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28 異世界飛行船

 異世界に来て色々規格外な事に慣れたつもりだったけど

 それでもびびる日本の南海にかかる巨大な透明な橋。


 その橋の横を悠々と浮かんでいく透明な


 クラゲ?いやクジラ?


「気球……飛行船?」


 青い空に浮かぶ透明で巨大な楕円に白い船体。

 下の白い船体には飛行機のような羽。


「飛行船だね~」

 鈴木さんが飛行船を見上げながらうっとり言った。


「ええ、優雅ですよね」

 猫本さんが続ける。

 え?飛行船ってそんなに一般的なの??


「何だかんだ言ってもさ~、遠距離移動する時は便利だよね」

「どこにでも道路が引けるわけではないですからね」


 でもさ、飛行船に使うヘリウムって減ってきてるみたいな話なかったっけ?


「ヘリウムはどうしてるの?」

「あれは水素飛行船だよ~」


「え!?」


 水素飛行船って昔大爆発して以来危険って事になったんじゃなかったっけ?

「爆発は……」

「水素ガスは75%より濃いぐらいだと爆発しないよ~、上の方に溜まるから天井に不意に穴でも開いたりしなければ逆に爆発しにくいの」

 いや、爆発してたよね飛行船。元の世界では別件で発電所も水素爆発してたんだぞ。


「水素ガスは低濃度、4%程度でも爆発を起こす可能性があります。

 戦争の影響で色々不明な点は多いのですが、昔の有名な飛行船事故の爆発原因は水素の漏出ということになっています。

 着陸前に重量調整を行っていたにも関わらず、着陸直前に再び重りの水を大量に捨てているんです。

 そのため、爆発した飛行船後部付近から相当量の水素ガスの漏洩があり、大気に拡散する前にそこに何らかの原因で着火したといわれています。

 残骸を捜査できなかったため事故原因の核心には至っていませんが」

 へー、向こうの世界だと飛行船の膜がめっちゃ燃えやすい素材だったからみたいな話になってたけど、こっちでは違うんだね。


「そのため現在では最高性能のガスバリア性を持つ素材とコンプレッサーを利用して水素ガスが外気と接触しないようにしている他、水素ガスの流出入、圧力、温度の変化を精密にチェックできるセンサーを多数備えています。

 目視でも異常が確認できるように、大部分が半透明になっているんです。

 異変があればすぐさま着陸し、運航を中止するように定められていますし、最悪の場合は緊急脱出を行います」


 飛行機の緊急着陸時に滑り台でてくるやつか。


「はい、パラシュートも高性能化しました」


 パラシュートだった……。高所恐怖症の人は絶対に事故に遭いたくないだろうな……そもそも乗らないかもしれないけど。



「人が乗る以外にも色々活躍してるよ~、成層圏で通信や観測を担ってるんだ」

「水素気球を採用し始めた頃はまだ危険視されてたので、そこで電波の中継や気象観測を長期間行う事で最初に水素飛行船の安全性の実証をしたんです」

 地上の数か所に設けられた定点から一定の距離を確保する事で同じ場所に静止するようになっている。

 気球だから定期的に入れ替えて最新機器を利用できるのが人工衛星に無い強みだそうだ。

 この世界はどこでも強力な通信が確保できる謎の技術だったけど……衛星通信もとい成層圏通信網が発達していたようだ。



「あと、今は電線も専用高架道内を走っているので緊急着陸で電線に接触して火災を起こす様なケースは少なくなっているのも、利用が進んでいる理由の一つですね」



 専用高架道の利点はそんな所にもあったのか。

 そういえば社会科見学の時にも電線のメンテナンスがやりやすくなったみたいな事は言ってたな。電線を通す専用通路と電線メンテナンス専用通路があるんだってさ。



 まぁ、飛行船だと飛行機みたいに滑走路が必要とかないからあんまり着陸場所が限定されないのは良い所だよね。

 それでもいきなり爆発したら怖いぞ。


「そうはいっても昔の有名な飛行船事故、着陸のために高度下がってたとはいえさ~、乗員乗客100人ぐらいいたけど60人ぐらい生還してるよ」


 それは知らなかった……いや、こっちの世界ではそうってだけじゃない?

