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21 異世界印刷

 どうも、こっちの世界の日本に来て早一か月と少し経つのに未だにカルチャーショックを受ける機会の多い三崎みさき ひかるです。まぁ、外界に触れたのここ数日だし……。


 まさか書店に来るだけで仕様に狼狽し、購入方法に思案するとは思わなかった。


 分からないことが多すぎる私を見かねて音山さんも説明に参加してくれた。

「通常書籍は古今東西にある普通の本ですね。恐らく三崎さんの世界にもあったと思います。

 こちらの世界では窃盗予防もあって書庫に置く事が多いです。ものによっては注文ごとに印刷したりするので手に入るまでに時間がかかったりします」

 猫本さんも続ける。

「はい、マイクロ印刷は文字通り超解像度の幅約6mmの超微小カラーフィルムです。

 画像を拡大する機械さえあれば再生環境を問わないので他にもっと大容量の記録媒体は数あれど、それなりに利用されています。基本的にはカセットテープのような形です」


 マイクロ印刷の事、『細かい印刷で画集とかが超綺麗』みたいな話かと思ってスルーしないでよかった。ちゃんと聞いてよかった。猫本さん、説明ありがとうございます。


「電子書籍の方はね~、簡単に言えば専用端末にテキストデータと画像データ入れてもらうようなやつ。専用端末でのみ見れるよ」

 鈴木さんも説明してくれる。


 合わせてまとめると、通常書籍は普通の製本。

 在庫が無ければ注文を受けて作ることもあり。時間がかかることもある。

 ロッカー受け取りは元の世界にもあった仕組みに近い、駅とかにあるロッカーに暗証番号を指定して受け渡しという仕組み。


 電子書籍は大体向こうの世界にもあった電子書籍。

 と思いきやソフト版はない、書店で専用端末にデータが渡される。


 こっちの世界は自動運転車が発達してるにしても、わざわざ本屋さんに出向かないといけないのだ。

 向こうの世界の『ネットでポチッ、本でも音楽でもスマホ一台で済む』という方法に比べて後進的な気がするけど、書店内でのみ本の内容を閲覧できるという仕組みなどを合わせると違法コピーなどを防止するための取り組みなのかもしれない。


 しかしマイクロ印刷。

 縮小画像っていうけど、正直めんどくさそうなイメージある……向こうの世界では図書館のマイクロフィルムなんて使った事ないし。

 マイクロフィルムは何か専用の読み取り機必要とか聞いたし……不便なんじゃない?


「マイクロ印刷の利点が分かりづらいんですが……」

「マイクロ印刷は小さいから場所とらないし、見るのはここ数年ですごい楽になったよ~」

 この世界で現在標準的なのは、カセットテープの様に機械にセットすると全画像を数秒で撮影して一時データとして保持し、それを表示するという仕組みだという。

 本の様なディスプレイに表示してくれるもの、ヘッドマウントディスプレイに表示してくれる寝落ち用、プロジェクターなど色々な再生媒体があるのも魅力の一つらしい。

 再生装置があるならテープさえ持っていけばよく、本に近い保存性や取り回しのよさ、本より小さい、という絶妙に本にも電子書籍にも無い独特の魅力を持っているようだ。


「ええ、マイクロ印刷は保存の用途が大きく、アルバムの印刷や大型本など場所をとるものはこの形態で発注されることが多いです」

 カセットテープサイズでA4版500ページ程度の分量だという。

「また、国知の段位表やカルテも、本体データは国が持っていますが、個人が企業や病院とやりとりする書式としてはこの形でもらいますね。

 カセットに印刷された画像として入っているため、データを再現不能なほどに損傷する危険性が少なく、改竄が難しく、拡大装置さえあれば再生できるのも魅力です」

 単語カードのようなマイクロフィルムをセットして手帳サイズに拡大するだけの虫メガネような装置もあるらしく。大事な書類を不用意に他人に覗かれにくいのも特徴だそうだ。


「どれも長所と短所があります」


 通常の本はいつでも読める、栞も付けられる、書き込みもできるけどかさばる。

 電子書籍は大容量でいつでも読めるけれど基本的に一つの端末に入っていてデータの受け渡しが難しい。

 マイクロ印刷は場所を取らず、安定して保存できるけれど、閲覧には再生装置が必要で本ほど自由ではなく、電子書籍ほど手軽に大容量を持ち歩けるわけでもない。


「まぁ、最近はどの媒体でも必要なページを撮影して画像にメモしちゃうこと多いからね~、どれを選んでもあんまり変わんないけどね」

「コピーガード……とは…」


「電子書籍とマイクロ印刷にはね~、子プリカから購入者の仮名とかの情報も入ってるからネットに上げない方が良いよ~、透かしみたいなのが入ってるんだこれが」

 それは恥ずかしい。市役所が簡単に変えられる仮名の使用すすめるわけだよ。おちおちネタコラも作れなそうで窮屈だ。

 と思ったら通常書籍にはデータは書かれていないらしく、ネタコラは健在らしい。

 こんだけ成熟した社会でまだ作ってんのかネタコラ、と思ったけど技術的にちょっと進歩してるだけで同世代だったね。

 ちなみに電子書籍とマイクロ印刷には子プリカの個人情報の他、書籍情報も透かしとして入っているので、後でこれ何の本の画像だっけ?というときも検索が楽だという。


 とりあえず気になるマンガをマイクロ印刷で購入する事にした。だって元の世界に無い技術が気になったんだもん。

 と同時に、あんまり通常書籍買っても置く場所が無いという現実的な理由もある。ベースはそこまで空間に余裕があるわけじゃないのだ。


 電子書籍はいっぱい入るし便利だけど、端末式で結構高価だし、こっちの世界の電子書籍の寿命っていうかサポート期間とか範囲がよく分かんないというのもあってちょっと躊躇ちゅうちょした。

