26 異世界スポーツ施設
パラレルワールド日本のスポーツ施設に初めて来た三崎 光です。
でかい。
町中に巨大ビル一つ分、ドカーンて立ってるんですよ。
ビジター歓迎。会員大歓迎。
施設の内訳は様々。
トレーニングマシン、エクササイズ用のスペース等は当然として。体操やスケートなど専門の施設が必要な競技、サッカーのように巨大なスペースが必要な競技など。
流石に全て入っているわけではないにしても、オリンピックで見た事あるような競技どれか三つぐらいは挑戦できるようになっている。
体育の授業が無いとか聞いてたんで、こっちの世界は運動をあまり重視してないのかと思ったけど、そうではなく、安全を確保して気軽に楽しめるようにして競技人口を増やし、施設と指導者を選択集中し、施設の利用時間等によって仕切りを設けてレベルに応じて指導の質を高める、という方針らしい。
確かに、スポーツは安全確保ももちろん、ガチ勢とエンジョイ勢は分けた方が良い事多そうだよね。
「今、プールは専用時間帯みたいだから~、あちこち見学しようか?」
鈴木さんが掲示板をチェックして言った。
そう、早速ですがガチ勢の練習時間帯に当たりました。
もう少ししたら終わるらしいのであちこち歩いて時間を潰す。
「ああ、ここからプールも見学できますよ」
猫本さんが教えてくれた。プロのトレーニング見れるの?
「シンクロ!?」
「ありゃ~、言わなかったっけ?三崎さん泳げる?」
シンクロ、今はアーティスティックスイミングっていうんだっけ?テレビでやってた。水の中で踊る?やつ、のプール。深いぞ、怖いぞ、5mくらいあるそうです。泳げ無い事は無いけど余裕で沈めそう。
向こうの奥に見えるプールは足のつく深さですよ、と音山さんに言われて気付いたけど、水面下から見ると向こうの普通の深さのプールと比べて落差がえぐい。
もちろん上の方の席からは水上の演技の様子も見れるんだけど、このプールの見学席は水族館みたいに水中も見れるのです。こうして見学してると優雅な動作も水面下ではすごい大変なんだなーと思う。
「あちらにダイビング用のプールもあって。プールから外の景色が見える絶景と名高いのですが……
三崎さん、流石にまだこちらの世界のダイビングの免許持ってませんよね?
水深15mですが安全のために施設管理者がダイビングの免許の所持を義務付けているんですよ」
まだも何も、向こうの世界でもそんなもの持ってませんが。ていうか15mってこの足のつかないプールの3倍とか怖いんですけど。
やっぱり来るときに見えた、建物の一部分を覆うようなでっかい水槽みたいなの見間違いじゃなかったのか!
「三崎さん、時間まで特に行きたいところとかある~?」
「いや……私、あんまりスポーツ得意じゃないから……」
「となると、見てて面白そうなところがいいよね。試合とかやってる所あるかな?」
「ああ、それならezバトルがこれから20対20の試合みたいですね」
「あれならルール分からなくても大丈夫だし、見てて面白いよね!」
着いたのは最上階、多分サッカーコートよりやや小さいぐらいの大きさのスタジアム。観客席に囲まれた競技場と思しき場所の真ん中には岩場がある。
観客は全員入り口で渡された専用の鎧兜拡張機器を装着している。私も皆も着けている。
何か観客席結構狭いんだよね……入れても百人ぐらいじゃないかな。場外にVR席があるらしいけど生の試合の方が見たくない?何で場外席なんて作った??
選手入場、やっぱり頭には鎧兜。そして思い思いの鎧装を着ている。
鎧兜は視界の邪魔にならない普通の物もあれば装飾的な兜状の物もある。「兜はね~、ロマン装備」とのこと、……つまり装飾っぽい兜は邪魔なんですね。
一方の鎧装はサイバーパンクっぽいのもあれば中世の騎士みたいなもの、和風の甲冑や一見服に見えるものまで様々。
手に手に武器を持っているが、これは樹脂製。刃は付いていない。そして鎧を着ている事もあり当たっても痛くはない。……拳銃の武器とかどうやって使うんだろう……。
選手たちが居るのは……岩を模した障害物のたくさんある荒野。っぽく見える試合のフィールド。
「battle―…」
格闘ゲームのアナウンスのような声が流れる。
「start」
前線に走る人がいる一方で、何もない所で剣を振るなどのリアクションをする人が居る。何やってんだろあれ?指示とか?
ぼーん
そんな事を思っていたら向こうの陣地が火を噴いた!?
そしてこっちの陣地でもボカンボカンと小さな爆発が上がっている。
何?皆落ち着き払ってるけど事故じゃないよね?
