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2 異世界防疫体制

 彼女は一般人だ。唐突だけど終電でうたた寝したらパラレルワールド日本に飛ばされてしまった。

三反崎みそざきさんと接触者、つまり私も含めて計4名。

 防疫のために隔離入院していただきます」


 警官の音山さんにそう宣言されてしまった。

 防疫ぼうえき……貿易ぼうえきじゃないよふせ疫病えきびょうと書いて防疫だよ。


「え……でも私……健康ですよ……?」

 空港とかでチェックされるような発熱とか吐き気もない。さっき救急隊員の猫本さんに熱測ってもらったから間違いない。

「すみませんが規則になっておりまして……」

 お巡りさんの音山さんが説明しあぐねていると看護師さんの猫本さんが説明を継いだ。


「ええ、例えば……………………この世界では天然痘が絶滅しておりません」

「え!!?」


 天然痘。

 ワクチンができる前は世界的に大流行して死亡率が非常に高かった感染症だ。

 彼女の居た世界ではワクチンで徹底的に防いだ結果、数十年前に絶滅したが、科学的に進んでると思った このパラレルワールドで天然痘が残ってると聞いたら意外に思うだろう。


「いえ、天然痘が絶滅していないというのは冗談ですが」

 この冗談はしかし説明に必要なのだ。


「はい、冗談なのですが……異世界から来た以上、こちらの世界では絶滅したような病原体を持っている可能性、逆に、そちらの世界では絶滅した病原体がこちらの自然環境中に存在する可能性を否定できません」


 つまり、彼女がウロウロしてると彼女についてる謎菌にやられる人が出るかもしれないし、逆に彼女がその辺に居る謎菌にやられる可能性がある。


「その為、異世界転移者は細菌叢や抗体のチェックのために最初の30日間は医療機関内で保護して経過を観察。

 万が一に備えて感染拡大を防止し、治療を行える体制を敷く、という事が法律で定められております」



 この世界では異世界人、思った以上に身近らしい、法律ができるぐらいには。


「移民の方に対する関連法の中に特例として定められていますね」

 移民の人と同じかちょっと珍しいぐらいの身近さなのかもしれない。


「えーと……でも私、長期入院できる費用なんて持ってませんよ……?」

 パラレルワールド生活開始早々に強制的に医療費の借金持ちとかうんざりした気分になるだろう。


「法的な措置なので個人で入院費を負担する必要はありません。全員タダです」

「そうはいっても皆さんを巻き込んで30日間……ですよね……?皆さんのお仕事とか……」


「平気だよ~私日雇いだし」

「事情が事情ですし、これぐらいのシフト変更はよくあることですよ」

「はい、もう連絡は入れたので大丈夫ですよ」

 猫本さんがヘッドホン?のマイクを軽く指で叩いた。


 彼女には何だかわからなかったけど大丈夫らしい。おまわりさんと看護師さんが急に明日から一か月休みますって大丈夫なのだろうか?日雇いだとクビになるんじゃないだろうか?


 彼女は良い方に考える事にした。右も左もわからない世界で30日間の猶予ができたのだと。


 そういった事情で、彼女が立ち入った鈴木さんの家と救急車両、彼女に接触した音山さんが立ち入った警察車両も一緒に自動運転で病院に向かうという徹底ぶりだ。

 というか一歩も外に出ず、車両ごと一緒に移動している。

 車両が広く、安定した走行のせいか乗り換えや休憩が要らないのは思いのほか快適だった。


「病院ってどこにあるんですか?」

「感染症の生物災害防止用の隔離病院は幾つかありますが、現在熱海沖のメガフロートに向かっています。」

「メガフロート?」

「人工の浮き島だよ~、毎日海が見える良い所だよ。まぁ退屈かもしれないけど休暇だと思ってのんびりしよう」

 音山さんと鈴木さんが交互に答えてくれる。


 どれどれと窓に近付いて外を見てみると……外はまだ市街地、海は見えない。しかし


「ええ!?」

 周りの車がSFの定番、『透明なチューブっぽい道路』を走ってる!!何でできてんのコレ!?ガラス!?

 よく見ると町のあっちこっちに同じような透明な道路が何本も伸びてる。というか、自分たちの乗っている車両が走っているのもその道路の上だ。

 SFじゃん!最近のSFだと個人用飛行ヴィークルみたいな描写に押され気味だけど1970年ぐらい?のSFの世界の移動手段の定番じゃん!


 そして私はもう一回驚くことになる

「ええ!!??」

 透明な道路だった。何で路面まで透明にした?怖いじゃん。下見えるじゃん。


「まぁ、どうしましたか?」

 彼女が一人で盛り上がっているのを見てか「ええ!?」が聞こえたのか、猫本さんが声をかけてくれた。



「道路が……透明です……」

「ああ、この材料のお陰で高架化による日照の問題や資源の問題が大きく改善しました」

 SFの定番である未来世界の透明な道路、まさか日照権とかの都合で透明なんだろうか、オーバーテクノロジーを駆使してダイナミック解答すぎる気がする。

「細塵結晶複合材料ですね」

「細塵結晶?」

 細塵結晶、聞いたことのない物質だ。



「はい、細塵結晶は植物の持つセルロースや、カニの殻やキノコなどに含まれるキチンなどの天然の繊維成分を細かくしたもので、繊維がナノレベルで複雑に絡み合うことによってできる素材です。

 複合材料はそれに色々な材料を混ぜて強度を高めたり難燃性の性質を付加したりしたものですね」

「どちらも国内で生産できる上にセルロース製の細塵結晶はそれこそ雑草からでも作れるのでカーボンオフセットの技術として非常に推奨されています」


「カーボンオフセット?」

 この単語は彼女も元世界でぎりぎり聞いたような気もする。

「簡単に言うとね~、大気中の二酸化炭素を減らす取り組み」

 鈴木さんが教えてくれた。そういえばそんなの聞いた気もする。


 つまりこの透明な道路、草木とかカニとかキノコとか何か環境に優しいものでできているらしい。



 窓の外に広がる光景はどこか昔と変わらない、アスファルトの道路、所によっては地面が見え、平屋建てが並び、所々に高層建築が見える、むしろ昔の面影を濃く残す光景だ。


 しかし、そこにちぐはぐな光景が混ざっている。

 上空に架かる透明な道路を走る自動運転車はその最たるものだ。


 小川には緑の岸辺が広がり、水面は葦が茂り、ビオトープを形成していて、その緑の中でのんびり釣り糸をたらす釣り人が居る。

 が、その川の真上、空中、水面から二、三メートルの高さの空中には子供たちがスケボーや自転車で走り回っている。

 以前は川をアスファルトで覆って道路に変えていたのが、この世界では細塵結晶の道路によって遊歩道となった。


 視線を上げると、街のあちこちに、まるで透明な巨大ジャングルジムと見紛うビルがいくつも建っている。

 今の彼女に知る由もないが、自動運転車の立体駐車場だ。


 ここは異世界日本。彼女の居た世界とは少し違った歴史を歩んでいるパラレルワールド日本である。


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