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8 異世界教育制度

 終電に乗っていたら唐突にたどり着いてしまったパラレルワールドの日本。

 この世界の学校では勉強は数学史や化学史などの歴史としてサラッと流す傍ら、ゲームばっかりやらせている。

 それで実用的な能力は身に着くのか、元の世界の感覚では心配になるけれど、おそらく……


「検定で学力を保ってるんですよね?」

 お医者さんになるには段が必要だと言っていた。コンピューターが出題するとも言っていた。おそらく学力をはかる方法はお医者さんと同じように検定だと思うんだけど、そんな勉強で大丈夫か?


三反崎みそざきさんもこっちの世界の事わかってきたね~」

 いや、分かりはするけど。本当に大丈夫?元の世界の日本も教育制度が結構大きく変わったとき色々問題も起こったよ。


「はい、そもそも、複雑化、細分化する各産業の中で、学校の授業内容と企業が人材に求めている知識に大きな齟齬が出始めていたんです。

 そのため各企業が独自に教養や業務内容に関する基礎的な試験問題を製作して大量に保持するようになりました」


 求める人材を高精度で発見できるような試験は一つの財産だったらしい。有償で他企業に提供するような事もあったそうだ。


「それらを買い上げて統合、整頓し、基礎医学知識検定から遅れること数年後。

 義務教育と高等教育の全課程、および各種就職資格試験や業界の予備知識に当たるような内容全てを細分化して検定化しました。

 それが『国家知識検定』です。

 歴史概要とは別に通信検定として段が設定されています」


「ついでにぐれーどぽいんとあべれーじ?成績の評価方法を留学とかやりやすいように外国、特にアメリカと合わせようとしたんだけど~」

「おお」

「わけわかんない事になったんで早々に投げて」

「投げた」

「日本独自に留学資格試験っていうのを作った」

 ぐだぐだか。


「この検定化は量の割りに突貫工事だったのもあってさ~、最初はめっちゃ批判されたけどね~。

 でも結局は採用のときに各企業が欲しいスキルを持ってる人材を見つけるのにすごい便利だったから、すぐに受け入れられたんだよね~」

 企業にしてみればゲーム内で見ず知らずの人とパーティー組むときに相手のスキルやパラメータが表示できるようなもんだろうね。利益があったから受け入れられたわけか。でも。


「でも、それで遊び道具を前にした子が素直に勉強してくれるとはとても思えないんですけど……」

 私が子供だったらテスト完スルーしてゲームに走るよ。


 この世界の現在の教育制度によると、簡単な読み書き計算の勉強が終わり次第、個人のペースで学習を進める方式になる。

 流石に放任状態だと遊びに殺到するため、ある程度時間割はあるらしい。


 何だかんだ言って歴史の話は物珍しいので、内容がおもしろければ聞いてくれる子も多いというけど……。


「歴史概要では、授業内容のチェックは大きく教習と検定があります」

 教習は資料を閲覧したら評価される履修主義評価、検定はコンピューターの出題によって理解度を評価する修得主義評価。

 

 世界の物理、数学、化学、生物、建築、工学、服飾、記述、法律、経済、政治などなどなどの発達の歴史だから大変だぞこれ。

 