「あれはARを使ったエフェクトだよ~。選手たちの鎧兜には火の玉とかの軌道が見えて避けられるようになってるけど、観客の鎧兜は処理落ち防止で結果だけ見れるようになってるの。
外部のVR観覧席なら数秒遅れで処理されたエフェクト付きの試合が見れるよ。巻き戻しとか視点変更もできる」
うわー、魔法だー。ゲームで見た魔法バトルが現実の世界でやってるー。
処理落ち……そうか、そのために入場者を絞ってるし、VR機の観客席なんかがあるんだ。
接近戦は……何というか殴り合い。
鎧を着てるので俊敏にかわして、みたいな事をする余裕はなく、ほんとに泥仕合みたいな殴り合いになってる。
拳銃の人は最初はバンバン撃ってたけど接近戦になったら銃で殴ってた。それ鈍器なんですね。ダガーみたいなの使ってる人も居たからありなんだろう。
「はじっこで座ってる人が居るけど……」
大丈夫かな。
「ああ、あれはHPが0になった人ですね。
鎧装や鎧兜にセンサーが内蔵されていてダメージをカウントしています。
HPが0になるとダメージを受けないし、与えられない、ゴースト状態となります。
外周エリアで30秒待てば回復しますよ」
座っていた人は立ち上がると足早にバトルエリアに入っていった。
「あと、30秒経つまでに内部に入るとまた30秒からカウントがやり直しになりますので、やられたら速やかに外周に脱出して待つ事になります。
ゴースト状態で意図的に他選手の妨害をしていると失格となる事がありますからね」
他にも不正を防ぐ色んな仕掛けがあるらしい。
今回は時間制限制なので、与えたダメージ数、食らったダメージ数、などから総合して得点を出して勝敗を決定する。
今回は向こうのチームが勝ったようだ。
他にも、最初に相手全員をHPを0にした方が勝ち、とか。
旗を自分の陣地に運んだほうが勝ち、とか。
旗を長時間キープした方の勝ち、とか。
ランダムにフィールドにばらまかれた宝物を多く見つけた方の勝ちとか、色々なルールがあるらしい。
ezバトル。要はARが混ざり、鎧を着て、一定のルールで戦うチャンバラとEスポーツを掛け合わせたようなスポーツだ。個人戦や集団戦があるよ。
あと少し規格整備が早ければ東京五輪の正式種目になっていた可能性もあったとの事。
以前、電気屋さんで見かけた鎧はこれに使うもの。3Dプリンターで出力した高分子材料だけど、それでも結構お高い。
「レンタル鎧装で参加してみる~?」
私、魔法出せないよ?
「ARなし、初心者OK、初心者経験者混合とかだから~、大丈夫じゃないかなぁ」
魔法エフェクトは決められたジェスチャーで出せるようになってるそうです。
自分でジェスチャーを設定する事もできるらしく、ダガー二刀流の人は弓矢を引くようなジェスチャーをしていた。
エフェクト攻撃は大別して溜めが長く、低速で高威力のものと速射出来て高速、低威力のものがあるらしい。
どうせならARありで参加してみたかったかもなぁ。また来ようかな。
ちなみにARなしだったのは初心者が遠距離から一方的に撃たれてめげるのを避けるためだそう。
そんなわけでわーわーきゃーきゃー参加してきました。
鎧は着けてみると西洋甲冑っぽいけど基本職の鎧装みたいに一人で簡単に着れるように工夫されている。
座った鎧の前面が開いていて、胸当ては跳ね上げ式扉の様に上にあがっている。そこに座って二人羽織みたいに手足の装具を固定するのは基本職の鎧装と同じ。脚の装置に腰周りを守るプレートを吊るす装置を載せ、その上から胸当てを下げて背当て胸当てに挟まれるようになったら肩と腰をバッチンバッチン留めて固定。樹脂の剣でガンガン叩かれても全然痛くない。
そこまで重くもないし動きが制限されるわけでもないけど、意外と長時間動くとじわじわきつい。昔のスポ根漫画とかバトル漫画にでてくる動き制限する重りみたいなのの着け心地が分かる気がする。
あと、音山さんが同じチームだったんですけどめっちゃ強い。
相手の攻撃をいなしながら確実にダメージを与えていく。私も横から突っつかせてもらったよ。
相手の人には悪いけど、二対一じゃないから、私めっちゃ足引っ張ってるからね。さっきも私への攻撃を防いでて被弾してたからね音山さん。
最終的には囲まれて、流石の音山さんも蓄積するダメージもあって私と二人で仲良くゴースト状態で場外へ。
「これも以前お話しした指物の構造物ですよ」
外周向かう途中、音山さんがバトルフィールド内の岩山を指して言う。
「指物ってあの、木をパズルみたいに組み合わせて使う。
神社には釘を一本も使ってないっていう?」
「そうです。専用高架道にも応用されている技術ですね」
前にも聞いた建築の話がここにも……
……たしかにさっきまでステージ内のハリボテのスケールとか気にしてなかったけど、そういえばあの中央の岩山、二階建てぐらいの大きさあるのに上に人が乗ってチャンバラしてるよね……。
岩山から転げ落ちると痛そうだけど、落ちた人はケロリとして……ゴーストエリアにやってきた。本人は大丈夫だけど落下ダメージ自体はけっこうなものだったらしい、気をつけよう。
時によってはこのezバトルのフィールドは西洋風のお城ステージや日本の天守閣のようなステージの攻城戦などにもなるそうだ。
3Dプリンターと指物技術で比較的大きな構造物も簡単に作れるようになったというこの異世界日本。
建築だけでなく舞台セットやアミューズメント施設の機械にもしっかり応用されているらしい。
そのため複雑化する指物の安全確認のため、あらゆる振動や火災、水害などを検証するための災害検証用のシミュレーションも発展した。そしてこの通り、大の大人が周りでドタバタ暴れまわっても崩れないのを確認しているそうだ。
っていうかここも実物大模型の実験場だったのか。
「同じ技術を利用して映画のセットを組むのも楽になりました。
撮影セットとして作ることもありますがプロジェクションマッピングを併用する事もあります。
全天球スクリーンに空を映して天気まで再現することもできるんですよ」
それ便利だろうなぁ。
そんな感じで一汗かいたらシャワー浴びて水着に着替えてプールだー。
普通のプールで遊ぶのも楽しいが巨大プールではスキューバダイビングの免許を取るために必要な教習一回目を受ける事ができた。
街が眼下にある空間に浮いているのは何とも言えない感覚だった。
この教習を何回か受けて、指定された国家知識検定の段に合格して、試験を受けるとダイビングの免許をもらえる。
「ダイビングの免許とれたら~、皆で沖縄とか行きたいよね~」
いいなぁ。
元の世界でも大阪より西は一度も行った事ないんだよね。