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5 異世界高齢者福祉

「介護問題?」

「ええ……と……介護職……とは??看護師とは違うのですか?」


「えーと、お年寄りが増えちゃって何とか面倒見なくちゃいけなくなって

病院だけじゃ足りないから介護っていう分野があって、えーと……」


 必至に介護について説明している彼女は、三反崎みそざき。終電で寝てたら何故かパラレルワールドの日本にとばされていた一般人。

 今は異世界から来たという事で念のため感染症予防で絶賛隔離入院中。

 向こうの世界にあった社会問題について聞いてたらこっちの世界の人に介護問題とか知らないって言われて困惑中。


「いろいろ聞いてると~どうも看護師さんって感じするけどなぁ」

 鈴木さんはきちんと話聞いてくれてはいたけど、いやいや違うんだって!高齢化で介護必要な人がすごい増えちゃって介護士さんが大変なんだって!!介護福祉士だっけ?正式名称。


「ええ、ですが私も看護師ですけど……あいにくそういう名前の関連業種が浮かびません」

 救急隊員の猫本ねこもとさんも知らない……とりあえず、看護師さんではないはずだよ。


「今の所大きな問題は起きていませんが。確かに今の日本は超高齢社会であると専門家は指摘しています。

 ”高齢者の医療”と”大変”という話を聞くに……老人福祉法の財政破綻への対応が違ったのでは?」

 音山おとやまさんが分析してくれたけど、何ですかそれ?知らない。

 音山さんは続けた。

「こちらの世界では1963年に制定された老人福祉法によって維持されていた高齢者福祉は財政の悪化により廃止され、1983年に老人保健法が制定されました。

 高齢者福祉はその時に一度公費負担医療制度から社会保険制度になったはずです。しかしその制度も財政を圧迫していました。

 そのままの対応ではズルズルと社会問題化していたのではないかと思います。」


「えーと、私は元の世界でもその辺の時代の政治とか分かんないんですけど……こちらではどう対応したんですか?」


「1990年代に高齢化を国家戦略上の危機と位置付け、シンクタンクを創設。

 医学的、社会学的に研究を一本化する事になりました。

 医療分野であれば老化現象についての脳科学、生理学、リハビリ、高齢者特有の疾患への対応や看護技術などを中心に研究し体系化する事。

 社会分野においてはバリアフリーや地域連携、設備や製品開発など社会システムに広くまたがる実践的なノウハウを体系化、共有する必要性が唱えられました。

 そうして高齢者福祉全般を研究費も含めて病院を中心とした医療福祉に一本化されたのです」


 つまり、元の世界でやばい事になってた介護費を研究費やバリアフリー化込みで全部医療費にぶっこんじゃったの?


「じゃあ……医療費がひどいことに……?」

 彼女がそれを聞くと、猫本さんが説明を続けた。


「はい、確かに予算配分の上で医療費は激増したので未だに批判は多くあります」

 しかし、高齢者福祉関連の研究を一本化・体系化するという大号令により医療分野での高齢者医療がかなり細かく研究されて体系化され、ノウハウなども共有された。

 更には、現場の声を吸い上げての介護医療関連商品の開発、共有などがスムーズになり、現場の負担が軽減されたという。

 病院に一本化されたおかげで点滴などが必要になった時も医療行為が手早く施せるようになった。

 また、老化の進行に応じて一施設で継続的に健康管理できるので重症度によって施設を移る必要が少なく、各自治体の実態も把握しやすくなった。

「ああ……もちろんドクターショッピングといわれる行為もありますが、セカンドオピニオンを得たり、施設の充実度の目安になったりするので、けして無駄にはなっていません」

 また、長期入院を想定した病院の設計によって災害など緊急時の施設設備の流用などもしやすく、社会的な安定にもつながっている。

「日本の健康寿命は世界一ですよ。

 鎧装が最初に実用化されたのもこの分野ですし、他にも神経分野での研究でめざましい発見があった事などを考えますと、けしてマイナスにはなっていません」



 ……何かよく分からない言葉も出てきたけど

 ……じゃあ、研究が進んで、その研究内容を共有する事でトラブルを少なくして順調になったの?そんなうまくいくもんなの?

 正直、今これと同じ事を元の世界でやらせたら医療保険制度ごと破綻しそう……それに……元の世界の介護士さんはどうなるんだろう……


「自動運転車が整備されているおかげで食事や運動、入浴など、ご本人が必要に応じて介助サービスを受けに来る、という治療を選択できたのも、安定化の理由の一つですね」

 そうか、デイサービスの送迎に人手が要らないもんね、自動運転車、チート技術かな?


そんな事を思っていたら鈴木さんが口を開いた。


「さっききいた介護士さんってさ~、臨看護師さんの事じゃない?」

「ああ、そういえば臨看護師制度ができたのもあの頃ですね」

「介助などが主な業務というと、仕事内容も近いような気がしますね」

 リン看護師さんって何?


「はい、やはり2000年ごろ医療改革の一環として准看護師が国家資格化し、看護師資格の再編があって、高等看護師、准看護師、臨看護師という三種が生まれました。

 簡単に説明しますと、

 高等看護師は専門医に近い高度な知識を習得してから臨床の現場に出る人。基礎的な事も学んでいますが、各科の専門性が強いです。手術のアシスタントなどが多いですね。

 准看護師は医師と同じレベルの知識を必要とされますが、オールマイティーに特化しており、幅の広い知識を持ちます。採血などの侵襲性の高い検査の他、簡単な処置を行えます。

 臨看護師は感染予防や栄養学など、侵襲性の低いものを中心に修めており、早くに現場に入り、器具の清掃、滅菌や患者さんの清拭などの処置を行う人で、医師や高等、准看護師の監督が必要です。

 いずれの業務も、専門性を伸ばすことや現場での経験を積むタイミングを選べるようにすることを主眼としており、その後知識をつけて別の種別の試験を受ける事は可能です」


 つまり看護師さんは勉強した内容と実際にやっていい処置によって3種類に分かれてるけど、いつでも試験受けて種類変更できるって感じか。


「その中でも高齢者医療に特化した人たちは……………………

 ああ!居ました!介護士さん居ます!」

 猫本さんの説明によると、看護師の区分も細分化しており、感染症特化、検査特化など様々なものがある。

 その中でも高齢者医療に特化している看護団体が『高齢者医療に特化している事を示す正式な表記』が欲しいという事で政府に交渉中なのだそうだ。

「その表記案の中に介護士、介護福祉士などがあったはずです!」


 さすが猫本さん、こっちの世界ではまだ名前になってないらしいけど介護士さんの事知ってた。


「よかった~何かすっきりしたよ」

 鈴木さんはすっきりしてるけどごめん私はまだちょっと自分の世界にあったはずのものが無いのがモヤッとしてる。


「でも……じゃあ医療費は……どうなっているんでしょう……」

 とにかく向こうの世界と比べて医療にお金を物凄い使ってるわけでしょ?

 制度が破綻間近ならこんなとこで健康なパラレルワールドの人間を泊めてる場合じゃないぞ。


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