「はい、教育改革以降の文部省は、教員が個人で制作した教材の買い取りを行っています。

 良質な講義の映像化をしてノウハウを共有する事で指導の質の向上を図っているんです。名物授業はアーカイブで見れたりしますよ」


 歴史学習については授業の他にもVR資料映像、歴史ドラマやアニメ映像、漫画、資料集、小説などの教材もあり、子供が各々に向いた方法で学習する事ができるという。


「あと、もちろん学習障害の子の場合は様々な対応がとられます。場合によっては苦手科目は免除になります」

 そうは言ってもなー。


「それでも頑なに勉強しない子が出るんじゃないですか?嫌いな先生とかに当たったりして」

「その時は別の学校に行っちゃえばいいんだよ~」

「はい!?」


「自動運転車が出来てからは学区を越えて流動化することが推奨されました」

「大丈夫なんですか?それ」

「ええ、学習の進行状況は教習や検定でチェックしていますし、出席していなければ行方不明として捜索されます。地域全体で全足どりを追われるので恥ずかしいですよ」

 指名手配とか、おちおちズル休みもできないちびっこは大変だ。

 あと、多分治安がいいんだろうな~と思う。


「そもそも文化実技。つまり音楽や美術、スポーツの指導は専門家の居る専門施設でしかできませんから、ある程度流動化が必要になったんです。

 一度ぐらい体験してみないと分からないこともありますし」


 文化実技の合格基準については

 ・教習を指定された回数受けるだけのケース。

 ・複数試験官が実際の手順を観察するか、手技をこなす様子を映像で見て確認するかして点数化し合否を判定するケース。

 ・提示された条件をクリアするケースなどがあるそうだ。


 基本的に義務教育での文化実技の試験は指定回数教習を受けるだけ。『だけ』とはいっても量が多くて大変だ。


 実際にやってみないと分からないことの多いスポーツ、芸術、工学などの科目は専門施設まで行って教習を受けなければならない。

 あっちこっちに移動してサッカー一回目とかピアノ三回目とかミシン二回目とか華道二回目とか何百もの教習をこなすわけだ、小中学生は多忙だ。


 製作物や結果の良し悪しよりも、その仕事に対して関心を持たせる、嫌悪感を抱かせない、自分に無い能力を持つ人を素直に尊敬できるようにする、を目標として掲げられているらしい。良い仕組みだと思います。


「文化実技ってスポーツも入ってるんだよね?……学校で体育が無いって事は全国大会とかは……?」


「そうなんだよ~、各地域のスポーツジムや専門施設を持つ学校がスポーツの専門教育機関としてジュニアチームとか持ってるんだ。スポーツやりたい子はそこに所属するの。人気監督とかはそっちにいるし」

 つまり部活動の全国大会や地区大会は主に地域のジムが引き継いでいるらしい。


「しょっちゅう学区が変わったりするのに大丈夫なの?」

 自動運転車であっちこっちの学校に行くんだよね?


「え?各地域での人材交流が盛んなのっていいことじゃないの?」

 チーム作る時どうなるんだ?

「プロのスポーツ選手でも移籍したりするよね?」

 そう言われればそうだけども。



 しかし多忙すぎる義務教育、もう義務教育だけでいいんじゃないかな。

「高校や大学では何やってるの?やっぱり就職に有利とか……?」

「高校は専門的な勉強ができる場所だからね~、確かに就職に必要な段位の勉強には適してるかな?

 大学は一部を除いて研究するとこだよ~。

 研究ができるのはほとんど企業か大学だけ」

「ええ、研究室や企業は、所属するのに必要な段位を発表して人材を集めているんですよ」


 大学や企業の募集項目に『生物学60~80段、120~124段』『統計学15~20段』『電子工学50段』『電子工学実技3段』のように必要な段位が書かれてるわけだ。

 世がステータス画面ありファンタジー異世界なら『回復魔法Lv5』『防御魔法Lv2』とか『鑑定スキルLv3』『鍵開けLv5』みたいな募集要項が並んでいるだろう。


「実技・実習の多くは設備が必要だから、本格的にやるなら高等専門学校か大学に行かないとできないからね~。

 やりたいことがある子は早目に必要な勉強に取り組んだ方が、その分早く目標の所に行けるんだよね」

 行きたい会社の求人を見て、学校では必須ではない知識検定を受ける子も居るらしい、ゲーム会社に入りたくてプログラミングの上位の段とっちゃったりとか。


 しかし習熟度に応じてなれる職業が決まってくるとすると。


「何かゲームのシステムっぽい……」

「だから検定受けるほど出来る事が増えるって言ったじゃ~ん」

 なるほど、そんな感じなのか。


「あと、国家知識検定もカンニングOKだからね~」


 無茶苦茶だな!!


