で、でも……」
「だーめだ! 親にはあんまり心配をかけるものじゃないんだぞ」
必ず見つけると約束し、少女を家まで送る。 事の詳細は秘密にするように少女に言われたので、家まで送り届けた際に母親には迷子になってたと言うように話を合わせた。 少女の母親は優しそうな人で、暗いのでという事で行燈を貸してくれた。
ーー川に戻る。そこまで大きくは無い川だ。なんとかなるだろうと行燈の灯りを頼りに赤い石を探すのだが、特徴はあるにせよ小さな石を見つけ出すのはなかなか困難だ。
「なっかなか見つかんねぇな」
『それはそうだよぉ。 もう流されちゃったんじゃ無い? …ふわあああ。 …ごめん。 ボクはもう寝るよぉ 』
そう言い。ニーチェは眠そうにレンの服の中へ潜っていった。その後もレンは探し続けたのであった。
ーーーー夜が明けて
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 大丈夫?!」
少女の声が聞こえた。 その声に目を覚ますと、少女と母親が心配そうな顔を見て覗かせていた。 いつの間にか寝ていたようだ。 その姿は川の水に濡れドロドロで一晩中必死で探してたのが伺える。その姿を見て母親が
「すいません。 あれからこの子から話は聞きました。 色々とご迷惑をお掛けしてしまったようで…」
そう言い母親はレンに頭をさげる。 ああ、そうだよな。小さな町だ。迷子…なんかでは通用する訳ないか。と心の中で思いった。
そして、
「ペンダントはまた作ってあげるから」と涙目の女の子に母親が優しく声をかける。
その言葉を聞き、レンはドヤ顔をする
「その必要はないですよ」
そう言い、ポケットから綺麗な赤い石でを取り出した。ドロドロになりながらも諦めずに探し、そして見つけ出したのだ。
「わ!」っと少女は驚き涙を流しながら喜んでいる。その少女の頭にポンっと手を当てて
「もう無くしたりするんじゃないぞ」
そう言いペンダントをしっかりとその細い首に付けてあげた。
「お兄ちゃんありがとう、ありがとう!!」
母親も頭を下げて
「あの、なにかお礼を…あ、もし宜しければ、随分と汚れてしまったみたいなので家で方でお身体を綺麗にしていってください」
「いいですか? お言葉に甘えさせて貰います」
レンにとってとても嬉しい事だ。 正直ドロドロでかなり気持ち悪い。 今すぐに風呂に入りたいところだ。 だがそれよりも自分の行いに対し、喜んで貰えた事がなにより喜ばしかった。