23 異世界Web広告
彼女は三崎 光。パラレルワールド日本からやってきた異世界人だ。
いま彼女が説明を受けているのはこの世界の日本で最大規模の広告サイトの事である。
cococommrcial(コココマーシャル)
広告映像SNS コココマーシャル。略称はコココマ、駒、など。
パラレルワールド日本のウェブ広告の仲介システムを一手に引き受ける新興企業。
もともとは個人サイトで広告映像や広告ポスター画像などを集めたネット上の個人アーカイブだったもの。
「車のCMとかかっこいいの多いからさ~、そういうの集めてるサイトだったんだよね。昔は」
分かる。元の世界の動画サイトでもおもしろCM集とかかっこいいCM集とか懐かしいCMみたいな動画、地味な人気を誇ってたもん。
それが大きくなり、更には広告主と交渉して広告の掲載料をもらうようになり、最終的には動画投稿サイトになったらしい。
広告は商品やサービスを知らない人に情報として届いたのか?
広告によって商品や企業への好感度や信頼度が上がったのか下がったのか?
広告がどのようにして売り上げに貢献したのか?
そうした痒い所に手が届くデータを収集する広告評価サイト、兼、広告掲載サイトでもある。
評価方法はコメント、閲覧数、点数などの他、色々あるらしい。
マスクラウドクランと提携して評価者の身分をクランのアカウントに紐付けする事で不正な評価者を減らし、各アカウントの信用度をこっそり格付けして評価精度を高めているとさせている。
そうして企業からもらった広告料や情報提供料を各協力サイトに支払う。ネット上の広告斡旋の総元締めみたいになっているそうだ。
パッと見便利そうだけど。元の世界では法律や何やかんやうるさそうだな。そもそもこのサイトの大元ってCMの無断転載だよね?
どうもかなり肝が太い管理人の様な感じだ。
提携しているマスクラウドクランでは現在広告が出ている商品の一覧の中から各ユーザーがアカウントごとに自分の好きな商品を3つ選ぶ。そのアカウントのおすすめ商品としてコココマへのリンクが貼られ、それで広告料とする。
よく飲んでる飲料とか今読んでる漫画とかを広告にする事が多いらしい。
コココマには企業の広告アーカイブとは別に、アマチュアの動画投稿スペースがある。特徴的なのは投稿してから表示されるまでに100日かかるということ。
別に運営が投稿内容の確認をしているというわけではないが、そうした仕様上、速報性のある投稿には向かず。
結果、よく練られた内容の動画が多い、落ち着いた雰囲気になっているらしい。速報性や話題性が欲しい人達は別の動画サイトに移動した。
また、約三か月遅れで表示されるため、忘れられかけていた事件の詳報が出て再燃ということもたびたび起こるらしい。通称:コココマバックドラフト。
アマチュアの投稿スペースを見せてもらう。
「ドラマやアニメ…解説動画も多いけど……これ、全部アマチュアの作品?」
「コココマはね~、広告料から人気クリエイターにもお金を還元してるんだ。最近のクリエイターは広告作りで企業にアピールする事があるの。
センスいいCMだと商品の好感度も上がったりするしね~。人材発掘の一つの場だよ~」
この2Dアニメ、向こうの世界ではプロじゃないと作るの無理じゃない?……どんなびっくり技術が使われているのやら……
「ツール?見れるよ~?」
「そうなの!?」
「大抵は投稿者がリンク貼ってくれてるよ~、空白の人も居るけど。人気クリエイターが使ってるってだけでツールの人気も上がったりするからね~。
広告専門サイトだから、コココマは」
そのブレない商売根性、嫌いじゃない。
「人気なのはエクスVAと~インペリアルノードと~……」
聞いたことないんですけど。
両方とも10年~20年前くらい前からあるソフトだそうで、知らなかったら逆にびっくりされた。
エクスVA(エクスブイエー)
日本製アニメーションソフト。できたのは20年ぐらい前。
回線が遅かった時代に独自形式の超軽量のベクター画像のアニメーションを作れるソフトだったらしい。VAはベクターアニメーションの略。
ベクター画像と言ってもベジェ知識は必要なく、今のお絵かきソフトについているベクターレイヤーのような、点を移動させるだけで直感的に形作れる線だった。
ビフォーアフターの二つの画像を用意すれば中間画像が補完されるという事で、たちまち覇権を握った。
これのお陰でアニメ業界は随分楽になったらしい。
企画段階で簡単にビデオコンテ化できるようになった事で制作の見通しが立てやすくなり、原画から動画への発注段階で全てのコマにラフ下描きを添付できるようになったためタイムシートを読み取るなどのアニメ専門知識がなくても製作に参加できるようになった。
また、ラフのお陰で中割りが複雑なコマでもどういう絵を描くべきか分かる為に初心者のアニメーターのリテイク数が激減、アニメ業界全体に余裕が生まれたのだ。
インペリアルノード
日本製3Dソフト。メインはモデリング。
三面図と斜め前から見たイラスト上に目安となるワイヤーフレームを書き込み、パラメータをいじることで複雑な形状でも割と簡単におおまかな形が作れる。
絵さえ描ければ人体などの複雑なモデルも作れるようになっており、リギング等の設定も行える。
瞼や口、耳、指などの複雑な構造の作り込みを簡単にできるキャラクター作成モードなどもあり初心者にもやさしい。VR活動の活性化とともに飛ぶように売れた。
しかし……心配になってくるのが。
「コココマーシャルって著作権的に怒られないの?」
見せてもらったら本家の企業が公式PV流してる裏で漫画とかゲームのMADみたいなの結構あるよ?