「基礎医学だけじゃなくてこっちもカンニングOKなの!?」

「暗記試験ってわけじゃないからね~」

 そんなんで大丈夫かと思っていたら音山さん猫本さんが補足してくれた。


「ある程度を知識として身に着けておいてほしい所もあるのですが、その一方で何をどう調べれば理解できるかを身に着けるのも重要とされています。その為の検定でもあります」

「あと、カンニングありとはいいますが、通信検定はやはり基礎医学知識検定の様に時間制限があるので、ある程度理解してないと合格は無理ですよ」

 コンピューターなら膨大な問題からあれこれ出題してくれるし、何時間でも採点に付き合ってくれる。


「更に言いますと、パッと見て知識とすり合わせないといけない『資格試験』は『国家知識検定』とは違います。

 カンニング禁止ですよ」

 ……つまり資格試験と国家知識検定は違うもの?

「ええ、例えば検査結果を見て一目で異常に気付かないといけない医療関係者や、法律違反をその場で判断しないといけない警察官の資格試験などですね。カンニング対策の施された試験会場が用意されます」


 ここが『国家知識検定』と『資格試験』の大きな違いだそうだ。


 『国家知識検定』はあくまで勉強のやり方と、完璧でなくてもできるだけ広く深く知識を持っておいて欲しい。

 一方の『資格試験』は免許をもらうために受ける試験で、人の生命や財産を守るために必要な知識は反射的に頭に浮かぶほどしっかりとしていなければならない、現場に必要なカンペがあるとは限らないのだ。



 しかし、基本であるはずの国家知識検定。何をどれぐらい勉強すればいいんだろう?


「要領よくって数年で義務教育課程の段位を全部とっちゃうような子もいるけどね」

 そんな無茶な。


 読み書き計算などの基本以外の国家知識検定は、歴史で科学の進歩の概要を理解しないと受けられないらしい。

 なぜそうなったのか、が分かっていないと丸暗記になりがち、というのがその理由だそうだ。


「流石に移民の人は歴史を延々と勉強していると滞在期間がつぶれてしまうので、最初から国家知識検定を受ける事が出来ますよ」

 私は異世界からの移民という扱いなのでこれ。

 いや、話を聞いてる限り義務教育課程の検定って全部合わせると多分一万段を超えるでしょ?カンニングありでも合格できる気がしないんですけど……この世界の日本国民ハードル高くない?


「……義務教育の必修科目とかに合格できなかったらどうなるんですか……?」

 国を追い出されても行く場所がないよ?



「義務教育課程の全部に合格しろってわけでもないんだよ~、最低限必要な科目と段位は本当に限られるし、一年間猶予があれば大丈夫」

「まずはとりあえず就労して問題ないか、を見られるだけですから、本当に最低限ですよ。

検定に多く合格すれば行ける場所や就職先が増えるだけです」


「ええ、先生たちも進路指導として色んな検定を勧めているみたいですね。

 早く働きたい子、まだまだ勉強したい子など様々な子が居ますし、常に選択肢を持てるように制度を工夫しています。

 社会人になっても検定料を払えばその日から検定が受けられますよ」


 それ、検定に合格しないと就職先選べないって事じゃないですかー!!



「大丈夫だって~。もしもほんっとに最低限の検定をクリアできなかったら~、出歩くのにも後見人とかが必要だったりするけど日本語読めるなら大丈夫だよ!」

「ええ、障害があったり少数言語話者で翻訳補助文が整備されおらず、全く他の言語が分からない、看板も読めないという方だとそういう事もありますが三反崎さんはそもそも日本語の読み書きができますからね」


 就活厳しそうだなぁって思ってたらまた知らない単語出てきた、やばい……いや、未知の学問でも必須じゃなければ問題はないはず……


「ちなみに……最低限必要な科目ってどんなのですか?」

「え~何だっけ?

 簿記、翻訳補助語、歴史概論だっけ?」

「ええ……と……急に言われてパッと出てこないですね……大体それで合ってると思いますけど……」

「法律も入っていませんでしたか?」


 何か全然知らない教科ばっかりなんですけど!!それ小中学生が受ける検定なの!?あと翻訳補助語って何!?


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