24 異世界職業選択
透明な天井と壁を持つ小部屋。
その部屋に入ってきた人物は、フルフェイスヘルメットの完全防備で顔は見えず、外骨格状の白い装着具を着け、スプレーの様な噴霧器から黄色い霧をたゆたわせている。
おもむろに噴霧器を、部屋の中央にある花の咲いた樹木に向けて吹き付けはじめた。
彼女は三崎 光。現代日本から異世界日本に来てしまった、こちらの言葉で言えば異世界人である。そのため日々の仕事で生計を立てている。
国家知識検定を受けると徐々にできる仕事が増える。
そう、その気になれば色々な仕事もやらせてもらえる。
実際、生物の基本みたいな検定を受け、今はコンテナ栽培で受粉作業を教習を受けているところ。
こうした人工農作業を含めて色々勉強すると農業資格検定が受けられるようにもなるらしいけど……。
……どうかな?最近は個人用装備も充実してて体力的な心配は少なくなってるらしいし、スローライフとか憧れるけど……虫が苦手だし無理かな……。
じゃあ、まずは行ってみよう、異世界社会科見学。
ある程度資金も溜まってきたし。
この世界の日本、ほとんどの仕事は免許制。
簡単な試験でとれる免許も、難しい試験を突破しないといけない免許もあるらしいけど、職場の見学は大抵どの免許を取る時にも教習として定められてるから「とりあえず」って感じで見に行く人は多い。
と、鈴木さんが言っていた。
ただし、専門性の高い仕事は知識がないと見学しても何してるのか分からなかったり危険だったりするので、国知の段位がある程度ないと見学できない所もある。
と、音山さんが言っていた。
農業の一部は国家知識検定無しでも見学できたんだけど。
すごいむずかしい。完全に管理されている植物コンテナとはまた違って、自分の畑の事は一から十まで自分で把握し、判断しなくてはいけない。
虫は温室内にほとんどいないし、力仕事はパワードスーツがあるし、人手不足は企業や行政による管理とか助っ人が来てくれるしでブラックみたいな事はないみたいなんだけど
品種改良とか改良した品種の最適な環境の調整とか、すごいむずかしい。
そういうのが好きな人じゃないと大変かも。
というか私の仕事に対する理解が不足している。
みさきは れべるが たりない!
他にもあちこち行った。
学校とか。
見学の際は怪しい人が入らないように色々素性を調べられるけど、怪しい者じゃないです。ちゃんとチェックを通ったよ。
以前教えられた通り、本当にゲームをやってるね……
テストも授業もやってるみたいなんだけど、特に文化実技は一か所に全員集中させるとえらい事になるので時間をずらしてやってるらしく、常に誰かが遊んでいる。
……遊び時間中は意外とTRPG人気だった。多分全部自分で作れるっていうのは今も昔も変わらず楽しいんだろう。
小学生同士が何かよく分かんないオリジナルシナリオでパーティー全滅させて喧嘩になってたけど、ありがちな事にゲームマスターしてた子が何が問題か分かってない風だった。
あるある、自分は分かるから説明不足になっちゃうやつ。
鎧装・鎧兜姿で学校内を歩く人が居るから警備の人かと思ったら生徒だった、しかも中身は人じゃない、遠隔操作のロボットだ。何かしらの事情で学校に通えない子が、ロボを使って学校に通っているらしい。
ちなみに、学校内はほとんどプライバシーレベル2です。監視カメラが常時動いてるやつ。
一部職員室とかがレベル3で、生徒は入っちゃいけないことになってる。
職員室に子供が入っちゃいけないのは個人情報がある事も理由の一つだけど、教師が生徒に対して犯罪を犯したときに証拠の映像が時間経過で削除されるまで発覚を遅らせようと子供を脅したりごねたりする可能性があるからだって、こわいね……。
更衣室とかトイレは普通にレベル4。
とりあえず公務員繋がりで警察とかを見学。
とはいっても重大な個人情報を扱う事が多い関係上、見学できるところはごくわずか。
警察官になるには法律とかの知識がすごく必要で、やっぱり専門性と信頼が必要だから素性の調査されたりするのでちょっと特殊らしい。