企業の広告と個人の投稿が表示される場所は別だからバッティングする事はないけどさ。
何か取り決めとかあるの?
「放置されてるのは全部グレーだよ」
元の世界でも著作権関係はグレーゾーンみたいな事言ってたけども……。
あれだけ順法意識高めだった、このパラレルワールド日本も……著作権はなあなあ主義……なの?
「まず、管理団体であっても作者にとって不快か否かを勝手に判断する事が、逆に著作者人格権の侵害になるという考え方があります」
え、そんなのあるの?まぁ本編でやるのはちょっとはばかられるし、明言できないけど、いいぞもっとやれみたいなのもあるからか……?
「逐一作者に確認を取って忙殺する事も、法律の目的からして本末転倒です」
安心して作品を作り続けてもらうための法律だもんね……
「そうした理由でグレーゾーンとされているわけです。
セーフとアウトのギリギリ、ではなく未決。
『製作者が確認していない二次創作群』という立場になります」
著作者に全部の二次創作物を確認するような手間暇をかけさせるわけにもいかない。
他人が勝手にセーフアウトを判定するのも作者の意向をないがしろにするも同然って理屈で放置一択なのね。
「はい、『著作者が確認してないなら仕方ない』という理屈ですね。
それで『暗黙の了解』、グレーなのです」
「ちなみに、作品のコピーを無断配布してるとか公式が明確にやめてくださいって言ってた表現なら、警察と公式に通報でいいけどさ~」
それは当然通報されるやつだね。
「二次創作を変に通報したりすると逆に通報者が捕まる事もあるよ」
「なぜ??」
「大抵は業務妨害等になるぐらいに行動していないと逮捕までは至りませんが、『個人的な基準を適用させようとした』つまり『権利者の権利を私的に乱用しようとした』という事になるのです」
通報への対応によって権利者の時間を浪費させた。
第三者が勝手に基準を設けた。
これらは権利者の権利を第三者が勝手に使おうとした事になる。
それらは著作者を守るはずの著作権法違反である、という解釈、らしい。
どこでもややこしいんだなぁ、著作権。
マスクラと同じく、コココマと連携して広告料を得て運営しているサイトはいくつか存在する。
一方で子プリカによって気軽に投げ銭ができるように法律や機能が整備されているため、真面目な運営はなかなか潤っているらしい。
エモフルハート
イラスト投稿サイト エモフルハート。略称はエモフル。
新興のイラスト投稿サイト。利用者数では既存のイラスト投稿サイトに及ばないが
閲覧者がイラスト上の好きな所に好きな色と大きさのハートマークを載せる事が出来るのが特徴。
他の人からもハートが見えるが、当然ハートを非表示にしてイラストを閲覧する事もできる。
批判を受ける事無く自分のイラストのどの辺が評価されているのか分かりやすい為、人気。
イラストに載せられるハート数に制限はないが、閲覧者のハートは一日ごとに3個増えるのみ。それ以上は課金などが必要。
「一日のハート数が限られているのですが、コココマが広告の人気分析に協力してもらう代わりにハートを配ってます」
コココマが提供している漫画や広告、バナーの心動かされたところにハートをつけると、情報提供料として課金なしでハートを増やせるらしい。
「また、絵をクリックしたときに表示される広告では、その作者が広告専用に描きおろした絵に文字を被せるものがありますね。
イラストの上にスポンサーの企業名や店名、サービス名や商品名などを30文字で入れる事の出来る広告サービスがあるんです」
「それ、需要あるんですか?」
向こうの世界のバナーも一枚絵と文字っていうのがいっぱいあったよ?
「バナー作ってない企業もね~、広告できる」
そうきたか。
「閲覧者にとっては、今見ている作者の描きおろしなので無関係な絵が唐突に表示されるわけではありませんから、ファンからの好感度が高くなるんですよ」
ご覧のスポンサーというやつだ。
企業名だけの控えめな広告でも好感を持たれる事が多くなるという。
加えるシステム
作品分析サイト かえるシステム。
コココマが評価システムを借りた事で話題になったサイトの一つ。
主な評価対象は小説だったが、現在はイラストや各商品、サービスの評価も行っている。
マスクラウドクランのグループと連動して商品や作品について個々人の100点満点振り分け加点式で評価を行う。
100点満点振り分け加点式。タグと評価を合わせたような評価システムだ
例えば小説に対して『ヒロイン20 かわいい20 かっこいい20 メカ20 ハーレム要素5 せつなさ15』といった感じで自分が作中に感じた好きな要素を100点になるまで加点していく。この評価をした人にとってはヒロインが魅力的でメカの出てくる話で、主人公がモテて、かわいくかっこよく切ない作品、ということになる。
『かっこいい50、かわいい50』とか『壮快100』とか極振り評価も可。
そうした個人個人が出す評価得点を複数の人から集めて作品への評価の精度を高めようという試みだ。
とにかくコココマは広告。通販サイト。動画。リンク集。評価システム。などが混在したカオスで大きな存在らしい。
よーし、色んなサイトが分かったおかげで生活に張りが出てきた!!
サクッとメディアリテラシーの段位とって色々遊ぼう!!今こっちの世界で流行ってるアニメとか探すんだ!!