第1章 002 〜試しの門〜
「そういえば、ここ静かだな。 ーーさっきから鐘みたいな音は聞こえてくるんだけど……なぁニーチェ!この音はなんなのかは知っているか?」
ニーチェを肩に乗せ、丘を登りながら質問をした。
『ふふふー。 ニーチェは知ってるよー。 でもまずは自分の目で見て色々感じて欲しいんだなぁ 』
ニーチェはイタズラに笑いながらそう答えた。
この世界の質問にはまだ何も答えてくれないニーチェに少し苛立ちを覚え、肩から払おうとしながら丘を登ると、向こうの方に湖が見えた。
ーーなんやかんやで丘を越え、湖までくると
『覗いてみなよ』
ニーチェが少し真剣な顔をし、言われるがまま、湖を覗くとそこに映ったのは自分の姿だ。
ーー???
「なんだ?なんかちょっと若くなってない?俺?」
湖に移った自分の姿は、明らかに若い。18~20歳くらいの頃の自分の姿だった。
『そうだねぇ。君の場合はこの頃が肉体的にも充実してたって事だね』
「どういう事だ?」
俺の質問にニーチェは青い目を閉じて、得意そうに答えた。
『人は死んだらさ。 君たちが暮らしていた世界より高い次元に行くんだけど……あっ! みんなが行けるわけではないんだけどね。 まぁここはそこへ行く前の中間地点って訳だよぉ。 それでこの中間地点では、現世での君の生き方や思考とかが入り混じって、今の君が構成されてるって感じかな?』
「おい……ちょっ待てよ! 死んだ…って? 俺が…か? いつ? なんでだ? どうなってんだよ?! 」
訳がわからなかった。 夢とか、なんかそんな感じなんだろうな。とかちょっとは思っていたが、この現実感は否めない。だか死んだ。と言われても理解に苦しむ。
タチの悪い夢ではないかと、淡い期待が脳裏をよぎると、それに合わせるように
『ふう。 そうだよね。 ーーでもね、まずは現実を受け止めて。 君は死んだ。 あの夜に』
…………。
湖の周りはしばらく沈黙が続いた。
だが、レンはふーっと息を吐き
「そっかそっか。 死んだのか。 まぁ生きてても大した人生を歩んでた訳じゃないし…あ、いや、死んだのはそりゃ悲しいよ! けど、今俺はここにいて、お前と話が出来ている。 俺はてっきり死んだら無の世界みたいなとこに行くと思ってたからさ。 それに比べたら天国だよここは 」
そして、目をキラキラさせて
「それに転生? みたいな感じだろ? しかもみんなが来れるわけじゃないなんて、もしかして俺って選ばれし勇者とか? なんか俺の内側からパワーを感じる! 今ならなんか魔法とか使えそうだぜ」
ーーと手のひらをパーにして、魔法を放とうと力を込めた。
『それはどうかなぁ。それにしても自分の死をこうもあっさりと…まぁまったく君らしいよね 』
「なぁニーチェ。 お前、ここが中間地点とか言ってたけど、俺はこれからどうしたらいい?」
『鐘の音まだ聞こえるよね? そこに行こうかぁ。』
確かに鐘の音は聞こえる。だが、辺りは夜って感じでハッキリ言って鐘の場所を目視する事は出来そうにない。
「音しか聞こえないからなぁ。それになぜか反響してて、音の発生場所がイマイチわからないんですが」
『大丈夫だよぉ。 目を閉じて、イメージするんだ。鐘の音から目的の場所を 』
「そんな無茶な。イメージして辿り着ければ世話ないって。…はっ! まさかそれが俺のチート能力か?!」
相変わらずのレンにニーチェは苦笑いしてイメージするように促した。
「ーーイメージ。 イメージ…」
鐘をイメージして一歩踏み出す。
一歩。また一歩と踏み出すと
ーーーー!!!空間が歪み、空気が変わり、そこには。
『レン!目を開けてみて』
「お、…うぉ?!」
そこには金色の立派なお城的な建物と、その上には大きな金色の鐘が、堂々と音を鳴らしていた。
「この世の物とは思えねぇな」
美しすぎるその建物に感動を覚え、開いた口が塞がらない。
『レン〜とりあえず入ってみようよぉ』
ニーチェも青い目をキラキラさせて中に入ろうと目の前をピョンピョン跳ねている。
レンとニーチェはお城へと繋がる大きな橋を渡り、扉のところまで来た。
「それにしても警備の人とか門番とかいねぇのな。 このデケェ扉開くのかな? まさか、これが噂の試しの門か?!」
『うーん。もしかしたらそうなのかもね! その試しの門的な感じの役割があるのかもだね』
ニーチェはここに来て曖昧なセリフだ。
まぁ、ずっと俺の中に居たとか言ってたし、ニーチェもここに来るのは初めてなのだろう。
門に触れてみると、とても重量感のあるその扉はとてもレンの力では開ける事が出来ないのは明白だ。
「んー。 ここは俺のチート能力を覚醒させないと開けねぇな」
アニメの見過ぎなのか、それっぽい技名や詠唱を唱え始めた。死んでもやはり中二病は健在だ。
いつの間にかニーチェは流石にちょっと引いた感じで離れていた。
「ダメだ〜。 ちょっと疲れたな。 おい!ニーチェ。 お前、ズバババーって感じにどうにか出来ないか?」
もはや人ならぬ猫だより。猫の手も借りたい…いや猫じゃないのか…。
『ボクにもムリだよぉ』と扉をポンポンと愛くるしい手で叩きお手上げな感じて、レンの頭の上に乗ってきた。
「くそ! 開けゴマ! 」
などと、もはや投げやりな言葉を放った。
ーーーーその時だった。
金色の扉がさらに輝きだしたのだ。