警廻隊は警備が主な仕事だけど警察とは別の職業。
鎧兜、鎧装を着けてて盾を持ってる。パッと見ではちょっと機動隊みたいなものものしい感じに見えるんだけど、大勢でパトロールしたりトラブルの現場に急行したりしているらしい。むしろ盾と鎧が無ければ町内会の火の用心に近いのかも。
……いまサラッと鎧って言ったけど普通鎧着て街中を歩いてる人居ないよね、だいぶこっちの世界になじんじゃっている気がする……いいけど。
そう、警廻隊の人たちはごっつい鎧装・鎧兜のフル装備だ。近未来のSFに出てくる警察とか軍とかのやつのイメージに近い。防御力は銃弾も一発ぐらいなら致命傷にならず、10mぐらいの高さからなら落ちても平気。トラックにでも轢かれない限りは大丈夫とされている、らしい。
一方で警廻隊ウォッチャーという人たちは通報を受けて関連場所のプライバシーレベル1のカメラ画像を探して状況を確認する人たち。
警廻隊は警察とは人事とか直接の組織的な繋がりは無いけど、システムは一部共有してるし、スカウトされたりすることもあるらしい。
警廻隊実働、警廻隊ウォッチャーから試験を受けて警官やオペレーターに、というのはよくあるらしいけど、警廻隊にずっといる人も珍しくないとの事。
半官半民で、地域との不健全な癒着等を防止するために異動あり、怪我をしないさせないをモットーに、負傷者が居たら救助して救急車に引き継ぎ、トラブルの現場を遠巻きに盾で囲んでお巡りさん到着まで待機するのが主な仕事。
私が突然鈴木さんの車両に現れた時は、女の子が一人熟睡してるだけっていう状況と、現場がベース内で、個人のベースには一定以上の社会的信用がある人しか入らない方が良い、っていう所があったからお巡りさんの音山さんが直接来たんだね。
ついでに刑務所とかも見学。
いや、今なら見学料お得って聞いたから完全に興味本位。
メガフロートとかに隔離されている刑務所が多いらしい。
自動運転車のお陰で空間的にも財政的にも刑務所の余裕ができたため死刑は原則廃止された一方で、無難に終身刑、というパターンが増えてるという。
服役者は原則として刑務所内では専用車が連結して基本職がやってるような作業をやってる。お芋さん掘ったりとか。
正直、基本職で生活してる人とほとんど変わらない生活をしている。
基本職みたいに働いてベースで寝泊まりするところまでは私とほぼ同じ、給料から施設の維持管理費が引かれ、残りは出所後の資金として貯金される。
ただし、更生のためのカウンセリング以外では、全くと言っていいほど人とコミュニケーションをとれない。
家族とか弁護士さんとか、面会の希望があれば許可されるけど、必要なければ看守さんとすら会えない。
検定は受けれる、許可が出れば本も買えるし、ネットも見れる。けど、何かを発信する事は基本的にできない。
自分が幽霊にでもなったような、そんな生活を数年、場合によっては一生送る事になる。
所変わって建築現場とか。
流石、こっちの世界の生活基盤の一つなだけあってものすごく発達している。
専用高架道の工事ではまず、工事する通路の入り口に交通整理の専用車を配置する。
進入しようとした自動運転車はすぐに迂回路を探して別のルートを行ってくれるので渋滞はない、けれどもいつまでも通行止めにしておくわけにはいかない。時間との勝負なのでみんな忙しく、説明してくれる人は居ない。これが専門知識がないと何してるのか分からないって状況か。
専用の鎧頭・鎧装を着込んだとび職?の人たちが、既に設計された足場をパズルみたいにサクサク組み立てていく。足場なのに素人目にもやたらしっかりしている。完成した足場は渡り廊下とか屋外の非常階段みたいなのがイメージに近い。
一方、専用高架道の路上は毎日車が走ってるとすぐに磨りガラスのようになって光を通しにくくなるので、数か月に一回の頻度で剥がして入れ替えてるらしい。
これに使われるマンパワーもすごい。