 向こうの世界のゲームハードや電子書籍みたいに数年しない内に新しいのが出来ました、データの受け渡しはできませんとか即行サポート終了とか特定の出版社のしか対応してませんとか嫌だ。

 一方のマイクロ印刷は規格が確立してて小さいカセットテープみたいなのでA3版大体500ページ。画像だから完全に再生が不可能という事も起こりづらい。

 500ページ以上必要そうな辞書とかは私本に大体入ってるので、とりあえずそれでよしとする。


 本型のマイクロ印刷の再生装置も一緒に購入。

 一見少し厚いB5の普通の本の形をしているが、ガシャコっと開くカセットの挿入口がある、本当にカセットテープっぽい。

 本を開くと電源が入る。充電カートリッジ式。

 ページをめくるジェスチャーでストレスフリーで次のページに行ける。パラパラ~っと何ページも飛ばすこともできる。結構好き。最初に全ページ撮影して一時的に記録し、それを再生してるからこの再生スピードだそうだ。撮影画像なので拡大縮小もできる。


 このあとどうしようかご飯食べて帰ろうかとなっていた時。

 唐突に鈴木さんが声をあげた。

「そ~だ!携帯端末買おう!

 簡単な連絡は私本でいいけど

 携帯ないと不便だよ!」


 連絡用には一応私本がある。

 私本は……、どうしてこうなったというガラパゴス仕様。

 まず、開くとき思わず三面鏡?って思う。まさかの三つ折り。しかもコネクタがあって分離する。


 私本の『通信機能』『個人情報』『製作物と製作用アプリ』は物理的に分離可能な端末に入れるように定められているらしい。

 それらは結局通信機器への不信感を低減するための方便みたいなものだったのだが、しかし、この目に見える動きがIT機器アレルギーの方々の苦手意識をずいぶんと払拭したらしい。そんなもんなの?

 そういう事で私本は3つに分割できる。何でだ、壊れたかと思ってびっくりしたからね、最初。


 そんなわけで私本は初心者でも今何やってるかが分かるような動作をするためか、接続した端末間でデータをやりとりする時とか一周回って相当めんどくさい。外部との通信もめんどくさい。

 ベースに私本の現在地情報送りたい時も個人情報端末と通信機を合わせて確認ボタン押さないと発信してくれない。

 これは以前、電車でちょっと移動した後にベースを呼ぼうとした時に困った。あの時は仕組みが分からず、結局個人情報カードを近くの停留所にピッして待合所で30分待った。


 しかし、さっき電子書籍で節約したばかりでいきなり高い買い物したくないなぁとも思いつつ行ってみると。

 携帯端末、思いのほか、安い。


「生活必需品だからね~」

 生活必需品だそうです。



 レジの人がこの情報でよろしいですか?って端末を確認して子プリカをピッで済んだ。

 通信料の振り込みが無ければ携帯の通信機能を止めるだけだし、その端末で犯罪を起こせば警察が子プリカからたどってくれるしで携帯会社は子プリカの情報さえ持っておけばいいんだそうだ。

 多分元の世界のマイナンバー制度とかもこういうのを理想としてたんだろうね……。


 お店の人が説明するところによると、SNSに入るには国家知識検定のメディアリテラシーの段位が無いとダメな所が多いと言っていた。

 段位を取ってまた関連のお店に来ればスマホをアップデートしてもらえるらしい。

 つまり、この端末、今はまだお子様用フィルタリングみたいなのがかかってる。

 鈴木さんからメディアリテラシーの段位は初段の方はそんな難しい内容じゃないし、詐欺の手口とかも紹介して注意を促してるから、何にせよ一度持っておいた方が良いと言われた。


「例えばさ~

 拾い物の情報の拡散とか。

 探し物、探し人、迷子のペット等の情報収集の方法とか。

 特定の条件を満たしてない情報提供の呼びかけには協力しない。

 みたいなやつ」


「例えば拾い物の詳細な情報が公開されてしまうと、その情報をもとに落とし主に成りすまして横領されるケースがあるのです。

 また、警察を介さない探し物、探し人等の呼びかけではストーカー犯や虐待犯に被害者の情報を提供してしまう恐れがある為、Web上でそうした行動をとると犯人への幇助とみなされて厳重注意、場合によっては逮捕もありえますので、必ずネット知識検定は受けてください」


 あー、そういうやつ、元の世界でも草の根的に注意喚起してくれる人は居たけど、こっちの世界ではネット使う前に教えてもらえるんだね。


 なんだか異世界特有の親切さを感じる。「ギルドカードがシルバー以上じゃないとそのダンジョンには入れないぞ」ってテストがあるみたいな。異世界もの特有の親切さを感じる。

 現実もやればできる子。


 と、これまでは私本のメールで連絡を取り合ってたんだけど、こっちの世界のSNSを利用する事を勧められたよ。

 交流が増えてくると連絡手段は複数持ってた方が良いって。

 そうでなくても三体合体私本メールはぶっちゃけ使うのめんどくさい……。


 と、いうわけでこのままカラオケ行っていろいろ教えてもらいます。……こっちの世界の歌、分かるかなぁ……


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