 元の世界はどうだったんだろうな昔の有名な飛行船事故。語り継がれるほどの大事故だし、ほとんど全滅だったんじゃないの?

 私、元の世界のスマホは一応持ってるけど当然向こうの世界の情報にはアクセスできない、確認できないのめっちゃ歯がゆい。某異世界転生ファンタジーのスマホとかの設定がものすごい羨ましい。



 上空200mの道路から船着き場へ向かう。

 例によってらせん状の道をくるくる降りる。


「わぁ……何これ?海面が見える……」

 足元の床は白いけど、一部の床が透明だ。

 床を複雑な形の柱が支えていて、海面に接する場所には透明な筏のようなものが浮かんでいる。

 筏が波に揺られて動いても、柱が上下動を吸収して、私たちの乗ってる床は微動だにしない、筏だけが波にゆらゆら揺れる様は、じっと見ているとめまいを起こしそうだ。

「それがメガフロートの構造部分だよ~、ここは船着き場だから浮いてないとね」

「道路から島には直接つながってないんだ」

「うん、外来種とかが入っちゃうと大変だから~、特にネズミとか虫は一回入り込んじゃうと見つけづらいからね。

 離島とは一定の距離を確保されてるんだ。」


 船着き場は広い。

 ちょっとした港ぐらいの大きさがある。

 そこに自動運転車が大量に整列しているのだからなかなか圧巻だ。


「では、これからフェリーが来ますので、しばらく休憩にしましょうか」



 猫本さんの提案で港のはじっこのファミリーレストランに入る。

 そう、ファミレスまである、強いて言うならパーキングエリアとか地方空港ぐらいの設備がある。

 外国の人も多い。


 ファミレスの向こうに飛行場っぽい開けた場所があった。例のどでかい水素飛行船がいっぱい停泊している。思ったより平べったいな、飛行船。もっと丸いのかと思ってた。

 そして観光に来た外国の人かな?家族に会ったのか駆け寄って抱き合っていたのが見えた。



 ちなみにこっちの世界では港の多くはメガフロート上に建設されてるけど、軍港とかとなると「それ空母じゃん!」って問題になったとか何とか。

 事実、「これ動かせるようにできないの?」って空母もどきにする提案もされたらしいけど物理的に難しいらしい。大きすぎるせいでタンカーや原子力潜水艦の出力では海流に対抗できないのだ。

 設備が設備なので漂流とかが起きないように島にくっついて浮くという、半埋め立て半浮き島という特殊な構造をしているらしい。


 さて、これからフェリーに乗って島に渡る事になる。

「環境保護のため、離島内には原則車両の乗り入れができません」

「はい、そのため今日の夕方は島に渡って現地の宿泊所に泊まります。車両内に忘れ物をしないようにしてくださいね」


 若干オフシーズンなので宿泊施設に少し空きがあったらしい。

「海水浴と比べちゃうとダイビングする人は少ないからね~」


 そっかぁ、沖縄はダイビングはできるけど、冬は一応海水浴やってないんだね。

 割とあったかいんだけど確かに水着で海に入る温度ではない気がする。



 フェリーが入港したので皆で向かう。

 ……上の方の桟橋を歩いてフェリーに乗り込むが、横を見るとフェリーに自動運転車が出入りしているけど入島禁止のはずでは……?


「あれはね~荷物の積み下ろし用の自動運転車だよ。食品とか日用品とか燃料とか乗せた車をそのままドーンてフェリーに載せて運ぶの」

「はい、離島は特に虫や微生物に関して検疫所で色々チェックや消毒をしないといけないんで大変なんですよ」

「あの車両群に一般車両が加わると対応し切れずパンクする所も出かねないので、必要な車両以外は一律入島禁止になっています」


 こっちの世界の日本にも対応できる事と出来ない事があるんだね。

 私たちが旅行用にレンタルした我らがグループ旅行号とはここで一旦お別れだ。

 まぁ、お留守番中は島の間を走る専用高架道上を邪魔にならないようにウロウロしているはずだ。


「島を回るのは飛行船でさ~。帰りはさ~、フェリーとかでもいいんじゃないかと思うんだけど、本土ならフェリーも自由に乗り降りできるからさ」

 と、鈴木さんが提案したけど。それはこの船旅の快適度合いによるな。



 少し日が傾きかけた中をフェリーはゆっくりと出港した。


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