道路の入れ替えも立体パズルみたいに部品を外すだけ組み合わせるだけで完了していく、それを支えてるのが3Dシミュレートと新素材と3Dプリンター技術なんだそうな。
実物大模型での災害実験とかも見学したけど、この辺からはもう職場見学じゃなくて完全に見物客だ。
数か月前に大型台風を耐えきっていたという奇妙な形の新建築が火薬でドーンてなった時は「おおー」って思ったし周りからも声が上がった。
日常生活だと火薬を使う機会って少ないから発破解体の訓練とかにもなってるらしいんだよね。何だかんだ言って無駄がないと思います。
資料館の見学。
正直、就活というより入館者です。
展示してあるもののほとんどに触れる、何故ならレプリカだから。
本物は大事に保管されていて、実際に触るには身分証明と文化財保護に関する国家知識検定の合格証明が必要。
なんでもレプリカの出来が良すぎて本物と区別がつかず、本物をぞんざいに扱って壊す人が出てきたんだって。
身分証明と国知の合格証明は「これから重要な文化財を触りますよ~」っていう儀式のようなもの、と職員さんが言っていた。
本物は触らせてもらえなかった。
みさきは れべるが たりない!
工房の車両。
家具や電気製品の試作なんかもできるらしいけど、アクセサリーを作ったりするのにもお世話になる。
必ず駐車してご利用ください。
当たり前のように3Dプリンターや3Dスキャナーが完備されていた。
利用には3Dプリンター等の国知段位が必要。
導電性プラスチックと細塵結晶で電気回路をプリントアウトしてでっかい電気製品の試作品も作れるとか何とか。詳しくないからわからない、割愛。
金属鋳造や金属加工、レジンやガラス細工、木工とかもできるらしいけど、それぞれ専用の国家知識検定とか実技教習とか受けてないとダメ。
この辺、勉強してないから全然わからない、本当に『レベルが足りません』って感じだ。
後は市役所。
小売店の業態とか説明してもらえた
普通のお店を出す方法もあるけど、テナント料とか行政書士さんに書類を云々とか諸々の手続きがめんどくさいのは向こうとあんまり変わらない。
やっぱり主流は自動運転車で所定の場所に駐車してお店として商品を売る方法。
これも確かに諸々の書類やお金は必要だけれども車両から営業許可までを行政に一本化して効率化しているらしい。
サイズはベースと同じ、ちょっとした小屋ぐらいのスペースが一時的に自分の城になる。
ただし、例えば飲食店なら調理師免許や公衆衛生、食品衛生などの国知段位。
雑貨なら用途や材料に応じて製造物責任法などの国知段位。
電気配線とかある製品を作るとなるとやっぱりそれ系の国知の段位や資格が必要。
というわけで自動運転車で物をつくったりお店を開くなら、市役所に相談すると検定アドバイザーと行政書士さん税理士さんがセットでついてくる。
国だって安心安全で質の高い物を提供して税金いっぱい納めてもらいたいので本気だ。
市役所に来たついでに市の行政とかもいろいろ教えてもらう。
「原則、今回の様に市町村の役所においでいただいてご相談ください。
その際何か問題がありましたらmasqloud clanの請願、陳情クランをご利用ください」
との事。クラン、行政の一部も担ってたのか……。
そう、行政や社会システムに関してちょっと言いたい事がある、でもあんまり詳しくないから的外れかもしれないし議員さんの知り合いもいない。
そんな一言を投げておくと、目を止めた議員さんが自分の責任で拾って議題に上げてくれることもある。というシステム。
請願、陳情クランは国はもちろんだけど県や市町村専用もいっぱいあるらしい。
他にも職業はいっぱいあるけど
本当に、誰でもいつでもどこでも誰にも邪魔されずに勉強できる。勉強さえすれば何でもできるし何にでもなれる。
逆に言うとレベルに届かなければ何もできない。
まぁ、別に大きな野望とかないし、しばらくは基本職で過ごす予定だけど、この自由すぎる職業選択システムに胸のすく感はある。




